今までよりは文字数多いです。
リンカーコアの回復も順調で一週間もしない内に魔力は全快し、最後の検査を受けたところ以前より魔力量が増えていると言われカイトは若干舞い上がっていた。
「魔力量がBランクからAランクになってるんだって!」
《嬉しいのは分かりますが先程から同じ事ばかり言ってます》
「だって、もっと色んな魔法使えるかも知れないんだよ?高町みたいな砲撃魔法も使える可能性もあるんだよ?」
《確かに射撃魔法よりは砲撃魔法の適正はありますが…》
「よし!今度高町と模擬戦する時に砲撃魔法のコツを教えて貰おう!」
なのはもヴィータと戦う為に近接の訓練としてカイトと何度か模擬戦をしているので砲撃魔法が得意な人にコツを教えて貰える絶好の機会である。
次に行うなのはとの模擬戦を楽しみにしながらアースラまで帰ってきたカイトはリンディや他のクルー達に全快の報告をしてクロノの元に向かった。
「カイト。もう大丈夫みたいだな。」
「うん。前より魔力量増えたんだ!」
「そうか。そんな事より君に聞きたい事がある。」
「そんな事?俺の魔力量が増えた事がそんな事扱い?」
クロノのぞんざいな扱いにガックリと項垂れるカイトを尻目にクロノは話を続ける。
「カイト。あの仮面の男と戦った感想を聞きたいんだが…」
「うーん…とりあえずオーバーSクラスだね。あれだけの使い手は中々いないと思うよ?」
「だろうな。それに数分で別の世界に転移する程の魔導師だ。知らないはずは無いんだが…」
Sランクの魔導師なんて管理局に所属している魔導師の中でも全体の数パーセントしか存在しない。
次元犯罪者でも中々いないし、むしろ探す方が厄介なぐらいだ。
超長距離転移を僅か数分でやってのける魔導師がいれば知られてない方がおかしい。
「うーん…僅か数分でか…まさか二人いたりして!ってそんな訳ないか…」
「二人?そうか!最初から二人なら全て説明が付く!」
「え?クロノ?どこ行くの!?」
クロノは何か辻褄が合ったのか慌てて部屋から出て行った。
いきなり一人取り残されたカイトは自分が次に何をすればいいのか聞かされなかった為しばらく呆然としていた。
数日後、アースラも地球の軌道上での待機が完了し、カイトはしばらく観測や事務処理を手伝いながら、なのはやフェイトと模擬戦を繰り返していた。
「それじゃあ、高ま…なのは。砲撃魔法のご教授よろしくお願いします。」
「はい。良く出来ました。こちらこそよろしくお願いします。」
「まだ慣れないんだね…」
なのはに訓練後に砲撃魔法のコツを教わる交換条件として名前呼びを強制されたカイトはずっと苗字で呼んでいた為になのはを名前で呼ぶのに未だに慣れないでいる。
フェイトも余りの慣れなささに若干呆れている。
なのはが言うには射撃魔法は魔力弾を形成するのに対して砲撃魔法は形を作らず一箇所に魔力を溜めて一気に放出するイメージだという。
カイトの魔力資質「圧縮」が邪魔して魔力弾が形成出来なかった為に砲撃を含む射撃系統は一切使用出来ないと思い込んでいたが、ただ単に魔力を溜める事は出来るカイトには朗報だった。
コツを教えて貰い、なのは達が帰った後は独学で術式を構築して一応完成はしたが、チャージに時間がかかり過ぎる上にチャージ中は行動不能になってしまい、威力は十分だが使う場面が非常に限定される物になってしまった。
カイトにとって唯一の砲撃魔法が一応完成した翌日、地球はクリスマスイヴを迎えていた。
ハラオウン家のクリスマスパーティにはカイトの発案で、なのはの実家である翠屋のクリスマスケーキを予約してある。
「今日は月村の友達のお見舞いに行くんだっけ?」
『うん。あの人達に動きは?』
「今のところ全く。恐らくクリスマスパーティの準備にでも追われてるんじゃないかな?」
『ふふ。そうだといいね。』
「何があるか分からないんだから気を付けてね。何かあったらすぐ連絡する事!」
『分かってるよ。じゃあねカイト。』
終業式を終えたフェイトとの通信を終え一息ついたカイトは守護騎士達の事について考える。
