とある科学の灼熱炎翼《フレアウィング》   作:サイジ

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始まる前の夜 Level5

 

 

 

 

 

 深夜。

 太陽の光は一切なく、人口の光である電灯が暗い空間を照らす時間帯。

 

「……どうしてこうなった……」

 

 疲れた表情で呟きつつ、赤原英治(あかはらえいじ)は周囲を再び見回す。

 五十人。

 ざっと数えただけでもそれぐらいはいた。暗いのでもう少しはいるのではないだろうか。

 目に映る誰も彼もが、英治を見つめている(睨みつけるが正しい)。中には……おまえ本当に十代? と聞きたくなるぐらいの厳つい顔のヤツも混じっており、そんなヤツが凄い形相で睨むもんだから場の空気がかなり殺伐としていた。

 

「……どうして、こうなった……」

 

 そんな空気の中、英治は心底疲れたような顔で呟く。

 こうなってしまった原因、それは一人の女の子に対して数人で取り囲んでいる男たち、という光景を偶然見かけ、思わず「助けるか……」なんて考え、行動に移してしまったことだろう。

 ……見て見ぬフリもできたが、女の子の泣き出す五秒前みたいな顔を見て、流石にその選択肢は選べなかった。英治はそこまで薄情ではない。

 その後、当然その光景に介入した。結果だけ言えば女の子を無事に逃がすことには成功した。問題はその後だった。

 女の子を逃がした後、適当にあしらって逃げようと思っていた矢先……まさか二桁単位で増援が来るとは思わなかった。

 英治は意外な数に驚いたせいで逃げ遅れてしまい、気づいたら周りを取り囲まれてしまった。

 そして現在に至る。

 

「……っつーか、これ軽く組織規模の人数だろ。一人相手に集まりすぎじゃないのか……?」

「おう兄ちゃん! ウチのモンが世話になったようだなぁ!!」

 

 常識的に考えて普通に過剰戦力(オーバーキル)な数に、誰に言うわけでもなく一人呟く。単純に多過ぎじゃね? という疑問。

 英治がそんな疑問を抱いている間に、集団から一際顔の厳つい男が前に出て来ていた。

 ……もう生まれてくる時代どころか世界も間違えてそうな、簡単にわかりやすく言えば、世紀末でヒャッハー!! してそうな顔と服装をしている。

 何処でそんな服?(モノ)手に入れた、もしかして自作? などと頭の片隅で思う。

 とにかく、この男(以後漢と称す)がこの集団のリーダーだろう。ケタ違いの存在感もそうだが、さっきまでの殺伐とした空気がなくなり、集団の視線が全て漢に向かっている。リーダーで間違いない。

 

「いや、世話になったって……別に暴力とかしてないんだけどな」

 

 実際英治がしたコトといえば、男たちの注意を女の子から自分に向けさせたコトだけだ。それ以外はまだ何もしていない。

 女の子に絡んでた男たちが変なコトを吹き込んだか、漢が勝手に勘違いしたのかは不明だが、どの道面倒なコトに変わりはない。

 

「んな細けぇこたぁいいんだよ! テメェのリンチは確定してんだからなぁッ!!」

 

 やはりこうなってしまう。

 まあ、この手の相手に話し合いができるとは、英治は鼻から思ってはいない。

 この場合は大抵は『力』を持って黙らせなければならないモノで、そうしないといつまでもしつこく絡まれるのだ。

 だが赤原英治は、基本的に意味のない争い事を好まない。故に()()でこの場を治めようとする。その際カードとして、自身の()()を切ることをいとわない。

 

「……はぁ……一応警告しとくぞ。俺の名は赤原英治、超能力者(レベル5)の学園都市第八位だ。そして能力名は『灼熱炎翼(フレアウィング)』、この意味、解るよな?」

 

 自己紹介とも取れる言葉。

 その実は警告という名の脅迫である。

 この警告に集団は明らかに動揺する。誰が見ても取り乱していた。

 時折「ウソだろ……!?」や「アレが……!!」などの声が聞こえてくる。

 大げさだと思うが、これは『学園都市』では当然と言える反応だ。

 ここ『学園都市』は、東京西部の未開拓地を切り拓いて作られた街で、一部が神奈川や埼玉に及んでいる。

 人口はおよそ二三〇万人、その八割は学生だ。故に学校や学生寮などの数も半端ではなく、こういった教育機関を中心とした造りから『学園都市』と呼ばれている。

 ありとあらゆる科学技術の最先端を行き、外よりも数十年文明が進んでいると言われている。

 科学の最高峰とされるこの街には、もう一つの顔がある。それは『記憶術』だの『暗記術』という名目での超能力研究所、すなわち『脳の開発』を行う超能力者養成機関だ。

 『脳の開発』を行う対象は学生で、大体は小学生から『開発』を受け始めることになっており、『開発』を受けて目覚める能力は、大前提として一人一つ。能力は人によって様々な種類に分けられるが、その能力の強さや価値、応用性などによって強度(レベル)が付けられる。

