真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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選ばれし者、選ばれない者 (1)

 任務出撃4時間前、ビッグボスは医療プラットフォームに呼び出されていた。

 呼び出したのはオセロット、どうやらクワイエットのことで報告があるという。

 行ってみると、なんと彼はクワイエットの牢の前で待っていて、ここで話したいと言うのでさすがに驚いた。

 だが、それもすぐに別の驚きにぬり替えられる。

 

「呼吸をしていない!?彼女のことか」

「そうだ、クワイエットは普通の人間のような呼吸をしていない。別の方法でおこなっている」

「どうやって?」

「皮膚呼吸してる」

「なに!?」

 

 驚いて牢の中のクワイエットを見る。

 今日の彼女は何やら気分がいいのか。壁際に立って外にいるこちらの前で、自分のことを語られているのを檻の中から見つめている。

 

「彼女はどうしても服を着たがらない。無理に着せようと不用意に近づいた奴は――フフ、抵抗されて重体だ」

「なぜだ?」

「服を着ると――彼女は窒息する。水中でもそれは同じだろう」

「……」

「こちらの指示には正しく従う。よって英語も理解している、だが話さない」

「彼女の、自分の意志ということか?」

「そうだろうな」

「他には?」

「シャワーくらいなら大丈夫、見てろ」

 

 オセロットがそう言うと、それを命じられたかのように牢の中の水道管にクワイエットは手を伸ばす。

 流れる水とそれをはじく白い肢体が。太陽の光を反射して白く、眩しい。はっきりいって目の毒だ。

 

「これがどうした?」

「すぐにわかる」

 

 クワイエットは一瞬だけ眉をひそめると、陶酔とした表情へと変わる。

 続いて水をはじいている体が、不気味な痙攣運動を見せ始めた。

 あまりにもその瞬間が見てはっきりとわかるので、スネークは目の前で起こっていることに頭が追いつかない。

 

「なんだ?彼女、どうした?」

「呼吸と同じ、皮膚から水分も補給している。覚えているか、ボス。あんたとの勝負、最後に――」

「ああ、いきなり我を忘れて踊っていた。わからないが、そう見えた」

「それだ。一度こうして水分の補給を始めると、動けなくなるし。自我も失う」

「――この目で見ていても信じられん」

「まだ、ある」

 

 正気を取り戻したか、クワイエットは気だるげに動くと床にそのまま横になって丸くなってしまう。

 

「実はここに来てから彼女は一度も食事をしていない。必要ないようだ」

「食事も?」

「だから排泄行為もしない。彼女の痕跡をソ連軍が見つけられないわけだ」

「……ふぅ」

「食事のかわりに光合成している。俺はGRU時代に彼女に似た体質の男がいたのを知っている」

「そうなのか!?」

「――本当のところは、正直わからん!医療班はどれだけ調べても、確定された結論はなにも出せなかった。カズはこいつを化物と呼んだが、それを否定する材料はほとんどないことだけはわかっている。あとは直接、体にメスをいれていくしかない、と」

「駄目だ、それは許さん」

「わかってる――彼女の体質は感染などしないだろうが、部下達は気味悪がっている。沈黙するおかしなセイレーン、そんな感じだ」

「MSFのようにダイアモンド・ドッグズを海中へと引きずり込む?」

「彼等の噂、恐怖が言わせている戯言だ」

 

 こんな最終報告があがってくるとは予想外で、ビッグボスは思わずフライングするような質問をしてしまう。

 

「出撃は?」

「単独で?駄目だ、カズヒラが許さない。部隊に加えるのも無理だろう。彼等はクワイエットを恐れているし、信用もしない。なにより彼女の能力は高い、使いこなせずトラブルになるだけだ」

「それじゃ――」

「そこでボス!あんたにひとつ、提案があるんだ――」

 

 

==========

 

 

 部隊の仲間と共に、ブリーフィングを終えてロッカーで着替えると。ゴートは鏡に映る自分を見る、ひどい顔だった。わかってる。

 

「ミラー副司令!」

 

 声がして、ロッカールームにカズが現れたことを知った。彼は周囲のものを立ち去らせ、ゴートだけを残すように言う。ゴートも仲間と共に今回も同僚となったラムに先に行けと合図をだして、そこに残った。

 

「オセロットから調子を落としていると、そう聞いている」

「――申し訳ありません」

「あやまらなくていい。話は聞いているのだろう?」

「はい」

 

 前日、ビッグボスはラムとゴートの前にあらわれると、今回のテストで彼等が落ちたことだけを冷静に伝えて立ち去っていた。ゴート自身にも色々あったこともあって、オセロットにはさらに動きが悪くなっていると言われ。

