イブールとの戦いにより、今では小高い丘のようになってしまってはいるが、元は光の教壇本拠地『大神殿』があったセントベレス山にパパス、レイシア、バルバルー、パピン、サンチョそしてサンチョに背負われるリュカ、プオーンが集まっていた。
リュカに関しては、大変危険な魔界であるために、グランバニアに置いていこうと考えていたパパスであったが、出発する前にパパスが離すと火がついたように大泣きし、抱くと泣き止むということを無限ループのように繰り返した。
それを見ていたオジロンがパパスに
「リュカもマーサ様に会いたいのではないのですか」
と言った所、満面の笑顔で笑い出したために、仕方がないと連れていくことになった。
それについてもサンチョが極力戦闘に参加せずに後方で控えているということを前提にした上での考えではあるが。
7人がその場についた時に、眼前の空間がグニャリと歪み、その歪みが元に戻ったと同時に、前回死闘を繰り広げたイブールが現れた。
「よく来たな。もう準備て覚悟はできているのか?」
イブールがパパスを見て尋ねると、パパスは黙って頷いた。
その様を見てイブールも満足したように頷き、
「では魔界への門を開いてやろう」
とだけ言うと、天に向かい両手を挙げ
「我が主よ、この者達のために、魔界への門をお開けください」
と祈りを捧げ始めた。
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イブールのその様子がうかぶ水晶玉を見ている男は、何かを企むかのような醜い笑みを浮かべると、
「やはり魔界への門を開くことを奴が許すはずがないか。イブールが単独で力を込めても到底魔界への門が開くこともないだろう。想定内のことだ。どれ力を少し貸してやろう」
と呟き、水晶玉に向かって魔力が込められた両手をかざし始めた。
――――
イブールが祈りを込め始めてしばらく経つが、全く変化が起こらない。
イブールの焦る様子を見て、不安を感じるパパス達であったが、ここはイブールに任せるしかないと静観している。
すると、イブールの前の空間が、陽炎がのぼるかのようにユラユラと揺らめき始める、そして黒い点が現れたかと思うと、その黒点が急に広がり、大きな人一人が通れる程の、穴、いや魔界への門が形成された。
イブールは先程の焦りなどなかったようなドヤ顔でパパス達の方に向き直り、
「さあ魔界への門が開かれた。行くがよい」
とだけ言うと、穴の前からどき、入るようにパパス達へ促した。
パパス達の前に現れた、穴は、全ての光をも飲み込み、食らいつくすかのような、底無しの恐ろしさを感じさせる程の闇に占められていた。
しかし、パパス達は足を止める訳にはいかない。どんな困難が待ち受けていようと先に進まなくてはならないと、覚悟を決めパパスが先頭に立ち、その穴に足を運んだ。
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水晶玉を前にした男は、先程にも増して醜く歪んだ笑みを浮かべ
「他愛なかったな。もう少し奴は抵抗すると思ったのだがな。まあいい、これからわしの思い通りに動くことを望んでいるぞ」
と呟くと、水晶玉の前から姿を消した。
――――
地上とも魔界とも違う次元に浮かぶ、強大な力をもつであろう、見た目は老人のような男が、表情も変えず、遠隔透視でパパス達が穴に入っていくのを見ていた。
パパス達は知るよしもないことである。
――――
パパスが一寸先も見えない暗闇の中を、真っ直ぐと、ただ真っ直ぐと自分を信じて歩き続けた。
永遠に続くような闇の中を止まることなくパパス達は歩き続けると、穴の執着点が現れた、強張っていた表情が自然と緩み穴から出ると、目の前に広がる光景に視線が釘付けになった。パパスに続いて穴から出てきた仲間達もその光景に動きが止まった。
魔界、空に太陽はなく、漆黒の闇が広がっている。
先程通ってきた穴もひどく不安を掻き立てる闇であったが、それを遥かに越えた闇が延々と続いている。
「どういうことだ。全く先が見えん。それに先程の穴とは違い、足を前に踏み出すことさえ躊躇してしまう」
パパスが呟くがそれは、バルバルーを除く全ての者も総意であった。
その時である。空から懐かしい、求めて止まない者の声がパパス達に降りてきた。
「あなた、レイシア、そして皆さん、なぜ魔界にまで来てしまったのです」
マーサの声であった。
しかしパパスやレイシアが望んでいたものとは違い、非難するようでもあり、また深い悲しみが込められた言葉であった。
「魔王が私の大事な皆に手を出せないように、ここでこうしていたのに……。お願いです。私が再度地上への門を開きますので地上に帰り、リュカと平和に暮らしてください」
悲痛に歪んだ涙声での懇願である。
その声を聞くだけで、パパス達の覚悟はより強固なものとなっていた。
「バカを申すな。私はお前を助けるためにここへ来たのだ。なにもせずに帰れるか。私とお前の子、リュカもお前を迎えにここまで来ているのだぞ」
「私もマーサ様を救うまでは帰るつもりはありません。強情を張るのなら、心配の種となる魔王でさえも倒して見せましょう!」
パパスもレイシアも力強くマーサに向かって言いはなった。
「………。私は幸せ者ですね。あなたやレイシアの気持ちの強さ、そして頑固さはよく知っています。今から魔界でも地上と同じようにできる物を送ります。無理をなさらないでくださいね…」
優しさが込められた言葉が終わると、天から青く光り輝く宝石のような石が舞い降りてきた。 パパスがその石を手に載せた瞬間、目映く優しい光りが辺りを照らし出した。
目の前の闇は全て払われ、魔界の真の姿が前に広がっていた。