真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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お待たせ、投稿時間忘れてたよ。
それでは再開します。しばらくお付き合いください。


カラーズ
空白時間


「彼は老人で、メキシコ湾流で小船に乗って、一人で魚釣りをしていたが、一匹も釣れないまま、すでに84日が経過していた。」

                                                 (「老人と海」冒頭より)

 

 

 ヒューイの新たな情報をもって、彼への尋問はそこで一旦打ち切られることとなった。

 新証言が出ないので彼を裁判にかけることも出来ず。逆にサイファーについては新たな活動拠点を話したので、そこに集中するために時間がとれなくなったということだ。

 

 長年の念願であったヒューイを手中に収めたことで、カズヒラ・ミラーの憎悪は今やはっきりとサイファーとスカルフェイスに向けられていた。

 彼は早速、ダイアモンド・ドッグズの諜報班を中心にした軍事資産のほとんどをアフリカにふりわけて送り込む。サイファーが、スカルフェイスがサヘラントロプスを失い、ソ連という大国から離れてアフリカに消えていった。

 このまま時を与えて逃がすつもりはない、情報の中のわずかな痕跡をにおいのように感じ取り。追い続けなくてはならない。

 

 

 こうしたダイアモンド・ドッグズの姿勢はのちに大きな禍根を生むことになるのだが、そんな事を考える余裕をこの時の彼等はすでに失っていた。

 

 

==========

 

 

 新しい場所(ステージ)を前にして、ダイアモンド・ドッグズという組織も大きくその姿を変貌させようとしていた。

 最初こそ開発班と拠点管理班だけで細々と運営していたこの組織だが。いまやアフガニスタン最大の軍事組織へと急成長しており。

 グループに至っては、支援、医療、戦闘とより専門分野に別れてさらに優秀な人材を広く求めていた。

 この頃になると、もう前線からビッグボスが兵士を攫ってきて説得するよりも。会社の規模とビッグボスの伝説、復活からの活躍を耳にして志願してくる数の方が圧倒的多数となっていた。ヨーロッパ、アジア、米国に南米と、実に多様な人種がわざわざここを目指して自分を売り込みに来るのである。

 

 

 だが、アフリカへのルートを作るために忙しいカズにかわり、オセロットが1人でそいつらの面倒を見なくてはいけなくなった。仕事量は一気に倍増して大変だったが、苦労ばかりではない。

 特に新たに発足された戦闘班の存在には心強いものがあった。

 

 これまではボスが大きく稼いで、それを頼って運営されていたダイアモンド・ドッグズに。組織化され、訓練された質の高い部隊を依頼人の元に派遣することで、利益を産み出せるようになったことが一番の収穫だった。

 それによって人的損耗もおこるようになったが、あとからあとから湧いてくるように集う志願者たちのおかげで。彼らへ割り振られる仕事が滞ることはなかったし。

 慢性的な資金不足に怯える必要もなくなっていた。

 

 反比例するように、ビッグボスの出撃頻度は大きく減ることになった。前線こそ自分が最も生きる場所と考える本人にとって、これはうれしい話ではない。

 しかし、彼は彼でやらねばならないことがあった。

 

 

 ”ビックボスの部隊”、スクワッドの解散と再編成である。

 スネークはオセロットとカズに話した翌日、医務室からまだ動けないスクワッドメンバー達を見舞う席で、部隊の解散を彼等に告げる。

 

 この時、さすがに気落ちする彼等に言った言葉が、その後の新兵達のやる気に火をつけたと言われたスピーチをおこなった。

 

「ダイアモンド・ドッグズはこれから新たにアフリカへと向かう。俺とカズが、そう決めた」

 

 力強いその言葉だけで、下を向いていたベッドの上の全員が、ビッグボスの顔を見上げていた。

 

「俺達はサイファーを追う、今までもそうだったが。それはこれからも続く。

 お前達に伝えておく、新しく発足した戦闘班にお前達は入っている。それは俺の部隊でみせたお前達の力を認めたからだ。

 俺も、最近では戦闘班に活躍を奪われて暇を持て余している。だが、これはすぐに終わる」

 

 そう言うと病室の中を見回し

 

