真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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油田制圧作戦

 出撃前、新しい場所での最初の任務に誰しもが緊張感を持っていた。

 それはこのビッグボスと呼ばれた男でもそうだ。

 ヘリポートに姿を現した今日の彼は、アンゴラの大地、赤土に合わせた迷彩服の柄が毒々しい。

 オセロットが「乱気流が発生している、振り落とされるなよ」と声をかければ、スネークは「わかってるよ、そっちも遅れるな」と返す。

 

 そんな2人を見送りに出て来ていたカズの雰囲気がこの時、変わった。

 いきなりピリピリしだして、周囲が驚く。それでもカズはやめない、一歩、一歩。ゆっくりと進みでてくる。

 

「どうした、カズ?」

 

 殺気立ってヘリに乗り込もうとしているのかと心配になったスネークがそう声をかけると、オセロットの隣にいたDDが悲しげにクーンと鼻を鳴らした。

 ミラーはいきなりヘリの扉を自分の杖で一度だけ叩いた。

 それ以上は前に出るな、という意味でやったことだが。相手はそもそもヘリに乗り込む気はなかったらしい。

 

 ヘリの横には腕組みしたクワイエットの姿があらわれる。

 ステルス能力を使って、ずっとここに潜んでいたのだろうか?そしてカズはそれに気がついた?

 

「クワイエット?」

 

 驚くスネークと違い、副司令官の声はやはり冷たくて低い。

 

「どういうつもりなんだ?」

 

 晴れの出撃に水を差すばかりか、この作戦にわざわざ顔を突っ込むようなまねをする敵の狙撃兵に苛立ち以上の憎悪を滾らそうとするカズに対して。そこに意外な助け舟をだしてくる男がいた。

 

「ボスと一緒に出撃したいんだろう」

 

 オセロットである。

 クワイエットが俺と出撃したい、だと? その言葉もショックだったが、あの日のオセロットの意味ありげな目つきの正体がこれだとわかった。

 

 理解した、理解不能な意味で。

 

 さっそくカズは怒鳴り声を上げた。

 クワイエットに対する憎悪よりも、彼女に対するスネークの対応から危険な未来を察して食い止めねばとカズの怒りの質は瞬時に変化していた。

 

「駄目だ、許さん」

「問題ないだろう、カズヒラ。”ボスと一緒”ならな。

 優秀なスカウト、狙撃の腕もいい。潜入時も邪魔にはならない。他の奴等と違ってな」

「ふざけるな!オセロット

こいつが優秀だと?なるほど、優秀な化物だ」

 

 カズの声はどこまでいっても冷たい。

 可能なら自分の手で、この場でこの化け物女を殺したいと言いだしてもおかしくない様子だった。

 するといきなりオセロットは自身のリボルバーを抜くとそれをクワイエットに涼しい顔で渡してしまう。

 

「おいっ!」

 

 落ちつけよ、とカズヒラに合図するとオセロットはクワイエットに言った。「こいつを通してみろ」と。発着状態にある飛び立つ直前のヘリの回転翼に向けて撃っても当てるな、と言ってるのである。

 

「何を言っている!?待て、機械を壊すだけだ!」

 

 相変わらず怒声を上げるカズヒラを一歩下げさせ。

 再びやれ、と口にする。

 

 とはいえオセロットは全面的にクワイエットを信用したわけではない。彼はリボルバー以外にも、一応だがマカロフ拳銃も隠し持っている。

 もし、この女が変心していきなりビッグボスに銃口を向ける気配をみせれば。すぐにもそれで女を殺すつもりではあった。

 

(これでわかる。お前は死にたいのか?それとも生きる場所を手に入れようとしているのか?)

 

 クワイエットは黙ったままだったが、答えはすぐに出た。

 左と右、両方の腕で3発ずつ。

 彼女は見事に全ての弾丸を回転翼に当てずに空に向かって弾丸を発射してみせた。

 オセロットに銃を返すと、こころなしか(どうだ?)と誇っているような表情を見せ胸を張る。化物ではない、この女も兵士だったのだ。

 

 カズヒラは何も言えずに、血を吐き出さんばかりの表情をしていた。いっそこの場でボスを撃とうとなぜしない、とすら言いだしかねない気配すらあった。 

 

「見ただろう?この動体視力。深視力も凄い」

 

 カズの不安は的中する。

 前に出てきたスネークの目は、あの日彼女と対決した時のようにキラキラと輝いていた。

 

「一緒に来るか?」

 

 素晴らしい技術を目にして、ビッグボスは自然にかつての敵を誘おうとしている。

 

「駄目だ!本気なのか、スネーク?

