強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十二話「スー様の優しいレッスン(いみしん)」

「はぁ、はぁ」

 

 知覚するのは自分の乱れた息づかいと、早まる鼓動。だが、その理由は宿の一室で『激しい運動』をしたからに他ならない。

 

(やっぱり……生命力はともかく体力もオリジナルを写し取る、かぁ)

 

 変身前だったら何のこともない運動量の筈だが、ムール君は出会った当初、褐色の尖り耳巨人《トロル》と戦った場合死を覚悟しなくてはならない程度の実力しか持ち合わせていなかったのだ。

 

(洞窟や村で何体かの魔物と戦いはした、けど灰色生き物(メタルスライム)系の魔物でもなければ、桁違いに強い魔物でもなかったし……改めて考えてみれば実力据え置きで(レベルアップしてなくて)も不思議はないよな)

 

 つまるところ、ムール君はもっと強いモノだと勝手に解釈していた俺のミスだ。

 

(この奥義伝授が終わったら、イシスで修行してきて貰うってのも選択肢に入れておこう)

 

 発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)風呂に入ってこいと強要するつもりはサラサラ無いが、そこまで強引な強化手段を使わなくても、あそこなら発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)相手に模擬戦だって出来る。

 

(一応エジンベアにルーラで行ける人員を増やすならそこまでは同行して貰った方が良いかもしれないけど、メンバーの強化はどのみちしておかなきゃいけなかったからなぁ)

 

 カナメさんには出来れば早く賢者になって欲しいし、最終目標が神竜の短期撃破にあるなら戦力は揃えておく必要があった。

 

(シャルロット達勇者一行が原作迷子になる程強化されてるし、多分だけどゾーマが倒されるのはそんなに遠くないはず)

 

 それまでにアレフガルドでのみ入手出来る武器防具を入手もしておかなければならない。

 

(とりあえず、シャルロット達の情報はスミレさん達が戻ってくればいくらかは手に入るとして……)

 

 俺が今すべきは、きっとパンツを脱ぐことだ。

 

「すまん、ムール。一旦着替える」

 

「え?」

 

「呼吸を整えて続きをと思ったが、モシャスの効果時間がその前に切れそうでな」

 

「あー、うん。解ったよ」

 

「すまんな」

 

 このままだとはち切れた自分のぱんつの残骸を引っかけた俺が誕生してしまうと言う最悪の事態に気づいてくれたかムール君は着替えタイムをとりたいという申し出を了承してくれ、もう一度感謝して見せた俺は簡易衝立の裏に回り。

 

「……ところで、感覚は?」

 

「んー、もうちょっとだと思うんだけど」

 

 下着を脱ぎつつ投げた質問にムール君が返してきた声は歯がゆさが滲んでいた。

 

「何て言うかさ、まじまじと自分の下着姿見せられるのって結構恥ずかしいというか……」

 

「気持ちは分かる。まぁ、割とノリノリで俺を着せ替え人形にしてくれた者達も知ってはいるがな」

 

 理解を示しつつポツリと漏らした辺りでカナメさんがいきなり明後日の方を見たのは気のせいだったと思いたい。

 

「ともあれ、俺が見せたあれを会得出来れば、出来ることは飛躍的に増える。例えば薬草を一つ服用する時間で二つ使用するなど、な」

 

 ムール君が回復呪文を使えれば恩恵は更にもたらされる訳だが、薬草だとしても回復量は倍。窮地に陥った時の生存率は跳ね上がるだろう。

 

「薬草で自分を癒やしつつ攻撃するなんて器用な真似も出来るようになるし、身を守りつつ戦闘から離脱を図ることだって出来るようになる」

 

「ほ、本当にそんなことが?」

 

「ええ、スー様の言ってることは事実よ。保証するわ」

 

「ああ。むろん、会得出来るかはお前次、っ」

 

 驚き声を上げたムール君に頷いて見せたカナメさんへ目で感謝を示し俺は言葉を続けようとして、失敗する。

 

「モシャスの効果が切れた、か」

 

 脱いだぱんつとぶらじゃーを手に自分の股間から視線を逸らす。今の俺は、全裸だ。

 

「モシャス。さて、下着を着けたら再開と行くぞ?」

 

「あ、うん」

 

 返ってくるムール君の反応に、今度の効果が終わるまでで会得してくれたら良いなと、密かに思う。

 

(なぞ の はいぼくかん で おなかいっぱい なんですよね、うん)

 

 ムール君のアンバランス・スタイルに文句を言っても始まらないのは解ってる、それでも。

 

(と言うか、ムール君にはもっと良い下着を開発して支給してあげるべきかもなぁ。例えば、トロワの作った乳袋の兄弟とか作成をお願いするなりして)

 

 なんて思いつつアイテム作成の天才を探せば、部屋の隅でこっちに背を向けた紫ローブはすぐ見つかって。

 

「トロワ?」

 

「す、すみません、マイ・ロード。私にはちょっと……刺激が」

 

「あー、すまん」

 

 微動だにしない背中に声をかけると返ってきた言葉に色々察し、謝罪する。

 

(きれいになった分、耐性も減ったってことかぁ)

 

 身体の動きにあわせて激しく躍動する何かが目の毒だというなら、トロワも充分お互い様と言うかお前が言うなレベルなのだが、今は飲み込もう、ただ。

 

「この流れで言うのもアレだが、暇が出来たら例の袋下着をムールに作ってくれると助かる。存在がなければそもそも揺れんだろうからな」

 

 ムール君の今後を思って俺は頼んだ。よりアクティブなスタイリッシュな動きは今の下着ではきついと実感していたから。

 

 

 

 




主人公のレッスン(せくはら)は続く――。

次回、第九十三話「おや、ムール君のようすが……」

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