「アフリカで俺達は、再びゼロからのリトライをしなくちゃならん。だが、それはアフガンでもそうだったことだ。

 だから俺は今度こそ”俺の部隊”を作るつもりでいる。お前達、自分がそこにふさわしいと思っているか?そう思うなら、もう一度名乗りを上げるといい。

 すでにお前達とはいくつかの戦場を共に歩いた戦友だ。お前達のその力をもう一度、今度は俺自身にみせつけて部隊に入るというなら、喜んでその時は迎えよう」

 

 実を言うと、ボスはリーダーのゴートと女性3人以外の実力に不満を持っていた。

 私生活では度々自分を特別のように吹聴しているところを何度か見かけたことも、噂に聞いていた。

 訓練にしても、彼等にはあまり成長も見られない。従うことは得意でも、自分で考える力と判断力に疑問があった。それは正規の軍の規律に触れていない傭兵だから、ではすまない。

 それなら女性兵士たちの存在理由にならない。

 彼らは質のレベルで圧倒的な物足りなさを感じさせた。それがスネークに再編成の必要を感じさせたのだった。

 

 

 

 数日後、キャットとヴェイルは病室を出るとそのままダイアモンド・ドッグズから去っていった。

 去った理由は聞かなかったし、興味もない。彼等は傭兵なのだ。

 自分が戦う戦場を選ぶ権利がある。

 風の噂ではキャットは別のPFの誘いを受けて軍事インストラクターへと転職、ヴェイルもそれとは別のPFに高額を持ちかけられてうつったらしいと聞いた。

 

 

 オセロットとスネークが共に兵士の訓練を見ているときは、近くにはかならずDDがいた。

 お気に入りの2人が側にいるのが満足しているようで、そばで銃をバンバン撃っているのに昼寝をするか。もしくは視線でチラチラとDDをみているやつに腹を見せて甘えた仕草を見せつける事で、訓練中のそいつの集中力を乱せては遊んでいる。

 

 そんな時、スネークは良く首筋に鋭い視線が差すのを感じて周囲を見回した。

 大概は見つかるのだが、決まって遠くの水上プラントから睨むようにこちらを見ているクワイエットの姿があった。あの女、本当に気ままに出入り出来て。好きに振る舞っているらしい。

 

「あんたがここにいるんで、怒ってるんじゃないか?」

 

 そのことで顔をしかめているスネークに、オセロットは笑いながらそう言った。

 なんでもクワイエットは檻の中でも欠かすことなく筋力の低下を恐れるように鍛えており、決まって最後にプラント同士を結ぶ橋の上を散歩しているのだという。

 

 

 一度だけ、スネークはクワイエットのいる医療プラントの特別房に行ってみたことがある。

 例の部下達とは別の日にいったのだが、そこでは日がな一日中をUKミュージックをながしている。これは別にクワイエットへの嫌がらせとか拷問というわけではなく、これがないとクワイエットの側に見張りが恐ろしがって置いておけないので仕方なくやっているということだった。彼女を兵達が恐れ、不気味に感じて忌避しているという話は本当らしい。

 

 彼女の檻はプラットフォームにつくられたくぼみに用意され。

 本人はまったくのこと涼しい顔で、虜囚だというのに余裕があるのかブラをはずして体をうつぶせに横になっている。

 

(目の毒、なんてもんじゃないな)

 

 戦場では女性がしばしば暴力にさらされることがある。

 クワイエットは特別に美人というわけではないが、それでも目はな顔立ちは悪くないので、男の兵士達を性的に刺激するのではないか、などと思ったが。

 どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。

 

「クワイエット、何故彼女は服を着ていないんだ?」

「ボス!!……別に、わざとではないんです。オセロットの命令で」

「オセロットが?」

 

 どうやらなにかあるらしい。

 

「クワイエット、俺と話せるか?筆談でもいいぞ」

 

 こちらに意識を向けている癖に、彼女はわざと気にしていないという態度で横になったまま無視している。

 しばらく待ったが、やはりこちらに興味を示さないので諦めた。どうやら今は、この顔とは話したくないと、このお姫さまは言いたいらしい。

 

 

==========

 

 

 まずいことになった。

 カズヒラと諜報班は苦戦していた。

 現地に乗り込んだ諜報班は、次々とその世情の不安定さに悲鳴を上げ始め。それを叱咤激励して続けさせたカズヒラ・ミラーも。一か月を過ぎ。遅々と進まぬ現状の中で諜報班から15人目の犠牲が出たことでさすがに考えを改めざるを得なくなった。

 