 この女は口がきけない。まともなコミュニケーションが取れない化物だ。忘れたか」

 

 スッとクワイエットがすべての視線から目をそらした。

 カズはそれで自分が勝った、そう思った。

 

「そうだな……」

 

 スネークも、相手が目をそらしたのを見て副指令の意見に同意すると。DDを連れてヘリの中へと乗り込んだ。

 クワイエットはヘリがマザーベースに背を向けて飛び去るまで、じっとそれを見続けていた。そして彼女をどうやって監房まで戻そうかと、遠巻きに頭を抱えている巡回兵の前から消える。

 

 

 カズはそんなクワイエットの背を見て密かに歯ぎしりをしていた。

 苛立つ、ふざけた女だと思っていた。

 サイファーのくせに、ボスを殺そうとしたくせに、あいつはそれでビッグボスの誰もが希望する相棒になろうというのか?カズはクワイエットに関しては、嫉妬とは違った感情から憎悪している。

 

 スカルズへの恐怖、サイファーへの憎悪。それが絡まって、防衛本能として即座に殺せと叫び続けているのだ。だが、この男は本来非常に怜悧な男なのである。

 感情を抑制し、自分を理解することで問題を対処する。それが出来る男なのである。

 そんな男でもビッグボスがあの女に見せる甘さはどうにも許せるものではなかった。

 サイファーを憎んでいるのではないのか?その女は、あのスカルズの同類。化物なのだから曲芸しながら人を殺すことがお手のもの、そういうことではないのか?。

 

 なのに、なぜかそれを彼は賞賛し。黙っていれば簡単に”俺達の仲間”として容易に受け入れてしまおうとするのだろう?

 

 ダイアモンド・ドッグズにボスをようやく迎え入れた時、スネークは静かに口にした。

 俺たちは未来のために戦うのだ、と。

 ボスがあの女を認めるのは、サイファーのあの化物女に未来を見ているからとでも言うのだろうか?

 

 

==========

 

 

 スネークはピークォドの中で静かに、投下地点につくのを待っていた。

 DDは、乗ってから静かな主人にあわせ。じっと行儀よくその正面に座っている。DDの体は大きくて、よく見るとここでは窮屈とまではいわないが、まさに一匹だけで十分なスペースをとっている。

 

――匂いでわかるか、エイハブ?

 

 気がつくとDDの隣に、自分の正面にドッペルゲンガ―のイシュメールが座ってこっちに話しかけていた。彼からこうして話してくるのは、いつ以来だろうか?

 まだそれほど時は立っていないが、それでも喜ばしいことだった。

 

(あんたはなんて格好だ)

――おかしいか?

(緑林での迷彩パンツにブーツ。なのに上は肌(ネイキッド)だって?カモフラージュ率を考えてないだろう。それで戦場に立つというなら、どうかしているぞ)

――そうかもな。昔それで呆れられたことがある。だが……こういう開放感も味わいたい時もある

(それは……否定しない)

 

 スネークイーター作戦での記録、テープにあった交線会話を思い出せた。

 思わずにっこり笑みを浮かべてしまうと、DDは不思議そうにスネークを見返していた。

 

 

==========

 

 

 アンゴラはザイール国境付近。

 夕刻の迫る大地は、アフガンと違って赤い土の大地を覆う緑林が広がっているのが見える。

 さらには、眼下の川からはどうしようもない。原油が原因と思われる不快な匂いが立ち昇っていた。これがカズが話していた汚染されたという川であり、近隣の住人達はこれによって汚染された水で苦しめられている。

 哀れで同情する話、ではある。

 だが、やはりスネークの中ではどこか納得できないものも確かに残ったままなのである。

 

――わかるか、エイハブ?

 

 イシュメールは突然そう言った。

 

――わかるか、この大地の匂いを。ここには懐かしい匂いがある、俺とおまえが駆け抜けた。あの時の戦場の匂いを強くかんじる。わからないか?

