それでは本日分の投下。
「待ってくれ、話しが違う」
――もういい。変更は決定事項だ
「撃たせないための抑止力を作る。そういう約束だったろう」
――そうだ。その考え方には異論はない……。
「だから僕は開発に協力したんだ。僕の創造物にそんなことはさせない!」
――創造物?(苦笑)アレはそもそもお前のアイデアではない、盗作だろう?
「盗作……?違う!元はといえばアイデアはあんたが東側から盗んできたんじゃないか!」
――博士!それならそれでもいい、盗作のことは黙っていればいいことだ。これが成功すればお前はこの学会を大手をふって歩くことが出来るんだぞ?
「僕を……利用したんだな?」
――お互い様だ、私は再び本国のCIA長官の座を。お前は学会を闊歩できる脚を、手に入れることが出来る。
「許さない」
――残念だ。では貴様の脚(ウォーカー)をもらっていく。
「待て……待ってくれ」
(ピースウォーカー事件、ファイルナンバー47.コールドマン支部局長とエメリッヒ博士の最後の会話、事情聴取からの再現テープ から)
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連れ帰ったクワイエットを見て半狂乱になったカズヒラ・ミラーの”おかげ”で、マザーベースは一気に騒がしくなった。
が、かえってこれは良かったのかもしれない。
今回の作戦は数段構えという特徴があり。クワイエット捕獲からすぐにヒューイ回収作戦がはじまっていたが、それはマザーベースのごくごく一部のスタッフにしか知らされていない極秘作戦でもあった。
今回の目標、エメリッヒ博士は9年前のMSF壊滅の最重要参考人である。
だが、ダイアモンド・ドッグズに在籍しているMSFの元スタッフにとって彼はすでに裏切り者であり、憎悪の対象でもあった。助けて連れてきても、怒って頭に血を上らせた彼等がヒューイを害さないという保証はなかった。
当初はこのあたりの秘密をどう万全を期すかと頭を色々とひねっていたわけだが。カズヒラとクワイエットの騒ぎでマザーベースは騒然となって皆が注目した。
つまりは、いい目くらましにはなったわけだ。
先にも言ったが、参加した全スタッフも今回は最長時間の作戦を覚悟していた。
クワイエットを連れて戻ったスネークも、数時間後にはマザーベースにいる者が気がつかないうちに再びアフガンへと戻っていった。そこでスクワッドのエスコートを受け、大型発電所の奥への潜入を予定している。
カズヒラには頭が冷えるまでは作戦室には近づくなと言っておいた。
頭が切れるし、冷静な男だ。ちゃんと切り替えて、作戦室に戻ってくるだろう。
『こちらスクワッドリーダー。今、蛇が潜る。蛇が潜る、どうぞ』
元気な男だ。
どうやらボスはスクワッドとの合流と同時に、さっそく単独潜入すると決めたらしい。
「わかった、スクワッドリーダー。ワスプ、キャット、ラム達も潜らせろ。必要なら発電所内を巡回している兵達を抑える。ハリアーはポイントについて狙撃の準備。
スクワッドリーダー、聞こえるなゴート?」
『はい、オセロット』
「ハリアーのスポッター(観測手)はお前がやれ。ここから何が起きるか分からん。お前の判断で部隊を動かせるようにする必要がある」
『了解』
「全員集中しろ!ボスの名を汚すなよ」
これでいい。
部屋に落ち着きを取り戻したらしいカズヒラが入ってくるのをみながら思った。後はビッグボスからの連絡を待つだけだ。
深夜に近いとはいえ、そこはあまりにも人気がなかった。
スクワッドの連中も大型の施設に似合わぬその静けさに困惑しているようだったが、やるしかない。
『ボス、キャットです。車両が入ってきました、お気をつけて』
「……」
丁度、奥へと続く門の隣にある。職員の出入り口の鍵を解錠した直後だった。
声を出せないので、マイクをポポンと叩いて了解した旨を送る。
驚いたが、カメラはないのに。車両が門に近づくと自然とそこが開かれて迎え入れようとする。スネークは門の影から素早く車の影に小走りして入りこむと、ゆっくりと進むそれの後について門の中へ侵入を果たした。
奥には切り立った崖をくりぬいたのかと疑いたくなるほど、見たことのない巨大なハンガーを真昼のように煌々とライトが照らし。技術者らしき連中と兵士とが、大勢で忙しくしているように見えた。
だが、スネークが一番衝撃を受けたのはそこへと収められていくいく2足歩行の機械の影をチラと見たからである。
2足歩行戦車、メタルギア!
