強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第八十五話「誓いと出立」

「スー様」

 

 かけられたカナメさんの声に待たせてすまんなと返した俺は、視線をオッサンに向けて聞いた。

 

「身体の調子はどうだ?」

 

 と。

 

「うむ、暫し休ませて貰ったからな。動くのに支障はない」

 

「そうか、それはいい」

 

 ここでまだフラフラすると言われたら、石材確保を断念もしくは後回しにすることを視野に入れなければならなかった。

 

(俺とオッサン以外みんな女性だもんなぁ)

 

 オッサンが変なことをするとは思えないが、背負ったり肩を貸したりと言った事をクシナタ隊のお姉さんにお願いするのは抵抗があったのだ。

 

「なら、もう一方の墓地にはすぐ向かえるな?」

 

「おお、と言うことは……」

 

「ああ」

 

 期待の籠もったオッサンの視線を受け、首を縦に振る。

 

「地下墓地の方は墓地内を浄化する設備を起動させた、ニフラムの効果を持つ家具を足止め用に残してもある。放っておけば魔物化した死体もそのうち浄化されて元の死体に戻るだろう」

 

「……墓地に眠る村人達を救って下さったか、かたじけない」

 

「気にするな。あの状況では当初の目的どころではあるまい」

 

 この村に来た当初は、村を徘徊する魔物化した死者が、もう一方の墓地を荒らしたとしても不思議はない状況だったのだ。

 

「もう一方の墓地も影響を受けてないといいのだがな」

 

「あー、それなら多分大丈夫。日当たりの良いところにあるし、地下墓地と比べて悪いモノがたまりにくいって言ってたから……」

 

「成る程。それなら墓地に着いたら地面が盛り上がって、先人達がお出迎えと言うことはないか」

 

 あったとしてもアバカムを使える魔法使いと言う火力が有ればあっさり屠れるだろう。

 

(と言うか「言ってた」ってことは情報源はあのじーさんか。まぁ、あんな設備作った人間の言うことなら間違いもないだろうし)

 

 これで心おきなく一時離脱出来る。

 

「それは重畳だ。実は少々やり残したことがあってな」

 

「やり残し、ぴょん?」

 

「あ、ああ」

 

 ごく自然に話しているつもりだったのに何処か怪しかったのか、オウム返しに尋ねてきたカナメさんへ俺は頷く。

 

「ニフラム効果の家具を作る過程でちょっと、な。村にいた魔物も倒したし、万が一討ち漏らしが遭ったとしてもお前達が居れば問題なかろう。ムールには用事が終わった後の道案内、トロワは俺の側にいるという誓いがあるので同行して貰うが……なに、滞在予定を延ばす事になる程時間をかけるつもりはない」

 

 嘘をもっともらしくするには真実を混ぜること。この場合、真実の部分は掛け値無しの本音でもあったりするのだが。

 

「そう。それなら良いぴょん」

 

 だからだろう、カナメさんはすんなり納得してくれ。

 

「すまんな、後のことは頼む」

 

 カナメさん達に頭を下げた俺はその場を後にした。

 

(さて、ここからは時間との戦いだ)

 

 まず石切場まで急行し、墓石に相応しい石を確保する。

 

「ムール、案内を。魔物に気取られても構わん。目的地までの所要時間短縮を最優先で頼む」

 

「あ、うん。良いけど、見つ……あー、うん。聞いたオイラが間違ってた」

 

 振り向いたムールくんがすぐ得心のいった顔をしたのは、俺がまじゅうのつめを装備している様を目にしたからだと思う。

 

「気づかれては嘘がバレるからな。トロワも呪文攻撃はするな」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 呪文で引き起こした爆発が村の外ですれば、カナメさん達は高い確率で俺達が戦っていると気づくだろう。イオナズンなんて高等呪文をぶっ放せる魔物は俺の記憶が確かならこっちの世界ではバラモスだけだ。

 

