パパスとレイシアの前に二体のヘルバトラーが行く手をたち塞ぐべく舞い降りる。
ヘルバトラーは魔界においてもその強さは屈指のものがあり、それは過去に遡れば、重要な拠点を守る四天王として重用された魔物ですらある。
そして、対する者も、全人類の中でも当然5本の指に入るであろう、パパスとレイシアである。
当然比類なき死闘が繰り広げられると思われていた。
「どけーーっ!!」
パパスが声をあげヘルバトラーを牽制するが、動ずることはなく襲いかかる。
丸太のような腕、鋼鉄すらも紙のように軽々と引き裂くであろう爪がパパスに襲いかかる。
大きく降り下ろされた攻撃を、体勢を低くしてかわす。
パパスの上を轟音を轟かせ過ぎ去っていくが、パパスは気にも止めていない。
パパスはしゃがんだ状態から、全身のばねを遺憾なく発揮し、立ち上がり様に逆袈裟に切りつける。
「ギガスラッシュ!!」
剣は雷を帯び、地面と触れる切っ先は火花を散らす。
そして、パパスの繰り出す一閃は紫電の輝きを見せ、ヘルバトラーを斜めに切り上げた。
パパスはヘルバトラーを見ることもなく、剣を鞘に納める。
カシャンと剣が鞘に納まると同時にヘルバトラーの亡骸は雷に飲まれて消え去った。
「どいてもらいます!」
レイシアも普段の冷静さなど微塵もなく荒々しくいい放つその表情には鬼気迫るものを感じる。
ヘルバトラーは迫り来るレイシアに激しい炎を放つ、しかし、今のレイシアには触れることすらなかった。
直前に唱えたフバーハがレイシアの身を守るように包み込んでいたのだ。
激しい炎の中を突っ切ってくるレイシアにヘルバトラーがたじろいだその隙をレイシアが見逃すはずがなかった。
「はっ!!」
足を薙ぐように叩きつけられたグリンガムの鞭の一撃に、ヘルバトラーは体勢を崩す、そして間髪入れず呪文を唱えた。
「バシルーラ」
ヘルバトラーは一瞬の浮遊感を感じたあと、突風を受けたように吹き飛ぶ、しかし、ヘルバトラーさるもの、羽を大きく開き、空中で、勢いを殺し、ついには制止する。
ニヤリと歪な笑みを浮かべヘルバトラーがレイシアを見おろすと、レイシアは予想通りという感じでヘルバトラーを一瞥した後に呪文を呟いた。
「イオグランテ!!」
ヘルバトラーを中心にして大気が収縮し、極限まで達し臨界点を越えると同時に比類なき爆発が起こった。
その爆発はとてつもなく、大気を揺るがすだけでなく、エビルマウンテンすら地震が起こったかのように揺らめいた。
イオ系最上級呪文『イオグランテ』
以前上の世界で大神殿を岩山もろとも破壊した呪文である。
レイシアはその二の舞にならないように、ヘルバトラーを空高く打ち上げた後に放ったのである。
そして、レイシアもパパス同様ヘルバトラーを一瞥することすらせず、また大地の揺れもものともせず、マーサに向かって走り抜いた。
「マーサーーーッ!!」
「あなたーーーッ!!」
いち早くたどり着いた、パパスとマーサは抱き合った。
二人の頬には流れ落ちる一筋の川ができあがった。
二人が感慨深く抱き合っているところにレイシアもたどり着く。
「マーサ様……」
「レイシア」
レイシアの目にもうっすらと光るものがあり、関をきったようにとめどなく涙が流れ落ちた。
マーサがレイシアを慰めるように後ろから抱きしめていると、
「奥方様ーーー!!」
という一際デカイ声が、見るとハアハアと息をきらせながらサンチョがマーサの元にたどり着いた。
「奥方様、リュカ坊っちゃんです。どうぞお抱きになってください」
サンチョはリュカを背から下ろしマーサに手渡す。
魔界についたあとも全く泣くこともなかったリュカであるが、マーサに抱かれると抑えていたものが崩壊するようにマーサにしがみつきおお泣きを始めた。
しばらく、泣いた後、リュカは安心したように眠りについた。
ただし、小さな手は固くマーサの服を握っていた。
二度と離すことはないように。
その後合流したパピン、バルバルー、そして初めて対面することとなったプオーンとも挨拶を交わし、ようやく念願のマーサ救出を達成した。
だが、一同が集まるのを待っていたかのように、一陣の雷が一同を襲う。
天を裂き、舞い降りる雷は轟音と共に、大地を砕き、喜びにわくパパス達を嘲笑うかのように牙を剥いて襲いかかった。
一瞬の出来事であった。