パパス、パピン、バルバルー、サンチョ、プオーン、そして怪我から癒えたレイシアが一同に天空城の一室に集まっていた。
「皆に集まってもらったのは、皆に決めてもらいたい事があるからだ。
準備ができ次第魔界へ行くことになるが、魔界は間違いなく、魔物は遥かに強くなり、マーサを救いだしたとしても、魔王と戦うことになるのは避けられないだろう。
そうなれば、命の危険は遥かに高くなる。
皆はここまでよく頑張ってくれた、感謝している。
家族のこともあるだろうから、魔界に行きたくないものは、行かなくてもよい。
感謝することはあっても、恨むことはない。
明日までゆっくり考えてほしい。」
パパスはそういうと、皆に頭を下げた。
パパスが顔を上げた時に
「聞くまでもありません。」
という声がパピンから上がる。
「私は魔界に行くことなど恐れておりません。
最初からどこまでもパパス様のあとをついていくつもりでしたので!」
パピンは誇らしげに語る。
「俺は魔界の魔物や魔王と殺りあいたいしな。
兄弟を1人で行かす訳にもいかねえ。」
バルバルーは豪快な笑みを浮かべてパパスに答える。
「私めも旦那様にどこまでもついていきますぞ。」
サンチョも堂々と宣言する。
「僕も恩返しがしたいし。
魔界なんて恐くないよ。」
プオーンも自分の意見をハッキリと宣言した。
「パパス様、ここにいる私たちは皆パパス様に魔界であろうと、どこであろうとついて行きますよ。」
最後にレイシアが笑顔で占めた。
パパスが皆の顔を見渡すと、皆笑顔で強く頷いた。
パパスは熱くなる目頭を押さえながら、何度も何度も頭を下げ感謝をあらわすのだった。
そして、話は移る。
「レイシアよ。嫌なら話さなくても良いが、なぜ命を張ってまでまでマーサのことを救おうとしてくれるのか聞いておきたいのだが。」
今回のイブール戦でもレイシアは命を賭けてイブールの心を動かし、魔界へ行けるようになった。
なぜここまでできるのか?パパスは魔界に行く前に聞いておきたかったのだ。
少し間が空いた後にレイシアが話し出した。
「ええ、皆さんにもお話しようと常々思っていたことなのでお話します。
ただし、私の過去からお話しなくてはならないので、少し長くなりますが、お許しください。」
レイシアはそういうと、また少し間を開けた。
まだ表情には若干の戸惑いの色が浮かんでいた。
一度目を瞑り、ハッと息をはき、目を開くともうその目には戸惑いや迷い等は一切なくなっていた。
「まずは私が何者かについて話したいと思います。
信じられないかも知れませんが、真実であるので信じてもらうしかないのですが…」
レイシアはふぅと息をつき覚悟を決めたように話す。
「私は数百年前に勇者様と共に魔王と戦った八人の内の一人、ミネアと申します。」
レイシアの告白を聞いた瞬間に、部屋内が静寂に包まれた。
まるで時間が止まったかのようにといっても過言ではない。
バルバルーはこうなるだろうなという表情をし、他の4人は既に混乱して、頭の中を整理できてない状態である。
そんな皆を見渡し少し暗い表情を浮かべながらもレイシアは続ける。
「皆さんが驚かれるのも仕方がないことなのですが、事実なのです。」
その声には悲痛なものがこもっている。
「大丈夫だ、お前のことは信用している。
ただ想像の遥か上をいったために驚いているだけだ、安心して続けてくれ。」
パパスはいち早く気を取り直し、声から悲痛なものを感じ取ったために、慰め、先を促した。
「はい。分かりました。
まずは皆さんが疑問に思っているであろう、なぜこの姿で数百年という長い年を生きてこれたかを説明します。」
レイシアはそう言うと、袋の中から少しくすんだ由緒ありそうな金色の腕輪と、古文書を取り出した。
「これが、その説明にかかってきます。
『黄金の腕輪』と『進化の秘法』というものについて書かれた古文書です。」
レイシアが苦々しげに話すと、パパスははっと何かに気づいたように考え出した。
「まさか、数百年前に戦いの発端となった『進化の秘法』か。いまだでも確かラインハットの城で研究されているという。」
パパスはレイシアの方を見るとレイシアは小さく頷いた。
そして自分の過去について話し出した。
「勇者様と共に戦った私たちは魔王ピサロ、そしてその裏で糸を引いていた黒幕を倒しました。
しかし、私の旅はそれでも終わってはいなかったのです。
『進化の秘法』を見つけ出したのは私の父親エドガンでした。
そのため、父の娘である私がこの世から『進化の秘法』を消さなくてはと思い行動しました。
『進化の秘法』は多方面にまで広がり一つ一つ、消していき、ようやく最後の一つに行き当たりました。
――――
運命のその日、私は連絡を下さった、ピサロさんと共に改良して真に迫った『進化の秘法』を使用しようとしている魔物達のアジトに踏み込みました。
「さあ抵抗しないでください。」
既に術式を施そうとしている場面での突入でした。
「お前は勇者一向の、そしてなんと前魔王のピサロ様までいらっしゃるじゃないですか。
そこで見ているといいですよ。
我らが主があと一歩まで迫っていた『進化の秘法』を完成させたものが陽の目を浴びるのをな。」
「させるか!!」
私とピサロさんは共に魔物達に向かって攻撃を仕掛けましたが、間に合いませんでした。
目映い光が部屋中に広がると共に、私が父親の形見として常日頃から所持していた『黄金の腕輪』も連動するかのように光出しました。
光が止んだ時には何も先ほどとは変わりありませんでした。
