強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第六十話「そして朝は来る」

「空が白み始めた」

 

 と言うことは、朝が近いのだろう。俺の願いが届いたのか、それとも地下墓地の入り口に設置したバリケードのお陰か、建物の外に気配を感じたのはあれっきりで、俺やトロワの方にも異常はない。

 

(……と、言いたかったんだけどなぁ)

 

 ホロゴーストに取り憑かれた一件が尾を引いていたのだと思う。魘されだしたので、声をかけて頭を撫でてやったら、抱きついてきて、現在の俺は完全抱き枕状態でござる。

 

(異性にこれだけ無防備に縋るってのは、よっぽど怖かったってことだろうな)

 

 だから、不満を言う気はほぼない。暖かいのとか柔らかいのは俺が耐えれば良いだけの話でもあるし。

 

(強いてあげるなら――生理現象だけはどうしようもならないという一点くらい、かな)

 

 まだ大丈夫だけど、トイレに行きたくなったらどうしよう。

 

「そろそろ朝か」

 

 ポツリと呟くオッサンは遺骨入りくまさんとのイチャイチャタイムをいつの間にか終了させたらしく、俺が先程見ていた窓の外に目をやっており。

 

「んん……ふぁ、もう……朝?」

 

「いや、もうすぐと言ったところだな。……ふむ」

 

 目を擦りつつ起きあがるムール少年を一瞥して応じつつ視線をトロワに戻すも、起きる様子は欠片もなく。

 

(もう しばらく この じょうたい は つづきそうですね、うん)

 

 俺は天井を見上げた。大丈夫、まだエピちゃんっってしまいそうな程せっぱ詰まった状況でもない。

 

(そのエピちゃんなら隣の部屋で寝てるけどね)

 

 あるいは起きているのかもしれないが、どちらにしても隣の部屋に居るのは確かだ。

 

(と言うか、夜の騒ぎは結局どうなったんだろうなぁ)

 

 やらかして同室の女性陣につるし上げられかけていたエピちゃんがこのままお咎め無しで済むとも思えない。

 

(釘を刺したからか、お隣はあの後結構静かだったけど……)

 

 順当に行けば今日夜を迎えるのは、空の上か、ポルトガの宿屋辺りになるだろう。

 

(後者の場合、まずOSIOKIされるな、きっと)

 

 クシナタ隊のお姉さん達は宿屋の客室でOSIOKIするなんてぶっ飛んだことを平然と出来る人達でもあるのだから。

 

(まぁ、旧トロワの被害者である俺からするとカナメさんの心労も解るし、同情も出来ない)

 

 かといってホロゴースト憑依させてから聖水責めにして引っぺがすなんて荒治療を進められるかと言えばNOだ。

 

(そも、治療の前提条件を揃えるのが厳しいよね)

 

 元バラモス親衛隊で現在は味方のホロゴーストならジパングにいたと思うが、彼らは頼れない。

 

(もし、引っぺがした時に変態性をごっそり持っていったからトロワが綺麗になったのだとしたら――)

 

 試した場合、味方の変態なホロゴーストが誕生してしまうことになる。

 

(なに、その きょうあく ぜつぼう さいしゅう へいき)

 

 他者に憑依出来る分、エピちゃんや旧トロワより悪質だ。

 

(見知った顔が憑依されることで突然変態になって襲ってくるとか洒落になんないよね?)

 

 やはり、あの性格矯正法は変態性分を持っていったホロゴーストの撃破が前提になってくる。これでは味方には頼めないし、敵対するホロゴーストについては論外だ。

 

(即死呪文使ってくる危険な魔物がしてくるかも解らない憑依をアテにして出現地域をぶらぶらするとかただの自殺行為だもんな)

 

 ぶっちゃけ、そんなことするぐらいならまだ性格を矯正出来る不思議な本を探して歩いた方が余程安全だしお手軽だ。

 

(まぁ、その本を探すにしても地下墓地の方を何とかした上でオッサンに目的を果たして貰わないとどうしようもないんだけどさ)

 

 今の状態のままこの村とオッサンやムール少年を放り出す訳にもいかないのだから。

 

「ん……マイ・ロード?」

 

 頭のすぐ横から声が聞こえてきたのは、丁度そうして地下墓地攻略の方に思考を傾けようとした時だった。

 

「起きたか」

 

「ふぇっ?!」

 

 一応おはようと朝の挨拶に繋げようとした言葉は、トロワの奇声に遮られ。

 

「あー、起きたんだ。おはよ……ええっと」

 

 耳を押さえたくなる程の声にトロワが起きたことを察したムール君が声をかけるも、トロワはこれをスルー。

 

(と いうか、たぶん みみ に はいってませんね)

 

 声を上げた直後、俺に抱きついていたトロワの四肢が硬くなったのだ。

 

(目が覚めて、無遠慮に隣にいた人へ抱きついて居た自分に気づけばなぁ)

 

 誰だって固まると思う。俺だってきっとこうなる。例外があるなら、相手がオッサンとかあり得ない相手だった場合のみだ。

 

(いや、まぁ奇声を上げてトロワに放り出されたら流石に俺も傷つくけどさ)

 

 そろそろ我に返って欲しいと思う。

 

「トロワ?」

 

「ひゃっ、あ、う、うぇ……」

 

 俺の願いが通じたのか、呼びかけてみたからかは定かでない。とりあえず、ビクンと肩を跳ねさせるという反応を見せてくれて。

 

「とりあえず、困ってるみたいだから放してあげたら?」

 

「はな? 放し……あ、も、申し訳ありませ――」

 

 ムール君の指摘にワンテンポ遅れて状況を理解し、転がるように俺を解放しつつ離れたのは失敗だったと思う。

 

「あうっ」

 

「うわっ」

 

 勢いよく転がり離れたトロワは、ムール少年の足に激突。

 

「あ」

 

「わわわわわっ」

 

「きゃあああっ」

 

 バランスを崩したムール君がトロワの上へと倒れ込む。

 

「――と言うことがあってな」

 

「へぇ、それであの二人ぎくしゃくしてるぴょんね」

 

 アクシデントのお陰で約二名の眠気は完全に飛び、起き出してきたカナメさん達女性陣と一緒に朝食をとりつつ、ムール少年の頬についた手形についての説明をする事となったのは、暫く後のこと。

 

「けど、スー様……ムール君って本当に男の子なのぴょん?」

 

「へ?」

 

 カナメさんがとんでもないことを言い出し、今度は俺が固まった。

 

 




さーて、そろそろ明かされるべき時が来たのかも知れませんね。

次回、第六十一話「あんなに可愛い子が女の子の訳(以下略)」

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