強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第八十七話「おかしいな。つい先日のことなのに、こんなにも懐かしい」

「皆、着陸に備えろ」

 

 警告を発した俺の眼下、バハラタの町は徐々に大きくなりつつあった。

 

(大丈夫だ、トロワはきれいなトロワになったし、アクシデントで着陸失敗と言うオチはない)

 

 トロワだけでなく他の女性陣ともある程度の距離をとっているので接触して転倒と言うことも無いと思う。

 

(大丈夫だ。下手に気負わなければ、うまく行く)

 

 姿勢を整え、自分に言い聞かせつつ着地に備えた。警告しておきながら自分が着地に失敗したらギャグにもならない。ついでにスミレさんにまず間違いなくからかわれる。

 

(それだけは避け――)

 

 避けなくてはと心の中で続けようとした俺の目が町の入り口で空を見上げる一人の女賢者に止まる。

 

(うわぁい、うわさ を すれば、かげ?)

 

 明らかに俺達がやってくるのを理解していて、まさに待ちかまえるようなポジションであり。

 

(ギリギリのタイミングでプレッシャーをかけてくるとかっ)

 

 意図してやってる訳ではないのだろう、だがスミレさんはやはり天敵(スミレさん)だった。

 

(っ、だが、この程度っ)

 

 この程度のプレッシャーで醜態をさらす訳にはいかない。半ば発奮材料にすることで気合いを入れ。

 

「っ」

 

 着地はうまく行った。

 

「スー様、おかえりー」

 

 そんな俺へ投げられた女性の声。顔を上げれば、こちらに向かって歩いてくるのは、スミレさん以外の何者でもない。

 

「あ、ああ。ただいま」

 

「一、二、三、四ぃ……あれ? 剣士のおじさんは?」

 

「あの人だったらやることがあるからって村に残ったぴょんよ? キメラの翼もあるからそのうちこっちに飛んでくると思うぴょん」

 

「ふぅん、そっかー」

 

 身構えつつも絞り出した返事をスルーして質問をぶつけてくるマイペースっぷりを俺が見せつけられる中、俺の代わりにカナメさんから答えを得たスミレさんはちらりと西の空を見てからくるりと身体の向きを変え。

 

「ねー、スー様。トロワさんの様子がおかしいけど、何かあった? あたしちゃん、気になるんだけど」

 

 いきなり直球をぶつけて来やがったよ、こんちきしょう。

 

(うわぁぁ、触れて欲しくないところでムール君の事と熾烈な一位争いを繰り広げてる「トロワの変化」について直接聞いて来やがった)

 

 さっそく ぴんち じゃないですか、やだー。

 

(どうする? 誤魔化すか? いや、トロワがきれいになったのは一過性のモノじゃないだろうし、一時しのぎしても後でバレる)

 

 と言うか、一過性のもので暫く経ったら旧トロワに戻ってたなんて展開があったとしてもそれはそれで嫌だけど。

 

(なら、最初から真実を話しておいた方が……)

 

 後々問題にならず、良いと思うものの話したら話したでからかわれそうであり。

 

「マイ・ロード……」

 

 俺が黙っていたからだろうか。ご本人さん(トロワ)が俺を呼んだのは。

 

「スミレさんには、私からお話しします」

 

「な」

 

「ほほぅ」

 

 ちょっとまってください、とろわさん。

 

(いや、気持ちは嬉しいよ? けど、それが最大級の火種になる予感しかしないんですけど? しかも、きっちり耳で拾った天敵さんが興味を持ったご様子なんですけど?)

 

 あちらが興味を持ってしまった以上、話さなくてよいと言ったところできっと無駄だ。

 

「スー様」

 

「言うな、何も言うな」

 

 俺を呼ぶカナメさんの目がとても優しかった。だが、賽はもう投げられちゃった風味の今となっては取り繕いようもない。

 

「そして、悪霊に取り憑かれた私を救うため、マイロードは――」

 

 それは、きれいになったトロワによる思いっきりフィルターのかかった主人自慢というかのろけ話のようなもの。またの名を『公開処刑』といふ。

 

「ほうほう、じゃあのねーちゃんを助ける為にあっちの銀髪が……」

 

「すっげーな。あのボンキュッボンを見たら俺も助け出してあわよくば……とか思うけどよ」

 

 ほーら、たまたま いりぐち に いた やじうまさんたち に まで きかれちゃってるんだぜ。

 

「馬鹿、てめぇの面鏡で見てから言えよ」

 

「な、おま、喧嘩売ってんのか?」

 

「だいたい、その悪霊ってのもよーするにモンスターだろ? お前じゃ無理無理」

 

「うぐっ」

 

 野次馬の一人が気色ばんで噛み付こうとした相手に言いくるめられるまでを心の冷静な部分で知覚しつ、俺は空を見上げた。

 

(ねぇ、俺が……俺が一体何をした)

 

 従者を助けた結果が、これですか。これなんですか。

 

(ちくしょう……)

 

 叫んで走り出したくなるような状況が俺を苛む。

 

(この状況を、どうしろと?)

 

 出来ればトロワを黙らせたいが、この状況で動いても逆効果にしかならない気がする。

 

(いいよなぁ、とり は そら を とべて)

 

 ルーラで飛んできて見下ろしたバハラタの町は何処か懐かしささえ感じたというのに、降り立ったここはある意味での地獄。未だ見上げたままの空を横切る鳥が何処か妬ましく、羨ましかった。

 

(……って、逃避してる場合じゃない! まだ町に着いたばかりなんだ!)

 

 補給も情報収集も残ってるのに、全てが終わった気になっててどうする。

 

(何とか、何とかしないと)

 

 頭を振った俺は打開策を模索し始めた。

 




 主人公、公開処刑されるの巻。

 この日から、主人公はバハラタで銀の祓魔師と呼ばれるようになったとかならないとか。

次回、第八十八話「まだ終わらない」

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