「何人かは知っていると思うが、先程のきんのネックレスには身につけた者の性格を変えてしまう力がある。そして、変えられてしまったらどうなるかは、あの通りだ」
あのの下りからオッサンを示せば、俺が飛び出した理由もネックレスをはね除けた理由も解って貰えると思う。
「そう言えばアッサラームで……」
と口にしたのはクシナタ隊のお姉さん。やっぱり覚えている人は居たらしい。
「まぁ、ネックレスは鞄にしまったからな。二度目があるとは思えんが……今はそれよりこっちだろう」
言いつつ俺が見つめるのは、呪文で一応回復したはずのオッサン。
「立って歩けるか?」
これから探索しないといけないことを鑑みるなら、オッサンのコンディションこそが最も優先して確認すべき事だった。
(置いて行く訳にも行かないし、魔物討伐の延期は論外となると歩ける状態でないと困るんだけど)
NOと言う答えが返ってきたのなら、置いて行く訳にはいかないという部分を曲げるしかない。
「無論……だ」
「そうか」
かなり億劫な様子だったが、返ってきた言葉の意味が肯定だったことで密かに胸をなで下ろす。
(とは言え、出来れば肩でも貸した方が良いんだろうけどなぁ)
この場に居る他の男は俺のみ。
(ニフラム家具を簡易バリケードに使って片方の肩は空いてはいる)
ただ、肩を貸せば間違いなく俺の動きは鈍くなるだろう。
(とりあえず、ここに戻ってくるまでならいいかな)
気配を察知できた魔物はもう光の彼方に消し去ったのだ。
「念のため肩を貸そう。ムール、トロワ、俺の反応速度も動きも鈍くなるだろうからな、すまんがフォローを頼む」
「承知致しました」
頼めばトロワの答えはすぐ返り。
「あ、う、うん」
少し間を置いてからムール君もぎこちなく頷いた。
(あー、やっぱりさっきの引き摺ってるかぁ)
状況を考えると仕方ない気もするが、やはり何処かできっちり話しておく必要があると思う。
(何とか機会を見つけないと。みんなの前では拙いし、小声で後で話があるからと呼び出せれば良いんだけど)
耳元で囁こうにもオッサンに今から肩を貸す状況では不可能。そもそもこの地下墓地の魔物退治が終わってしまえば、次の夜はルーラで目的地へ向かう途中の上空になるだろう。
(内緒話はまず無理、かな?)
その翌日はおそらく宿に泊まる事になると思うので、謝罪成り何なりがきちっとできるのは、明後日以降か。
「すまぬ、お言葉に甘えよう」
「気にするな。これ以上トロワに辛い思いはさせられんからな。今日中にこの地下墓地に平穏を取り戻す」
「マイ・ロード……」
恐縮するオッサンに応じつつ俺は顔を上げると歩き出す。
「ふむ……」
進み始めると、気配の無いこともあって、調査はかなり単調だった。
「この辺りは崩落の様子もないな」
「はい、おそらく先程の場所が最も影響を受けた場所だったかと」
「なるほど、な」
横目でチラチラ見るが、ムール君の持つ明かりで照らされる壁には大きな亀裂なども見つからず、設けられた溝は大半が副葬品だけ残して空になっている。
(これは下手するとハズレかもなぁ)
遺体安置用の溝に空の部分が多いのは近くに別の出入り口があってそっちから動き出した死体が出ていったからと言う推測も出来るが、別の出入り口が出来る理由の最有力候補である崩落の影響が乏しいとすると可能性は低くなる。
(それでもまばらに屍は残ってるから念のためニフラム家具は設置していった方が良いんだろうけど)
未だに気配は無いものの、横たわった死体が魔物かしない保証も無いのだ。
「とは言え念のためだ、最奥まで様子を見てから戻るぞ。その途中でニフラム家具を設置すればいい」
「はい」
「へ? あ、うん」
ワンテンポ遅れてしまうムール君の反応に不安を感じるが、現状ではどうしようもない。
(もうこの先に何も居ないことだけは解ってるし)
さっさと済ませてさっきの分岐に戻ろう。
(そして入り口まで戻ってニフラム家具を補充してもう一度、以後繰り返し……かぁ)
オッサンが荷物になるようなら、その時入り口に置いてくればいい。
(うん、場合によっては家具補充の時ならこっそりムール君に耳打ちする機会もあるかもしれないもんな)
道案内が使い物にならない状況は好ましくない。
(ついでに言うなら一人で考え込んで変な誤解とかされてると嫌だし)
疑心暗鬼になった覚えなら俺も数え切れない。だからこそ伝達不足の齟齬が致命傷を招くのは防ぎたいのだ。
「どうやらあそこで行き止まりのようだな……の、割には風の流れを感じるが」
この手のものを感じ取れるのは、きっと盗賊の優れた知覚力の恩恵だろう。
「マイ・ロード、おそらく換気用の空気穴では? 分岐にあった明かりは油を燃やすタイプのようでしたし」
「ふむ、確かにその手のモノが設けて無くては危なくてどうしようもないか」
トロワの推測に納得して壁面の上方を見るとそこには確かに穴が空いている。
「高さ的に死体共が登るのも難しいな。……よし、引き返すぞ」
暫く周辺を観察した俺は問題なしと判断すると踵を返した。これでようやく何分の一かが終わったのだ。
次回、第六十九話「リレー」