 一番下から無能力者(レベル0)低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)強能力者(レベル3)大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)と、六段階で分かれ、その中でも超能力者(レベル5)は、『学園都市』に八人しか存在していない『天才』なのだ。

 能力者たちの頂点がたった八人ということは、それだけ希少であり、強力だということだ。

 実際、強能力者(レベル3)大能力者(レベル4)の間にはかなりの差がある。例えとすれば、『自転車』と『自動車』が適切だろう、それだけの違いがある。

 強能力者(レベル3)大能力者(レベル4)の差だけでもかなり大きなものだ。しかし、大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)の差はそれの比べ物にもならない程、大きい。例えるなら、『自動車』と『音速で飛ぶ戦闘機』、もっと言えば『たった一匹のアリ』と『象の群れ』。

 文字通り『格』が違う。圧倒的、絶対的な差があるのだ。

 『格』が違うことは、学校をサボり能力について深く知らない彼ら男たちも理解している。むしろ逆に、自分たちがリンチどころかミンチにされるかもしれないことを理解していた。

 男たちの顔には、ハッキリとした『恐怖』が刻み込まれていた。

 「もうダメだ……」と、震えた声で誰かが言った。

 その時―――、

 

 

 

「狼狽えてんじゃあねぇぇぇえええええッ!! テメェら、今の状況がわかってんのか!? 冷静に考えりゃあこっちが勝てんだろうがよぉッ!!」

 

 

 

 漢の一喝が、暗闇の世界を引き裂いた。

 大気をビリビリと震わせたと勘違いしそうなその怒声は、英治を含む全員が漢に視線を向けるのに十分過ぎた。英治も突然の予期せぬ大音量に、目を見開いていた。

 一時的に静かになったのを確認し、漢は言葉を続ける。

 

「よ〜く考えてみろぉッ! アイツは一人、俺たちゃあ五十人以上だ。さらに、コッチは強能力者(レベル3)が五人、大能力者(レベル4)が三人いるんだぜ……」

「……で、でも、相手は超能力者(レベル5)ッスよ……束になってかかっても勝てるわけ―――」

 

「話は最後まで聞け。いいか、確かに真正面から馬鹿正直に突っ込んでも勝てるわけねぇ。だけどな、工夫しだいじゃ勝てないワケじゃないんだよ」

 

「工夫……しだい……?」

「ソレって一体……」

「あの兄ちゃんが本当に超能力者(レベル5)だったとしても、どんなにスゲェ力を持ってたとしてもなぁ、兄ちゃん自体は俺たちと()()()()なんだよ」

 

 息をしなければ窒息し、何かを食べなければ餓え苦しみ、殴られれば身体が痛みを訴える。そして銃で心臓を撃たれれば当然、死ぬ。人間とはそういう生き物だ。

 例え世界を滅ぼす力があったとしても、それを扱うのが人間ならばやりようは十分にある、漢はそう言っているのだ。

 

「能力を使えるヤツが遠距離から撃ちまくる、これは当たり前。んで大事なのは次、直接殴りかかるヤツだ。そいつらはアイツに向かう時、固まらずにお互い距離を開けて行け。そうすりゃあ一度にやられる心配はねぇ」

「でも、それだと結構な数がやられちまうんじゃあ……」

「要は誰でもいいからアイツを殴りとばしゃあいい。あんな見た感じ百六十前後の身長だ、絶対ぶっ飛ぶか最低でもよろめくに決まってる。そこが『隙』になる。その『隙』を突いて一気に畳み掛けんだ」

 

 集団から「おぉ……!!」と感嘆の声が漏れる。活路が見えたことにより、希望が灯る。

 あの超能力者(レベル5)を倒せる、そんな可能性が出て来た。男たちの身体に自然と力が入る、気分が高揚する。

 目に見えて変わった集団を見て、漢は獰猛な笑みを顔に浮かばせ、声を張り上げる。

 

「それにアイツの序列は第八位、つまり超能力者(レベル5)の中でも最弱だ!! 第一位の最強ならともかく、最弱なら俺たちでもイケるッ!!」

「そ、そうだ! 最下位の超能力者(レベル5)ってことは、最下位だっていう原因がある筈! そこを突けば……!!」

「そもそも、アイツが超能力者(レベル5)だってこと自体がハッタリかもしれねぇ!!」

 

