我等はピースウォーカー
あばよ さらば スペイン娘
あばよ さらば スペイン娘
船長殿の 命令だ
(銛手と水夫の歌 『白鯨』より)
・我等はピースウォーカー
時代は変化する。
英雄もその顔を変えて戦場に立つ。
そうだった。いつもそうだったはずだ。人の歴史は、そうやって作られたのではなかったのか。
時は1974年、南米はコスタリカ。
ここにはかつて祖国のために任務には命を投げ出すと断言していた1人の兵士がいた。任務から戻ると英雄と呼ばれ、最高の戦士と称えられたその男は。この時は祖国を捨て、この国の僻地からこぼれおちまいと仲間達を連れて必死にしがみついていた。
彼を知り、その枯淡の生活を知れば国がなければ英雄もこんなものなのだと人は哀れみ、笑ったことだろう。
だが、時代は彼をそのまま放っておこうとはしなかった。
戦場は英雄をそこへそれまでと同じく、当然のように導いた。
それがピースウォーカー事件である。
正式な軍を持たぬコスタリカで。
この他国の大地で冷戦の前線で戦うCIAとKGBの激突。
一見して戦場とは分からぬこの戦場を、男は蛇のようにスルスルと潜り込み、泳ぎ回る。気がつけば冷戦を終わらしかねない。いや、世界を終わらせたかもしれない悲劇は何事もなかったかのように回避され、事件は終わっていた。
そして問題だけが残った。
この事件で生まれた兵士が率いる国境なき軍隊、強大な力を持つMSF。
最先端を行く技術の結晶、二足歩行兵器メタルギア。
そしてそれに搭載され、運用も出来る一発の核ミサイル。
世界はこの軍事力に怯えながらも、一方ではどうにか自分達のために使えないかとも考え始めていた。
そんな調子だったから、この時は誰も彼等に手を出すとは思えなかった。考えもしなかった。
そう、その翌年。1975年が来るまでは……。
ひとつの情報が、闇の中を切り裂く雷のように、光となって巷に流された。
それはある男の心臓に向けて放たれ、弧を描き。たっぷり塗りつけられた毒の矢じりからは熟したイチジクの果実の匂いに似たものが混ざっている。
そうだ、これは特別な毒。
人の身体にある限り、この匂いに惑わされ。毒の強さに目を見張ることになる。
だが、この毒矢に射抜かれたものがそれを知ることはない。
そして誰もそれに気がつくことはない。未来にあっては神の力を手に入れる男がいたとしても、それは”今”ではないのだ。
この矢は必ず目的を果たす。
心臓を貫き、息の根を止めてみせる。
世界は偶像が崩れ落ち、息絶えることを知るだろうが、それだけだ。
世界はあるがままに続いていくだけなのだ。
しばらくは一日2回投稿(朝と夜)を予定しております。
それではまた明日。