「ハーフエルフ……」
想定外である。ただ、思い起こせば気づけるポイントはあったのかもしれない。俺は理由をはき違えたが、ムール君はこの家が人目に触れるのを嫌がっていたのだ。
(洞窟で服が破れて最初にオッサンだけ戻ってきた時だって、何か理由があったのかも知れないし)
ひょっとしたら、服の下にエルフの血を引くもの特有の身体的特徴を隠していたのだろうか。
「えーと、どこから話そう……まずオイラのお母さんなんだけど――」
絵に有るとおりのエルフで、ノアニール近くにあると言う隠れ里の生まれなんだとムール少年は言った。
「ノアニール? 随分遠いが」
「うん、そうだよね。ただお母さんがオイラの父さんと一緒になったのにも訳があるんだ。母さんは元々『不死鳥ラーミア』の卵の守り役に選ばれた、巫女みたいな立場の人でね」
先代の守り役と交代すべく隠れ里の北から船で卵が祀られている島へ向かったものの、船が難破。交易のためあの洞窟からランシール方面に出した船に乗船していたムール君の父親が漂流しているムール君の母親を助け、村に連れ帰ったらしい。
「当時は色々大変だったってオイラは聞いてる。何でも母さんの居た里の女王様の娘さんが人間と駆け落ちしたらしくてさ。母さんも最初は父さんに良い印象持ってなかったらしいし」
「成る程……あれが、ここでこう繋がるのか」
「え? 何のこと?」
「いや、こっちのことだ」
言われてみればノアニールとあの卵の有った島はそれ程離れていない。
(しっかし、その船が難破してなかったら、娯楽に飢えてたあの二人じゃなくてムール君のお母さんと卵の前で対面してたってことになるのか)
チェンジで、と言うのはきっと不謹慎だろう。
(まぁ、そもそも言う気はないし。それよりもこう、運命の悪戯というか人の繋がりの不思議って言うか……気づかないところで色々繋がってるもんなんだなぁ)
俺がトロワと一緒にいるのも、元は砂漠に埋まってたトロワの母親を助けたのがきっかけだし、勇者シャルロットを弟子にして旅に出たのも、スライムに倒されたシャルロットをたまたま見かけて助けたのが全ての始まりだ。
「しかし、お前の父は村長の一族なのだろう? よく船で外洋に出ていたな」
「あー、そう思うよね。父さんは『後学のため』言ってたけど。一応村長の一族だから、間違って村長になるようなことがあっても大丈夫な様に見識を広めないといけなかったんだってさ。それでもし村長を継ぐ事がなかったとしても経験を活かして交易商をやるつもりだったとも言ってたなぁ」
「なるほどな」
過去を見る目になって語るムール少年に俺は相づちを打ち。
「確か、イシスで意気投合した人が居て、その人の夢を手伝うのも面白いかも知れないって言ってたよ。名前は確か――」
「は?」
俺は修行が足りなかったりするのだろうか。思わず声を上げてしまったのは、ムール君の口にした人物の名に聞き覚えがあったのだ。それは、ダーマにがーたーべるとを広めてくれやがろうとした極悪人で、元バニーさん勇者パーティーに居る女賢者の父親の友人の名だった。
(あの『おじさま』が?)
商人同士思わぬ繋がりがあるのは不思議でない。そもそも商人というのは商売相手や商売敵など様々な縁を人と結んでいるものだ。行方不明になっていなければ、ムール君のお父さんとは交易網作成の件で俺とも間接的な知り合いになっていた可能性だってあるのだから。
「とにかくそんな訳で、成功する見込みはあったんだと思うよ。オイラは耳がこれだから人前に出るのは問題でさ、父さんの仕事は手伝えなかっただろうけど」
「盗賊になったのもその耳が理由か?」
「うん、人目を避ける術を学ぶ必要があったからね。それで、得た技術を一番活かせるのがこれだったんだ」
ムール少年曰く、次点候補は狩人だったとか。
(エルフなら弓は似合いそうだもんなぁ)
そっち方面を目指していても絵になったと思う。
「ともあれ、お前が居てくれて助かった。流石に俺も二人に分裂は出来んからな。気配を探れる者が俺だけだったら、『班分けして魔物退治に当たろう』とはとても言えん」
「ううん、オイラのほうこそ……あそこで出逢えなかったら幽霊のままだったし」
「ふ、その件に関しては約束を呑んで貰っただろう? 俺としても自分の目的のために蘇生させた訳だからな。礼には及ばん」
神竜に挑むという最終目的を鑑みれば、優秀な人材は多くても困らない。
(それに、何より同性ってところがいい)
別にホモ的な意味合いではなく、異性と違って気を遣わずに済むと言う理由で、だ。
(更にトロワとくっついてくれれば俺の貞操も安泰……と思ってたけど、トロワはまともになっちゃったしなぁ……いや、人間の女の子が俺に惚れるとかは無いと思うけど、魔物に関しては強さが最有力判断基準なのかおろちとか旧トロワみたいな事もあるし……)
突発的な世界の悪意の策略に備える為の生けに、もとい盾、じゃなかった頼れる味方として側に置いておくのはアリだと思う。
(最近世界の悪意の攻勢もハンパないからなぁ、うん)
だから言うのだ、約束を履行せよと、ただ言い方には気をつけねばならないだろう。
「だが、逆に言えば約束は約束だ。俺はお前が欲しい。俺についてこい」
「えっ、それって……じゃあ、やっぱりオイラの身体が目当てで」
「くっくっくっくっくっくっく、ばれてしまっては仕方がない。今夜は楽しませて貰うぞっ」
何て流れにって、待て俺の想像力。
(なんで、ホモい てんかい に なってるんですかねぇ?)
誤解を招く発言どころか直球で駄目パターンじゃねーか。
(おのれ、世界の悪意めっ)
奥歯をぎりりと噛み締め、俺は虚空を睨んだ。
腐僧侶少女「きっと需要があると思うのですよぉ?」
ないので、お帰り下さい。
次回、第五十二話「誘い文句って重要だと思うの」