真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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ついにきた!
アウターへブン蜂起、そして――。


1995~世界を売った男~

 運命の時がきた。

 世界のインテリジェンスの目を欺いてきたが、限界がついに来たのだろう。

 丘の上から眼下に列を成すアフリカ正規軍連合を見てヴェノム・スネークはそんなことを思った。

 

 偽装によるダイアモンド・ドッグズの解散を経て。

 2年近くを世間から隠れて過ごしていた彼であったが、それにもやはり限界が来てしまった。

 しかしだからとて、悔やむような感情はそこにはない。すでに準備は整っている。あとはどのタイミングであったか、それだけだった。

 

 1995年、ビッグボスは60歳を迎えようとしている。

 そしてファントムは――この任務について11年目。そしてこれが終われば、彼の任務はようやく一区切りがつけられる。

 

「全員、攻撃準備はいいな?」

『Yes.Sir』

「では始めよう。俺達の、OUTER HEAVENの完成を祝して――」

 

 10秒後、上空から次々と地上を行く軍隊の列にむかって落ちてくる爆撃が始まると。列の左右から兵士が姿をあらわし、手にした重火器で次々と攻撃を開始された。

 そしてヴェノム・スネークは――ビッグボスは、その中の誰よりも真っ先に銃を手に列の中へと飛び込んでいた。

 

 

 

 武装国家、アウターへブン建設の最後として。

 ヴェノムはまず気がかりであったNGO組織、『楽園』を一度しか見たことのない怪しい熟女。エヴァを探し出し、彼女にこれを託すことができた。

 そうしてアフリカへと戻る彼であったが、その時も世界の目はすでにアメリカへ……そこに姿を現したもうひとりのビッグボスへと注意が向けられ、最後まで自由に動き回ることができた。

 

 彼がこの時、ついに海上プラント、マザーベースからついに撤収した。

 どうしても外に出せない。または動かせないようなものは。ひとつ箇所にまとめて、あの時のように海中へと沈めて封印した。

 

 とはいえ、全てをいきなり建設中だった土地に全ての人員を動かすわけにもいかなかったので。カバーストーリー通りにいくつかにわけ、アフリカから――いや、世界にその力を拡散させる。

 欧州に、南米に、そしてカナダに。ビッグボスの流儀を学んだ兵士達が、まだ小さいがその芽を新世紀には大きくなるまでに育ててくれるように、と放流させた。

 

 そうして細々と、なんとかやっているようにと見せかけつつ。

 怪しいばかりの収容所を基地に、基地を要塞に、そうやって時が来るのをずっと待っていた。

 

 ――そう、ずっと待っていた。あの時から。

 この日が訪れることを、世界にビッグボスの意思が示される日を。

 

 老いてもなを戦場では滾ることをやめない血が、真っ赤に燃え上がり。

 角を生やす悪鬼の形相となった男の体は、戦場に戻ってきたという喜びからか。みるみるうちに哀れな敵兵の返り血に汚れていく。

 

 

 

 それから少し、アメリカの中央情報局(CIA)は上へ下への大混乱の中にいた。

 血走った目の長官はFOXHOUNDの副指令、ロイ・キャンベルを怒鳴りつけて呼び出すが。彼が出頭するまでは、その怒りはまったく節穴の目を持つ部下たちに向けられることになる。

 

「探せ!ビッグボスを探せ!奴は、奴は――」

 

 国連に所属する列強すべての国で電波ジャックがされた。

 そこには、伝説のビッグボスが顔をはっきりとさらし。狂気に満ちた宣言を各国の言葉でおこなっている。

 

 ビッグボスがこれより建国したのは武装国家、アウターへブン。

 ここにビッグボスと彼が率いるアメリカの特殊部隊、FOXHOUNDが世界の紛争のお役に立とう――。

 

 ラングレー(中央情報局)は、アメリカは発狂しかけている。

 

 

==========

 

 

