真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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再開は目出度いので2話投稿するぞっ(力をこめる)

だいぶ苦しめられていますが、順調にラストへと向かっております。例えるなら、微速前進ってくらいに…(悩)


モザイク世界ーやさしい嘘

「……いや、任務は単独潜入して、テロリストを武装解除し……」

「また役割(ロール)か?」

「これは一種のロール・プレイングなのだ。役割を果たせ!役割を演じきるのだ」

「大佐、思い出したんだ」

「何だ?」

「俺はあんたに直接会ったことがない。一度もな」

「……任務をシミュレーション通りに完遂するんだ!」

 

   (不確定未来における幻影(ファントム)達の会話、その”揺らぎ”を示す一例)

 

 

 時は1975年未明。

 コスタリカ沖に位置する海上プラントを根城にする巨大な軍事組織が存在していた。

 彼らは自らをMSFと名乗り、世界の戦場に向けて組織の持つ武力を”輸出”するというビジネスを開始した。

 

 その首魁、ビッグボスはこの日。重要な2つの作戦を同時決行する。

 ひとつはMSFが秘匿する核兵器と、それを発射する装置ZEEKを訪れる国連から、IAEAから守ること。

 そしてもうひとつは、キューバに存在する米国のブラックサイト。そこに捕らえられている”MSFの仲間たちの救出”である。

 

 日が沈むと同時に作戦は静かに開始された。

 IAEAから派遣された査察団を迎えたヒューイと名乗るMSFスタッフは、彼らの舌鋒鋭く放たれる疑問に”自信を持って答え”てみせ。その周りを長身の見事な体格の兵士たちが立ち並んでみせることで、彼らに無言の圧力でもって精神を削りに削った。

 

 一方、MSF首領のビッグボスは自らが潜入したブラックサイトから、若い2人の仲間を苦もなく救出。

 当の収容所に配属されていた警備は、それが暗闇で行われたことを知ることができなかった。

 

 だが、さすがにこのまま何事もなく終わる、なんてことにはならない。

 任務を終え、ブラックサイトから離れようとしていた所。ビッグボスの右腕、MSF副司令官のカズヒラ・ミラーから緊急連絡が入る。

 

『ボス、収容施設に潜入させていた諜報班スタッフから緊急の回収要請が今しがた送られてきた』

「なにがあった、カズ?」

『どうやら作戦にあわせ、収容所から撤退の準備をしていたところに。警備に顔を見られ、疑われたようだ』

「そりゃ、運が悪かったな」

『このタイミングだ。もしかしたら前から目をつけられていたのかもしれない、事態は一刻を争う』

「どうする?」

『すまないが、時間が惜しい。今から戻って敵基地を急襲し。目標を無事に回収、脱出してもらいたい』

「……この2人をつれて、あそこへもどれというのか」

『目標は味方諜報員、1名。どうやら重要な情報も手に入れたようだ。今の彼は、我々の最重要人物ということになる』

「わかった、行こう!」

『ボス、頼んだぞ!』

 

 

 ビッグボスはパイロットと戻ることを確認すると、続いて回収しても眠り続ける少年と少女の元にはりついているメディックの元へ戻る。

 

「――ボス?」

「可愛そうだが、2人にはこのまま寝ていてもらう。起きて、パニックを起こされるのは面倒だ。身動きが取れないよう、寝台に縛り付けておこう」

「わかりました」

「こちらもすばやく終わらせるつもりだ。2人を頼むぞ、メディック」

 

 自ら救い出した子供達を仲間に託すと、ビッグボスは置いたばかりのライフルに再び手を伸ばした。

 音を立ててヘリの横腹にある扉が開いていくと。遠く、東の空に暁が見えた。

 太陽が現れるまで、十数分。

 それが自分達に許された最後のチャンスだ。

 

 収容所は飛び立ったときと違い。所内をサイレンが鳴り響き、まだまだ暗い闇が大地を覆っているというのに。兵士達が、なにごとかと思うほど、基地の中のあちこちを走り回っているのが見えた。