 とにかく最悪なのである。

 

 この時期、アフリカは白人支配からの解放を成し遂げようとしており、アパルトヘイトの終末から開放への希望を持とうという空気はあったものの。実際はそれに代わって政情不安と飢餓で、混沌とした形のない憎悪がそこかしこで満ちていた。

 特に飢饉に関しては致命的なものがあり、国連の活動で国際的な支援が開始されようとしていたけれど。

 それが後に新たな火種を呼び込むのだと指摘する人は、誰もいなかった。知らなかったか、それともあえて口にしなかったのであろう。

 

 政府も軍も、とにかくまったく話が通じない。

 こちらが武器を持たなくてもホワイトカラーの白人と見て取ると、むこうはまったく会話ができなくなるらしい。交わした約束は破られ、こじれ、遅々と進まなくなる。時間の無駄だった、カズヒラ・ミラーは別の方法をとらねばならなくなっていた。

 

「オセロット、俺は5日ほどイギリスへ行く」

 

 オセロットはいぶかしそうにしていたが。カズはアフリカのルートのためだ、とだけしか言わなかった。

 そのかわりに姿の見えないビッグボスがどこにいると聞く。

 

「あの人はアフガンに戻ってる。任務があったんでな、退屈なんだろう」

「なんだと!?勝手にそんな事を」

「察してやれ、カズヒラ。ボスも口では言わないが、サイファーの後を追いたいと思ってくすぶっていたくないんだ。体を動かせば、少しは不満も収まる」

「ボスをまるで子供扱いだな。とにかく、俺は行ってくる。報告は戻ってからになるだろうな」

「それなら例のボスの部隊だった連中を連れて行け。あいつ等もお役御免で退屈している。警護にはぴったりだろう」

「――ボスはまだ、新部隊のテストについては言わないのか?」

「あんたを待っているんだろうな。アフリカでは出なおす、と口にしたからな」

 

 サイファーが逆にこちらを見てないともわからないので、カズは護衛を連れてイスタンプールを経由してロンドンへと向かった。ロンドンでカズは、多くの人と出会ったが。最終的には2人に決めた。

 

 1人はホテルのバーでカズに手を差し出してきた。大柄の、それでいて隙のない眼をした金融屋だった。

「はじめまして、私。ロイド&レオダニス社のベンジャミンと言います」

 もう一人は高級レストランに招待してきて、その席で手を差し出してきた。小柄で、東洋人の血が混ざった柔和な笑顔をむけてくる。

「はじめまして、カズヒラさん。わたし環境保護団体”緑の声”を代表してます。ユン・ファレルといいます」

 

 アフリカから白人達の手は確かに離れようとはしたものの。

 やはりこの大地に眠る豊かな資源を放っておくことなど考えられない彼等は。次に企業と非政府組織を送り込むことでアフリカに関わっていこうとした。

 

 つまりかつての植民地としたアフリカからは、正しく白人を追い出せなかったのである。

 

 

==========

 

 

 ついにカズがアフリカへのルートが用意できたと口にしたのは、サイファーの一件から2ヶ月を過ぎた頃だった。

 だが、彼が口にした依頼にビッグボスは難色を示す。

 

 アンゴラでの最初の任務。

 それはなぜか環境汚染に構わず続けている油田の操業を止めさせるという、なんともしまらない話に聞こえたからである。

 だが、カズの話ではことはそう簡単な話ではないらしい。

 

 諜報班の調べで、確かに油田のパイプラインが破損して汚染が広がってはいる。ところが、その油田を動かしているのは武装組織で。それは最近では米国とのつながりから、西側の武器を入手しているという話があるのだという。

 いささか乱暴な気もするが、これをもってどうもカズはこの組織がサイファーと繋がりを持っているのではないかと言うのである。

 

 なにやらタヌキに化かされているような、漠然とした話ではあるものの。ここまで時間がかかった上に、これ以上話せない事情もあるのだろうと思ったら。無下に却下とは口にできなかった。

 と、いうよりもスネーク自身もサイファーを追うことにこれ以上、待つのは苦痛だったのだ。

 

 カズの話が終わると、つぎにスネークとオセロットが席を立つ。

 今回のブリーフィングだが、いつもよりも参加する人の数が多い。だいたい戦闘専門だけで50人近くいる。それが今回のスネークの目的ではあったのだが……。




ではまた明日。

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