「マイ・ロード……」
問いかけに答えず、トロワは俺を見た。
(まぁ、そうなるよな)
設備を作り直せと言うが、幽霊のじーさんは所要時間を口にしていない。
「作り直すとなると相応に時間がかかると思うが、その間魔物がうろうろするここに滞在しろと?」
俺にとってもトロワにとっても出来ればさっさと立ち去りたい村に追加で宿泊しろと言うのであれば、話にならんとはね除けたいところだ、ただ。
(元々の設備の方が俺達の用意したものより確実に死体の魔物化を止められるのも、事実)
ニフラム家具で消すのはあくまで対処療法であり、墓地自体を清め魔物化の発生自体を無くしてしまう根治に近いこの部屋にあった設備の方が遙かに勝っているのは事実。だからこそ、時間と作り直す間危険に身をさらすと言うことについて触れ、問い返したのだ。
「それを言われると弱いんじゃが、ワシからすればお前さん方は久しぶりかつここがこんな惨状になって初めて訪れた生者なんじゃ」
「言いたいことは解るがこっちにも事情がある。のんびりしていられない事情とこいつを一人にしておけない事情が、な」
じーさんからすればようやく出会うことが出来たこの地下墓地を再生してくれるかもしれない人材だとしても、トロワには俺の側に侍るという自身で課した誓いがある。
(だからって俺がトロワについてここにいたら地下墓地内の魔物掃討が終わらない)
時間があれば別だが、現状ではじーさんの希望を満たしトロワの誓いを違えさせぬまま俺達が魔物掃討を終えさせるのはほぼ不可能なのだ。
「マイ・ロード、申し訳ありません……」
「気にするな、全てがお前のためと言う訳でもない。……話を戻そう。ここに来る途中にあった分岐のもう一方に一時しのぎと言った程度のものだが、足止め用の装置を仕掛けてきた。だが、あの奥にはまだ徘徊する死者達が居ても不思議とは思わん。最初に聞いておくが、その設備とやらは既に魔物と化した死体も動かせば元に戻せるのか?」
頭を振ってじさんへ向き直ると、俺は尋ねる。
(設備が起動すればもう魔物の掃討が必要ないって言うんだったら、話も変わってくるからなぁ)
追加で作業が今日中に終わると言う前提も付くが、それらの条件を満たせるなら前言を撤回し、トロワに設備の作り直しをして貰っても良いと思うのだ。
「そうじゃのう、即効性はないが死体の魔物にとって清められた場所は生物にとっての毒が充満した部屋のようなものじゃ時間がかかるが死体に戻すことは可能じゃろう」
「そうか。なら次の質問だ。作り直して設置するまでにかかる時間はどれ程になる?」
「ふむ、そればっかりはそっちの女性の才能と腕次第じゃからのぅ。ある程度技術を教えて作業しているところを見ればどの程度の時間でこなせるかは解るんじゃが」
「それまでここで待て、と? 足止めは仕掛けて来たが破壊される恐れもある一時しのぎ、加えて崩落でこの地下墓地にも他に出入り口が出来て魔物が外にさまよい出ているかもしれんのだぞ?」
「ああ、それじゃったら大丈夫じゃ。魔物と化した死者が抜け出せる穴のようなモノはない」
「は?」
反論へ自信満々で口にしたじーさんの断言に思わず一瞬素へ戻ったのは、無理からぬ事だと思う。
(穴はない? 言い切った?)
思わず根拠はとすかさず問いたくなったが、この幽霊はそもそも地下墓地を作った人の一人。
「地下墓地自体は熟知してる……ということか」
「まぁの。ここ同様地下の洞窟や地下の川に繋がってしまった穴が空いているところはあるものの、浄化機能に影響を与える破損はここだけじゃ。皮肉なことに重要性で上から数えた方が早い部分がごっそりなくなっておる訳じゃがな」
「ではどうする気だ?」
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、心配無用。幸いにも設備のメンテナンスと補修用の道具及び材料一式は無事なんじゃ。少々掘り出す必要はあるんじゃがな」
「それの何処が無事だと……まあいい」
結局浄化機能の復旧にどれ程かかるかは解らないが、メドを立てるだけなら半日もかかるまい。
「トロワ、すまんがここに残って貰えるか? 所要時間のメドが立たんとどうしようもないのでな」
「おお、それでは」
「勘違いするな、あくまでどれだけかかるかを確認するだけだ。その結果、今日中に終わらないようであれば魔物を掃討して俺達はここを後にする」
喜色を浮かべるじーさんへ釘を刺せば、次は残りの皆さんだ。
「ムール、カナメ、他の皆と一旦入り口に戻ってあの男と合流してくれ。話を聞いた限りではあちらが魔物と鉢合わせする可能性は低そうだが、万が一と言うこともある」
「解ったよ」
「了解ぴょん。ところで、スー様は?」
「俺か? 俺もここに居残りだ。埋まったって言う補修用の道具と材料を掘り返す人足が必要だからな」
同時に足止めの仕掛けを突破された場合の備え及びトロワの護衛でもあるが、そこまで明かす必要もない。
「浄化設備の作成と設置が今日中に終わらないと判明したなら、トロワを連れて引き返してお前達と合流する」
この場合ロスを取り戻すのに俺が本気を出すが、後は概ね当初の予定通りだ。
「トロワもそれで良いか?」
「はい、仰せのままに」
振り向き問えば、トロワは頷き、じーさんの方へと歩き出したのだった。
決断を下し、指示を出した主人公。
トロワは今日中に目的を果たせるのか?
次回、第七十六話「穴掘り? あれを覚えるのは商人でしょ?」
主人公は商人経て無いのに穴掘り覚えてますけどね、「墓穴堀り」って言う。