強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第七十九話「誤解だよ、誤解なんだよ」

(ここで立ち去ったら、あのじーさん絶対ロクでもないことトロワに吹き込むよな)

 

 自分から吹き込まなかったとしてもエロジジイの態度を訝しんだトロワまでもが誤解する展開だってあり得る。

 

(普通ならここで誤解を解いておくべきなんだろうけど)

 

 恨みでもあるのか、誤解を解こうとした場合、だいたいかえって(こじ)れるのだ。

 

(……そもそも、じーさんについてはここを去ったらもう会うこともないだろうし)

 

 誤解を解くだけなら二人だけの方がいい。それに、席を外すと言ったのに立ち止まっちゃってるのは拙い。

 

(トイレだって偽っておいて立ちつくしてたら嘘がばれて余計面倒なことになるし。ああ、もう、仕方ない)

 

 一瞬のうちに色々考えた俺は踵を返す。

 

「すまん、出来るだけ早く戻ってくる」

 

 一度足を止めておきながらそのまま無言で去るのも変に思えて言葉を残し、俺は走り出す。

 

(くそっ、急がないと)

 

 魔物という不確定要素を放置は出来ないが、俺の不在は材料を掘り起こす人間が居なくなると言うことでもある。

 

(嘘までついて抜けてきたんだ、さっさと倒してトロワ達の所に戻る)

 

 最初に気配を感じた方向からだいたいの場所は解っていた。

 

(接触するとしたら足止めの仕掛けの所か)

 

 張り巡らされたロープをくぐって更に奥へ進みたくない俺の希望も若干入っているが、最初に気配を感じた場所で魔物が立ちつくしていなければ、それぐらいは移動していると思う。

 

(こっちは走ってるけど分岐まで戻ってからあっちに行くからなぁ)

 

 飛ぶように流れる左右の壁の内左側に切れ目が入るところまで辿り着いてようやく半分。

 

「……近づいて、来てるな」

 

 通路を反響する呻き声とも咆吼ともとれそうな音の発信源は生者の気配でも察知したか、単に外に出ようとしているのか俺に近づきつつあり。

 

(これで一番虚しいパターンは、あっちが先に足止め装置まで辿り着いたところでニフラムが発動して、そのまま全部光の中に消えちゃうパターンだけど)

 

 それはまさに完璧な無駄足。

 

(こう、何で半分を過ぎたところで思い至るんだろう)

 

 しかもやたらフラグ臭がする。

 

(いや、フラグっぽくしておいてその裏をかいてごく普通に魔物と遭遇することだってあるか)

 

 流石に何の脈絡もなくスタイルの良いお姉さんが登場したあげく、ハプニング発生なんて展開は無いと思いたいが、油断は出来ない。

 

(トロワの母親……おばちゃんだってたまたま通りかかった場所で砂に埋まってたしなぁ)

 

 俺達を除けば生者の存在しない地下墓地だからって、死者はいる。

 

(ムール君はあのじーさんを地下墓地を作った一人だって言っていた)

 

 ならば、だ。他の幽霊が脈絡無く登場したっておかしくない。

 

(そう、例えば……一人目が男だったから次は女性、個人と言うことを考えると年齢はそれなりに、か。で、世界の悪意が存在することを考慮すると、次に出会うのは「いい歳してガーターベルトを着用した老女の幽霊」かな?)

 

 って、なぜ あらたな きょうい を かって に そうぞうしてるんですかね、おれ は。

 

(だいたい幽霊が出てくるって保証はない。せいぜい、くさったしたいがガーターベルトをつけてるとかそんなレベルだよな)

 

 なんて心おきなくニフラムで消し去れる魔物だろう。

 

「ま、流石にそんなモンスター居る訳もないが」

 

 ここに居る魔物はこの地下墓地に納められた遺体が魔物と化したもの。そんなモノつけたままの死者を地下墓地に納める事なんて考えられない。

 

(村をうろついてたならはずみで引っかけたとかごくごくホンの僅かながらあり得るかもしれないけどね)

 

 実際パンツ被ったのが居たような気がするが、きっと記憶違いだろう。

 

「お゛ぉおあぁあ」

 

「う゛ぇあおぁぁえぇ」

 

「……そして、やはり取り越し苦労か」

 

 悪い方に変な方に考えている間に随分進んでいたらしい、足を止めればロープを巡らせた向こうからよたよた歩み寄ってくる腐乱死体の姿があり、内一体は露出度の高い女性が扇情的なポーズをとった絵が表紙に描かれた本を片腕に抱えている。きっと副葬品か何かだったのだと思う。

 

「ツッコまんぞ、ツッコまんからな?」

 

 地下道の一部があんなことになっていた村だ、きっと仕様なのだ、これも。

 

「お゛ぉぉぅぁぉぉ」

 

「まあいい、邪魔をされるわけにはいかんのでな、ここで消え去れっ」

 

 こちらの心情などお構いなく歩み寄ってくる腐乱死体を前に俺は家具から伸びたロープを引き。

 

「お゛ぉぇああぁぁあ」

 

「う゛ぇぉあぁぁ」

 

 動く腐乱死体達は光の中に消え去って行く。中には片腕に本を抱いた個体も混じっており。

 

(ニフラムの呪文は光の中に消し去るからゴールドとかも入手出来なかったはず。だったら、あの本だって――)

 

 一緒に消え去ってくれるはずだ。

 

「……ふむ、珍しく全てが消えたか」

 

 やがて、光が収まればそこにあるのは張り巡らされたロープとニフラム家具のみ。他には何もない、そう、触ったら崩れそうな程ボロボロの本なんて落ちてはいないのだ。

 

「さて、戻るとしよう。更に妙な誤解をされてはたまらんからな」

 

 無事魔物達を排除した俺は足止めの仕掛けに背を向けると元来た道を引き返し始めた。

 

 

 

 




ある意味勇者ですよね、あーいう本と一緒に葬られるとか。

次回、第八十話「そして、俺は――」

無事魔物を消し去り、トロワ達の元に戻る主人公。

これ以上の誤解は避けられるのか?
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