その兵器の誕生から奇妙な縁があるスネークは、複雑な気持ちでそれを見ていた。
だが、不思議な話でもないだろう。あのヒューイはかつてストレンジラブと共にMSFで。そこにジ―クというメタルギアを開発し、完成させていた。サイファーの元でも同じことをしただけなのだ。
こんな物騒なものを生み出せるのだから、あの恨み骨髄のカズが「ヒューイの奴をまた俺達がつかって(利用)やる」などと凄い顔で吐き捨てるのもわかる気がする。
「待ってくれ!話しが違う」
懐かしい声、そして懐かしい言葉だった。
ヒューイ。ストレンジラブ博士――彼女にそう呼ばれて喜んでいた彼は、あのピースウォーカー事件ではCIAの南米支局側について幾多の無人兵器の試作品を作りだし。
CIA南米支局長、コールマンのブチ上げた核抑止論に同意してピースウォーカーを開発。そのコールマンと決別した時、彼は言っていた。
――僕は、僕はもう、科学を捨てる。このままじゃ確実に地獄に堕ちるだろうから
そう言う彼に自分は案内状を渡した。
結論を出すのを急ぐことはない、天国の外へ来てみないか、と。そこから連れ去られた彼は、いったい”どこに今はいる”のだろうか?
天国?地獄?そこに興味がある。
「変更は決定事項だ」
繰り返される返事、今だに開放(自由)を手にしてないのは悲しいな。ヒューイ?
見た目にほとんど年齢が変わってないようにみえるエメリッヒ博士と、あの日そばで見つめあった異形の男。
兵士と技術者たちの中からスカルフェイスはすぐに見つけられた。
「こいつはまだ動かせない。遠隔操縦やAI制御は、実用段階になってない」
「今更AIなど誰も欲しがらん――10年前の失敗があるからな」
「ああ……ただ有人機にするにはまだ――」
彼等の会話は続く。
『ボス』
オセロットの緊張した声がそこに割り込んでくる。
『不味いことになるかもしれん。少し前、また例のメッセージが発信されたのがわかった。今回はどうも終える前に電波はなくなったらしい。今、報告があった』
「……」
『エメリッヒは殺されるかもしれないぞ、ボス』
不安は的中した。
兵の1人が、自身の研究の状況を嬉々として口にしているヒューイを無視してスカルフェイスに何事かを耳打ちした。それで空気が変わるのを感じる。遠目でもわかる、あの異様な冷たさと殺気。助けは間に合わなかったか?
スカルフェイスはヒューイの背後に立つと、何事かを囁いていた。そして突然叫び声を上げる。
「お前の脚は返してもらう!」
そう言って不格好に腰から下の下半身に張り付いている、ヒューイの今の鋼の脚のワイヤーを切ると階段下へと突き落とした。
その姿があの時と――コールマンとの決別――何から何まで再現していて、ヒューイになんともいえない哀れみすら感じる。
「この僕を始末するつもりなのか?」
やけに頑張ってそう問いかけるヒューイに、スカルフェイスは近づくと上から覗きこみながら
「……はわたしが引き継ぐ」
そう告げると、死刑宣告でも受けたかのようにヒューイは真っ青になり。
続けてスカルフェイスは博士の胸ぐらをつかみ上げ
「いいか、わたしは闇の住人だ。だが、貴様のような腐った男と一緒にされたくはない。裏切り者め。いずれ仲間達の手にかかるのがふさわしかろう」
そう言うとヒューイを放り出し。続いてベースキャンプに向けて撤退と、この場所の閉鎖を宣言した。
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(面倒なことになったな)
あれほどいた人間がスカルフェイスの号令であっという間にこの場から立ち去ってしまい。残っているのはゴミなどを片付けている数人だけしかいなくなった場所を見つめながら、隠れていたスネークは考えていた。
今回の目標であるヒューイはすでに大分前にここから連れだされてしまった。
閉鎖すると言ったのも本当らしく、メタルギアらしい存在を隠したハンガーを閉じた分厚い扉はしっかりと封印がなされているようだ。
こうなるとヒューイを追うのが一番か……。
仕方なく自分も撤退して、大型発電所まで戻ってくるとなにやら雰囲気が違うのがわかった。
門の隙間から覗くと、どうやらヘリを始め。人員達が撤収する最後の便の準備中らしい。
「スクワッド、聞こえるか?」
『こちらスクワッドリーダー』
「状況を」
『約30分前、門からエメリッヒを連れた一団がここを離れました。その後も続々とあらわれて、ここから立ち去っています』
