強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第七十話「いい顔になったな、まるで何かの覚悟を決めたかのような……あっ(察し)」

 

「えっ……」

 

 言い添えた言葉に驚くムール君だったが、そのリアクションに俺は説明不足であることに気づくも。

 

「……うん、そうだよね。生き返……て貰っ……、こ……も……て貰……だ……」

 

「あー、その、だ」

 

「いいよ」

 

 何かブツブツ呟いていたムール君は俺が補足の言葉を切り出すより前に首を縦に振って見せた。

 

「えっ」

 

「下着を二着もって行けば良いんだよね?」

 

 一を聞いて十を知ると言う奴だろうか。流石に言葉が足りないと思ったのだが、ムール君の顔は何もかもを理解したとでも言うかのようであり、その瞳には覚悟を決めたもの特有の色があった。

 

「そうか、解ってくれたならいい。まぁ、別に俺側としてはこれが初めてという訳でもないしな、解らないことが有ればカナメにでも聞くと良い」

 

 とは言え、勘違いしてる可能性もゼロではないだろうから、安心させるついでにそう勧めておく。

 

(とりあえず、これで大丈夫だよな。俺がポカやってたとしてもカナメさんならきっと何とかしてくれるだろうし)

 

 ムール君の前でカナメさんの名前は何度か呼んでいる。スミレさんとカナメさんを間違えてデタラメを吹き込まれるなんて事はあり得ないし、ともあれ、これでようやく奥義を伝えられる相手を確保できたわけだ。

 

「マイ・ロード、確認終了致しました」

 

 そして、ここで報告にやって来るきれいなトロワ。どうやら時間切れらしい

 

「っ、そうか。ではその家具を持って出発するとしよう。ムール、道案内を頼むな?」

 

「仲間って……言う意、あ、うん」

 

 また何かブツブツ呟いていたようだったが、生き返って一日だし、ここはムール君の故郷、更に言うなら昨日今日で色々なことがあったのだ、きっと思うところがあるのだろう。

 

(ちゃんとカナメさんって質問への回答役も用意してあるしな)

 

 勝手にアテにしちゃったカナメさんには悪いけど。

 

「やはり、カナメにもその辺り埋め合わせすべきか」

 

 今度町や村に立ち寄ったら何か買って贈ろう。

 

(ムール君と違って、付き合いがそれなりにあるカナメさんならプレゼントで変な誤解はしないだろうし)

 

 これがスミレさんだと、意図的に周囲を誤解させる発言をしかねないので注意が必要だが。

 

「スー様呼んだぴょん?」

 

「っ、あ、ああ。カナメか」

 

 噂をすれば影なのか、声をかけられて驚きに一瞬固まるが、ある意味丁度良いタイミングだったかも知れない。

 

「イシスの夜、と言えば解るか? ムールに聞かれたら教えてやって欲しい」

 

「あー、そう言う話ぴょんね。わかったぴょん」

 

 事後承諾の形になったと言うのに、口に出せばすぐさま飲み込んだカナメさんは首を縦に振ってくれて。

 

「けど、あれ私達からすると結構きつかったぴょんよ? 大丈夫?」

 

「いや、きつかったと言うが……俺からすると割と楽しそうに見えたのだが」

 

 声を潜めて疑問を口にするカナメさんへ俺は若干ひきつった顔で応じる。

 

(そりゃ、カナメさんの言うことも解るけどさぁ)

 

 あれは俺としてもトラウマなのだ。

 

「ともあれ、やることがやることだからな、俺が口で説明するよりカナメの方が適任だろう?」

 

 ムール君は覚える側なのだし、俺も説明で自分の古傷を剔らずにすむ。

 

「いっそのこと三人で、と言うのも考えたが」

 

 カナメさんも元盗賊なのだ。賢者の後再び盗賊に戻るなら、奥義の伝授は生きてくると思う。

 

「こちらとしては構わない……と言いたいところぴょんけど」

 

「けど? あ」

 

 途中で言葉を濁したカナメさんの言を反芻して、俺はようやく気づく。

 

(そっか、ムール君の性別、カナメさんには話してなかったっけ)

 

 男の子か怪しんでいたものの、疑問のレベルだったはずだ。

 

(あー、一応男のアレも付いてるムール君と下着姿で一緒にってのはいくら技の伝授補助だとしても問題だよなぁ)

 

 きっと今回は諦めた方が良いということなのだろう。

 

「そうか、そうだな。そもそもお前が良くてもムールが嫌という可能性もあるしな。俺が浅はかだった。さて」

 

 何だかんだで結局話し込んでしまったものの、すべき事は忘れていない。

 

「そろそろ出発するとしよう。トロワ、待たせてすまんな」

 

「いえ」

 

「隊列は一人減るが前回の通りだ。崩落の影響が残る場所には気をつけろよ」

 

 俺が歩き出したのは、警告を口にしてすぐで。

 

「同行出来ずすまぬ、地下墓地を――」

 

「ああ」

 

 見送るオッサンの傍ら、血にまみれていないくまさんのぬいぐるみを一瞥した俺は視線を前に戻し、頷いた。

 

(奥さんは守ったんだな)

 

 むっつりスケベっても妻への愛は変わらなかったのだろう。

 

(妻、かぁ。女の子にモテず、秋波送って来たのが旧トロワぐらいの俺が理解しようなんてちゃんちゃらおかしいのだろうけれど)

 

 貴いモノだと言うことぐらいは解るつもりだ。

 

(オッサンの奥さんへ安らかに眠って貰うためにも、さっさと片をつけないと)

 

 先程潜った感覚からすると魔物の数は少なかった。なら、問題になりそうなのは崩落ぐらいだと思う。

 

「マイ・ロード?」

 

「何でもない。遅れを……取り戻すぞ?」

 

 俺が口元を綻ばせて言えば、トロワははいと答えた。

 

 




むぅ、ちょっと強引だったかなぁ?

次回、第七十一話「結局別の出口は出来てるのかどうか」
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