 作戦の発動を告げてより、臨戦態勢となった武装要塞アウターへブン内では素顔をさらすことはビッグボス以外は許していない。そして兵士達は左右に列を作り、最初の勝利を手に戻ってきたビッグボスを出迎えた。

 

「ボスッ、最初の勝利。お喜びっ――」

「……」

「申し訳ありませんっ、最初の勝利のお喜びを申し上げます!」

 

 戦場では残党狩りを指示して戻ってきたヴェノムの壮絶な姿に、そんなものは見慣れていたはずの兵士達も。言葉をつい、飲み込んでしまったようだった。

 真っ赤な血で染め上げられたヴェノムは立ち止まると、あごに手をやって「ふむ」と声を漏らす。

 

「あ、あのっ、ボス」

「そんなにおっかない顔をしていたか?俺は」

「いえっ、違います。そのっ――申し訳ありません」

「肩に力が入ってるぞ、ほどほどにしておけ。まだ、戦いは始まったばかりなんだからな」

 

 兵士達は笑い声を上げ、ヴェノムは「部屋に戻って血を洗い落としてくる」と告げてその場を立ち去る。

 

 

===========

 

 

 自分の部屋へと続く、誰もいない通路を歩いているのに。

 ヴェノムの耳には今もまだ、銃火器の咆哮とそれで倒れる兵士達の姿を感じていた。老いても数年、戦場に飢えつづけたせいなのだろう。またあそこに戻った喜びに体中の細胞が歓喜していた。

 

 そしてそのせいなのだろうが、心臓がドクドクとあまりにも激しく鼓動を打っている。

 

(もう若くはないんだぞ?心臓発作でもおこしたら、笑えない――)

 

 高揚感に包まれていたが。そのせいで浮かれすぎて足がもつれ、壁に手をやって体を支えた。

 

 

 息を殺して隠れていたはずだったこのアウターへブンであったが。それでも全てを隠し切ることはかなわなかった。

 最初はビッグボスへの恨み、またはあのカバーストーリーを信じて弱ったビッグボスの部下達を殺って名を上げようとする馬鹿者たちの相手をせねばならなかった。

 

 ヴェノムはそれが少年兵であるという理由以外では、一切の例外なしに攻撃してきた者達に情けを与えなかった。

 多分だが、戦場に飢えていたことで自分の暴力性を上手に扱えなかった、そういう部分もあったかもしれない。だが、そうやってこの場所の秘密は守り抜こうとしていた。

 

 今、ここにはワームも、ウォンバットも、そしてあれほど口を酸っぱくいったのにウルフというコードネームを手にして兵士になってしまったあの時の少女も、全員いない。

 

 仲間と呼べる者達すべてをこの戦いの前にして置いてきた。

 ここには自分ひとりだけ。

 

 心音がおさまらず、困ったことに呼吸がしづらくなってきたようだ。

 洒落にならない、とにかく落ち着かないと。

 

 部屋に入る、すると少し落ち着いてきたようだ。

 足取りもしっかりしてきたし、息苦しさもなくなった。

 相変わらず、ここには何もない部屋だった。自分の部屋はマザーベースでもそうだった。

 あそこでは時折、机の上にテープがレコーダーの横に山となって築かれていたことがあったが。

 

 今はそこに、一本のテープが置かれている――。

 

 ヴェノムはその前を通り過ぎると、洗面所へ向かった。

 義手で体を支え、流れる水道を右手ですくってのどを潤す。続いて顔を洗おうと頭を下げ―ー。

 

 左目から炎を吹き出したが、全身は氷点下までさがったかのように凍りついた。

 

 慌てて顔を上げ、鏡を覗き込んだ。

 そこにはあるべき顔がうつっていなかった。

 ファントムであることを隠すためにどうしても必要なもの、ビッグボスの顔が、鏡の中になかった。

 

 その代わりに別のものが、別の顔が―ー。

 

―ーまだ眠り続けるパスだったが、一刻の猶予もなかった。

――彼はゴム手袋を見せて言った「麻酔間に合いません。なしで、開腹します」厳しい判断だった。

 

 その彼の顔が、そこにはあった。

 ただ違うのはヴェノムの証たる。あの頭部から飛び出している、鉄で出来た角があるだけで―ー。

 

 生身の右手でその顔をなぞる。

 顎を、頬を、目元を――。

 指先はビッグボスのそれを示す肌触りであったが、視界に入るそれは別人だった。

 

 なにかはわからなかった。

 それが危険な一線をついつい踏み越えてしまったのだと思うと。

 背中につめたいものが走る。

 

 

――思い出したか?

