強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第五十三話「加齢臭のことをカレー臭だと誤解していたあのころ」

 

「スー様、気を遣わせて悪いぴょんね」

 

 カナメさんの声を久しぶりに聞いた気がするのは、気のせいだろうか。

 

「いや、そこは気にするな。それよりも睡眠は交代制で何かあったらすぐ知らせてくれ」

 

「わかってるぴょん。……盗賊だった頃の感覚のさえは鈍ってても安心出来ない場所で夜を明かすと言うのがどういう事なのかは理解してるつもりよ」

 

「……そう、だったな」

 

 遊び人になってはいるが、カナメさんはカナメさんなのだ。謎の安心感を覚えつつ、詮無いことを言ったと俺が頭を下げたのは、酷い夜の並び順が確定し、泊まれそうな部屋を見て回った上、念のためにニフラムの呪文もきっちりかけた後。

 

「これでだいたいの説明は終わったな? トロワがこっちで寝ることと、バリケードを設置したこと、明日は地下墓地で残った魔物を掃討することを含めて」

 

「はい、伺いました」

 

「なら、俺から追加で言うことは何もない。持ち込んだ食料で夕食後、交代で睡眠、明日に備えるだけだな」

 

 原作だったら何事もなければ一泊した音楽が流れてすぐ朝がやってくるだろうが、この世界ではそうもいかない。

 

(安心して眠れる保証がない辛さ……の前に俺の場合オッサンと添い寝って辛さが待ってる訳だけど)

 

 魔物とはいえ縛られたむちむちの女の子と寝るのとはベクトルが違うだけである種の拷問なのは同じか。

 

(うん。だったら前の方が良いと思ってしまうのはきっとあれだよね)

 

 夏に冬の冷たさを羨み、冬に夏の暑さが良かったと泣き言を言うようなモノだろう。

 

(結局どっちも精神的に消耗するんだからさ)

 

 それなら安全な寝床で一人ゆっくり眠りたい。

 

「さて、まずは夕食の支度か」

 

 メニューは干し肉などの保存食をお湯で戻したモノを入れたスープにかちかちの保存用パンをつけてふやかしたモノとか辺りだと思われるが、仕方ない。

 

(野生化してかろうじて残ってた野菜のようなモノのしなびたのがあったぐらいだったし)

 

 放置された元村にまともな素材が残っている筈がないのだ。

 

「そうですね。ええと、スー様、夕食はみんな一緒で良いですよね?」

 

「ああ」

 

 だからこそ俺はクシナタ隊のお姉さんの言葉に頷いた。一応分けるというのにも食中毒によって全員が倒れるのを防ぐとか意味はあるのだが、料理の腕には個人差というものがある。

 

(材料が残念でもせめて女の子の手料理が良いと俺が思ってしまうのはきっと誰にも責められないと思うんだ)

 

 そして、出来れば料理のうまい娘がいい。

 

(今までホレ薬とか盛られそうな気がしたからトロワには料理を任せるようなこと無かったけど、そのせいで料理の腕は未知数だし)

 

 となってくると、必然的にクシナタ隊のお姉さんしか居なくなる訳で。

 

(材料が材料だから和食が食べたいなんて我が儘を言う気はないけど、ジパング人のカナメさん達なら日本人の舌にあう味になる可能性は高くなる筈)

 

 そして、クシナタ隊のお姉さん達の料理の腕は悪くない。と言うか、お店出せるレベルの人が何人か混じっている。

 

(だったら二つ返事でOK出すよなぁ。惜しむらくは新鮮な食材を確保する手段が……あ)

 

 そこまで考えて思い出す。この村に来た時吹っ飛ばした洞窟の入り口のことを。

 

(そう言えばあそこのトロルどっかで動物仕留めて持ち込んで肉焼いてたよなぁ、魚の尻尾や蟹の殻とかも捨ててたっけ)

 

 つまり、新鮮な食材が手に入ったかもしれない場所に繋がる入り口を俺は吹っ飛ばして塞いだ訳だ。

 

(うああああっ、俺の馬鹿ぁっ、何であっちもバリケードにしておかなかった? いや、水が迫ってるかも知れないとかトロルのこととか理由はあったはずだけど……)

 

 今更掘り返す訳にもいかない。

 

(とは言え、落盤で道がふさがっていない可能性にかけて鉄格子を開け、本来のルートから行ってみるってのもなぁ)

 

 地下墓地とも繋がっていそうだし、トロルで地下の川せき止めちゃいました事件によって洞窟自体が水没していてもおかしくないのだ、ただし。

 

「スー様?」

 

「ん? ああ、すまん。少し考え事をな、それは後にしよう。そんな事より俺は何をすればいい?」

 

 声をかけられ我に返った俺は頭を下げると クシナタ隊のお姉さんに指示を仰いだ。

 

(食事ってのは日常生活に置ける数少ない楽しみの場だしなぁ)

 

 食材は残念でも料理人の腕は悪くないとすれば、俺に出来るのはサポートに徹して夕食の完成度を上げることぐらいだ。

 

(美味しい食事でストレスが発散出来れば今晩のぢごくだって耐えきれる、筈)

 

 信じて、疑わずに努力することが成功への近道と言ったのは誰だったか。

 

「ほう」

 

「……お口に合いましたか?」

 

 そんな俺のサポートがあればこそと自慢をする訳ではないが、この日の夕食は素材の割に美味しいモノだった。

 

「ふっ、女性の作ってくれたものに文句を付ける輩のつもりはないし、そもそも文句のつけようもない」

 

 本当のことを言うと保存食素材の関係で若干味が濃いのだが、その一点にしても濃くなり過ぎないように干し肉に具材と調味料を兼ねさせ、追加の味付けを控えている。

 

(俺だったら試行錯誤しないと肉のしょっぱさはここまで何とか出来ないな……いや、試行錯誤でこれに追いつけるかなぁ)

 

 考えてしまう点もあったが、ともあれ夕食は問題なく終わり。

 

「……もう一度聞いてもいいか、それは?」

 

 衝撃は就寝の前に訪れた。

 

「妻だ」

 

 キリッと擬音でもつきそうな引き締まった顔で言ってのけたのは、くまさんのぬいぐるみを抱いたオッサンだった。

 

「つ……ま?」

 

「うむ、最初は骨を衝撃から守るため綿を巻いていたのだが、ある日町で天啓を得てな。こうすれば夜中妻を抱きしめて寝られるのではないかと」

 

 真顔での説明が真実なら、抱いたぬいぐるみには奥さんの遺骨が入っているのだろう。

 

(いや、抱き枕とかあるし、間違っちゃいないって言えば間違っちゃいないんだけどさ)

 

 熊さんのぬいぐるみを抱いたオッサンとか、どうリアクションしろと言うのだ、これは。

 

(そもそも奥さんの方もそれで良かったの?)

 

 今頃草葉の陰で泣いていないだろうか、この仕打ちに。

 

 




晩ご飯はグリーンカレーでした。

それはさておき、遂にオッサンの奥さんがどういう扱いを受けていたかが明らかに。

舐めるなくまー! ぬいぐるみじゃないクマー!

あ、間違えた。

次回、第五十四話「そして夜はやって来る」

さぁ、出番だ、綺麗なトロワ!
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