(あの時?いつのことだ。そんな風に考えたことはなかった)

 

 だがイシュメールは答えない、かわりにそのまま話を進めていく。

 

――混乱と熱気が、徐々に恐怖の水位を高めている。支配からの解放、それを終えて人々は自由を夢見ている

(だが、政情は不安になるばかりだ。俺達もここに来るのに苦労していた)

――それはまだ、お前達がここの連中にとって”仲間”ではないからだ。わかるか?

(ふむ、なんとなくは)

――いや、その様子だとまだだ。ここもやはりベトナムなんだ。アフガニスタンがソ連のベトナムなら、ここは第三世界のベトナムだ。ただしここには人々の衝動に歯止めをかける大国の秩序がない。世界に比べる軍事力もない。

(……)

――そのせいで前の支配者の爪後に苦しんだ彼等は、互いに同じことを自分達の体にほどこそうとするのだろう。その自覚もないままに。愚か過ぎるが、人の欲望はそれほどに強く、制御は難しい。

(終わらない戦場、そこに作らねばならない俺達の天国の外側(アウターヘブン)、わかっている)

――エイハブ。人が無尽蔵に自身の幸福と自由を求めるように。俺達の見る地獄の底もどこまでも深い。すごしやすいからといって、ここで再び英雄とならないようにな

(英雄、にはなるな。それが助言か?)

――もう誰かの都合で平和をとりもどさなくてもいいってことさ。それだけだ

(……俺達は感謝を求めてはいなかったが、いつもそうして平和をとりもどしていた)

 

「ボス?降下まで一分です」

 

 スネークはパイロットの言葉に応えず。淡々と壁に掛けられた武器を手にして、準備を始める。

 ピークォドから飛び降りると、踏みしめる川の跡地は原油に汚染されてひどいものだった。匂いがきついせいだろう、DDが頭をフルフルふって必死になにかから逃れようと頭を振り回しているのを見て気の毒に思う。

 こんなところからはさっさと帰った方がいいかもしれない。

 

 

==========

 

 

 マサヤ村、現地ではワラ・ヤ・マサで呼ばれるそこの入り口にいきなり出た。

 ここでは一帯の村々を現地PFによって占拠されている。銃の力でそれを成し遂げたのだ。

 人の生活感はまったく感じず、夕刻なのにもかかわらず。今もなお響きわたる銃声、村の中では射撃の練習が行われているようだった。

 

 スネークがここに来たのは現地の人々の様子を偵察するという目的であったが。

 そこには兵士しかいなかった。

 わかっていたのだろう、もしくはこの現実をスネークに肌で感じてほしかったのか。

 無線の向こうから、カズヒラ・ミラーは無感情にたんたんとMSF壊滅後に世界中で誕生したPFという存在の本質を説明し始めた。

 

『あの時、俺達のMSF壊滅は世界に衝撃を与えた。当然だ、あれほどの組織が一夜にして消えたんだ。

 そして彼等は声を上げなかった。それはいい。

 しかし今度は我々を失ったという事実に困惑した。金で得られる即席の確かな軍事力。それを失ったことへの幻肢に苦しんだんだ。

 

 そこで生まれたのがPFだ。

 彼等は俺達のMSFの後継者のつもりだったろうが、実際はMSFの亜種でしかなかった。MSFという存在に必要不可欠だったあんたという存在。そのかわりを誰も用意できなかったんだ。

 だからPFはあくまでもMSFのような存在にはなれなかった。

 小規模で、兵達は金のために戦場に行く労働者でしかない。それでも国は小さく安いからと、彼等を雇って戦場へと送り出す。

 あんたがいない、それだけでPFは容易にその志も捨ててしまった。

 

 ここはそんな世界の最悪なサンプルの1つだ。

 PFは山賊と変わらない。どこかのだれかの金と支配のために武器をふるう。彼等の生み出す暴力の苦しみが、彼等の支配欲と金となって帰ってくるシステムにおとしめられている。

 スネーク、俺達はこういう世界でサイファーを追わなくてはならないんだ』

 