 

 鏡の中の見知らぬ自分の背後に、こちらをそう呼びかけながら。

 ”もう一人の”ビッグボスが立っていた……。

 

 

==========

 

 

 FOXHOUND副司令官、ロイ・キャンベルは生きた心地がしないまま機上の人となっていた。

 CIAは大騒ぎだという。まぁ、当然のことだろう。

 

 ホワイトハウスではメディアに「情報の確認をしている」とだけ繰り返し。

 聞いた話では大統領は将軍連中を「信用できない」との理由で締め出し、スタッフがひっしにとりなしているらしい。

 そしてCIA長官はいつでも全てを放り出せるよう、辞表を隠しつつ、自分に後始末をさせようとしている。

 

 だが実を言えば、ビッグボスのこの動きにはまったく感じ取れなかったにもかかわらず。キャンベルは彼らしい、と思い。そして別にそれほど激しく裏切り者とは思わなかった。

 

 彼は兵士だが、兵士に近づけてはいけない。

 

 ビッグボスの帰還で意見を求められたとき口にした自分の意見を、政治屋どもは自分の都合のいいように解釈した。

 だからこれは彼らのミスであり、彼らが対処すべき問題であって。

 一定の非難は受け入れても、これまでのように従順に頭をたれて最後まで聞いてやるつもりはなかった。むしろ、彼らの元から解放されるチャンスではないかとすら考えていた。

 

 だが、それにしては奇妙なことがあった。

 

 呼び出しを受けて基地から飛び立とうとするキャンベルに、あのマスター・ミラーがいつの間にか近づいてそこに立っていた。彼には少し話したが、その内容は意外なものだった。

 

――グレイフォックスが、連絡を絶ったのですって?

 

 ビッグボスはかつての自分達の仲間が、なにやら危険な兵器を手にしたことを知らされ。その調査としてFOXHOUNDの隊員から最高の人物を選出し、ビッグボス自らがバックアップを率いる手はずであった。

 だがその部隊はここにはない。

 彼らはビッグボスの声明と同時に、ここから姿を消している。

 

――長官はきっと、我々に事態の収拾をのぞむでしょう

 

 自分はお役ごめんだろうというと、ミラーは首を振ってそういった。

 キャンベルにはその意味が理解できなかった。隊に人はすでに残されてはいない。長官が「なんとかしろ!」と叫んでも、うちではどうすることも出来ないのだ。

 

――これを。きっと役に立つでしょう

 

 プラスチックケースの中からファイルを取り出してきた。

 一枚のそれは、一人の新兵についてのデータが記されていた。

 

 ソリッド・スネーク

 

 最終テストを終えたばかりで、まだ部隊では新人ですらない若者である。

 だが、使うとするなら確かに彼しかいないだろう。それでもキャンベルは迷っていた。

 

――大丈夫ですよ、彼ならばやってくれるでしょう

 

 サングラスでいつも感情を読ませない彼だが、このときの彼はどこかいつもと違っているようだった。

 

――英雄を倒すのは剣だけではありません。このような毒が、よく効くものです

――今頃は彼も……

 

 謎めいた言葉で気がつかなかったが、思い返せばやけに怨念じみた言葉ではあったかもしれない。

 だが、それだけを口にするとミラーは立ち去り。自分はあわただしく出発することになった。

 

 あれはどういう意味だったのだろうか?




続きは明日
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