強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第八十二話「もういい、いいんだ」

「どうしよう」

 

 何というか、この一言に尽きた。

 

(誤魔化す? いや、だけど明らかにこっちに悟られたって思ってるっぽいし)

 

 ここでとぼけてもかえって状況が悪化する可能性がある。

 

(だからって「気づいてた」とは言えないし)

 

 逆の立場だったら、どうだろう。

 

(うん、無理だ)

 

 気遣われてることが解ったら消えたくなるし、真っ正面から受け止められてもきつい。

 

(いっそのこと動じず、浄化設備の完成度合いを聞いてみる?)

 

 触れたくないなら後回しにしてしまえばいい。何らかのリカバリーが必要になるかも知れないが、そもそもこんな場所で浪費出来る時間はないのだ。

 

(そうだな、今はこれで行こう)

 

 嫌なことは忘れてしまうに限る。後回しにすれば、有耶無耶に出来るかも知れないのだから。

 

「トロワ……浄化設備の作成は何処まで進んでいる?」

 

「え」

 

 あくまで自然に、動揺は見せず。

 

「ムール達に出した指示であちらは合流しただろうが、合流後についての言及はしていない。お前を残して俺が伝令に行く訳にもいかんし、組み立て役のお前が知らせに走るのも論外だろう? あの男の調子が良くなればあちらから合流すべく動くかもしれんがそれは希望的予測に過ぎん」

 

 俺がこうして現状を説明することで、何をしなければ行けないかを理解してくれたならトロワも気づいてくれると思う。

 

「こ、効果の弱い聖水を作る部分はもうすぐ組み上がります。もう暫し、お待ち頂けますか?」

 

「ああ」

 

 そして我に返ったトロワの言葉に頷きを返した俺は、だがと続ける。

 

「ただ待つつもりはない。手伝えることはあるか? 有るなら力を貸そう」

 

「……マイ・ロード」

 

「こんなロクでもない状況、さっさと終わらせたいからな」

 

 魔物と化し徘徊する死者達のためなんて善人ぶって言う気はない。何割かはしょーもない展開でピンチに陥りたくないから、つまりは自分のためだ。

 

(だから、いいんだ)

 

 謂われはない。

 

「ありがとうございます、マイ・ロード」

 

「っ」

 

 感謝される謂われなんて。

 

(ついで に いうなら、ぎゅーって だきしめられる いわれ も ないですからね?)

 

 なので、しつりょうへいき おしつけないでください って いっても むだかなぁ。

 

(ここまでオーバーリアクションするって事は、意図したことの何割かは伝わったんだと思うけど)

 

 変な勘違いはされていないと思いたい。

 

「さて、作業を再開するぞ? 仕事があるなら言ってくれ」

 

「解りました」

 

 あわや脱線して作業に遅れが出るかと言うところを何とか軌道修正する事に俺は成功し。

 

「……これがこの地下墓地を浄化していた設備か」

 

 力仕事をほぼ肩代わりし、長い作業の末に完成したモノは何と形容すればいいのか。

 

(祭壇に触手が生えたような感じ、かなぁ)

 

 触手に当たる部分は吸水用の管と配水用の管や溝で、ちょっと努力すれば回復呪文を使う触手付き水色生き物つまりホイミスライムに見えないこともないか。

 

「後は設置するだけですね」

 

「そうだな。それが一番の難関の様な気もするが」

 

 同意した俺は崩落して出来た穴を見やる。

 

「長い時間稼働させるなら今度こそ地下の川に落下しないように固定する必要がある。しかもその固定は何十年も設備を支え続ける事が出来なくてはならん」

 

 一応シャルロット達が大魔王ゾーマを倒して世界が平和になった後で本格的に改修する事を前提に耐久年数一年を想定した固定にしておくってのも一つの選択として有るのだが、悪霊に取り憑かれた事のあるこの場所に再び足を運びたいとトロワが言うとは思えず。

 

(そうなってくると、やっぱり長持ちする様に固定しないといけないんだよね)

 

 一年ならロープでくくりつけるとかでもロープの本数を増やせば行ける気がするが、数十年は厳しい。

 

「……と言うことになるが、その辺りは考えてあるんだろうな?」

 

「無論じゃとも。と言うかの、そもそもお前さんに掘り出して貰った部品の中に固定具が混じって居るんじゃ。そいつは崩落がなければ計算上今も設備を支えて居た筈じゃからな」

 

「成る程、ならば問題はほぼないな」

 

 問題が有るとすれば、固定用の部品の使い方をまだ知らないことだろう。

 

「固定の仕方はワシが教えよう。固定用の道具もお前さんが掘り出した中にある筈じゃ……それと、それじゃな」

 

「ほう」

 

 じーさんが指さした部品に目をやると、それは何となくスパナとハンマーに似ており。

 

「出来れば実演して見せられたら良かったんじゃが、こればっかりはのぅ」

 

「まぁ、道具を触れないなら仕方あるまい」

 

 幽霊と言うことを鑑みると、取り憑けば人の身体も動かせそうな気もするが、ただでさえ悪霊に取り憑かれて心に傷を負ったトロワにはそんなことさせられないし、既に他人の身体を借りてる俺にしても無理だ。

 

(何が起こるかわかんないもんなぁ)

 

 じーさんを憑依させた結果、俺が追い出されるかも知れないし、入ってきたじーさんと混ざってしまう可能性だってある。

 

「とにかく、説明してくれ。悩んでいても始まらん」

 

 他に選択肢も思いつかず、幽霊のじーさんを俺はそう促したのだった。

 

 




遂に完成した浄化設備。

設置を終えた主人公とトロワは地下墓地を後にする。

次回、第八十三話「出会いあれば、別れもまた」

さようならエロッジじーさん。
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