強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第五十九話「現実にもスキップ機能があったらと時々思う」

「おやすみなさい、マイ・ロード」

 

 かけられた声にああと生返事で応じつつ、俺は勝利の余韻を噛み締める。

 

(長かった……ピンチの連続だった、だが、これで)

 

 地下墓地の魔物を倒して後片づけとオッサンの奥さんの埋葬さえ済ませればこの村ともおさらば出来る。

 

(なんだかんだで色々あったし、結局忌まわしきアレは一着増えたけれど、トロワが綺麗になったのは大きい)

 

 残る問題が解消されれば旅は続くものの変態を縛って眠る夜はもう来ないのだ。

 

(それに、あのトロワにならアイテムの作成とか色々任せられるもんなぁ)

 

 これまでだったら「変態に技術を与えた結果」とし言いようのない事態を招く恐れがあったが、綺麗なトロワになった今、配慮ももう不要となった。

 

(今までの心労の種とお別れ出来るとか本当に夢のよう……はっ、まさか、この流れまでひっくるめて今のこれも夢、何てオチはないよなぁ?)

 

 無限ループって怖すぎると思う。

 

(が、今回に限ってそれはないか。ほっぺたつねって痛い思いまでして確認してるし)

 

 そもそも、こんな個人的な考えに浸り続けて良い状況でもない。

 

(見張り、しないとな。オッサンは気配を読む術とか持ち合わせてないだろうから)

 

 俺は現実に戻って周囲の気配を探りつつ、身体をトロワの隣へ横たえ。

 

「異常なし、か」

 

 トロワ達を起こさない程度に小さな声で呟く。

 

(うーむ、魔物の気配が無いのは良いこと何だろうけれど……)

 

 耳を澄ませてみても聞こえてくるのは誰かの寝息や家屋のきしみ、風の音くらいであり。

 

(静かすぎる)

 

 それが当然だとはわかっているのだ。同じ見張り担当のオッサンにしても、ムール君やトロワが寝ている手前おしゃべりで時間を潰す訳にもいかないだろうし。

 

(そもそもオッサンには奥さんの遺骨入りぬいぐるみが有るもんなぁ。さっきからじーっと見つめ合っていますもの、きっと二人だけの世界に……って、おい)

 

 俺は思わず、二度見した。

 

(なに、この こうけい)

 

 ツッコんではいけないのは解っている、解っているが異様な光景過ぎた。オッサンの瞳はあんた誰だと言いたくなる程優しげで、ぬいぐるみを支えていないもう一方手は女性の髪でも梳くかのごとくくまさんの後頭部を撫でているのだ。

 

(と言うか、これって俺見ちゃって良かったの?)

 

 外見とのギャップがどうだってレベルじゃない。

 

(どうしろと……これどうしろと?)

 

 オッサンが俺もいることに気づいたら、くまさんのぬいぐるみとの声なき語らいを終了してくれるだろうか。

 

(それはそれで見られちゃいけない光景を目撃されちゃったってオッサンが黒歴史を背負うことになりそうだし)

 

 気づかれなかった場合、俺はツッコミと笑いを封じられたままこの状況に耐え続けないといけなくなる。

 

(現実にもスキップ機能があったら――)

 

 無い物ねだりなのは承知している、それでも欲すのは仕方がないと思う。

 

(せめてオッサンから背を向ける、か。それでもぬいぐるみナデナデする音を耳が拾っちゃうから光景が容易に想像出来るんだけど……)

 

 直接見るよりはマシと思うべきだろう、俺は身体の向きを変え。

 

「あ」

 

 失敗に気付き、声を漏らす。

 

(相変わらずというか、何て言えば良いんだろ)

 

 視界に飛び込んできたのは、覆面を被ったままの顔と、二人の間の空間をこれでもかと埋めるたゆんとした凶悪兵器だった。

 

(め の やりば に こまりますね、これ は)

 

 身じろぎするたびに弾力の良さを無駄に主張するそれに旧も綺麗なも関係ない。トロワの胸は相変わらずトロワなのだ。

 

(って「トロワなのだ」じゃNEEEE! 何ガン見してるんだ、俺!)

 

 あれか、夢の中で窒息させられかけたから無意識に警戒してるってことなのか。

 

(そもそも、見張りなんだから他のことに気をとられてたら駄目だろ、俺!)

 

 別の場所だ、別の場所を見なくてはと視線を無理矢理引っぺがすと、トロワの向こう、部屋の壁に目をやる。

 

(っ、これで何とか――)

 

 なったと思いつつ見つめた壁に掛かっていたのは、一枚の絵。

 

(あれはムール君一家の……)

 

 見張り用に一本だけ残した蝋燭の明かりに照らされてぼんやりとしか見えなかったが、それでも何の絵かは分かった。

 

(そうか、そういうことか……この並び順にももう一つ理由があった訳だ)

 

 ムール少年はせめて家族の絵が見えるところで眠りたかったのだろう。

 

(何だかんだで自分の至らないところに気づかされてばかりだなぁ、俺って)

 

 オッサンのぬいぐるみナデナデにしても亡き妻を思ってのもの。

 

(笑うとか最低だよな、本当に)

 

 その埋め合わせになるかは、解らない、ただ。

 

(邪魔は、させられないよね)

 

 ゆっくりと身体を起こすと、オッサンがまだぬいぐるみを撫でている姿を視界の端に捉え、視線をトロワの方に戻す。

 

(問題は、ここから、か。ふーむ)

 

 少しだけ迷ってから、俺はトロワの身体に開いていた方の手をかけ、持ち上げる。

 

(両手が塞がっていようとも呪文なら、いける。このまま寝ててくれよ)

 

 別に部屋の外に行く必要もなかった、だから大丈夫だと信じつつ立ち上がると窓際に寄り。

 

「ニフラム」

 

 唱えた呪文は、窓の外をこの屋敷に向かうところだった動く腐乱死体を光の中へと消し去る。

 

(よし、後はもう一度トロワを寝かせて、俺もその横に寝れば――)

 

 後は見張りを朝まで続けるだけ。

 

「んっ」

 

「っ」

 

「マイ・ロード……はい、喜んうぇ……んぁうぅ」

 

「なんだ、寝言か」

 

 一瞬トロワのあげた声に肩を跳ねさせつつも、続く言葉に胸をなで下ろすと自分も身体を床の上に横たえる。

 

(もう邪魔者は来ないといいな)

 

 密かに願いつつ前回の失敗を踏まえ見上げたのは天井。そして夜は更けて行くのだった。

 

 




とりあえず、見張りは全くの無駄ではなかった模様。

次回、第六十話「そして朝は来る」
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