魔王ミルドラースが遂に地面に足をつけた。
それだけでなく、膝までもついている。
この事実は皆を勇気付けた。
しかし、マーサだけは依然として険しい表情を浮かべている。
「わしに膝をつかせるとはな。全く想定外だ。この屈辱死をもって償ってもらうぞ!!神を越えし我が姿見るがいい!」
ミルドラースから黒いオーラが吹き荒れる。
黒いオーラの中で、ミルドラースの姿が変わる。
白いマントは裂け、体が肥大化しているのがおぼろげながら見えてくる。
トゲが無数に生えた尻尾、腕が4本に増え、体は見上げるほどに巨大になる。
今までは縦に長かったが、今では横に広い。
黒いオーラが払われると、そこには赤い体色をした化け物が現れていた。
その威圧感たるや今までとは比較にならないほど恐ろしいものである。
「これがワシの神を越えし真の姿だ。全てを越え進化した最強の存在だ!」
おどろおどろしい声で話し出す。
とんでもない話ではあるが、嘘とは到底思えない恐ろしさがそこにある。
パパス達が震える自分を諌め、戦闘体勢をとろうとした時であった。
「さすがは元は穢らわしい人間。進化したとはいえ、その程度が関の山なのであろう。なあミルドラースよ」
異空間に響き渡る声。
声のする先の空間がグニャリと歪み何者かが現れる。
そこには天使のごとき羽を持つ天空人が立っていた。
その者を見たプオーンが真っ先に声をあげる。
「あっあの人は前に天空城で僕に最後の鍵を返してくれた。たしかエルーストさん!」
「そう言えばそうだな。しかしなぜこんなところに?」
プオーンが気づいた事実にパパスは同意する。
しかし、沸き上がる疑問なぜ彼がここに。
そんな中、レイシアが声を震わせながら絞り出すように声を出した。
「あの者はエルーストなる人物ではありません。なぜお前がここにいるエビルプリースト!!」
「ヒヒヒ、さすがはミネアよく分かりましたね。そう私はエルーストではないエビルプリーストと言います」
下卑た笑みを浮かべながらうやうやしく首を垂れる。
そして持っている杖を両手で折ると、大僧正のような神官服を見にまとう魔物の男がそこにいた。
「この杖は変化の杖といい。姿を変えられる物なのですよ。便利でしょ」
軽口を叩くエビルプリーストにレイシアの怒号がとぶ。
「そんなことはどうでもいい。なぜお前が、お前は私たちが倒したはず」
レイシアの疑問。
数百年前に倒したはずの魔物が、全ての黒幕だった者が突然現れた当然の疑問である。
「簡単なことですよミネア、いや今はレイシアでしたか。あなたたちは私を倒しきれなかったのですよ。あなたの父親が見つけ出した『進化の秘宝』あの力によって欠片として残った私の体が再び再生してこのように復活したわけです。まあ数百年という時間を有してしまったのは誤算ですが」
丁寧な口調で饒舌にエビルプリーストは今までの成り行きと、疑問について答える。
「ではなぜお前の敵となる我々に最後の鍵を渡したのだ?」
パパスが問いかける。
「簡単なことです。
最後の鍵がなくては魔界には来られない。そのために目障りだったゲマを殺しこの鍵をあなたたちに渡すことにしたのです。まあ今回は予想外のイブールの裏切りで、またそれだけでは力が足りないので私の力もお貸ししてこちらに来られる運びになりましたが。そして、あなたたちにミルドラースを倒して欲しかったからです。自分の手を汚さずに事が進むこれほど喜ばしいことはありませんからね」
悦に入った表情で語るエビルプリースト。
「まあそういう訳なのですが、そこの馬鹿が、ミルドラースが聞き捨てならない戯言をほざき始めたので私が直々に足を運んだのです。このお馬鹿さんを殺すためにね。あなたたちはよくやってくれました後程『死』という名の褒美をあげますので、そこで見ていてください。新たなる神の誕生を」
エビルプリーストが発光する先ほどのミルドラースが黒いオーラを出すかのように、黒い光が辺りを闇に染める。
ビリビリと何かが破ける音。
バキバキと何かがちぎれ、構成されていく音。
闇が晴れた時、そこには、巨大な角、ぎょろりと大きく開かれた目、裂けるように大きく、また鋭い牙が数えきれないほどならんだ口をもち、さらに同様の顔が腹部にも現れている、白い銅像のような異形の魔物がそこにいた。
「どうですか?美しいでしょう。これが本当の究極の進化というものです。元々が人間のミルドラースではたどり着くことなど不可能な領域なのです。さあ潔く死んでもらいましょう」
エビルプリーストはミルドラースに襲い掛かった。
「ふざけるな。返り討ちにしてくれるわ」
ミルドラースも同様にエビルプリーストに襲い掛かる。
「私たちはどうすれば良いのだろう?」
茅の外のパパスが誰となく問う。
「見てればいいわ。勝負が決まって生きている方を叩ければ楽よ。漁夫の利ということね」
何事にも動じずに、微笑みながら話すマーサを皆は呆気にとられながら見返すしかなかった。