強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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世界の悪意「理によりて絶望を知らしめよ……卍・解……『御待汰世・旗回収』」

ちなみに始解は「急げ『旗回収』」



第五十七話「嫌な事件だったと笑って言えたなら」

「も、申し訳ない」

 

 自分が非難されていることを悟ったオッサンは謝罪するが他人に指摘されてからの謝罪など遅すぎた。ましてや今回の騒動の元凶、擁護する気など欠片も起きず。

 

「そう言う訳だ。故にお前が謝罪する必要はない」

 

 俺はオッサンをスルーしてトロワを宥める立ち位置に徹した。

 

「マイ・ロード……」

 

「朝が来れば地下墓地の探索を始めることになるだろう。俺の側にいるつもりなら睡眠不足は大敵だ」

 

 探索と魔物の掃討で最優先で求められるのは、索敵能力と特定の呪文への措置が可能か、そして閉所でも問題なく発揮出来る戦闘力の三つであり、トロワは主力になり得ないが、俺の側に侍るという誓いがある。

 

(誓いを守ろうとする気があるなら当日に自分が睡眠不足で使い物にならない何て事態は避けようと思うはず)

 

 俺が望むのは事態が収拾しトロワがさっさと寝てくれること、だ。

 

(そして、失敗した直後に求めた形ではないが、事態は収束しつつある)

 

 悪かったのはオッサンという流れに出来たし、トロワも悪いのはこちらなのに気にして謝ってきたのを俺が宥めるという逆の構図になっていた。

 

「……そう、ですね。申し訳ありません、マイ・ロード。朝までよろしくお願い致します」

 

「ああ」

 

 せめて少しでもトロワが安心出来るように口元を綻ばせ微笑むと、身体を先程まで寝ていた場所に横たえる。

 

「ん、失礼しますね……おやすみなさい、マイ・ロード」

 

「おやすみ」

 

 握り直した手を確認してからトロワの口にした言葉へ応じた俺は視線を天井にやる。

 

(ふぅ、何とか切り抜けたかぁ……危なかったなぁ)

 

 まだムール少年という目撃者な火種は残っているが、その一点を除けば、概ね「嫌な事件だった」と過去形に出来るところまでは持って行けたと思う。

 

(後はここから朝まで見張りをするだけ、かぁ。うん、しっかり睡眠はとれてるし大丈夫)

 

 横になってはいるものの、途中で寝てしまう恐れも考えにくい。

 

(直前のことを考えるとオッサンと二人は若干気まずいけど、それはそれ)

 

 男二人が仲良く見張り、なんて絵面で喜ぶのは何処かの腐った僧侶少女ぐらいだろう。

 

(なら――)

 

 言葉を交わす必要もない。

 

(ただ、見張りを続……け?)

 

 無言で天井を見つめていた俺は、横を向く。

 

「トロワ?」

 

 名を呼ばれたような気がしたのだ。だが、俺の言葉があったからか、トロワは既に目を瞑って寝息を立て始めており。

 

「気のせ」

 

「……イ・ロード、マイ・ロード」

 

 気のせいかと思えば身体を揺すられる感覚とともに名を呼ぶ声がより鮮明に耳に届き。

 

(これってデジャ……)

 

 世界が一瞬で崩壊した。

 

「ん……」

 

「おはようございます、マイ・ロード」

 

 何がどうなったかを理解するよりも早くかけられた声とぼんやりとした視界の中でこちらを覗き込んでくる誰か。

 

(あれ? これって。ひょっとして)

 

 俺をマイ・ロード何て呼ぶ人物に心当たりは一人しかなく、おはようと言われたと言うことは、つまり、アレだ。

 

(夢オチかぁぁぁぁぁっ!)

 

 あり得ない。ピンチに陥ったり死んだり、どうしようもなくなったところで目が覚めて夢でしたって流れは使い古された型(テンプレ)として存在すると思う。

 

(けど、よりによって何とか取り繕って事態が収束したって解った時点で夢だったとか)

 

 おのれ、せかいのあくい め。もちあげておいて おとす とか なんて きたないんだ。

 

「マイ・ロード? どうなされました?」

 

「いや、少々嫌な夢を見て、な」

 

 最後は上手く取り繕ったと言う意味では悪夢と呼べるか微妙だが、何とかなったと思った時点でスタート地点に戻されると考えたなら、結果的悪夢と呼んでも良いと思う。そして、そんなことを考えていたからだろう、俺が気づかなかったのは。

 

「そんなことが……わかりました。ではこのトロワ、非才の身ながらマイ・ロードをお慰めします」

 

「は?」

 

 思わず素の反応をしつつ顔を上げると、目に飛び込んできたのはばっとローブを脱ぎ捨てたトロワの姿。ちなみに、ローブを脱いだ下に下着は殆ど着けておらず、例外的に身につけていたのは、忌まわしきアレことがーたーべるとのみ。

 

「ふふふ、マイ・ロードをお慰め出来て妊娠出来る、まさに一石二鳥ですね」

 

「おい、ちょっと待て」

 

 なに、このてんかい。

 

「あ、ご安心下さい。このがーたーべるとをつけたからでしょうか、人前ではしたない行為をするととても興奮するようになりましたし、ムールくんとマイ・ロードと私の三人で一緒にと言うのもアリだと」

 

「だから、待てって!」

 

 夢より悪いってレベルじゃない。

 

(せくしーぎゃるって、きたないとろわ……じゃなかった、ひわいなとろわ に なってるじゃないですか、やだーっ)

 

 返せ、綺麗なトロワを返せ。

 

「さぁ、マイ・ロード恥ずかしがる事はありませんよ? 恥ずかしいのは大好……ま、マイ・ロード、もしやその手の形はアレですか? あっちのプレイですか?」

 

 憤りが何かを握りつぶさんとする手の形として発現していたのだろう。というか、この状況の打破などあいあんくろーぐらいしか思いつかず。

 

「うおおおおおっ」

 

「ぎにゃぁぁぁぁっ」

 

 激情を手に込め、死なない程度に加減しつつも思いの丈をぶつけるようトロワの頭をにぎにぎしたのだった。

 




 一難去ってなんとやら。

 まさかの夢オチ、その先に待ちかまえていたのは完全体ならぬ完全変態になったトロワであった。

 この状況、どうする主人公。

次回、第五十八話「そうだね、ディスティニーだね」

 人はそれを運命で済ませていいと言うのか?
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