昨日までの数日間は魔力反応をキャッチしても、すでに蒐集された後であったりとイタチごっこを繰り返していたが今日は本当に一切動きが無い。
もしかしたら本当にクリスマスパーティの準備に追われているのかも知れないなんて事も考えていた。
本当に何も動きが無いまま夜になり、リンディがアースラから海鳴へ帰宅しようかとしていた時にクロノから通信が入った。
クロノによると普段なら帰宅している時間なのにまだ帰ってこないのでフェイトに連絡してみたところ全く通信が繋がらないという。
カイトも試しにフェイトに連絡するが通信妨害を受けている疑いがある。
リンディはすぐさま準警戒態勢を発令しエイミィがフェイト達が向かった病院の周辺を捜索すると、病院から少し離れたところに結界が張られていた。
「クロノは?」
「すでに現場に飛んでいます!」
結界が張られている周辺の通信妨害が消滅し復旧したモニターには、長い銀髪に真紅の瞳で背中に黒い翼を持った女性が映し出された。
カイトは無限書庫で見た闇の書の管制人格だと一目で分かった。
あのユニットはユニゾンデバイスであり主と融合して彼女が表に出てきたという事は闇の書が完成してしまったのを意味していた。
もう一つのモニターには結界近くのビルにいた二人の仮面の男とそれをバインドで縛り上げるクロノの姿が映っており、クロノのストラグルバインドの強化魔法を強制的に解除する効果により変身魔法を使用していた仮面の男達の正体が明らかになった。
「え?ウソ…」
「…リーゼ?」
エイミィもカイトも信じられないといった表情でモニターを見つめていた。
仮面の男の正体は変身魔法で姿を変えたリーゼ姉妹だった。
意外な正体に驚いていたカイトだったが、あの二人なら色々と説明が付くし自分が全く歯が立たなかった事を考えると妙に納得できてしまった。
『これから二人を連れてグレアム提督の所へ行く。カイトも来てくれ。』
「え?何で俺も?」
理由を聞く暇も無くアースラに戻ってきたクロノに連れられ本局のグレアム提督の執務室に到着した。
「クロノ待っていたよ。そしてカイト君も久しぶりだね。」
「お久しぶりです。グレアム提督。」
「リーゼ達の行動はあなたの指示ですね?グレアム提督。」
「違う!クロノ!父様は関係無い!私達の独断だ!」
「いいんだ。アリア、ロッテ。クロノはもう粗方の事は掴んでいる。」
十一年前の闇の書事件以降、クロノの父クライドを闇の書と共に葬り去った事を悔やみ続けていたグレアムは新たな主の元に転生する闇の書をずっと探し続けていた。
「そして発見した…完成前の闇の書と現在の主…八神はやてを…」
「…え?」
クロノの衝撃的な発言に一瞬聞き違いかと思ったが目の前のモニターには見間違える事などあるはずの無い幼馴染の画像が表示されていた。
「そんな…はやてが…闇の書の主?」
しかし、完成前の闇の書を破壊しても主を捉えてもすぐに再生し新たな主の元へ転生してしまうので意味は無い。
なのでグレアムは、はやての亡くなった両親の友人を装い生活を援助し、ご丁寧に監視まで付けて闇の書の完成を待った。
「その監視役が君だ…カイト。」
「…は?」
グレアムによると今から六年前に八神はやてと闇の書を発見し、結婚しミッドを離れ丁度地球に移住していたカイトの母エレナを監視役として選び八神家の隣に引っ越させたという。
「え?じゃあ…母さんもこの事を?」
「いや、エレナ君には闇の書の事は伝えていない。私はあの子の両親の友人を装ってエレナ君にあの子の世話をお願いしただけだ。」
「そう…ですか…」
物心ついた時から一緒にいるのが当たり前だった幼馴染が仕組まれて作られた物だと言われている様で、途轍もなく複雑な感情がカイトの中に渦巻くのを感じた。
「それで見付けたんですね?闇の書の永久封印の方法を…」
「あぁ。闇の書が完成し暴走が始まる瞬間の少しの時間に強力な凍結封印魔法で主ごと封印する。」
「そして、次元の狭間かどこかの氷結世界に閉じ込める。そんなところですか?」
「…主ごとって?はやてを…封印するって事…ですか?」
