「ふむ、今回は大丈夫そうだな」
何往復目だったか、大きなタンスを降ろしてから地下墓地の入り口を見てみるが、そこに気配はない。視界内に横たわる骸は、このリレーの最中に遭遇し、家具の効果で消えなかった為仕方なく普通に倒した動く腐乱死体だったものだ。
「バリケードの材料も八割方は運べたし、そろそろ入り口を塞いでも良いか」
「そうですね」
「では、バシルーラの付与の仕上げを頼む。俺はニフラムの付与されたものを運ぶ」
運ぶ途中で手を止められるのは面倒この上ない。用意した家具の全て揃っては居ないが、本命の呪文付与された家具はだいたい運び込めていることもあって提案してみるとトロワも賛成してくれ、俺達はバリケードの設置に取りかかった。
「ふぅ、とりあえずベッド一つで入り口は見えなくなったな」
ダブルサイズだったのが良かったのだろう。起きあがらせたベッドでまず入り口が塞がり。
(次もニフラム付与の家具だな。連鎖反応させないといけないから、ベッドの足四つが触れるような配置で置く、だっけ)
その合間にベッドの足へロープをくくりつけて下さいともトロワには言われたが、こちらはバシルーラ用の家具のギミック。
(うん、本当に酷い装置だよなぁ。ベッドの表面が押されるとまずニフラムの効果が発生して――)
ベッドの足が押されれば更に四重でニフラムの呪文の効果が発生。同時にベッドの足にくくりつけたロープが引かれればバシルーラの呪文効果まで付いてくるのだから。
(攻撃呪文でやると他の家具の効果に巻き込まれて起点となる道具がまず壊れるから使い捨てになる、だっけ?)
つかいすて だろうと、たじゅう きょくだいじゅもん とか きょうあくって れべるじゃないんですけど。
(呪文に耐えうる素材を使って作った品を使い捨てにする時点でコスト的にあり得ないとも言ってたけどさ……本当にトロワがこっちに来てくれて良かった)
コストを度外視すれば可能と言うことなのだ。
(と言うか、この理屈だと、補助呪文を一気に重ねがけしてくれる装置とかも作れるんじゃ……)
つかう と、いちど に すから と ばいきると と ぴおりむ と ふばーは と まほかんた が かかるんですね、なに その ちーと。
(作動に一手間かかるとしても、それが有ったら……)
あの時、アリアハンの外でゾーマと戦ったあの戦いの勝敗も覆っていたかもしれない。
(いや、綺麗なトロワになったから、こういう事になった訳で、あの時のトロワにお願いするなんて無理だった訳だけどさぁ)
何であの時と思ってしまうのは俺が弱いからだろうか。
(……やめよう、後ろばっかり向いていても仕方ないし、やることだってある)
とりあえず考え事をしたり頭を抱えたくなったりしつつもニフラム家具の設置は完了したので、次はバシルーラ家具の受け取りだ。
(バシルーラ家具って言うと触ったとたん吹っ飛ばされる防犯家具っぽい感じだけど、実際の所防犯でも何でもない欠陥家具だよなぁ)
洗濯した衣服を納めようとした主婦を吹っ飛ばすバシルーラ・タンス。疲れてベッドに潜り込もうとした主人を吹っ飛ばすバシルーラ・ベッド。
(本来の家具の役割を全く果たせないとか、ただの凶悪な罠でしかないんですけど)
まぁ、何処かのメダル集めしてるオッサンの家の家具を全部この手のトラップに変更するとかはアリだと思うけれど。
(うん、シャルロットに要らんことをしてくれたお礼はそれでいくか。ただ、家具が変わってれば気づくと思うし、この家具は使えないから……)
問題が発生するとすれば、バリケードが用済みとなった時、このビックリ家具をどうするのかと言うことぐらいか。
(ニフラムの方は人間には無害だしそのままでも良いとしても、バシルーラはなぁ)
おそらく処分するしか無いのだろう。いくら道具として使うとバシルーラの効果があるとは言え、持ち運ぶのにかさばりすぎ、形状が家具であるからこそ紛らわしいし、ついでに言うなら長年放置されて傷んでもいる、もっとも。
「マイ・ロード?」
訝しんで声をかけられる程思案に耽っていたのは失敗だった。
「ん? あぁ、すまん。バリケードに使っているこの家具のことで少し、な」
「家具ですか?」
「ああ。役目を終えた後どうするかを考えていた」
頭を下げると、隠すこともないので素直に白状する。
「無害なら放置で良いが、バシルーラはな。かといって壊すのは忍びない」
尚、敢えて言っておくが、トロワと一緒に作ったモノだからではない。
(と、言うかこの流れでそんな曲解出来るのは旧トロワぐらいか)
流石に綺麗なトロワは間違わないだろう。
「か、勘違いするなよ。お前と一緒に初めて作ったモノだからとかそんな訳じゃないからな」
みたいな迂闊発言をやらかさない限り。
(と言うか、俺はいつからツンデレキャラになった……)
最近俺の想像力がいろいろおかしいのだが、これも世界の悪意の仕業だろうか。
「いや、くだらないことを言った。今はどんどん積み上げてバリケードを完成させてしまおう」
ただ、このまま何かを考えるのは危険な気がして、俺は話を切り上げると、作成途中のバリケードに家具を積むのだった。
世界の悪意「はーい。慌てない、慌てない。一休み一休み」
次回、第四十九話「約束の履行」
え、約束? あっ。