「それはそれとして、だ。他の民家と比べるとやはりこの家の方が劣化もしていないようだし、今晩はここに泊まろうと思うのだが」
同時に、言わなければいけないことも存在したからこそ、俺は提案した。
(他の元民家に泊まることも出来ただろうけど、今の俺達って割と大所帯だからなぁ)
一軒の家では収まりきらない可能性があり、収まったとしても男女で一緒に雑魚寝は拙いんじゃないかという問題が浮上する。
(トロワに関しては男部屋で我慢して貰うしか無いけど、一緒寝て欲しいって言ったのはトロワだからなぁ、そこは呑んで貰おう)
でないと俺が女性部屋という生殺し地獄にぶっこまれる選択肢しか残らない。
(普通なら他の女性が反対するからこんな選択肢あり得ないんだけど、女性ってみんなクシナタ隊だし)
いい人達だから、トロワの事情を話せば反対するとは思えない。するとしたら、俺だけだ。
(見張りを立てて交代で眠る以上、三箇所に別れて寝るなんてナンセンスだもんな)
それどころか状況が状況だから仕方がないと男女混合の雑魚寝をお姉さん達がOKする可能性もあるが、それは敢えて考えないでおく。むしろ、今すべきはムール少年に聞くことであり。
「で、人数的に休めそうな部屋に心当たりはあるか?」
「うーん、あるにはあるけど……」
気は進まない、そんな続きが聞こえるような表情だったが、じゃあ良いですと言う訳にも行かない。
(念のため泊まる部屋にはニフラムかけておきたいしなぁ)
使う前に何かを殺菌消毒するような感じになってしまったが、何代前かは不明であもののあんな変態ホロゴーストを出現させてしまった家なのだ。油断して誰かが憑依される展開を避けるためにもやるべき事はやっておく必要がある。
「とりあえず、見に行くか」
「え゛」
俺の血も涙もない宣言に、ムール少年の顔がひきつる。
(そう言えば、前にもこの家の状況を確認しようって言った時、こんな顔をしたっけ)
余程見られたくないモノでもあるんだろうか。
(あの村長の息子の子供かは不明だけど、同じ一族だもんな)
洞窟にあった猥褻物ゾーンを鼻で笑ってしまうようなレベルの収蔵品満ちた部屋が自室だったりするんだろうか。
(なら、あの反応も納得なんだけど……)
もし、ムール君がそんな所謂むっつりすけべであるとしたら、、今晩が色々やばい。
(ムール少年には一緒にトロワのOSIOKIをしてく……あ)
あるぇ、おれってば とんでもないこと を わすれていましたよ。
(しまったぁぁぁぁぁぁっ、旧トロワを聖水責めするって話をしてそのまんまだったぁぁぁぁぁっ)
なんで忘れてたの、俺。
(危なかった、今思い出さなかったら完全に忘れて……って、思い出したからOKって話でもNEEEEEE!)
今すぐにでも今晩の予定はキャンセルしなくてはならない。場合によってはDOGEZAさえ辞さずにだ。
(今のトロワはトラウマ負って一人で眠ることさえ出来ない女の子だし、せっかくまともになったのに下手なことをして変態に逆戻りでもしたら――)
事態は一刻を争う。
「ムール」
「ええと、本当に見に行……へ、何?」
「ああ、実はトロワのことなんだが……」
まずすべきは説明。原因の一端であるホロゴーストが元村長の一族であることは一旦避け、トロワの行きすぎた言動が憑依していた悪霊によるモノであったことと、悪霊自体は消滅させしめたことを俺は明かす。
「そんなことがあったんだ……」
「ああ、だから。もうトロワに悔い改めさせる必要はなくなってな。協力を頼んだ手前、あの件はもういいと夜、そちらが来てくれてから言う訳にもいくまい? 故に、今説明した訳だ」
「そっか。話はわかったよ。けど、この村にそんな人が居たなんて」
それなりにショックを受けている様子を見ると、それが次期村長を名乗っていたとはとても言えず。
「だからこそ、部屋を確認しておきたい訳だ。そこまで変態が居るとは思わんが、休もうと決めた部屋に幽霊が居ては拙いからな」
「え゛」
代わりに部屋を確認する理由に繋げると、ムール少年は固まった。
「や、言ってることは解るよ? 解るけど――」
「前にこの家は大丈夫と言っていて、実際はどうだった?」
「うっ」
それでも即座に復活して噛み付いてくるムール君に確認しない訳にはいかない理由を挙げると流石に押し黙り。
「下は魔物が入り込んでいるのをつい先程見たばかりだからな。まずは二階から確認させて貰う」
「ちょ」
宣言に上擦った声を上げるところを見るに、ムール君の部屋は二階にあるのだろう。
「解っている。思春期の少年がそう言った類の品を持っていたとしても余程度を超したものだったり量がなければ俺は気にしない。何なら別の場所に移すのを手伝っても良い」
「へっ? や、それ、全然解ってないから! そう言うンじゃなくてね?」
階段を上り始めると慌てたムール君の声が俺を追いかけ。
「ちょっ、止めてよ、そこはっ」
「大丈夫だ、口外はしな……」
腰回りにしがみついてきたムール少年に軽口を叩きつつドアノブを回した俺は、言葉を失った。
「あーっ」
後ろでムール君の声が上がるが、そんなことは気にならない。
「これは……エル、フ?」
目にしたのは三人の人物を描いた肖像画。おそらく親子であろう三人の内片親と子供の耳は人ではあり得ない形をしていたのだ。
「うん……オイラ、実はハーフエルフなんだ」
声に振り返れば、丁度髪に隠れた耳の先端をムール少年が露わにしたところで、事実、それはピンと天を向いて尖っていた。
今明かされる衝撃の真実ゥ!
男の娘だとか、実は女の子だとか思った?
いやー、盗賊男の公式イラスト耳の上の方が髪に隠れてるので、これはイけると思ったのですよ。
うまくだませたなら良いのですが。
次回、第五十一話「ばれてしまってはしかたない」