強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第六十五話「ゲームって親切設計なんだなとつくづく思う。ただしカメラに悪意しかないのは除く」

「これは……」

 

 一つのことを警戒したとしても次に待ち受けているモノがそれとは限らない。足下に散らばるのは副葬品だったと思わしきものの残骸。

 

(なるべく見ない方がいいよなぁ、きっと)

 

 そしてちらりとだけ見た副葬品の元有った場所は、納められた骸ごと壁の脇に設けられた空間が潰れていた。

 

「崩落か」

 

「ここにも影響が出てる可能性はあったけど……オイラ達も気をつけないとね」

 

「ああ。生き埋めになる趣味はないしな。最悪、脱出呪文による緊急脱出も選択肢に入れておいた方が良い、か」

 

 流石に修復する余裕もなく、俺達は言葉を交わしつつも二次崩落を警戒しつつ潰れた遺体用の溝の横を通り抜けた。

 

「しかし、トロワが居てくれたのは幸いだった」

 

「マイ・ロード?」

 

「何、崩落の危険がある場所で派手な立ち回りは拙かろう? その点、お前の作ってくれた『これ』はただ魔物を光の中に消し去るもの、周囲へのダメージを気にせず使えるのだからな」

 

 出番はまだ訪れていないが、この後敵と遭遇した時、ニフラム家具がなかったらどれだけ面倒な戦いになるか。

 

(ニフラムの呪文は僧侶の呪文、スミレさんを船に置いてきた時点で使えるのは俺ぐらい。その上、100%効く呪文でもないとなればね)

 

 おそらくは、崩落しないよう気をつけて立ち回り、効くか解らない呪文を成功するまで唱え続けることになるだろう。

 

(敵が前方から来てるだけならそれでも精神力の枯渇に気をつけてさえいれば何とかはなるかもしれない)

 

 だがニフラム家具が有れば、敵が前後などの二方向から接近してきたとしても容易に対処出来るのだ。

 

「もうすぐ分岐があるという話だったしな、挟み打ちされる可能性はゼロではない」

 

 感じられる気配が一つだけの時点でゼロに近しい可能性ではあるが、あくまで今はだ。

 

「ムール、この先で道が分かれているのだったな?」

 

「うん。そろそろ分岐だよ」

 

「そうか」

 

 ムール少年(仮)の声に応じると、俺は歩く速度を緩める。急ぎすぎて脇道に気づかず通り過ぎてしまわぬように。

 

「もうすぐ分岐にさしかかる。はぐれるなよ」

 

 一度だけ振り向いて後続に声をかけ視線を戻し、進むこと暫し。

 

「あれだ。えーと、ちょっと待ってね」

 

 何かを見つけたらしいムール君は声を上げると、壁に歩み寄るなり、取り付いて登り始める。

 

「ムール?」

 

「ここの上に油を注いで火をつける場所があるんだ。火をつければ暫く燃えてるし、目印になるから」

 

 理由が有っての壁登りらしいが、身軽なのは盗賊だからか。

 

(多分俺でもやれないことはなさそうだしなぁ。けど……)

 

 明かりを灯す事に異論はない、だが俺は敢えてムール少年(仮)の制止を無視し、家具を脇に置くと壁へと近寄った。気になることがあったのだ。

 

「ふぅ、これで暫くは燃えっ」

 

 それを案の定と言ったら酷だろうか。手をかけていた壁の一部が崩れ、ムール君が高所で支えを失ったのだ。

 

「っ」

 

「うわぁぁぁっ」

 

「させんっ」

 

 崩落の影響は他の場所にも出てるのではないかと思えばこれだ。俺は咄嗟に腕を広げムール少年(仮)を受け止める。

 

「くっ、何とかなった……か」

 

 中途半端に暗い上、崩れてきた壁の一部で足場も悪い。バランスを崩しかけつつも何とか転倒を防ぎ。

 

「ん? いや今はそれよりも――」

 

 何処かでブツっと何かか千切れる音がしたが、気にすることは他にある。

 

「大丈夫だったか、ムー」

 

 ムールと呼びかけようとして、感じた違和感に俺は言葉を失った。

 

(なに、これ……)

 

 左腕に当たっているのは、たぶん俺にも付いているアレだと思う。体つきの割には大きい気もするが、それはいい、ただ。

 

(おとこ の ひと に こんな やわらかいむね、ついてましたっけ?)

 

 右手に触れていたムール君の胸が弾力を伴い俺の指を押し返してきたのだ。

 

「うっ」

 

 訳の分からない俺の腕の中、ムールが顔をしかめるもかける言葉が見つからず。

 

「……ふぅ、驚いたぁ。あ、受け止めてくれてあり」

 

 一つ嘆息したムールは俺に礼を言いかけて固まった。

 

(と言うか、そもそも、この場合ムール君とかムール少年って呼び方はおかしいか)

 頭の片隅で、これからの仮称を考えつつ、俺もどうして良いか解らず。

 

「マイ・ロード、どうなされました?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

 おそらく、トロワが声をかけてくれなければ、お見合い状態が続いていたと思う。そして、ムールの呼び方がどうのこうのが現実逃避であったことを理解出来たかも怪しく。

 

「そ、それより大丈夫か、ムール?」

 

 それでも現実に引き戻されたばかりの俺にムールの身体の謎と向き合える程の余裕はなかった。

 

(落ち着け、俺。優先順位を考えろ)

 

 今為すべきは、気配を感じていた魔物をどうにかすること。

 

(そう言えば、あの魔物は……っ)

 

 意識を感じていた魔物の気配に向けると、知覚したのは良くない事態だった。

 

(こっちに…近づいてる)

 

 まだムールは俺の声に返事さえせず固まったままだというのに。

 

(仕方ない、かぁ)

 

 唯一構造を知るムールは硬直中、気配でしか位置を捉えていない俺にとってここへの到達までどれ程かかるかも先方の元に辿り着く道も解らない以上、出来るのは待ち受けることだけだったのだ。

 

 




主人公「む、ムールが……どうしたんだ? 俺の知らない武装が内蔵されているというのか?」

 と言う訳で両方ついてたが正解でした。まさかこの展開が読まれるとはなぁ。

 ムール君は最初から両方付いてる設定だったので、出すか迷ったのですよ。ちなみに名前も「両性具有だからカタツムリをからとろうか?」→「いや、それじゃひねりがないな、せめて他の貝に」なんて流れで今の名前になりました。

次回、第六十六話「始まりかそれとも」
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