「必要なのは家具だ」
だから、中に入っていたモノが落ちても何の問題もない。
「だいたいものが入っていたとしても、それは人のもの。バリケードを作るためこうしてやむなく家具を持ち出しているが、それも再利用不可能なモノを選んで持ち出している」
タンスに戻す理由は欠片もないのだから、素通りしたって問題無いじゃないか、とそんな風に俺はトロワへ語った。
(大丈夫、間違ったことは言っちゃいないし)
遠くに見えるだけの蜂は刺さない。いくら忌まわしいあの品だってスルーしてしまえばそこで終わりだ。
(下手に騒いだり気にするから変なことになるんだ。それに)
今は村内の魔物退治をしていて家人のものらしき扱いに困りそうな一品をどうこうしてるような余裕もない。
「トロワ、俺としてもこの展開は想定外だが、中身が入っていたからと言ってそれをこのタンスに戻して引き返しタンス自体を戻した上で別の家具を運び出すのは時間もかかる。だが、今は一刻も早く村を徘徊する死人達を倒し地下墓地の入り口を封鎖しないといけない状況にある、理解してくれ」
「マイ・ロード……すみません、そうでしたね」
人は話し合えば分かり合える、とは必ずしも言えないしトロワは魔物だが、それでも今回は納得して貰えたらしい。
「いや、時間に余裕が有れば話も変わってくるし、あくまで今回は時間に追われていたからこそだ。気にするな」
俺は頭を振るとタンスを担いだまま横に移動し、トロワへ道を空ける。
「さ、先に行け。家具の大きさから言っても、俺が後に出て入り口にこいつをおいた方がいい」
「はい」
促せばトロワは木製の三段ボックスっぽいものを抱えて先にドアをくぐり、これに俺が続くことで九軒目の死人退治は終了する。
「あと二軒だったな、さっさと済ませてしまうか」
よろず屋の商品という希望を探しに行けるのだ。モタモタしている理由も意味もない。
「ちっ、骨が多い、だが――」
十軒目の民家のドアを開け、踏み込んだ俺は乾いたものを擦り合わせる音をさせながら姿を見せた骨の剣士達に舌打ちしつつも、鎖分銅で薙ぎ払い。
「な」
それと遭遇したのは、十一軒目の夫婦のモノだったらしき寝室。
「ま、マイ・ロード」
「ああ、解ってる。トロワ、一旦退くぞ、あいつは屋外に誘き出す」
若干動揺するトロワに頷きを返し踵を返したのは、腐乱死体の姿に理由があった。
(なんで、ぱんつ かぶってんだ、あの くさったしたい)
逐一説明を求めたいところだが、とりあえずあの状態のままの死体を残しておく訳にはいかない。
「んお゛ぉぉっ」
「滅べっ、メラゾーマッ!」
屋内での仕様は火事を恐れて躊躇った呪文を変態ゾンビが元民家から出てきた瞬間ぶっ放す。オーバーキルかも知れないが、流石にこれは仕方ないと思う。
「はぁ、最後の最後でどっと疲れる奴と出くわしてしまったな……トロワ、解っていると思うが」
「はい、マイ・ロード。よろず屋にむかうのですね?」
「ああ」
中の魔物は全て倒したからこそ後の二班も足を運ぶ可能性はない。
「それなりに色々あったからな。日持ちしない商品だけは持ち去れれていたが、付与に必要な品はそう言う日持ちしない品ではないのだろう?」
「はい、必要なのは特殊な石、ですから」
「石、か」
頷くトロワの言葉にそう言えば武器や防具には宝石の付いてるモノが多かったなぁと思い起こす。
「石に込めず、直接文字として彫り込む方法も有るのですが、こちらはその呪文の使い手でないと難しく……こんぼうにイオナズンの呪文を付与したのもこちらの方法ですが、彫り込む素材自体に呪文に耐えうる強度が要求されるんです」
「成る程」
うろ覚えの記憶だと、いなずまのけんとからいじんのけんは文字が彫られていた気がする。
「ならば、探すのは石だな」
見つからなかったら服を脱いで家具に文字を彫り込む作業をしなきゃいけなくなると言うことなのだろうが、出来れば見つかって欲しいと切に願う。
「はい。宝石となれば、人間も好むもの、遺棄された店に残っているものか、不安なのですが……」
うん、そう いわれる と まったく みつからない き が してくる から ふしぎ だね。
「大丈夫だ、あの店は宝箱の中身も残っ……あ」
よろず屋へ向かう道、そんなトロワを安心させようとした俺は思わず固まった。
(あの みせ の がーたーべると って どうしたっけ、おれ?)
いや、本当は解ってるのだ。今日起こったことを忘れるはずがない。
(できれば、わすれたかったですよ? かたみだから どうこうする き に なれない とかで ほうちしてきたこと とか)
俺の馬鹿、何でもっと早く思い至らなかった。
「マイ・ロード、どうなさいました?」
「あ、いや、何でもない」
訝しまれ、我に返ると頭を振って再び歩き出すがこれで平静を保てと言われても無理がある。
(おのれ、せかいのあくいめ)
タンスから落ちた忌まわしき品は囮で、本命はあっちか。
(いや、待て、落ち着け。さっきも落ちたがーたーべるとを気にした綺麗なトロワだ。人様のモノが宝箱に入っていたって何処かのRPG主人公みたいにそのまま懐には入れないだろう)
ただ俺は箱の中身が宝石ではないことを予め伝えておけばそれで済む話だ。
(大丈夫、慌てる必要なんて何処にもない)
自分に言い聞かせ、足を止める。
「マイ・ロード」
「ああ、ここが問題のよろず屋だ」
この村がある意味呪われていることを教えてくれた二箇所目の地。首肯して見せた俺は戸口に歩み寄るとそのままくぐり、店内へ再度足を踏み入れたのだった。
主人公、いいじゃない。店に入って実物見てから気づくよりは、さ。
次回、第四十三話「こういう時こそレミラーマが輝くんじゃね、と私は思った」