「こんな時に限って、か」
愚痴を言っても始まらないことは解りきっていたが、気配のする方はムール君曰く、通気口とは反対側らしく。
「バリケードを作って先に通気口側を見に行くというのは無理だな」
気配の主が分岐の封鎖が完了する前にこちらへ来る事も考えられるし、通気口側がすんなり行き止まりまでいけるとは限らない。
(ここに来るまでに何カ所か崩れてるところあったもんなぁ)
向かってみたら通路が途中で崩れていて進めず、人の入れない大きさの隙間から空気だけが抜けていたなんてオチもあり得る。
(撤去するにしても戻るにしても大幅なタイムロスだし、魔物はこっちの都合なんて考えない)
まぁ、魔物が空気を読まないのはいつものことなのだけれど。
(とは言え、順番に回っても時間がかかりすぎる……となると、戦力分散もやむを得ないか)
少し考えた結果、俺は三手に別れる事にした。
「ムール、通気口側に魔物の気配がないならそちらへ先行してどうなっているか見てきて貰えるか? そして、もし外に通じているようならここに残して行く面々と合流して引き返し、あの男の元へ向かってくれ。俺は気配の方に向かう」
「スー様?」
「オイラはいいけど……いいの?」
「この状況ではやむを得まい? 地下墓地の外に出た魔物がすれ違いに外に出て入り口に残してきた血の足りないあの男に襲いかかったらと思うとな」
地下墓地の魔物を全滅させて戻ってきたら魔物とオッサンの死体がお出迎えなんて状況はゴメンだ。
「まぁ、トロワは俺がなんと言おうと着いてくるだろうが、入れ違いになった魔物が複数居る可能性もある」
ムール君一人では対処に困る事だってあるかもしれないのだから、ここは万全を期すべきだと思うのだ。
「気配の主についてなら心配は要らん。数が居ようと俺にはこの家具があるからな」
そも、崩落さえ起きなければニフラム家具の効果が効かなくてもやりようはある。
「それに、所々崩れてるからか、投げる石に事は欠かん」
不謹慎だが、副葬品のコインを投げつけるという選択肢も存在するのだ。
「予想される最悪が現実になりつつあるなら、事は一刻を争う。頼む」
「……わかった。そっちも気をつけてね? じゃ」
俺の真剣さが伝わったのだろう。ムール君は頷くと俺が見つめるのとは違う通路へと消え。
「スー様、せめてこの明かりを持っていって下さい」
「すまんな。トロワ、頼めるか?」
明かりを担当していたムール君が去ったことで魔法使いのお姉さんが差し出してきたカンテラにトロワの方を見て。
「お任せ下さい、マイ・ロード」
「では、行くか」
「スー様、お気をつけて」
「ああ」
即座にそれを受け取ったトロワと二人、その場に残る面々に見送られる形で俺達は歩き出す。
「さてと、この先は開けた空間があるとムールは言っていたな」
「魔物はその辺りでしょうか?」
「どうだろうな? ムールならばここの構造も知っている様だし、照らし合わせて答えられるのかもしれんが……どちらであろうと短所と長所がある」
開けた場所は視界に入る魔物を一気にニフラム家具で光の中に消し去れるかもしれないが、逆に言えば一度に襲いかかってくる魔物の数も多く。
「狭い通路の場合はこの逆だ。一網打尽と行かないかわり連続でにはなるが個々には少数の相手をするだけで済む」
強者なら前者の方が手っ取り早く、俺はうぬぼれでなく強者に当たると思うが。
「まぁ、どちらでも構わん。さっさと出てきて倒されてくれるなら、な」
ムール君にお願いした訳だが、通気口側そして外に魔物が漏れだしていないかはやはり気になる。
(その結果を知るには居ることが解ってる魔物を片付けて、持ってる家具で簡易バリケードを設置し、引き返せばいいんだけど)
この時、ムール君が他の面々と一緒に先程の分岐で待っているようなら、通気口は魔物が通れる状態じゃなかったと言うことだ。
「が、おしゃべりはここまでだ」
焦燥感を覚えるこちらに合わせてくれた訳ではないだろうし、礼の言葉は要らないだろう。
「「お゛ぉぉ゛あぁ」」
トロワの持つ明かりに照らし出され、よたよたと近寄ってくる人影へ俺はニフラムの呪文が付与された家具を向ける。
「まずはこいつを使う、効かない可能性もあるからな、油断はするなよ?」
「はい」
「ふ、では行くぞ」
両肩の家具を右、左の順に起動させ。
「お゛ぉあぉ」
「う゛おぉお゛」
動く腐乱死体達が次々と光の中に消えて行き。
(けど、まぁ全部が全部は上手くいかない、か)
想定はしていた、だから。
「お゛ぉお」
「マイ・ロード」
「解っている、喰らえっ」
投げつけたのは、崩落で砕けた壁の欠片。
「お゛べっ」
だが、投擲物としては充分だった。消えずに尚もこちらへ歩み寄ってきた腐乱死体が顔面を砕かれ動きを止め。
「奥にも残りがいる、気を緩めるな」
警告を発しつつ再び家具を向ければ、現れたのは骨の剣士。
「やはり、来るか」
生気を察知したのか、戦いに気づいたのか、おそらく尋ねたところで答えが返ってくるとは思えないし、どうでもいい。今為すべき事は新手への対処、それだけだった。
間に合わずちょっと付け足しました、すみませぬ。
次回、第七十三話「予期せぬ出会い」