強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第四十話「俺とお前で――」

 

「とりあえず、バリケードを作るまでは決定事項として……何故、服を脱ぐ必要がある?」

 

 落ち着け、落ち着けと自分の感情を抑え込みつつ、なんとか平静を装って問いを発す。

 

(たぶん、まだ大丈夫だって信じたいんだろうな……)

 

 変態に戻ってしまったことを受け入れられないのかも知れないが、心の何処かで求めたのは、やむを得ず服を脱いで貰わざるをえない理由。

 

「マイ・ロードの疑問はもっともです。本当に……申し訳なくも思うのですが」

 

「トロワ?」

 

 俯いたまま視線を合わせず前で組んだ自分の手をトロワがぎゅっと握り締めて見せた瞬間、俺は気づく。

 

(茶化したりふざけたり、しない……だって? それって、つまり――)

 

 トロワがまともなままあのとんでもない協力要請をしたと言うことに。

 

(ちょ、ちょっと待て……きれいなまま で いてほしい とは おもった が、まともなまま あんな ようきゅう してきた とか よそうがい ですよ?)

 

 よく見ればとんでもないお願いをしたと分かってるのか、手を握り締めたままのトロワはプルプル震えており。

 

(これ、ことわったら こっち が わるもの に なる ぱたーんじゃないですか、やだー)

 

 変態に戻らないで欲しいという願いが叶ったのだとすれば、世界の悪意に勝利したはずなのに、どうしてこうなった。

 

「はぁ……もっと詳しく説明しろ。要領を得ん」

 

「ま、マイ・ロードぉ」

 

 まともであるなら、邪険にするわけにもいかない。涙声に近いトロワのそれに泣きそうになってるのが分かれば尚のこと。

 

「……と、言う訳です」

 

「そう……か」

 

 そして、詳しく説明された俺は、どんな顔をしているのだろうか。

 

(うん、りゆう を きいたら、ぜんぜん まっとうな りゆう でしたよ? こんちくしょう)

 

 トロワ曰く、呪文がどう作用して発現するかをきっちり見たり、力の流れを感じるためだそうで、似たことを俺は以前イシスでやっていた。

 

(ここ に きて、あの とらうま の よる、とか)

 

 ゲームで言うところの一ターンに二回行動する術を二回行動出来る人型の魔物から盗むことに成功した俺は、以前これを他者に伝授したことがあった。伝える相手にモシャスの呪文で変身した上、身体の動きが分かり易いように下着姿で攻撃のモーションを繰り返したり呪文を唱えたりしたのだ。ちなみに相手は全員女性、異性に変身したところで連行されて下着をひん剥かれ、お姉さん達の手で無理矢理女性用下着を着けられたあの夜のことは、もうそろそろ忘れたい。

 

「力の流れを見るためには自身も裸かそれに近い形で密着する必要もある、だったな?」

 

「は、はい……」

 

 いつも の ぎゃくせくはら より よほど ひどい ながれ なんですけれど、だれか たすけてくれませんかねぇ。

 

「申し訳ありません、マイ・ロード。付与に適した素材が有ればお手を煩わせることも……」

 

 身の置き場がないと言わんがばかりに消え入りそうな声で謝罪するトロワも反則だ。

 

(OK、もうだいたい予想はついた)

 

 断れずに呪文付与の為お肌とお肌の触れ合いを始めたところで、誰かに目撃される、そういうことなのだろう。

 

(もしくは付与の途中で転倒して折り重なるというベタベタな展開ッ)

 

 回りくどいが、だからこそここに来るまで読み切れなかった。

 

(だが、勝負は俺の勝ちだ。世界の悪意!)

 

 どうやって俺を窮地に陥れるのかが解って居れば、対策は立てられる。

 

(俺の知覚力なら周囲の気配へ気を配っていれば目撃されることはまずない)

 

 転倒に関しては最初から安定した姿勢をとるか、支えが有ればいいのだ。

 

(例えば座っておく、とか)

 

 そも、今の綺麗なトロワのままなら危険な態勢になった所で間違いなんて起こりようもない気もするけれど。

 

「他に方法がないならやむを得ん。ただ、流石に屋外で脱ぐのは拙かろう。やるなら、いずれかの家の中で、だな」

 

 遠目に目撃されるのもゴメンだが、屋外は寒い。

 

「とは言え、まだ魔物のうろつく家が多すぎる。ひとまずは家具を外まで運び出してあと数軒分の掃討を終えてからだ」

 

「……はい」

 

 大きな胸のせいで抱えづらそうに朽ちかけたテーブルを抱くトロワは俺の言葉に頷きを返し。 

 

「しかし、ダブルサイズは失敗だったか……」

 

 俺は担いだベッドとこれからくぐるべきドアを見比べ、苦笑する。

 

「まあいい、その前に客が来たようだから、なっ」

 

「お゛げっ」

 

 ドアを開けて侵入してきた動く腐乱死体はベッドを担いだまま投げた石に額を割られて崩れ落ち。

 

「……しまった」

 

 ただでさえドアをベッドが通しにくい状況であったのによりによってドアの前でくさったしたいを倒してしまった失敗に遅れて気づく。

 

「マイ・ロード、ここは私が」

 

「いや、こんな場所で倒してしまったのは俺のミスだ。それに俺とお前で死体の始末を取り合っていても仕方ない」

 

 ミスのフォローをしようとしてくれるトロワのまともな反応に胸中で少しだけ喜びつつも俺は自らの非を主張し、剥がれた床板を拾い上げ。

 

「……強度は足りそうだな。よし」

 

 強度を確認すると、ベッドを脇に置き、死体に板を差し込んで脇にどける。

 

「これでいい、このまま外に出るなり入り口の前に家具を置いて次の家に向かう。探索済みの目印にもなるし入り口を塞いでおけば後から魔物が入ってくることもないだろう。トロワ」

 

 持つ家具の大きさを考慮し、トロワへ先に出るよう促した俺はその後に続いたのだった。

 




聖水の効果切れだと思った? 残念、まっとうな理由が隠されてました。

次回、第四十一話「見た目は大人、中身は――」

見た目は大人(な展開)、中身はちゃんとした理由あり。

たった一つの成功望む、その名は名付与師トロワ!

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