(ベビーサタンはMP足りなくて発動しないからなぁ。もしシャルロットがあの残念子供悪魔をてなづけることが出来た場合、精神力増強アイテムをドカ食いさせることで大化けさせることが出来るかも知れないが……って、話がずれた)

 

 ともあれ、攻撃呪文は使えない訳だが、それ程問題になるとは思えず。

 

「はぁはぁはぁ、着いた、よ」

 

「そうか。ふむ」

 

 実際、全然問題にならなかった。

 

「あのさ」

 

「ん?」

 

 割と息も絶え絶えなのに話しかけられ、顔を上げるとそこにあったのはムールくんのジト目。

 

「何、あの虐殺、もしくは蹂躙」

 

「少々大人げなかったやもしれんな」

 

 ムールくんは俺の要求にきっちり応えてくれたので、俺も全力で道を切り開いた。

 

「いや、もう今更の様な気もするけどさ、本当に無茶苦茶だよね?」

 

「ふ、大丈夫だ。ここまでと言う気はないが、努力次第でお前も半分くらいは出来るようになる」

 

 呪文面は転職しないと無理だが、物理攻撃なら必要なのはステータスアップアイテム各種(たねときのみのどーぴんぐ)とレベル上げだけである。

 

「ないない、あり得ないから」

 

「む?」

 

 あり得ないとか言われた、解せない。

 

「まぁ、それはそれとして、トロワ。件の袋は作るとなると時間がかかるか?」

 

「はい、もう暫し……家具を改造した時程時間を頂ければ」

 

 もしこの段階で作成可能なら石材の重さを無視して運べるんだが、流石にそれ程うまく行かないか。

 

「まぁ、時間がかかるのも仕方……ん?」

 

 なんだか、わり と すぐ できるみたいなこと を いわれた き が するのですが。

 

(いやー、幻聴が聞こえる何てなぁ。俺も疲れてるんだな)

 

 はっはっはっはっは、まいったね これは。

 

「ただ」

 

 思わず胸中に乾いた笑いが漏れる中、トロワの声っぽいものは続き。

 

(ただ? あれれ、条件付きって事は幻聴じゃなかったとか?)

 

 言われた事を反芻しつつ、口を開く。

 

「ただ?」

 

 ポーカーフェイスは仕事をしていた。だから真顔でオウム返しに問うたようにトロワからは見えていると思う。

 

「そ、その……丁度良い袋が今、手元になくて……用意出来るのは私の……ぱ、ぱんつを材料にしたモノに」

 

「っ」

 

 そうきやがったか、世界の悪意っ。

 

(最近静かだと思ったら、ここでこう来るかぁぁぁっ!)

 

 トロワにノーパンなんてさせられない。

 

「うおおおおおおっ」

 

 だから俺は石材を背負って走る道を選び。

 

「こ、これは」

 

「はぁ、はぁ……な、なに。やり残しを、何とか……したら丁度良い石を、見つけてな。良かったら墓石にでもしてくれ」

 

「っ、忝なく」

 

 墓地に辿り着き、置いた石を見て泣いてくれたオッサンを見れば、努力は報われたんだと思う。

 

 墓地に辿り着き、置いた石を見て泣いてくれたオッサンを見れば、努力は報われたんだと思う。

 

「これで、目的は果たせたな。ただ、墓碑銘に関してはそちらでやってくれ。俺は少しばかり疲れた」

 

「ねぇ、オイラツッコんでいい?」

 

 達成感に浸りつつ言葉を続けた俺の背中にムールくんの視線が突き刺さる。

 

(気持ちはわかるけどさ、仕方がなかったんだ)

 

 そのお陰でもうすぐ出立出来そうなんだから、俺はそう思った。

 

 




某僧侶少女「ムールさんが盗賊さんにツッコむとか素敵な展開すぎますぅ」

主 人 公「帰れ」

何だか割と色々ぶった切ってしまってごめんなさい。

次回、第八十六話「次の目的地は」

ようやく次の目的地に向かえそうです。
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