「ぬおおおっ」
しかし、思い返すと自分が随伴者という形の旅は珍しい気がする。
(そもそも行き先だって知らない訳だし、ただついて行くだけ。だからさ……うっかり せいすい まきわすれれてたって しかたない よね?)
思わず遠くを見たくなるのは、でっかいイカの触手にオッサンが絡め取られてとんでもないことになっているからではないと思いたい。
(いろんな意味で近寄りたくないけど、呪文は駄目だな)
盗賊が攻撃呪文を使ったら変とか以前にほぼ間違いなく絡み取られたオッサンを巻き込む。
「くっ、ああも密着されているとな」
「確かに、酷い視界攻撃ですね。マイ・ロード、ここは中和するため私が脱ぎますからムラムラして押し倒して下さい」
「そも、放ってもおけんか」
いきなり変態的要求をしてきたアークマージを無視して、俺はまじゅうのつめを装備すると、甲板を蹴って船縁から甲板へと這わせた巨大なイカの腕目掛けて飛んだ。
「でやぁっ」
「シュォォォォッ」
振るった斬撃で腕を半ばから切り離されたイカが悲鳴をあげて船から離れ。
「今だ」
「はい、ザラキっ」
「「シュアアッ……」」
俺の指示で同行することになったクシナタ隊の一人、僧侶のお姉さんが唱えた即死呪文によって巨大なイカの触腕は力を失い、断末魔を上げた本体と共に海に沈んで行く。
「ふ、やはりイカには即死呪文だな」
「ええ、そうですね」
オッサンがピンチに陥っていたのが嘘のようだが、あのイカの魔物が恐ろしく則し呪文に弱いのだから仕方ない。
「すまぬ、みっともないところを見せた」
「いや、みっともないというのは寧ろウチのあれだろう」
ようやく触手を外して憮然としつつ頭を下げるオッサンに首を振ってみせると、俺は後方を示して嘆息する。
「ああっ、潮風で脱いだローブが! 誰かぁ、捕まえて下さぁい」
「ひゅーひゅー、いいぞ姉ちゃん!」
「いいぞ潮風、もっとやれ!」
はやし立てる船員の声も含めてもの凄く後ろを振り向きたくないのだけれど、放置しちゃ駄目なんだろうか、あの変態娘。
「あっ、マイ・ロー」
「ん? んぷっ」
そして、潮風は俺に恨みでもあるのか。ローブが海ポチャして船員達に常時大サービス状態にでもなられたら、流石に俺も目のやり場に困ると振り返った矢先に紫の布が顔に貼り付き。
「スー様にはあたしちゃん、流石と言わざるを得ない」
「何が流……ぐっ」
天敵であるクシナタ隊所属の
(いや、神竜に挑むなら理想的なパーティーメンバーに一番近くはあるけどさ、何で俺ってスミレさんをメンバーに入れちゃったんだろ)
ことあるごとにからかわれ、玩具にされることが解りきっていたというのに。
「マイ・ロード、ありがとうございま……ああっ、船が揺れて」
「おっと」
とりあえず裸で倒れ込んでくる変態娘からひらりと身をかわし。
「スー様、本当に苦労してるぴょんね」
「いや、そこはお前もあまり変わらんだろう」
「お姉様ぁ、大丈夫でしたか?」
かけられた労いの声に苦笑を返しつつ指さす先には、こちらに走ってくるエピちゃんの姿。
(うん、スミレさんを御せない気がしてストッパーを兼ねカナメさんに同行をお願いしたのは俺だけどさ)
カナメさんを異常なレベルで慕うエビルマージのエピちゃんは押しかけ同行枠なのだ。
(あれから出発までに二日あったお陰で、ほぼ欲しかった人材は揃えられたけれど)
今のメンバーは一部が悩みの種を内包したパーティーでもある。
(……状況次第で、入れ替えも視野には入れておくかな。補欠メンバーは相応の数が居るし)
俺の伝言を受けて、同行を希望したクシナタ隊の面々の中にはアッサラームで救出し恩を返したいからとアリアハンの職業訓練所で戦う力を身につけた元踊り子のお姉さんまでいたのは驚いたが、人材の層は厚いと思う。
(まぁ、願望だけなら真っ先に入れ替えたいのはあの変態娘なんだけどね)
トロワの兄弟との遭遇の可能性を考えると呪われた装備の如く外すことは出来ない訳だが。
(ともあれ、今すべき事は、この変態娘に服を着せることかぁ)
当然だが、俺が着せる訳にも行かない。
「カナメ、頼めるか?」
ここで差し出す相手を間違えれば、事態は悪化する。だから、俺はローブをカナメさんに手渡し。
「仕方ないぴょんね」
「う……ま、マイ・ロード? これはどういう」
「親しき仲にも何とかだ、服を着ろ。出来ないならカナメに着させて貰え」
身を起こしたマザコン変態娘に指示を出すと鞄を開け、腕を突っ込む。
「……今更だがな」
聖水、撒いておこう。仲間になった時点でトロワ達に聖水が有害物質として左右することはないと思う。ただ、「変態除けになってくれたら」と思ったのもまた紛れもない事実だった。
トロワの変態っぷりにアクセルがかかってきてる気がする。
ですが、トロワはまだせくしーぎゃる化を残しているのですよ。
興味深いとは思いませんか?
次回、第六話「昨日はお楽しみでしたねなんて言う奴が居たら俺はきっと殴ると思う」