 すぐに混乱の中でいきなりあらわれた(正確には戻った、なのだが)このヘリの存在も彼らは気がつくはずだ。

 

『どうだ?わかるか?』

『ネガティブ(否定)、見当たりません』

『ううん、遅かったか……捕まれば、奴一人の問題とはいかなくなる。MSF、”全員が道連れ”になるぞ』

 

 瞬間、スネークのライフルが火を噴いた。

 地上を走り回る兵士達に向けて、射撃を開始したのだ。

 

『――聞こえるか?――応援、頼む!』

『目標より入電、ありました!』

『繋げ』

 

 同時にスネークも、地上で追いかけっこをしている男たちの姿を混乱の中で捉えることができた。

 

『こちらモルフォ、応答しろ!』

『――に向かって――だ。――てる、早く!』

『本部、電波が捉えきれません』

『まずいぞ』

 

 その間もスネークの射撃が続いている。

 追っ手の一人が倒れ、2人が倒れ。だがまだまだ追跡者の数はゼロにはならない、それどころか建物から次々と人影が飛び出してきて列を作り、増える一方だった。

 

「こちらから見えているぞ!そのまま走り続けろ、頑張れ!」

 

 励ましの声を上げる。

 声は届かないかもしれないが、援護を受け、こちらの存在はわかっているはずだ。

 

 突然、ヘリの前を光弾がかすめた。

 

『地上からフレア!』

『ボス、攻撃を受けるぞ。敵の攻撃を許すな』

「わかっている!」

 

 すでに何かが風を切る音が聞こえ始め、収容所内のいくつかのライトが空に向けられようとしていた。

 20発のライフル弾を撃ちつくし、スネークはマグチェンジを素早くおこなう。

 

(ライトが、間に合わない)

 

 狙う暇などなかった。

 ライフルに取り付けていたグレネードをごく自然に発射し、夜の空を飛び回るモルフォを照らそうとした見張り台を吹き飛ばしてやった。

 

『目標、捉えています』

『あれは?……敵車両に足止めを?』

 

 次の瞬間、無線のむこうから目標の「ファイア」の声にあわせ。火線が立ちふさがる車両に突っ込んでいくと、火を噴いて地面の上を小躍りして転がって見せた。どこかで手に入れたRPGを使って下でも反撃したらしい。

 

『あいつもやるな!だが、囲まれているようだ』

「これより周りを排除する、10秒待て!」

 

 グレネードを再度発射!

 続けて、闇の中で射撃を続ける敵兵たちをリズミカルに引き金をひくことで狙撃する。。

 10秒かからず、周りから人の気配がなくなったことを察知すると。目標は隠れていた場所を飛び出してくる。

 

『モルフォ、敵影なし。クリア、確認』

『駄目だ。そこにヘリが着陸できるスペースは残っていない』

 

 目標を捕らえんと、多くの車両が海岸線に集まってきていた。だがそのせいで地上を車両で埋め尽くされ、ヘリで近づくことが難しくなってしまっていた。

 

『ヘリポートだ。発着場で合流しろ、それしかない』

『了解、エスコートを頼む』

 

 男が斜面を駆け下りると、止まっている車の一台に飛び乗った。

 そしてかぶっていたバラクラバを脱ぎ捨て、下の顔を明らかにする。腹をくくったのだろう、だがこれでもう上から見間違える心配はない。あとは必ず、彼をここから脱出させるしかないのだ。 

 

『ボス、味方の車両を援護してやってくれ』

『運転は大丈夫だ。敵の面倒を頼む!』

 

 要請にあわせるように、車の横原めがけて突進してくる敵の車両にスネークは一発のグレネード弾でその目論見を阻止する。

 斜面をエンジン音響かせて荒々しく登ってくる車の前方にヘリは着くと。次の目的地へと誘導を開始する。

 

『どうしてもこれはボスに渡したい。カセットテープを手に入れた、それと捕虜の情報!』

 

