強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第九十三話「おや、ムール君のようすが……」

 

「はぁ、はぁ」

 

 知覚するのは自分の乱れた息づかいと、早まる鼓動。

 

「でやぁっ、せいっ」

 

 謎のデジャヴを感じつつ、俺は床を蹴りイメージの中だけの敵に二連撃を見舞いつつすれ違い、向き直った。

 

「……どうだ?」

 

 何度目の実演だったか、カウントしても意味はないと回数を数えてはいないが、それなりの回数はこなしたと思う。

 

「……うん、何かつかみかけてきた気はする。ちょっと練習させて貰ってもいい?」

 

「……ああ」

 

 快哉を叫ぶべきか、褒めるべきか。いやどちらも早いと内心で自分を抑えつつ許可を出す。

 

(ようやく次の段階に進んだって見ていいのかな)

 

 そうであるなら俺も恥ずかしい思いをした甲斐がある。

 

(何より、もう下着姿で実演しなくても……)

 

 もちろん、ちょっとピンと来ないから確認のため実演してなんてリクエストが来る可能性はあるけれど、延々と下着姿で人に見られながら一人バトルする必要がなくなったのは事実だ。

 

「では俺は少し休憩させて貰おう。解らないことが有れば呼んでくれ。……さて」

 

 断りを入れ、脱ぎ捨てた衣服の中からやみのころもを拾い上げて、羽織る。

 

(うん。マント一枚有るだけで大違いだ。あ、丁度良いところに)

 

 露出度が大幅に減ったことに満足しつつ周囲を見回し、椅子を見つけ、歩み寄り。

 

「……ふぅ」

 

 腰を下ろして一息つく。

 

(うぅ、疲労困憊って程じゃないけど……借り物の身体のスペックに慣れすぎた弊害かな)

 

 筋肉痛とかになる前にモシャスは解けるので身体が感じるきつさは一時のモノだろうが、しんどいものはしんどい。

 

(けど、そうなってくるとムール君も明日は筋肉痛になってる恐れがあるな。ルーラでの移動に補助が必要な気も……って、わり と もんだいじゃないですか、やだー)

 

 両方ついてるムール君だ、例えば背負うとしたら、おしつけられる むね と こかん の かんしょく を りょうほう あじわえるわけですよ。

 

(ムール君の身体の秘密を知ってるのは、この場にいる人達だけ。そして、トロワは見るのも恥ずかしいって背を向けてる)

 

 一応カナメさんが残ってはいるが、ムール君の何かを押しつけられてくれなんて言える筈がない。そんなセクハラ野郎になった覚えはなく。

 

(……わかりやすい しょうきょほう だね、こんちくしょう)

 

 俺がムール君を支える流れは半自動的に確立され。

 

「スー様、どうかした? 何だか遠くを見てる様だけど」

 

「いや、この分だとムールは明日筋肉痛だろうなと思ってな。スミレ達の情報収集が上手くいったなら明日はルーラでポルトガに向かえるかとも思っていたが……」

 

「成る程ね。それでどうするの、出発を延ばす?」

 

 やり場のない気持ちが漏れてしまったのか、元盗賊の洞察力によるものか、首を傾げたカナメさんに俺が応じれば、カナメさんは納得がいったという顔で更に質問を投げてくる。

 

「無理、だな。のんびりしている時間はあるまい。まだシャルロット達の情報は入ってきていないが、アレフガルドにはシャルロット達だけでなく勇者クシナタのパーティーも向かった筈だ」

 

 ついでに言うならクシナタ隊の面々には俺がいくらかの原作知識を与えている。洒落にならないレベルで攻略が進んでも俺は驚かない。

 

「こっちも戦力の確保とやり残しの完遂を出来る限り早く終わらせる必要がある。発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)風呂の入浴を強制させる気はないが、お前やムールを始め殆どのメンバーに発泡型潰れ灰色生き物(はぐれメタル)との模擬戦修行はして貰う必要が出てくるだろう。そう言った意味では、イシスを経由してあの国にムールを始め数名に別行動して貰うのも考えていたのだが……」

 

 イシス経由では更に一日余計に移動時間がかかってしまう。ルーラの呪文は移動時間を短縮出来るとは言え、万能ではなく。

 

「ねぇ、スー様。それなら、イシスに向かう面々とポルトガに向かう面々を分けたら?」

 

「あ」

 

 俺の悩みはカナメさんの一言で消し飛んだ。

 

(と言うか、何でそんな単純なことに気づかなかったんだ、俺)

 

 キメラの翼だって有るし、クシナタ隊の面々の大半はイシスの滞在経験があったというのに。

 

「しかし、いいのか? イシス組にはムールを運んで貰わないといけないのだが」

 

「……そこは、言い出した手前こっちでなんとかするぴょん。まぁ、それで先方が気に病むようなら後で責任とって貰うからスー様は安心していいぴょんよ?」

 

「へ?」

 

 うわぁい、むーるくん と かなめさん の かっぷりんぐかぁ。

 

(なにそれ、どこか で ふらぐ たってたっけ?)

 

 それとも俺へ気負わせないためのジパングジョークなのか。

 

「……なら、今回はその好意に甘えさせて貰おう。それと、甘えさせて貰った上で悪いが、買い出しに出かけて貰えるか? ムールもつかみかけているようだし、後は俺が居れば何とかなるからな」

 

「わかったぴょん。スー様は何か欲しい物はあるぴょん?」

 

「いや。強いて言うなら、トロワがアイテムの材料を欲しがると思う。あそこで背を向けてるトロワに聞いてくれ」

 

 遊び人モードに戻ったカナメさんへそう応じ俺は相変わらずこっちに背中を向けた紫ローブを指さし。

 

「ヘイルさん、悪いけど」

 

「あ、ああ。待て」

 

 ムール君からのリクエストに応えるべく立ち上がった。

 

 




おめでとう、むーるくん は きんにくつう に なった!

いや、めでたくないし?!

次回、第九十四話「出立」
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