強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第五十六話「俺のターンッ」

「……ド、マイ・ロード」

 

 余程疲れていたのか、それとも俺が自分が思っていたよりも図太かったのか。

 

(あんな状況でも寝られたんだなぁ)

 

 うっすら靄のかかったような起きあけの思考で声に出さず呟くと、俺は呼ぶ声に応えて目を開ける。

 

「……そうか、交代の時間か。すまんな、トロワ」

 

「いえ」

 

 俺を起こす為にだろう、身を乗り出すような姿勢で俺の顔を覗き込んでいたトロワは恥ずかしげに視線を逸らすが、自重したのは視線のみ。

 

(おばちゃん譲りって言うか、何て言うのか)

 

 前に傾いだ姿勢の為、トロワ最大の質量兵器が視界の大半を塞いでいた。

 

(お色気系ラブコメとかだとここでバランスを崩したトロワにのしかかられて窒息しかけるところまでがお約束だよなぁ)

 

 横向きに寝ているのでオッサンと床により後ろと左の二方は退路が塞がれ、残る二方に跨る様にしてトロワの身体が有り脱出は困難。

 

(一見すれば胸プレス待ったなしの状況、だが)

 

 気づいてしまえば対処のしようはある。

 

(倒れ込んでくるのに警戒して咄嗟に身体を支えられるようにしておけばいいだけの話だ)

 

 俺がそう毎回毎回せかいのあくいに良いように翻弄されると思っては大間違いである。

 

(どうだ、世界の悪意ッ! 読み切った今回は俺の勝ちだ!)

 

 片手はトロワのそれを握っているため塞がっているが、この身体のスペックを考えれば、予め倒れ込んでくる女の子を一人支える事なんて造作もない。しかも身体はトロワ側を向いている。

 

(若干目のやり場に困るけど、その一点に目をつむればいいだけだし)

 

 これで残りは起きて見張りをする時間のみ。勝利を確信し、だが同時にトロワがいつ倒れてきても支えられるように俺は身構え。

 

「もう交代の時間か……ぬおっ」

 

 後ろから声がしたと思った瞬間だった。

 

「っ、マイ・ロー」

 

「なっ」

 

「くあっ」

 

「ぐふっ」

 

 いきなりトロワが俺に覆い被さり。二人分の悲鳴と共に俺の視界が奪われる。

 

「ん゛んっ」

 

 上から降ってきたトロワの身体の下敷きになり柔らかい何かを押しつけられて呼吸もままならない。

 

「ちょっ、みんな大丈夫?」

 

 何処かでムール君の声がするが、みんなと言うことはやはり先程の声はオッサンのモノだったのだろう。

 

(倒れ込んできたのに気づいたトロワが俺を庇おうとしたが支えきれず潰れたなら説明はつく……んだけど、く、苦し)

 

 空気が、欲しかった。そして、それは難しくもない筈であり。

 

「す、済みませんマイ・ロード。今退きま……」

 

「ん゛ん゛んぅ」

 

 顔を覆う圧倒的質量兵器から逃れるべく、俺は動いた。

 

「ひゃうっ」

 

 横を向いて寝ている俺からすると、退路は下方向。

 

(いくら母親譲りで大きいとは言え腹部を隠す程大きく無かった、だからっ)

 

 下に潜り込むようにしてトロワのおへそ前辺りに自分の顔を持ってゆく。

 

「ぷはっ」

 

 それで呼吸だけは確保出来るのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……無理をするな、トロワ。上にもう一人乗っているのだ、先に」

 

「あ、あ、あぁ……きゃぁぁぁぁっ」

 

「がっ」

 

 先にオッサンへどいて貰うべきだと言おうとした俺は顎に強烈な一撃を受け強制的に俺にとっての上方を見せられる。

 

(今のは、膝……と言うか、これって……)

 

 見上げた先トロワのお腹があったことで、ようやく俺は悟った。押しつけられた胸から逃れようと下に潜りすぎたことに。つまり、巨大質量兵器から逃れた俺はトロワの股間の前辺りでハァハァしていた訳だ。

 

(そりゃ、ひざげり されて も もんく いえませんよね、あはは……って俺の馬鹿あぁぁぁぁぁぁッ!)

 

 アウトである全力でアウトでござった。

 

(いくら何でも駄目だろ、目撃者居るし)

 

 そう、元凶になったオッサンも目撃者になってる可能性はあるが、俺達を助けようとしてくれてたムール少年はほぼ確実に一部始終を目撃しているだろう。

 

「あー、やっぱり二人はそう言う関係だったんだ。ゴメンね、邪魔しちゃったみたいで……ええと、それじゃ、ごゆっくり。オイラ達は部屋の外にいるね?」

 

 とか、謎の気遣いをされちゃったら終わりだ。

 

(考えろ、今、俺は万人を頷かせるレベルのいい訳と弁解を要求されているんだ)

 

 下手に嘘をつくのはNG、その場しのぎの嘘なんてすぐバレる。

 

(……やはり、素直に話してDOGEZAするべきかなぁ)

 

 結局の所この状況を取り繕えるような都合の良い話しを思いつかなかったと言うのもあるが、言い訳するのは不誠実だと思ったためでもある。

 

(ともあれ、この態勢のままじゃ、駄目だ)

 

 まずは起きあがらなくては。

 

「ま、マイ・ロード! あの、申し訳ありませんっ」

 

「っ」

 

 トロワの口から謝罪の言葉が発せられたのは、丁度そんなタイミングであり。

 

「い、いや。俺の方こそ済まなかった」

 

 応じる形で謝罪するが機先を制されたのは痛い。

 

(謝れたけど、機先は制されたし、DOGEZAのタイミングも逸した……)

 

 せめてもの救いはトロワが俺のやらかしたことに対して起こっているそぶりを見せていないことだが。

 

「そんな。主に手をあげるなんて、私……」

 

 逆に申し訳なさそうにされると罪悪感が尋常ではない。

 

「そもそも、謝るべき人物は他に居るだろう?」

 

 だから、オッサンへ俺が矛先を向けることになったとしても、それは八つ当たりとかではなく、仕方がないことだったのだ。

 




主人公「俺のターンッ! 俺は社会的地位を1000払い、手札からイベントカード『誤算と想定外から来るラッキースケベ』を発動! この効果により、トロワの股間で深呼吸するッ」

世界の悪意に勝ったと思った直後、惨敗した主人公。あまりにアレな状況をここから卍解できるのか?

次回、第五十七話「嫌な事件だったと笑って言えたなら」


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