 第八位=最弱やらハッタリやら百六十センチ未満のチビやら(実際は百六十四センチ)と、散々言われまくっている件の兄ちゃん、赤原英治はというと―――、

 

(……ん……晩ご飯……今日は食べなくていいか……眠いし)

 

 あくびを噛み殺していた。

 別に聞こえていないわけでも、気にしていないわけでもない。実際男たちの言葉に、時折眉がピクピクと動いていたし、目も次第に険しくなっていった。

 だがそれ以上に。

 眠いのだ。

 それもかなり。

 具体的には、寝る体勢に入ったら数秒でぐっすり寝れる自信があるほど。

 そんな状態であくびが出かければ、荒ぶってきた感情も少しばかり落ち着くものだ。同時に落ち着いた思考は、英治の頭に後悔の二文字が浮かび出す。

 

(……警備員(アンチスキル)呼んだ方が良かったかなぁ……)

 

 五十人以上で、高位能力者が数人と付け加えれば、その二倍三倍の数で制圧しに来るだろうし、英治を明確な『被害者』という立場で手厚く保護してくれる。

 冷静に考えれば思いつくことなのだが、凄まじい眠気はその冷静な思考を奪っていた。結果、こんな状況になっているわけだが。

 そんなことを考えている英治に気がついていない漢は、勢いよく拳を天に挙げ、叫ぶ。

 

「行くぞぉぉおおおおおおお!! 叩き潰せぇぇえええええええ!!」

 

 怒号と共に、五十を超える男たちが一人の少年に殺到する。漢の作戦通りに、出来るだけ大きく広がりながら。

 そしてその中に混じっている能力者は、己の持つ超能力(ちから)を振るう。

 ある者は何もない掌から握り拳ほどの大きさの炎の塊を生み出し、それを幾つか投げつける。

 ある者は何処からともなく水の槍を発生させ、それを撃ち出す。

 ある者は見ただけでは到底理解できない謎の光線を、掌から撃ち出す。

 あり得ない現象。

 これこそが、物理法則を捻じ曲げ起こされる超常現象―――超能力。

 ヒト一人など簡単に殺害できてしまうような力。それが赤原英治に迫って行く。

 そして、そんな能力を持たない無能力者の男たちは、射出された能力(ちから)の後を追うような形で英治に接近して行く。

 攻撃が通ればいい。たとえ一発でもちゃんとした攻撃が通れば活路は開ける、と男たちは思っている。

 無論、たった一発で倒せるわけはないが、それによって英治に決定的な『隙』ができることは間違いない。

 確かに、英治の身体は鋼鉄のように頑丈ではないし、無双級の格闘家でもない。いくら強力な超能力を保有していようと、肉体はいたって普通の人間だ。喧嘩慣れした男のパンチをくらえば、最低でもよろめくだけの効果はある。

 男たちはその『殴られた後の瞬間』を狙っている。隙だらけとも言える瞬間を作り出し、その瞬間に一気に攻めようとしている。

 

「……別に序列の順番が強さの順ってワケじゃないんだけど……まあ、いいか……」

 

 だが、危機的状況と言える中、赤原英治は動かない。動けないのではなく、動こうとしない。面倒臭そうに頭を掻いているだけだ。

 実のところ、彼は現在の状況を危険だとは思っていない。

 迫り来る炎・水の槍・謎の光線・五十人以上の男たち。そのどれもが、赤原英治にとっては危険になりはしないのだ。

 何故ならば超能力者(レベル5)とは―――単独で軍隊と対等に戦り合える程の力を有しているのだから。

 

 

 

 

超能力者(レベル5)ナめてんじゃねぇぞ。格下共が」

 

 

 

 

 瞬間。

 英治の背中から、一対の炎の翼が噴き出すように出現する。

 

 

 

 

 翼といっても、一枚一枚羽が付いているような鳥のような翼ではなく、その形状から翼だとわかる程度のモノ。暗闇を照らしながら、超能力の少年の背後に姿を現していた。

 超能力者の少年はその場から一歩も動かず、五メートルの炎翼を片方だけ振るう。炎の翼はまるで生き物のように、意思を持っているかのように、大きく前方を無造作になぎ払う。

 たったそれだけ。

 それだけで状況は一変する。

 膨大な熱の塊は風を切り裂き、握り拳程度の炎を軽々と飲み込み、水の槍など容易く蒸発させ、謎の光線は拮抗することも無くあっさりと消滅する。

 それだけにとどまらず、炎翼は近づいて来ていた男たちを一気に吹き飛ばす。大きく広がろうとも関係なく、炎翼は纏めて吹き飛ばした。

 

