強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第六十七話「むっつりスケベ爆誕」

「わぁっ」

 

 ムール君の悲鳴とその身体にぶつかったことで感じた衝撃。

 

(よしっ)

 

 俺は間に合ったことを確信し。

 

「その手は喰うかっ」

 

 予想通り落下してきたネックレスを打ち払う。

 

(ムール君を押し出せばその場所に自分が居ることになる、そんなの想定内だ世界の悪意っ!)

 

 これまでの戦いが、俺を育ててくれた。経験は無駄じゃない。

 

(二段構え? わかりきってたさ)

 

 だから現にきんのネックレスは俺に弾かれて宙を舞っている。そのまま落下したとしても、俺やムール君の首に引っかからないコースだ。集中したからか、やけにスローモーションになった世界の中、俺は達成感を覚えつつペンダントを眺め。

 

(勝った、世界の悪意に。あっちに居るのはオッサンくら……え゛っ?)

 

 そして、固まった。

 

「ぬ?」

 

 突然の俺の行動に驚いた様子のオッサンは多分気づかなかったのだろう、声を漏らした時にはネックレスはオッサンの頭を通し、首に装着されており。

 

(ちょっ)

 

 俺の顔はひきつっただろうか。

 

「これは……むっ、そうか」

 

 首に掛かったペンダントに気づいた直後だった。オッサンは、荷物から急いで熊のぬいぐるみを取り出し。

 

「……ふぅ」

 

 穴が空く程凝視した後、何処か愁いを帯びた表情で息を漏らす。

 

(オッサァァァァン?!)

 

 何てことだ、読み切ったと思ったのに犠牲は出ないと思ったのに、犠牲者が出てしまった。

 

(そんな、この流れでオッサンがむっつりスケベるなんて予想出来る筈がないじゃないか)

 

 亡き妻のために最後の鍵を探していたランシールの戦士はもうそこに居ない、居るのは熊のぬいぐるみでむっつりしちゃったオッサンが一人。

 

(こんな展開っ……誰が望んだって言うんだよ!)

 

 死者と生者一人ずつを色々台無しにしちゃっただけじゃないか。

 

(これが……お前の望みか、世界の悪意っ)

 

 どうしろって言うんだよ、この状況。

 

「えーと……」

 

 ほら、ムール君も俺の腕の中で対応に困ってるし。

 

(ん? おれ の うでのなか?)

 

 多分、ぶつかった時そのまま転倒したら拙いと無意識のうちにネックレスを弾かなかった方の腕で抱きすくめる様にしたのだろう。

 

(わーい、おれ の しんしさん……じゃねぇぇぇぇ?!)

 

 ネックレスに気をとられて中途半端なことしたせいでものすっごく気まずい状況が誕生しているのですが。

 

(と言うか、両方付いてるならこの態勢、かなり危険ですよね、うん)

 

 ついさっき胸を触ったのに、謝ったりした覚えが無くて、これなのだ。

 

(どうしよう、遅かったけど謝るべきかな? けど、ここで謝ったらムール君の身体の秘密が回りにバレてしまうし)

 

 バレなかったら俺のホモ疑惑が急上昇、か。

 

(ほぼ詰んでるじゃないですか、やだーっ)

 

 ふざけんな、世界の悪意。

 

「マイ・ロード、これはいったい?」

 

 しか も なぜ ここ で おれ に せつめい もとめてくるんですかね、とろわさん。

 

(いや、確かに第三者視点だと意味不明な状況に見えるかも知れないけどさぁ)

 

 説明しようにも明かすことと明かさないことで取捨選択の必要がある。

 

(とりあえず、きんのネックレスのことだけ説明すればいいかぁ)

 

 少なくともそれで俺がムール君にこうしている理由の説明にはなる。

 

(きんのネックレスについてはアッサラームでの一件があるからクシナタ隊のお姉さんなら効果を覚えてる人も居るだろうし)

 

 何より、オッサンをあのままにしておくのは忍びない。何せ、さっきので満足したかと思えば、いつの間にか一人鼻血の海に沈んでいたりするのだから。

 

(って、オッサァァァァン?!)

 

 何を説明するか考えていた間に、いったい何が起きたと言うのだ。

 

「せ、説明は後だ。とにかく今はあの男の手当を」

 

 いくら地下墓地だからって死者を一人増やす訳にはいかない。

 

「ようやく逢えた……そんな顔をするな。これからはずっといっ」

 

「ちっ、ベホマっ」

 

 何だか焦点の定まらない目でやばいことを言い始めていたので、やむを得ず呪文をかける。

 

(これでいいよな? 出血多量が呪文で補えるかは不明だけど)

 

 これで駄目なら俺達に出来るのは命を落とした後に呪文で蘇生を試みることぐらいだ。

 

(もしくは前にトロワの言っていた蘇生棍棒でも作ってもらって使うか、かな)

 

 棍棒で尻をぶっ叩かれて蘇生するオッサンなんて見たくもないけれど、それはあくまで最後の手段。

 

(たぶん今回の状況なら回復呪文で充分な筈。トロワがだいたいそうだったし)

 

 何が悲しくて鼻血における出血量のセーフゾーンとアウトゾーンが解るようにならなければいけなかったのかとも思うが、役に立ったので今は嘆かずにいよう。

 

「う……」

 

 そんな、とても他者には打ち明けられそうにないやるせなさと向き合っていると呻き声を上げてオッサンがむくりと身を起こし。

 

「どうやら気が付いたようだな」

 

 声をかけつつ近寄ると俺は片膝をつき、オッサンの首元で揺れるきんのネックレスへ手をかけた。

 

「まったく、相変わらずロクなことをせん品だ」

 

 このままオッサンをむっつりさせておく訳にはいかない。

 

「な」

 

「これで大丈夫だろう」

 

 呪いがかかっている訳でもないペンダントはあっさり外れ、それを鞄へとしまい込む。

 

(破壊しちゃいたいとこだけど、場所が場所だしな)

 

 明かりがあるとは言え照らされる範囲も限定される。残骸に足を取られて躓くことだって考えられる。

 

(今はこれでいい、だが、きっと必ず)

 

 ネックレスは処分すると決意しつつ立ち上がると、俺は他のみんなの方へと向き直った。

 

 

 

 

 




 結局防げなかったむっつりスケベの誕生。

 そして主人公は強いられる、そう、説明を。

次回、第六十八話「弁明」

 ひな祭りなのに季節ネタできなくてごめんなさい。
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