強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第四十五話「彼女の答え」

「ありがとうございます」

 

 見守る中、トロワは頭を下げて素材と一緒にソレを受け取った。

 

(ちょっ、ええええええええええええええ?!)

 

 声に出して絶叫しなかった自分を褒めたい、じゃなくて。

 

(何? 何故?)

 

 まともになった筈のトロワがどうしてあんな品を受け取ったのか。

 

(やっぱり、聖水の効果時間が切れて……いや、それはない)

 

 きっとまともなトロワのことだ、呪文付与の方法の様に何らかの理由があるんだろう。例えば、この人妻で幽霊の美人さんを気遣ったとか。

 

(前のトロワならともかく、今のトロワを俺が信じなくてどうするんだよ)

 

 驚き狼狽してしまったが、結論を出すにはまだ早いのだ。

 

「ですが、訂正させて下さい」

 

 実際、まだ早いという見解を裏付けるようにトロワは言葉を続け。

 

「その、マイ・ロードとは主と従者の関係ですし、男性と女性の関係については、私の片思いなのです」

 

 えっ。

 

(いや、ぜんしゃ は ただしいけど、そのあと のは なんですか?)

 

 母親に喜んで貰いたいから子供が欲しいとは聞いていた。

 

(それって子供目当て、つまり狙ってたの身体オンリーの筈ですよね?)

 

 もじもじしつつ、しんじじつ を かみんぐあうと しないで ください。こっち の しょりのうりょく が おいつかなくなるじゃないですかー、やだー。

 

「まぁ、それは失礼しました」

 

「いえ、こちらこそ済みません。主従の関係上、そこはきっちりしておかないとマイ・ロードにも申し訳ないと思いまして……そう言う訳ですから、これは私に預からせて下さい」

 

 頭を下げる美人幽霊さんにトロワは頭を振るとそう主張し。

 

「……わかりました。こんな所で胸の内を吐露させることになってしまってごめんなさい。恋、実ると良いですね」

 

「ありがとうございます。では、私達はこれで」

 

 俺が立ちつくす間も二人の話は進んで、譲渡契約は完了したらしい。

 

「っ、いや少し待て……あ、そう、そうだ。ここの商品で欲しい物があった有ったのだが、そっちの話は?」

 

 出来ることなら「勝手に話を決めるんじゃねぇぇぇ」とか叫びたいところだったが、空気を読まないどころかぶち壊せる程面の皮は厚くない。待てまで言った所で、二人の視線に晒された俺は、咄嗟にうやむやになりそうだった種や木の実他のことに逃げてしまい。

 

「ああ、そうでしたね。失礼しました。ご入り用の品はそのままお持ちください。あの人にとっても私にとってもここは生まれ育った大切な村。村の現状を何とかしようとして下さっているあなた方の助けになるなら、生者の居ないここにずっと眠らせておくより良いでしょうし」

 

 一礼した美人幽霊さんは持ち出しの許可をくれた。一応、これで欲しかったアイテムが手には入るものの、代償に訂正の機会を失った訳で。

 

(うああああっ、俺の馬鹿ッ、臆病者(チキン)ッ)

 

 自分の弱さを胸中で嘆いてみるが、現実は変わらない。

 

「マイ・ロード?」

 

「あ、ああ。そうだな……欲しかった物は得た。戻って作業を始めるか」

 

 カウンターに乗せた欲しいアイテムを鞄にしまうと、頷きを返した。考え方を変えよう。殆ど裸で抱きつかれなくて良くなったんだ。ピンチを一つ回避出来たことを、喜ぼう。

 

「色々と世話になったな。それでそち」

 

 一人密かに気を取り直すと俺は振り返り、言葉を失う。さっきまで居たはずの美人幽霊さんの姿が跡形もなく消えていたのだから。

 

「夢、か?」

 

 口から漏れた呟きは、ある種の願望だったと思う。

 

「いえ、マイ・ロード」

 

 声に横を見ると首を横に振ったトロワが、呪文付与用の素材と一緒に忌まわしき物(がーたーべると)をちょっと大きすぎるんじゃないかと思われる胸にきっちりと抱いており。

 

(やっぱ、夢じゃなかったかぁ)

 

 胸中の落胆を表に出さないようにしつつ、俺はそうかとだけ言った。

 

(結局あの美人幽霊さんの顔を立てたのか他に理由があるのかは謎のままだけど)

 

 流石にここで真意を問いただす訳にもいかない。

 

「くくく、ふふふ、はーーはっはっはっはっはっは……遂に手に入れましたよ、がーたーべると。待ってて下さいね、マイ・ロード。今からこれを装着してそうマイ・ロードと赤ちゃんのできるようなことを、そうすればママンもきっと喜んでくれる筈です! ほら、奥さんは応援して下さるそうですから、人の家ですけれど問題有りませんよね? ささ、覚悟して下さい、ま・い・ろ・ぉ・ど?」

 

 とか、前のトロワに戻りでもしようものならアレを取り上げる大義名分が立つのだけれど。

 

「マイ・ロード?」

 

 首を傾げるトロワは、まともトロワであり。

 

「ああ、すまんな。ところで、呪文の付与にはどれ程時間を要する? 必要になる精神力も気になるところだが……」

 

 俺の口から出た疑問もアレとは全く無関係かつ建設的なこれからすべき事についてのモノ。

 

(藪蛇になりかねないって危惧もあるけど、まずはこの元よろず家を出ないとなぁ)

 

 時間は有限であり、村内の魔物退治にしても時間をかけすぎる訳にはいかない。

 

「答えは道すがら聞こう。世話になった」

 

 俺はあの幽霊が消えた辺りへ一礼すると、戸口をくぐり元よろす屋を後にするのだった。

 

 




かのじょ は とても まっすぐ すぎて。

次回、第四十六話「産声」

おめでとうございます、元気な――ですよ。
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