「とりあえずここも異常はなさそうだな」
来た道を引き返し、やがて辿り着いた分岐点ではもう一方の道を設置した家具が塞いだままになっていた。
(この家具は戻ってくるまでこのまま置いて行くとして……これを再利用すれば一箇所分は何とかなるけど、問題は次の分岐が三岐路だったりした場合だよな)
探索する道以外の二箇所を塞ぎ、遭遇する魔物用兼探索した通路に設置用のニフラム家具まで入れると三つ必要な計算になる。
(数が足りるかが問題かぁ)
最悪の場合、設置場所を分岐などの死体が魔物化した場合必ず通る場所に限定することも視野に入れるべきだろう。
(これ以上トロワに負担はかけられないし、そもそも材料がないもんなぁ)
一応、使い捨てでも良いならほぼ全裸で身体をくっつけるとかって方法で数を増やすことも出来るだろうが、そこまでする気はないし、させる気もない。
「そろそろ出口、か」
「すまぬな、世話をかけて」
「ふ、気にすることはない。ネックレスの脅威は知っているつもりだ」
肩を借りているからか恐縮するオッサンへ、俺はさも大したことはしていないという風に肩をすくめる。
「だからこそネックレスは仕舞わせて貰ってるが、な」
男性専用装備であるから影響を受ける可能性があるのは俺とオッサンとムール君だけだし、今は鞄にしまってあるが、油断する気はない。
(だいたい、あのネックレスは何故洞窟にあったのやら)
人目を避ける必要のあるあの猥褻地帯と違って、きんのネックレスは見た目だけなら普通の宝飾品なのだ。
(あれも自称次期村長が隠したとか? いや、それはないか)
きんのネックレスが原因の変態だったとしたら、人としての肉体を持たぬ悪霊になった時点で性格矯正の効果も立ち消えているだろう。
(根っからの変態だったって場合もあるけどさ)
なら普通に考えればあのネックレスは必要ない、第三者につけさせて自分のスケープゴートに使うとか考えていなければ。
「マイ・ロード?」
「ん? ああ、すまん。そもそも元凶のネックレスが何故あんな所に隠してあったかを考えていてな」
トロワの声で我に返った俺は詫びてみせると直前まで上の空だった理由を明かす。
「そうでしたか」
「ふ、情報が少なすぎて結局の所自分を納得させられるだけの仮設も組み立てられなかったがな」
おそらくこれ以上考えても時間の無駄だろう。
(それに、やることもある)
前方には既に入り口からの光が差し込んでいたのだ。
「ようやく入り口に到着、か」
これでニフラム家具の補充が出来るし、オッサンを置いていける。
(さてと、ここからだ。バケツリレーならぬ家具リレーだけどさ)
内部に足を踏み入れ、内部を調査、家具を設置し、引き返して家具を補充。魔物の気配を感じた場合、これに魔物退治を加え、内部を完全踏破するまで繰り返す訳だ。
(けど、その前に――)
オッサンを適当な場所に座らせ身軽になるとまずトロワに近寄り、言う。
「トロワ、念のため家具の起動確認を頼めるか?」
「はい、承りました」
負担を増やしたくないという気持ちとは反するが、ここで妙な誤解を生む訳にはいかない。トロワに頼み事をし、完全に一人になったところで俺はムールの元に向かう。
(とりあえず謝って、詳しい話は後でしようって言っておかないとね)
些細なことでも放置すると状況は悪化する。関係に亀裂を入れかねない出来事なら尚のこと。
「ムール、少し良いか?」
だから早く謝ってしまいたい。
「えっ? あ……」
「っ」
声をかけた相手が俺の顔を見るなり硬直してしまったと事に少しだけ心の痛みを感じたが、アクシデントとはいえ触ってしまったのは、俺。
(甘んじて受けなきゃ、駄目だよね)
ここで怯むことは、いろんな意味で許されない。
「すまなかった。事故だったと言い訳する気はない。だが、地下墓地を、地下墓地の事を何とかするにはお前の助けが必要なのだ」
オッサンに外でお留守番して貰うこととなった以上、この村のことを知りうる同行者はムール君のみであり。
「この村を魔物化した死者が彷徨う場所にはしておけん、故に今は――」
先程のことを一時忘れ協力して欲しい、と俺はムール君の耳元で囁き。
「……協力」
「そうだ、力を貸してくれ。それと、おそらく今日は無理だろうが次に宿をとる時――」
俺の口にした単語を反芻するムール君へ言う、俺の部屋に来て欲しい、と。
(出来れば盗賊の奥義の方もお詫びの気持ちに伝授したいところだけど)
当然伝授にはモシャスでムール君に変身する必要がある。
(とりあえず、下着は着けたままで伝授した方がいいよね、女の子の部分持ってる訳だし)
一つ問題があるとすれば、下着とかはどうなっているかだ。
(うーむ、下着を二つ持ってきて貰う様に言うべきなんだろうなぁ)
そもそも、服越しに触っただけで裸を見た訳でもない。身体の構造がわからなければ両方付いている人の下着なんて用意するのは不可能だ。想像力だけで何とか用意して実際はいてみたら失敗作でしたでは笑えない。
(うーん)
若干迷ったものの、時間をかければトロワが起動確認を終わらせてこちらに来てしまうだろう。まごついていられる余裕は皆無。
「その時は、下着を二着用意してきてくれるか?」
意を決し、最後にそう言い添えた。
主人公、謝る。
ムール君を復活させる為挑んだ内緒の会話の結果、ムール君は――。
次回、第七十話「いい顔になったな、まるで何かの覚悟を決めたかのような……あっ(察し)」
あーあ。