「くっ」
落ち着け俺、ただ能力アップアイテム二個目があっただけじゃないか。
(そもそも、羊のカウントは落ち着くんじゃなくて寝るためにする奴だし、そもそもたかが種の一個やニ個、もっと酷い状況はいくらでもあったじゃないか)
せくしーぎゃるったシャルロットとか、ダーマのがーたーべると汚染事件。
(魔法使いのお姉さんがせくしーぎゃるったこともあったなぁ。あとは、おろちとか、おろちとか……あるぇ? 殆どどれもせくしーぎゃる関連なんですけどぉ?)
そしてこのよろず屋にあるのもがーたーべると。
(世界の悪意とは……せくしーぎゃるなのか?)
イコールで結ぶのは早計かも知れない、だが。
(って、世界の悪意がせくしーぎゃるって何だ? いけないいけない、意味不明になってきている)
冷静に冷静になるんだ。
(そもそもは……「貴重な能力アップアイテムが元よろず屋に残されててビックリ、欲しいけど泥棒は良くないよねぇ、どうしよぉ?」とか、そんな話だったはず)
今のところ見つかったのは、賢さが上昇する種とHPの最大値が上がる木の実が一個。
(けど、あのレミラーマでの光具合からすると、二種一個ずつ合計二個で終わりとも思えない)
こんな事になるなら、あの変態ホロゴースト一号からもう少し話を聞いておくんだった。
(腐っても商人、なら「単に店に買い物に来た客だ」って言えばあの種買い取る機会もあったかもしれないのに)
解ってはいる、妄執や怨念で悪霊になった輩と本当に交渉出来るのかという問題が立ちはだかっていることは。
(それでも、神竜に挑むことを鑑みると同行者の強化用にドーピングアイテムは欲しいんだよ)
塵も積もれば何とやら、一の能力値が明暗を分けることだって有るのだ。
(まぁ、今更言っても始まらないけど)
ホロゴーストはもう居ない、俺がニフラムで光の彼方に消し去ったのだから。
「いらっしゃいませ、それから……ありがとうございました」
見慣れない儚げな印象の美女がこちらに頭を下げているが、とうの昔に無人になったよろず屋に人がいるはずもない幻覚だろう。
「妄執に囚われた夫も、これでようやく眠ることが出来ます」
しかもこの美女、既婚者らしい。
(いやー、旦那さんは幸せ者だろうなぁ……て、うぇ? 夫ぉ?!)
まさか、まさかとは思う。
「お前が、あの倉庫に居たホロゴースト……の?」
信じたくなかった。猥褻物をごっそり取り寄せたあげく奥さんのがーたーべるとにしがみついてたホロゴーストが人間だった頃の妻が美人、とか。
「はい」
だが、現実は残酷であり。
「見ての通り、私はどちらかというと病弱で、そんな私を気遣ってくれたのでしょう。伏せる私に、あの人は『無理はしなくて良いから。私なんて本とか像とか絵が有ればいいからさ』と」
いい はなし かなぁ、それ。
(スケベ心だけじゃなくて、一応は奥さんを案じていた結果があの猥褻物コレクションだったのかぁ)
少なくとも奥さんが大切だったと言うところだけは事実なんだと思う。
「内気で病弱な私は、家に伝わる家宝、『がーたーべると』が無ければあの人に子供を産んであげることも難しかったと思いますし、自分の着けたものが他の方の手に渡るというのは複雑でしたが……だからといって、あんな……あの人の呪縛を解いて下さってありがとうございました」
「いや、村を魔物に占拠されたままにしておけなくて、単純に倒そうとしただけだ、礼には及ばん」
美人さんに泣きながら感謝されるというのは、どうにも居心地が悪い。俺は頭を振り。
「が、感謝しているなら頼みたいことがある。現在、魔物になってしまったこの村の死者を倒してまわっているのだが、きりがない。そこで地下墓地の入り口を一時封鎖する小細工の材料として呪文付与用の素材を探しているのだが、この店に置いていないか? 他にもこちらが有用と思う商品が有れば購入させて頂きたい」
推定幽霊とは言え、店の人が居るのはありがたい。うまく行けば能力アップアイテムも購入出来るだろう。
「ううん、そうですね……私が生きていた頃は扱っていたと思います。それなりに値が張る品なので、おそらく倉庫の方でしょう。私が探してきますので、お客様はこちらでお待ち下さい」
「そ、そうか。では、頼む」
流石に二度もあの奥さんのがーたーべるとと対面するのは気が引ける。ここは厚意に甘えて、店内を引き続き物色することにし。
「……ふむ、種はそこそこあったな」
「武器は錆びているものも多いですし、無事なのは道具類が中心でしたね、マイ・ロード」
大まかに調べ終えた俺達は、購入希望の商品をカウンターに並べ、奥さんを待つ。
「お待たせしました。こちらになりますね」
「おお、あった……か」
そして、奥から聞こえてきた声に顔を上げた俺は信じられない光景に凍り付く。
(待て、何でそれがある?)
俺が頼んだのは、呪文付与の媒体になる石であって、そんな黒くてヒラヒラしたものではない。
「それから、これは我が家の家宝のガーターベルトです。私のつけた物で申し訳ありませんけれど、他にお礼になりそうな品もなくて……」
「は?」
お礼、って何だっけ。どういう意味の言葉だっけ。
(いやいやいや、おかしいよね? 家宝を差し出してくるって確かに最大限の感謝の気持ちかも知れないけれど、自分の着けてたモノ差し出してくるとか、一歩間違うと痴女って言われちゃうよ?)
そういう異性はもう充分なんですけど、本気で。
「お代は結構です、そして――せめてこれもお持ちください。もはやこの世の者ではない私ですが、お二人の幸せを祈らせて頂きます」
「な」
「えっ」
あれれ、おかしいぞ~。
(ひょっとして、俺ってばトロワとカップルとして見られてるでおじゃりますりまっするか?)
なにこれ。
(じゃあ、ひょっとして……忌まわしき中古のアレ贈られたのって、トロワ? 「せくしーぎゃるって俺とお幸せにだぜ」とか、そういうことなんだぜ?)
本当になんだこれ。ほぼ裸でくっつく窮地を抜けられたと思ったら、とんでもない伏兵が登場したんですが。
(断れ、トロワ)
声には出さず、俺は祈る。それでもトロワなら何とかしてくれると信じて。
少 女「着ると男の人に大胆になれるの?」
母 親「そうよ。あなたが結婚して、旦那さんの前でもし勇気が出なかったら、つけてみなさい」
昔、とある村の民家でそんな母娘の会話があったとかなかったとか。
次回、第四十五話「彼女の答え」
まぁ、そうなるな。