「ここに浄化設備の重要部分があったのは、地下墓地の中でもこの部屋が最も高い位置にあるからなんじゃよ」
幽霊のじーさんは言う。俺達が入ってきた崖に設けられた入り口よりもこの部屋の通気口の方が位置的に高くもあってのぅとも。
「水は高いところから低いところに流れる、じゃからここが選ばれた。雨水が流れ込んでくるのもここで、更に地下には川が流れて居る。場所としてはここ以外ありえんかったんじゃよ。そして、ここに置かれていた設備は地下の川からくみ上げた水を清めて壁に埋設させた溝を通して墓地の中を巡回させ、最終的に排水として地下の川に流しておった。ちなみにこの排水にもまだ劣化版聖水としての効果は残っておってな、地下の通路に魔物が住み着くのを妨げる効果も担っておったのじゃ」
つまり、ここが無事ならあの地下通路もトロルの巣窟にはなっていなかったと言う訳だ。
(けど、腐乱死体がはい上がってきた地下河川には設備の残骸らしきモノは沈んでなかったような……)
落下の衝撃で残骸と認識できないほどに砕けたのか、それとも川の流れに動かされない程残骸は重かったのか。
(逆に軽くて海に達しちゃったとか実はトロルの死体の下敷きになってるってオチもありうる、か)
どれであっても驚かないが、俺が残骸の行方に思いを巡らせたのには理由がある。
「まさかとは思うが、残骸を回収してこないと設備が作れないとは言うまいな?」
一応、本来の入り口を経由すればあの地下通路に入れるとは思うものの、崩落によって道が塞がっていないと言う保証もない。
(派手に爆破して穴塞いじゃったからなぁ)
脳裏に浮かんだのは、トロワ均整の柄付き手榴弾もどきで穴を埋めた光景。
(あの選択を失敗だったなんて思いたくはないけど……)
結果論であっても、新たな崩落が起きていればきっと俺は後悔するだろう、あの爆破を。
「それなら心配は無用じゃ」
だからこそ確認したのだが、じーさんは首を横に振る。
「そもそもそこにあったのは、水を清め聖水と言うには少々烏滸がましいモノを作り出す設備と地下から川の流れを利用して水をくみ上げる設備をくっつけたモノ、あとは設備で作ったモノを循環させるための溝に流す管ぐらいじゃ」
そのうち劣化聖水を作り出す設備と水をくみ上げる設備は補修用の予備パーツを組み立てるだけでよいらしく、管も破損した部分を交換するための予備が結構あるらしい。
「つまり、俺が部品を掘り出せば後はそっちの指示でトロワが組み立てるだけと言うことか」
「概ねそうじゃな。もっとも、組み立てには設備の仕組みをある程度知っておいて貰わんと拙いからのぅ」
じーさんの話通りだとすると、そこはトロワに何とかして貰うしかない訳だが。
「ならば俺のやることは一つ、か。部品かパーツか知らんがそれは何処に埋まっている?」
トロワがじーさんに教わっている間に俺は埋まっているという材料を確保しなくてはならない。
(こんな時、商人が覚えるあなほりがあればなぁ。まぁ、商人経験してないこの身体じゃ無いモノねだりなんだけど)
墓穴掘りなら会得してるとか声に出さず自虐ギャグを胸中で零してもどうしようもない。
「おお、ええと、そうじゃな……あの辺りじゃったかのぅ」
言いつつ幽霊のじーさんが示したのは部屋に入ってすぐ脇の辺りの崩落した壁を示す。
「っ、ここも崩れてたのか」
「気づかんのも無理はない。設備のあった壁側の底抜けの方が被害としては大きいし、入ってきたならまず目に映るのもあの大穴じゃからな。ちなみにそこは左右を含めて隠し扉になっておる。盗賊じゃったらレミラーマの呪文を使えば反応す」
「レミラーマ」
じーさんの説明は途中だったが、そこまでヒントを貰えば俺でも解る。
(成る程、こうやって呪文で生じる輝きを頼りに掘り返して行けばいいのかぁ)
キラリと光る崩れた壁に感心しつつ、横目でちらりとじーさんを見た。
(ふーむ)
ここまでの所、幽霊のじーさんを警戒する理由はない。助言も適切だし、説明も理にかなっている。
(ただ、なぁ。こう、物事を教える老人ってそこそこの割合でスケベだったりするイメージがあるんだよなぁ)
偏見かも知れないが、完全に無警戒でいるのも考え物だろう。
「では、手取り足取り教えてやるとしようかの」
とか言ってトロワの腰に手を回してきたとする、もし掘り返すことだけに注意をしていたら気づかないかも知れない。
(そしてそのうち語尾にエロジジイとかつけ始めて、最終的には本性を……あれ?)
語尾にデジャヴを感じたのは気のせいだろうか。
(いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない)
警戒は密に、それで居て相手には気取られぬようにしつつ、発掘を続ける。
(負荷をかけないと言っていたはずがこの有様だ……有言不実行も良いところだよな)
せめて、トロワは守ってみせると心に決めつつ俺はレミラーマの呪文を唱え始めるのだった。
アクシデントもなく、淡々と進む復旧準備。
そんな最中、密かに幽霊の老人へ疑念を抱く主人公は――。
次回、第七十七話「主人公はあしもとを調べた」