「……なんじゃあ……ありゃあ……」

 

 その光景を見て、漢の口からこぼれたのはそんな言葉だけ。目の前で起こった出来事に、頭が上手く働かない。

 比較的後ろにいた数人と、リーダーである漢は翼に当たらず、暖かい強風が吹きつけられただけで済んだ。

 しかし熱風を浴びた漢たちの体は、逆に冷たくなっていく。

 この感覚を、漢たちは知っている。手足の指先から冷たくなり、次第に体全体を凄まじい悪寒が襲う。それと共に体から力が抜けていき、体が芯まで震えていく。激しく体をうごかしたわけでもないのに、息が荒くなる。目の焦点が合わずに頭が正常に働かない。酷い眩暈に襲われる。

 この感覚は―――『恐怖』。

 自分ではどうしようもない、抗いようもない絶対的な存在。すぐに自分の喉元を食いちぎって来そうな、圧倒的な怪物。

 漢たちの到底届かない高みにいる者―――赤原英治は明らかに『恐怖』している漢たちの姿を見て、小さく悪態をつく。

 

「……ったく。こっちはついさっきまで一対一(マンツーマン)での『居残り』だったんだぞ。疲労困憊だってのに、いちいちイラつかせるんじゃねぇよ」

 

 そう、赤原英治はついさっきまでずっと学校に居た。基本的に強度(レベル)が高い=頭が良いなので、決して英治の成績が悪いからではない。とある事情での『居残り』である。

 今は、後一時間と少しで日付が変わる時間だ。学園都市の完全下校時刻などとっくに過ぎており、バスも電車も既に運行をストップしている。英治はそんな時間帯までずっと、退屈な『居残り』をしていたのだ。『居残り』の内容が内容だったので、ストレスと眠気が溜まるのは仕方ないと言えるだろう。

 

「あんな誰でも思いつくような作戦で俺を倒せるんなら、今頃俺は死んでるよ。もうちょっと良い作戦練るか、もういっそのこと始めから逃げとけよ。こっちはお前らと遊んでるほど暇じゃない」

 

 言い終わると共に、英治の背中から生えている炎翼が伸びる。残っている漢たちに届く長さにまで伸びる。

 そしてそれを後ろに大きく引き、

 

「でも、まあ。ストレスの捌け口にはなってもらうぞ。お前らからふっかけて来たんだ。文句は無いだろ?」

 

 そして振るう。

 漢たちは、逃げることも抵抗することもできずに意識を刈り取られる。

 数秒もすれば、暗闇を照らす炎翼は消え、場には暗闇と静寂が戻っていた。

 地面に転がり苦悶の表情を浮かべている男たち、そのほとんどが火傷を負っている。だが深い火傷を負っている者は誰一人としていない。それは偶然ではなく、英治が手加減した結果だった。

 圧倒的。その言葉がピッタリと当てはまる。まるで戦闘にもならない、アリを踏み潰すようにあっさりと終わった。戦闘と言うのも馬鹿らしい、ただの蹂躙だった。

 

「はぁ…………さっさと帰って寝よう。明日学校あるし……」

 

 超能力者(レベル5)・赤原英治は、踵を返して暗闇の中へと消えて行く。向かう先は自宅(のふかふかベット)。

 噛み殺していたあくびをこぼして、ふと夜空を見上げる。雲一つなく暗闇に光を降り注いでいる月と、数えきれぬ星々が輝いている。

 その空の下を歩く超能力者の少年は、今の生活を振り返り、眠たそうな目のまま笑みをこぼす。

―――今の生活が続けばいいな、と。

 誰もが当たり前に思うこと、だが英治にとっては()()()で取り戻した大事な日常だ。その日常が永遠でなくとも、暫くは続いてほしいと強く願っている。

 それは七月五日の、夜空の綺麗な夜のことである。

 

 

 

 

 




 皆様、私を知らない方は初めまして、アットノベルスの頃から見ている方はお久しぶりです。作者のサイジです。
 以前アットノベルス様の方でアンケートを取らせていただいて、そのアンケートの結果、こちらハーメルン様の方で投稿することになりました。事前に申し上げた通り、アットノベルス様の更新はストップさせていただきます。かなり遅れてしまい申し訳ございませんでした。(……言えない。考えていたストーリーを大幅に変えるのに時間かかったなんて、絶対に言えない……!!)
 アットノベルスの頃と相変わらず、不定期更新ですので、ご理解いただけるとありがたいです。
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