 

 この時、すでに東の地平線から太陽が顔をのぞかせていた。

 そして闇の晴れた収容所の中もまた、それまでの混乱をなかったことにしようとして、海岸線から現れた1機のヘリと一台の車両に気がついたようだった。そんな敵意の満ちる中を、猛然と海岸線から戻ってくる彼らは飛び込んでいく。

 

 ヘリの中から構えたライフルが火を噴き、敵兵は地面になぎ倒され、グレネードは道をふさごうとする敵の車両を道路脇へと次々たたき出した。それに続く車両は、立ち並ぶ倉庫の中を縫うようにジグザグに走行しながら、ヘリの発着場へむかって突き進む。

 スネークの援護があるとはいえ、1人で運転席にへばりついている目標は心細いのだろう。「生きて帰るぞ」と弾が彼のそばを飛ぶたびに叫んでいるのが無線越しに聞こえてきた。

 

『よし、ボス。敵の対空機関砲は無力化されている。敵の防空能力がそがれている今なら、あるいは――』

『駄目だ!ボス、見張り台に無反動砲!!』

 

 突如、機体を揺らすモルフォのそばを見えないなにかが掠めると、後方にいた目標の車のそばで炸裂した。

 スネークは最後のグレネード弾を装填すると、感覚で見張り台に向けてそれ放り込んだ。

 冷静な行動ではなかったが、想像通りに相手は爆炎を撒き散しながら見張り台から落ちていく。

 

「敵の無力化を確認した!あいつはどうなった!?」

『ターゲットの車両、破損』

『っ、生きているか!?』

『ここからはわかりません!』

「機体をおろせ。俺が拾ってくる」

 

 急激に地面が視界に迫ってくるが、スネークの顔にまだあせりの色はない。

 飛び出すタイミングを見計らいながら。ふと、視線をヘリの中で待機しているメディックに向けた。彼は奥にいて、まだ眠り続けているパスのそばにチコを守るようについてくれていた。彼なら、このあとで何があっても安心していいだろう。

 

「頼むぞ、俺はいく!」

 

 その言葉だけを残し、敵の収容所である発着場に武器も持たずにスネークは飛び降りると、走り出した。

 何も考えない。

 荒々しい自分の呼吸音と、過ぎていく一秒一秒が。あまりにも貴重なものだと感じていた。

 

「おい、しっかりしろ!?」

 

 目標はコンクリートの壁に突撃した車から地面に転げ落ちて、気を失っているようだった。どうやら本当に悪運だけは強いらしい、あれほどの騒ぎの中を潜り抜けてきても。この男は気を失っているだけで、怪我ひとつ負ってはいないようだ。

 左腕を伸ばし、強引に体を起こすと一気にターゲットを背中に担ぎ上げた。

 

『よかった。どうやら、目立った外傷はないようだ』

 

 無線の向こうからカズの安堵する声が聞こえた。

 だが――。

 

『モルフォ。収容所管理棟、正面ゲートより装甲車が!退避しないと』

『なんだと!?待て、ボスは武器を持っていないんだぞ。退避は駄目だ』

『しかし、このままでは』

「俺はここで待機。モルフォもそのまま。メディックが対処する」

 

 位置的に、目標を背負ったスネークからは正面ゲートから出てくるという装甲車は見えなかったが。

 後に残してきた男であるなら、どうにかできるという確信があった。奴の声が、無線を通して聞こえてきた。

 

『3秒で(終わります)』

 

 その言葉を信じ、近くの建物の影で屈んでいると。

 担がれている男がうめくと、スネークに何かを渡そうとしてきた。

 

「ボス、こいつで――」

 

 それは単発式のグレネードランチャーであった。

 撃てるのは装填されている一発だけ。それを受け取ると同時に、ゲートの方角で炎が吹き上がり、轟音が鳴り響いた。

 

『ボス、今だ!』

 

 モルフォにむかって走り出す。

 来たときと違い、帰りは2人分の命を抱えている。そのせいで、やはり遅くなる。

 

 正面ゲートで火を噴く装甲車の後ろから、新しい装甲車が現れると。荒々しく役立たずとなった前の車両を踏み潰して進もうとしていた。あまりにも強引なやり方ではあるが、むこうにしたらこちらに逃げられてはたまらないと考えての行動なのだろう。

 

(まずいぞ!)