 あの鼻の曲がる様な匂いの立ちこめる河川側で発砲音は続いている。

 せっかくだ、それを見物させてもらおうと思い。村の中を突っ切っていくことにした。DDはこちらの意図を察知して、鼻を鳴らすが。それは当然だろ、と言ってるようにも感じた。

 DDのこういうところはオセロットの性格の影響を感じる。

 

「動くな!」

 

 配送所らしき近辺で作業している男にちかづくと、さっそく拘束した。

 ところが相手の反応が薄い。「?うぉあ?」と言って話が通じない。

 

『ボス、忘れてないか?そこの共通言語はパシュト―語だ。つまり……』

「また通訳を探さないと、か。なるほど――」

 

 そう言うと素早く絞め落とし。新しく一新された新型のプルトン装置で回収すると。今度からは村の中を人の目につかないように、DDと共に河川のほうへと進んでいった。

 

 

 

 

 そこには確かに地獄の1つが存在していた。

 断続的な発砲音に続いて、怒鳴り声のする方角を見てスネークは呟いた。

 

「少年兵か……」

 

 アフガニスタンではいなかった、とはいわない。

 あそこでも家族を、村を、母や妹達を守るために男達の留守中を小さな若い男達が武器を手にして守っているのは知っていた。だが、彼の目前にあるのはそう言う光景ではない。

 一列に並んだどこにでもいる服装の少年達の手には武器が握られていた。

 

「てめぇ、もう何度言わせりゃ気がすむんだよ!!」

 

 列の中の1人が動きがよくなかったようだ。

 それまでにもされたのだろうが、その顔は大人に殴られすぎたのか腫れあがり、鼻血もたらしたままだった。

 

「しっかり構えろ、ちゃんと狙え。そいつの一発の弾はお前の命じゃ買えないんだぞ」

 

 そんなわけがない。

 ライフル弾一発の値段などたかが知れている。

 怒鳴られている少年は顔がはれあがったせいで目が塞がれているのだろう。狙っても、どこかおかしいのは当然と言える。

 なのに訓練を見ている男はその子の尻を本気で蹴り上げると「もう一度、今日は最後だ。撃て!」と命令を下す。

 ふたたび子供達の銃が火を噴き。汚れた川の表面に穴を穿つ。

 

「訓練で実弾とは、随分と余裕なんだな」

『いや、ボス。それは多分違う。ここでは少年兵は消耗品として扱われている。何かがあれば兵士達の前に立ってまず戦うのが彼らだ。弾よけで終わらないように、ああして戦うことだけを教える。そして――』

 

 撃ち終わると、並ぶ子供達の端から。訓練をしていた男は、個人個人のわるかったことを静かにそれぞれに簡単に指摘して回る。

 遠目だが、腰を据えろとか、目を閉じるな、とか。まぁ、それほど間違ってはいないことは言っているようだが、そもそもあの様子だと、身を隠せといった基本すら教えてないようだ。そうなるとカズの言うとおり、戦場でもああやって”敵の前に己の体をさらしたまま”撃てといっているのだろう。

 

 全員の指摘を終えると、男はそこでいきなりあの少年を列から外し。

 倍以上あるであろう大きな体で、見た目にも明らかな膨れ上がる筋力をみなぎらせつついきなり少年を殴り飛ばした。

 それは制裁ではなかった。明らかに少年を殺すつもりでやっていた。

 

「テメ―の出来の悪さには、うんざり、させられるっ。なんで出来ねーンダヨっ、死ねッ!」

 

 その言葉と怒りに触れて思わず防衛本能からなのだろう、少年は思わず自分のライフルに手を伸ばしかけたが。これが彼の運をつきさせてしまった。

 

 大男は反抗されたことへの怒りの咆哮を上げると、小さな少年を体の下に組みふせて固い拳を振り下ろし続けた。そこには何の躊躇もない。飼い主に牙を向けた罰を、ほかの少年(犬)達の前でみせてやっているのだ。

 恐怖は彼らにも当然だが伝わるだろう。

 ライフルを手にした少年達の目に哀れみといった感情は浮かばず。「なぜ出来ないのに、生意気な態度をとった?」と言わんばかりに死に向かって転がり続けている黙って殴られ続けている少年を見下していた。

 