「他には?」
『キャット達3名を、エメリッヒの追跡に出しました』
「よくやった」
ヘリのローター音が先ほどから喧しい。夜明けまでまだ数時間あるが、それにしたってこれだけ大きな音を響かせれば山向こうにだって聞こえてしまうだろうに。
ふと、考えがよぎる。
「スクワッド、1つ質問がある」
『はい』
「今から俺とお前達で、ここを制圧できるか?」
『!?』
「ヘリを落としたい。そうなると騒ぎになる、制圧したほうがいい」
『待て、スネーク』
カズが声を上げる。
『そんなことをしてどうする。あんたはただ、そこを立ち去ればいいだけだろう』
「カズ、いまは報告を長々と出来ないが。ひとつだけ中で見つけたものがある。情報端末に残したから解読してくれ。
それとこのヘリは落としたい、というのが一番だが。なによりもそろそろお前達の力をもっと見せてもらいたいと思った。俺の期待に応えられるのか?」
『その言葉を待っていました、ボス!』
「ヘリを落とす武器はあるのか?スクワッドリーダー」
『観測手をしている自分がRPGー7を』
「よーし、ゴート。俺を使ってみろ、スクワッドリーダーとしてお前が指揮をとれ」
『了解!』
カズはその言葉にもう一度止めようかとしたが、オセロットが無言で彼の肩に手を置くと「今回は諦めろ」と首を振ってみせた。スネークには何か考えがあるのだ。それを邪魔する理由はない。カズも黙るしかなかった。
それはヘリが最後の飛翔へと機体がゆっくり上昇しようとしていた時だった。
発射音と共に、崖上から一本の太く赤い火線のびてヘリの運転席へと炸裂した。「敵襲だ!」の声と共に、近くに身を隠そうと走り出し始めた連中の数人が、待ってましたとばかりに何者かに襲われて宙を舞った。
それでも無事だった兵達は、慌てて無線に連絡を入れようとするが。
彼等の前で発電所の電気の制御盤や、通信装置が次々とC4爆薬によって破壊されていくと。真っ暗な闇の中では消音器をつけた銃声があちこちから無言の兵士達によって発射される気配がする。
結局3分かからずに、ここで生きているのはスネークと彼の部隊の兵士だけとなり。退却中の兵士が準備していた物資が積み込まれたトラックやジープをフルトンで回収を開始する。
「カズ、いいか?」
『どうした、ボス?』
「ヒューイをこれから追う。なにかありそうだが。ここの奥は閉鎖され、封印までされ、どうにも簡単には開きそうにない。押し入ろうとしても警報装置だってのこしてあるだろう、無駄だ」
『わかった、それがいいだろう。さっきあんたが送ったファイルの情報だが、どうやらサイファーのベースキャンプの位置情報が載っていた。
一応、追跡しているキャット達にも知らせておくが、俺もそこにむかうのがいいと思う』
「それなら、そこの途中にある監視所に対してここから救援要請を出してくれないか?陽動になる」
『いい考えだ。諜報班にさっそくとりかからせよう』
続いてボスは残っているスクワッドを集めて今後について語る。
「よし、まずDDを返してもらうぞ。ゴート」
「勿論ですよ、ボス」
スクワッドリーダーの足元から出てきたDDは、スネークの横に歩いていくと、腰をおろして眠そうな大きなあくびをひとつする。
「どうやら簡単には終わってはくれないようだ。全員集中を切らすなよ?
ここで隊を2つにわける。俺とDDは観測所をすり抜けて博士を追う。お前達は遠回りになるが、奪った車両を使っておなじく先行している連中を追うんだ」
「一緒ではないのですか?危険です」
「次は一緒じゃない、それだけの話だ。それに1人じゃない、俺の相棒はここにちゃんといる」
相棒は先ほどと違い、きりっとした表情でスネークの隣から隊員達を見上げている。
この犬は人の言葉を理解しているようだった。
「DDに文句があるか?」
「――了解、ボス」
「いい子だ。それに遠回りすることになるからお前達はのんびりとは出来んぞ。予想では、やつらのベースキャンプ前で集合することになるだろうが、お前たちが遅刻をしても俺は待たないぞ」
「それなら俺達が先についてボスを待ちますよ」
「言ったな、ゴート。スクワッドはお前に任せる、この先もやってみろ」
「了解、それではまた」
スネークは踵を返すとDDをつれて道を外れて姿を消し、スクワッドはジープ一台に乗り込むとエンジンをスタートさせ、スネークとは反対方向の道に飛び出していく。
また明日。