カイトが口を開くとグレアムは無表情で頷いた。
助けを求める様にクロノの方を向くがカイトとは目を合わせず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。
「…嫌だ…絶対に嫌だ…はやてを封印するなんて…絶対に嫌だ!」
「これまでの主だってアルカンシェルで消滅させたりしてたんだ!それと何も変わらない!」
カイトは大切な幼馴染を封印するなんて絶対に嫌だった。
しかしリーゼ達はカイトの心情など知らずに今までと同じだと主張する。
「違う!同じじゃない!」
「そうだカイト。同じじゃない。暴走が始まる瞬間ならまだ凍結封印される様な犯罪者じゃない。」
クロノの言葉にカイトはハッとする。
暴走して地球を破壊でもすれば犯罪者として封印などの処置をしなければならないが現時点ではただ闇の書に主として選ばれただけではやてには何の罪も無い。
そして、クロノはどんなに厳重に封印しようが、どんなに遠くの世界に閉じ込めようがいつか誰かが手にしてしまうとグレアムの計画には不備があると指摘した。
「現場が心配なので戻ります。行くぞカイト。」
「待てクロノ。カイト君もだ。…アリア…デュランダルをクロノに。」
クロノがアリアからデュランダルというデバイスを受け取っている間にグレアムは両親を亡くし体を悪くしたはやての事を考えると心が痛んだが、せめて死ぬ前には幸せを与えたかったのだと弁明した後で全て偽善だったとカイトに謝罪した。
「そして、あの子からの手紙と君の手紙だが少し前から全てこちらで止めさせてもらっていた。君達を巻き込みたくなかったんだ…すまない。」
カイトは地球に手紙を送る時にリーゼ達の手を借りていた。
地球出身のグレアムが地球の両親に手紙を出していた事があるからと聞いて協力してもらっていた。
一年前くらいから手紙を出しても返事が来なくなっていたのは恐らく地球からの手紙に守護騎士達の事が書いてあったからだろう。
巻き込みたくなかったのは本音だろうとグレアムの優しさを知っているカイトは何と言っていいのか分からず無言でクロノと共に部屋を出た。
「クロノ…俺…はやてを助けたい…」
「それは僕も同じだ。」
「だからクロノ。俺をはやての所に行かせてよ。」
「それはダメだ。君はアースラで待機していてくれ。」
「ッ!何で!」
はやてを助けたいという想いは同じだったがクロノが下した命令は非情な物だった。
「今から戦うのは、話を聞いて君の精神が不安定になるくらい大切に想っている幼馴染本人なんだぞ!」
「俺は大丈夫だよ!クロノ!俺をはやての所に行かせてよ!お願いだ!」
「大丈夫じゃないと判断したからこそ待機なんだ!聞き分けろ!」
「これだけは絶対に譲らない!クロノお願い!何でも言う事聞くから!」
待機だ!嫌だ!と言い合っていると不意にカイトがニヤリと口を歪ませてクロノを見る。
「な、何だ…?」
「出撃の許可くれたら何でも言う事を聞くよ?例えば…」
「…例えば?」
「正式に入局して執務官補佐の資格を取れと言われればその通りにする。」
「ぐっ…今ここで、それを言うのは卑怯だぞ…」
クロノが事あるごとに言っていた提案を今この状況で持ち出してやったカイトは過去に例を見ない程に途轍もなく悪い顔をしているだろう。
しかしクロノにとってこんな魅力的な条件は無かった。
「…分かった。その条件飲もう。」
「ありがとう!クロノ!」
「だが絶対に忘れるなよ!約束だぞ!」
「うん!俺が約束を守る男だってクロノも知ってるでしょ?」
「そう…だったな。」
カイトとの付き合いも三年になる。
亡き父との約束や幼馴染との約束を今までずっと守り続けているのをクロノはその目でずっと見てきている。
そんなカイトが約束を破る事は無いと知っているクロノは、この事件後に優秀な補佐を得て自分の執務官としての未来は明るく照らされた様に思えた。
カイト君の将来が決まりました。
人使いの荒いクロノの補佐という事はカイト君は忙殺されてしまうかもしれませんね。