 

 思ったら体が自然と動いていた。

 スネークは急停止すると、グレネードを構え、瞬時に発射する。

 同じようにモルフォからもローター音に混じって発射音が聞こえてきて、2発のそれが左右から見方の屍を踏み越えようとした新たな脅威を叩きのめした。

 

 再び爆発がおこると、正面ゲートは完全に2台の炎上する鉄の塊でふさがれてしまった。

 

『目標の回収。離脱は、南東の方角から。同じく相手のヘリの追撃を許すな、絶対だ!』

 

 スネークが目標と共にモルフォに乗り込む。

 メディックは自分が使っていたライフルをスネークへと渡すと、2人銃口を外に向けて構える。

 低空から勢いよく、跳ねるように飛び出していくモルフォは。これ見よがしに正面ゲート上空から徐々に高度を上げて旋回運動を始める。

 その時も、モルフォの横腹から飛び出した2つの銃口は休みなく火を噴き続け。逃がすまいと上空を攻撃し続けている収容所の兵士たちを的確に撃ちぬく。

 

 ここには長居をしすぎてしまった。

 急襲を終え、離脱するモルフォを朝の太陽が静かに見送った。

 

『緊急事態ではあったが、いつも通り。見事な手際だった。さすがだな、ボス』

 

 危険な緊急任務も終わり、IAEAの方の査察も無事に終えたと報告を聞くと、カズはそういって勝利を喜んだ。

 スネークはその言葉に返事をせず。ライフルをおくと、無言で隣に控えていたメディックと硬い握手を交わした。

 

『ホットゾーンより離脱。目標は無事です。全ての任務は終了、これより帰投します』

 

 パイロットが報告を続ける中。

 スネークはターゲットである回収したばかりの諜報員の前に来る。

 

「スネーク…………」

 

 目標は事故で車から転げ落ちた痛みから、ようやくのこと回復してきていた。

 衝突の勢いでレンズにひびが入ってしまったシューティング・グラスを取ると。ポケットからなんと真新しい、ずいぶんと派手なデザインの眼鏡を取り出してきた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 スネークが聞くと、なぜか聞かれたほうは眼鏡を装着した顔を上げ、怒ったような口調で声を上げる。

 

「遅かったじゃないか!」

 

 なぜかキレていた。

 あれほど収容所の中を飛ぶように駆けずり回っていたというのに。攻撃を受けて車から投げ出され、気を失ってから目覚めたばかりだというのに。まだまだ元気を残していたようで、正直いってそれが一番驚いた。

 

「――随分と元気そうだ。お前、名前は?」

「あっ、えっ。コジマ。そう、小島といいます。ボス」

「そうか――コジマ・カミナンデスだったか?それで、俺に報告があるといっていただろう?」

「そうでした。カセットテープ!それと、もうひとつ」

「ああ」

「パス。彼女の体には”2つ目の爆弾”が」

「そうか――メディック!」

 

 彼はすでに自分のすべきことを――子供たちの様子を見に戻ってこちらを見ていた。その手には再び、ゴム製の手袋がはめられようとしている。

 

「まだなにか見落としていたようだ。急いでなんとかしよう」

 

 そういうと時限爆弾を――。

 そういう時限―ー。

 そう時――。

 

 

 そう 時を 変えることは 不可能だ――ではない……。

 混乱で時間を、世界を、全てを冒していく。




「なんじゃこりゃ?おふざけか?」と思われるかもしれませんが、一応言っておきますが真面目に書いてますよ。

続きはいつもの時間に。

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