その日は魔物達を成敗し、アジトを焼き払い、やっと『進化の秘法』をこの世から消せたと喜んでいました。
しかし、絶望に襲われるのはすぐそこまで迫っていたのです。
――――
少し話を止めた所でレイシアは皆に問い掛けた。
「皆さんは進化とはどのような物だと考えますか?」
単純そうでありながらも、内実難しい問い掛けである。
「進化とは、その環境に適応させるということではないか。」
パパスが先陣をきる。
続けて
「実に簡単にしか言えないのですが、強くなるということではないのですか。」
パピンも頭をひねりながら答える。
二人の答えを聞いた後、レイシアは頷き
「お二人の言う通りです。
ただ少し足りません。
お二人の答えの根幹にあるものは『死』の回避です。
強くなることも、環境に適応することも、これに繋がります。
そしてもう一つ、我々が『死』と共に恐れているもの、それは『老い』です。
私の父は、『進化の秘法』を使って我々が恐れる『死』と『老い』から我々人間を解放したかったのだと思います。」
「そ、それでは『進化の秘法』の真の効果とは……。」
パパスは冷や汗を流しながら言い澱む。
そんなパパスを見てレイシアは淡々と
「不老不死です。」
簡潔に答えた。皆が黙り込むなかレイシアが重苦しい空気を払うように軽くいい放つ。
「私は不老不死になった為に今もこの姿でここにいるのです。以前温泉で私の年を答えましたが、あれは進化の秘法を受けた時の年です。
あの時から私の時は止まっています。」
皮肉めいた笑みを浮かべながらも気丈に振る舞うレイシアの気を、知ってか、知らずか、あの男がポツリと
「だから胸が小さいのか…」
と呟いた。
次の時にはウォーハンマーで潰された男が
「空気を変えようとしただけなのに」
と答えて眠りについた。
この息子の空気を読めない所は父親譲りであった。
「おっほん、でレイシアはいつ自分が不老不死になったと気づいたんだ。」
パパスが仕切り直しと言わんばかりにレイシアに問い掛ける。「はい、それは不死については1ヶ月後のことです。
――――
私と姉は勇者様と別れた後はモンバーバラという街で生活していました。
私は占い師として、姉は踊り子として、そして時には街を襲う魔物を頼まれて倒すことも度々ありました。
そして、運命のその日が来たのです。
「ミネア様、助けてください。
めちゃくちゃ強い魔物が一匹街に迫っていまして。」
街の人が焦りながら私のもとにやって来ました。
「今行きます。で姉は?」
「マーニャ様は他の者が呼びに行っています。」
「分かりました。」
私が現場に着くと、四本足で片手に巨大なボーガンを、片手には巨大な剣を携えた魔物が暴れまわり、その魔物がやってきた場所には何人もの兵士が血を流しながら倒れていました。
「皆さん、少し離れていてください。
イオナズン!」
私はすかさずイオナズンを唱えました。
大抵の魔物はこの姉譲りの呪文で終わるはずでした。
しかしその魔物は全くの無傷で砂埃が舞う中で私にボーガンを放ちました。
魔物のボーガンは私の胸を撃ち抜き私は死を覚悟しました。
「メラゾーマ、ミネア!しっかりしなさい。」
駆けつけた姉によって助けられた私ですが、そこにいた人は姉を含めてもう私は助からないと思ったそうです。
本人である私すらそう思っていたのですから当然ですよね。
しかし、私は次の瞬間痛みが消え、出血も止まり、撃ち抜かれた箇所も分からなくなるほど綺麗になっていることを実感し、起き上がりました。
姉や街の人には回復呪文が間に合ったといい、言いくるめましたが、私はこの時不死になったと気がつきました。
そして、その二年後に不老に気づきます。
あれから二年の年月がたっても慎重も何もかも変わらず、年を取っているようにも思えないと、私ではなく、姉が気づきました。
それは年々顕著になり、5年経とうがかわりない姿で、とうとう街では
「ミネア様はいつまで経っても姿が変わらないなんておかしくない?」
「人間じゃねえな。」
「魔物かも知れねえぞ。」
など陰口を叩かれるようになりました。
たとえ魔王を倒した英雄であっても、少しでも自分たちと違いがあれば叩くのが人間です。
私は姉に迷惑をかけたくはなく、街を離れることにしました。
それからは、2~3年ごとに住む場所をかえていきました。
それ事態はたいしたことはなかったのですが、一番悲しかったことは、
「おい、聞いたか、バトランドの英雄ライアンが亡くなったんだとよ。」
または
「サントハイムの女王アリーナ女王が崩御なさったらしい。
大神官のクリフトが取り乱してザラキを辺りに撒き散らしているらしいぜ。」
等の自分の仲間達がこの世を去ったという話を耳にした時が一番のショックでした。
私の知り合いは居なくなる。
しかし、依然として私は年をとることもなく、死ぬこともない。
皆は歩み続けているのに、私は先に進むことも、戻ることさえもできない。
絶望に支配されました。
それからは死ぬためには、ということしか考えていませんでした。どうにかして死のうと、全滅した町があると聞けば、そこでメガザルを唱えたり、魔物が溢れていると言えばそこに向かいメガンテを唱えたりしましたが、全く効果はありませんでした。
そのように死に場所を求めていた時に、マーサ様との出会いがあったのです。――――
皆一様に重苦しい顔をしていたが、レイシアはマーサという言葉を出した時には、おもいだすかのように晴れやかな笑顔を浮かべていた。