強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第七十四話「誰なんだアンタはぁぁぁっ!」

「トロワ、すまんが降りて貰えるか?」

 

 目の前まで行って説明を求めたい気持ちを抑え、俺はまず背中のトロワに声をかけた。

 

「あっ、は、はい。申し訳ありませんでした」

 

「気にするな。それよりも、だ」

 

 問題なのはムール君の側で話している半透明のじーさんだろう。

 

(まぁ、幽霊なんだろうけど……誰だ?)

 

 ひょっとしてムール君のご先祖様だったりするのだろうか。

 

(ともあれ、ムール君が戻ってこなかった理由はあのじーさんに捕まって延々話を聞かされてたからってことでいいのかな?)

 

 そう見えるのがフェイクで実は正気を失わせたムール君を囮に更なる犠牲者を待ち受けてる悪霊、なんて穿った見方も出来る。

 

(まぁ、可能性は低いけど)

 

 念のため、小声でマホカンタの呪文を唱え、背の荷がなくなった俺は歩き出す。別にその重みに後ろ髪なんて引かれない。

 

(見たところ、上に登るのは不可能そうだから「魔物が外に出たとは多分考えなくて良い」って言うと若干語弊があるかな。行き止まりの足下崩れて穴空いちゃってるし)

 

 洞窟で流れてきた腐乱死体は多分ここから落下したのだろう。

 

(水音聞こえるもんなぁ、穴の奥から。用が済んだらここも封鎖しておかないと)

 

 放置すれば流された魔物が地下通路を辿り、鉄格子を破壊してこの村に戻ってくる事だって考えられる。

 

「そのためにも、な」

 

 あの幽霊と話さなくてはならない。

 

「ムール、ここにいたのか」

 

 ただ、直接話しかけるのは下策。俺は敢えて半透明のじーさんをスルーしムール君に話しかける。長い話に付き合わされていたなら助け船になるだろうし、反応はこのじーさんが悪霊か否かを判断する材料にもなると踏んだのだ。

 

「……え? あ」

 

 そして、顔を上げこちらを見たムール君の表情の変化を見て、俺は断定した。

 

「この幽霊は他者に長話を聞くことを強いる方のタイプだ」

 

 と。

 

(だったら、話は早い)

 

 じーさんはそのままスルー、話しかける相手は、ムール君。

 

「この穴は? 何があったか説明出来るか?」

 

 崩落跡を一瞥し、問いを投げるが、半透明のじーさんは見ない。

 

(じーさんの話はムール君が聞いてるだろうから、ムール君から見れば同じ話が二度目になるし、そもそもムール君をあんな風にしたじーさんに説明させるとか、その時点で無いよな、うん)

 

 さっきみたいに聞いてるのかどうか不明な感じで相づち打ってた部分に重要な話があるならじーさんの話も必要だろうが、モノには順番があるし、難事に当たる時は準備が必須だ。

 

(当人が何かしゃべる前にじーさんの情報を手に入れるという意味でもあるけど)

 

 同時にスルー自体には複数の意味がある。

 

(見えない聞こえない相手と認識してくれれば長話は無益と話しかけてこないかも知れないし、敢えてスルーしたことで「お前とはあまり話したくない」と言う態度をとったと認識させることを狙うことだって出来ると思う)

 

 その上で、気は進まないんだから話は手短にねと牽制することで長話を防ぐとか、俺の狙いはだいたいそんなところだ。

 

「実は……そこの人、この地下墓地を作った人の一人らしいんだけど――」

 

「なんじゃ、お前さんは?」

 

 そして、ムール君は俺の助け船に乗ってきて、じーさんは誰何の声を上げるが、ほぼ同時に説明されたなら、ムール君の話の方が優先なのは言うまでもない。

 

「……成る程、な」

 

 ムール君の語った内容は、とんでもないものだった。

 

(雨水と地下水を劣化聖水もどきにして地下墓地内を巡回させ浄化するとか……)

 

 それが半透明じーさんの担当していた地下墓地の部位であり、じーさんは元聖職者でもあったのだとか。

 

(しかし、しまったなぁ)

 

 ムール君への仕打ちから、反応を見るのも兼ねてスルーしてしまったが、印象が悪くなったのは間違いない。

 

(うーむ、どうしたものか)

 

 スルーしてしまったからこそこちらからは声をかけづらく。

 

「えーと、それでこの人、その浄化施設の修復を頼みたいって話らしいんだけど……」

 

 二の句を告げぬ俺に胸中を察してくれたか、助け船をくれたのはムール君だった。

 

「ほう。まぁ、幽霊ならば例外はあるが、モノは触れんだろうしな」

 

「そうなんじゃよ。その上、最近通りかかるのは魔物化した死者のみ。しかもワシの話に耳を傾けるどころか誰が見ても明らかな大穴に足を踏み出す知性のかけらも残って居らん奴らでな? まぁ、崩落で設備が壊れなんだら墓地の死者達もああ言った魔物になんぞならんかったのじゃろうがなぁ」

 

「で、途方に暮れてた所にオイラが来たら、事情説明だけで良いのに愚痴とか昔の自慢話とか」

 

 我が意を得たりと頷いたじーさんの隣でムール君が遠い目をし出すが、俺には気の利いた慰めの言葉が見つからず。

 

「災難だったな」

 

 そう言うのがやっとだった。

 

「たはは、すまんのぅ。こうも話を聞いてくれる者が居らんと、話し相手に飢えてしまっての。じゃが、待たされただけあったわ。そっちの女性」

 

「私、ですか?」

 

「そう、おぬ……ほう、おぬし人間ではないな?」

 

 視線が自分に向けられていることに気づいたのか、トロワが問えば頷こうとしたじーさんは新たな発見に目を見開き。

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「あ、いやいいんじゃ。お前さんからはワシに近いものを感じる。そうじゃな、物弄りの才能とでも言おうか……ワシの技術を伝授するに足る人物と見た。どうじゃ、ワシの技を覚えてこの部屋にあった設備を作り直してくれんか?」

 

 あっさり見抜いたじーさんの眼力への驚きを隠すよう若干機嫌悪そうに尋ねると、じーさんは頭を振ってからトロワへ問うた。

 

 




割と凄い人だったっぽいじーさん。

話を持ちかけられたトロワの返答はいかに?

次回、第七十五話「ドラクエの選択肢って、だいたい『はい』か『いいえ』」

気が付いたらじーさんのイメージが時計型麻酔銃とかキック力増強シューズ作ったどこかの博士っぽくなっていた不思議。

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