 赤い大地の美しい夕焼けに、毒々しい陰惨な処刑が終わった。

 並ぶ少年達は別の大人達の号令でその場を立ち去って行く。動かぬ少年の上で立ちあがると、男は”終わった”のにまだ不満があるらしく。動かなくなった小さな体を持ち上げると、汚染された川まで持っていって荷物を乱暴に扱うように力一杯放り投げた。

 

 ドボン、という水音は変わりはなかった。

 その水面に少年が浮かんでくることもなかったが。

 

 スネークの表情は変わらなかった。

 かわりに無線の向こうから『スネーク――』と苦々しくつぶやくミラーの声だけがそこに残った。

 

「これから油田へ向かう。合流する」

 

 静かにそれだけ報告すると、もう見るものはないと、DDを連れてマサ村の出口へと目指して進んだ。

 

 

==========

 

 

 太陽が沈むと、すぐにアンゴラの大地は深い闇の中に沈んだ。

 村々を結ぶルート上に置かれた監視所では、夕飯の準備をしつつ。こっそり隠していたアルコールの類も出してきた。

 本来なら、それは許されない嗜好品ではあるものの。もはや彼等PFを敵とするような馬鹿は、この辺りではとっくに死人となっている。おかげでこうやって楽しい夕食も食えることが出来る。

 

 最初に気がついたのは誰だったのか。

 気がつくと「出て来てくれ、敵だ!」との声に反応して、男達は武器を持ってテントの外へと飛び出していた。

 そこには闇の中に立つ、白馬に乗った映画の中でしか見たことのない、ガンマンがいた。

 ここは西部じゃない、アンゴラなんだぞ。誰がそれを口にしたのか。

 

 

 オセロットは馬の背から降りると、あの独特のわざとらしい演技のような口を開いた。

 

「山を降りた山猫は、遠くアンゴラの夜の大地を歩く。詩的な響きはないが、この感動を君達にも――」

 

 そこで言葉を止めると、わずかに首をかしげる。

 

「そうだったな。こっちの言葉はわからないんだった」

 

 そういうが、オセロットは口元にあの輝く笑顔を浮かべる。それにつられたように、この奇妙な白人のガンマンがただの馬鹿じゃないかと彼等は何故か信じはじめ、おかえしに暴力的な笑みを浮かべた。

 それが合図となった。

 電光石火で抜かれたオセロットのリボルバー、6発が6人の命を奪う。

 貫かれ、破壊された心臓を抑えて崩れ落ちていく男達をオセロットは冷たい目で見ていた。やはりこの男、その驚くべき技のさえに衰えは見えない。

 

 テントの影では、オセロットが新たな6発をシリンダーに込め。ホルスターに戻すのを待って消えることを期待する隠れた男が1人だけ残っていた。

 だがオセロットは銃をホルスターには戻さず。その場からも動かずに口を開く。

 

「まだ1人、残っているだろう?投降するというなら助けてやろう。なに、武器を捨て……」

 

 そこでさっきの自分の言葉を思い出し、溜息をついた。

 

「言葉が通じないのは不便だな。本当に」

 

 それだけ言うとあらぬ方向に向けてもう一発、発射する。それだけでテントの影に身を隠していた男の体は崩れ落ちていき。彼の足元は流れ出てくる血で川を作ろうしていた。

 オセロットは再び馬に乗って走りだす。今夜の彼には、任務がある。

 

 しばらく行くと、自分の情報端末を取り出して確認した。

 3分ほど余裕を持って到着してしまったらしい。

 

『こちらモルフォ。オセロット、第2降下地点まで1分です』

「こちらオセロット。すでに到着している。降下地点は確保した」

『了解、急ぎます』

 

 その連絡の通り、ヘリはオセロットの側までくると地上に4本のロープを垂らした。

 それを伝って次々とダイアモンド・ドッグズのエンブレムをつけた兵士達が降りてきた。

 

「こちらオセロット、犬(ドッグ)達は受けとった。これから散歩を開始する」

『了解だ。フッ、山猫が犬の散歩か。オセロット、笑えるぞ』

「そうやって笑ってろ、カズヒラ。よし!お前達、ボスが待っている。センパーレイ(忠実であれ)、これを忘れるな」

 

 そう言うと山猫とそれについていく4列の――4匹の大蛇は目的地のンフィンダ油田にむけて進み始めた。

 


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