「マイ・ロード、やはり何度か仕掛けが動いた形跡が見られます」
元家具のバリケードで封鎖された入り口に到着するなり家具の幾つかに近寄り呪文付与の為はめ込んだ素材の部分を覗き込んだトロワは、戻って来ると想像通りの報告を口にする。
「やはり、仕掛けておいて正解だったと言うことか」
地下墓地への侵入にバリケードの撤去という一手間がかかりはするが、ここを塞いでなければ昨晩はもっと緊張を強いられていたことだろう。
(それを思うと、ね)
ついでに言うなら、バリケードに仕込んだ呪文発動トラップが起動したと言うことは、中の魔物に被害が出ているということでもあるのだ。
(バシルーラの方は元の場所に送り返すだけだから、トラップに引っかかった魔物の全てが被害を受けてる訳じゃないだろうけど)
それでも倒すべき敵が減ったのは、ありがたく。
「聞いての通りだ。このバリケードに設置した呪文起動式の罠によって地下墓地内の魔物にいくらかの被害は出したと思われるが、それでもまだ魔物は内部に残っているだろう。バリケードを脇に避け次第、俺達は内部に突入、生き残りの魔物を完全討伐する。トロワ、まずバシルーラ家具の処置を頼めるか? あれの誤作動が一番拙い」
「承知しました、マイ・ロード」
振り向いての説明に続けた依頼に応え、トロワが家具の方へと戻って行く。
(とりあえず、バシルーラはあれで良し、と。ニフラム家具の方は……ん?)
そんなトロワの背中を見送り、思考をもう一つの呪文付与家具へと向けた時、不意に閃いた。
(そうだ、ニフラムの呪文で内部を清め死体の再魔物化を防ぐつもりだったが、家具を改造して内部に設置して貰えば確実性も増すかも)
元々改造はして貰うつもりだったが、目的は内部侵入後に分岐があった場合侵入しない側を封鎖し、魔物とのすれ違いを塞ぐための言わば内部持ち込み可能な小型化改造であり、たった今思いついたようなアフターケアを目的にした形に適した改造ではない。
(うーむ、予め色々して貰うとは言ってあるけど、流石にこれはトロワに負担がかかりすぎだよなぁ)
出来れば負荷を軽減してやりたいところだが、アイテム作成に関して俺は素人。
(やれたとしてもせいぜい力仕事とか護衛戦力が良いとこか)
改造し設置するからには、地下墓地の中へ家具を持ち込む必要がある。
(遺体を納める場所だし、棺桶とか相応のモノが通るぐらいの広さはあるだろうけど、俺個人で持ち込めるのはせいぜい二つがやっとか)
封鎖する前に見た入り口の広さも加味しての計算だが、これではとても一度で全てを運び込めない。
(オッサンにも手伝って貰って「あくまで探索中の分岐路閉鎖用」ってことにするかなぁ)
そして、残りは地下墓地の魔物を倒し終えた後に運び込む流れだ。
「終わりました。これでいつでも撤去出来ます」
「助かった。さて、ここからバリケードの撤去作業に移るが、トロワには一つ別の作業を頼みたい」
「作業、ですか?」
どのようなと視線で問うてくるトロワへ、先程思いついたのだがなと前置きし俺は説明を始める。
「ニフラムの呪文を付与した家具を地下墓地内に設置すれば今回のような事態の再発を防げるのではないかと思ってな。お前には内部に持ち込むための小型化をして欲しいのだが」
「成る程、呪文をかけて回るよりも設置した方が効率的ですし、効果も長続きしますね。マイ・ロードの仰せのママンに」
意図するところをすぐに察する辺り、トロワはやはり天才なのだろう。
(きれい に なった はず なのに もれでた まざこん の りんぺん を きいた き が する のは きっと おれ の き の せい ですよね?)
もしくは言い間違いなのだろう、そうだと思いたい。
「えーっと」
「他の者はバリケードの撤去に移るぞ。ムール、お前もだ」
なんだかムール少年(仮)まで俺と同じ幻聴を聞いたのか、微妙に顔がひきつっていたが、ここでツッコミを入れて改造作業に遅滞が生じても困る。さりげなく個人指名までして手を掴み。
「あ、ちょ」
「ぼさっとするな。撤去中に魔物が出てくる可能性もあるのだからな」
そのままバリケードの近くへ連行して行く。
(しっかし、この手……妙に柔らかいが)
脳裏を過ぎるのはカナメさんが口にした疑問だ。
(いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。一番警戒して居なきゃいけないタイミングなんだから)
バシルーラの呪文を発動する家具は無力化し、ニフラムの呪文効果のある家具もトロワが改造中で効果を発揮しなくなって要るであろう今、中の魔物が外に出てくるのを押しとどめるのは家具で出来た物理的な壁オンリーのみ。
(こう、ゾンビとかって肉体を保護するリミッター解除されてるからとんでもない力が出るって設定時々小説とかで見るけど)
この世界の腐乱死体達も力と耐久力だけは相応にあった気がする。
「気を抜くな。家具一つぐらいならずらしてそこから姿を現し、っ」
噂をすれば何とやらだろうか。
(それとも、俺達の声に気づいたとかか。どっちにしても、こちらに引きつけてはトロワの作業を妨害しかねない。ここは――)
地下墓地の奥から現れた気配がこちらに向かって動き出したのを察知すると、俺は自ら家具の一つを退け、そこからバリケードの奥へと足を踏み入れた。
何人たりともトロワの邪魔をする
主人公、気合い、入れて、行きます!
次回、第六十三話「俺は出来ることをしているだけだ。別に過保護とかそんな訳じゃないんだからな? 効率だ、効率を考えた結果がだな……」