 今日の出撃もギリギリでなんとか許可が下りていたという始末。傭兵である以上、戦場に出れないなら稼げない。

 

「気落ちしているな?」

「当然です!しかし、それも仕方ありません……」

 

 あの夜、任務中にしでかしたのは彼の率いた部隊だった。つまり彼のミス、ボスはきっと自分に失望しただろう。

 

「お前に教えてやろう。お前が不適格とされたのは、お前が考えているようなことではない」

「え?」

「鏡を見てみろ、今の自分をちゃんと見ろ。今のお前を、ボスがなぜ選ぶと思う?」

「……」

 

 言われたことを理解しようとした。副司令はなにをいおうとしているのかを考えようとした。

 

「今すぐ、結論を出さなくていい。自分で考えておけ。

 それと――俺もまた、スクワッドの人員拡張をいずれはボスに認めさせようと考えている。お前の戦場がまだここにあるというのなら、その日までに自分の牙を磨きなおしておくんだな」

 

 それだけ言うと踵を返して部屋を出ていってしまった。

 1人残され、ゴートはロッカーを閉じる。迷いが断ち切れた気がした。鏡はもういいだろう、これから自分にも新しい任務が待っている。

 

 

==========

 

 

 ビッグボス、出撃1時間前。

 今日のマザーベースは忙しい。

 すでに戦闘班がそれぞれに任務を携え、ようやくにこの時間。整備担当のスタッフ達は次の出撃までの休憩をとっている。

 そんな人気のないヘリポートに準備を終えたビッグボスがその姿を現す。

 

 今回、ついに完成したダイアモンド・ドッグズのオリジナルデザインによるスニーキングスーツを身につけていた。夜にまぎれるように黒く、そしてスリムなラインは胸元にわずかながらの防弾効果をそなえている。

 それをすでにそこで待ち構えていた新しい”ボスの部隊”の女性陣が見て黄色い声を上げる。

 

「再会の挨拶はいらんな。これからも頼む」

「「「もちろんです、ボス!」」」

 

 笑い声の後はさっそく打ち合わせに入る。

 

「今回は変則的な任務だが、重要なのは理解しているな?」

「はい、ボス」

 

 ワスプは短いそのきれいな金髪をゆらして、受け答えは今日も元気がいい。

 

「俺はこれから現地PFの偵察に出る。作戦の正式終了には24時間後を予定してる。

 合流はその時、連絡することになるだろう。

 それまでの間、お前達には一足先に任務にかかってもらいたい」

 

 そういうと冷静なハリアーが質問をしてくる。

 

「ボス、この任務の最終目標は『伝説のガンスミス』という男とコンタクトをとる、ですよね?」

「そうだ」

「仮にですが、我々が24時間以内に本人に到達した場合はどうなるのでしょうか?」

「それならそれで構わない。確保して、マザーベースに連れて来て、こちらの話を聞いてもらう。その時は俺との合流は必要ない、マザーベースに直接戻って来い」

 

 すると顔を緩めたフラミンゴが茶化してきた。

 

「ボス、それは悲しいじゃないですか」

「なに?」

「私達と再会して、しかも最初の任務が無期限!これはもう、サバンナで思う存分。”私達”美女をはべらせろってことなんですよ!?」

「……相変わらずだな、フラミンゴ」

 

 ミーハー丸出しでナニカをアピールする背後では同僚が「チッ」「アバズレめ」と吐き捨てている。

 

「まぁ、それとひとつお前達にやってもらいたいことがあるんだがー―」

「なんでしょう?なんでもしますよ!?」

「そうか、それはよかった」

 

 そういうと彼女達のビッグボスは、誰かに向かってこっちに来いと手招きする。

 いきなり4人の前に、クワイエットが出現して思わず身構える女性達にビッグボスは軽い調子で告げた。

 

「実は次の任務でDDの奴を留守番させることにした。そこで、新たにこのクワイエットを連れていく。だが、カズの奴がうるさくてな。お前達、悪いが24時間だけ俺ナシで。彼女と一緒に行動してくれ」

 

 ビッグボスはできるだけクワイエットから顔を離さずにそういった。おかげで何やら見つめ合っているように周りには見えただろうが、3人の方はそんなことを気にする余裕はなかった。

 3人が3人とも、その顔が輝く笑顔から一転、恐怖に引きつらせていたのだから。

 

 

==========

 

 

 夜の村で一発のライフル弾が発射されると、頭部を撃ち抜かれた兵士がその場に体を投げ出すように、崩れ落ちていった。

 

「えっ、ちょっと!なにやってんの、アイツ」

 

 同じくスコープを覗いて作戦中のワスプとフラミンゴを見守っていたハリアーは驚いて顔を上げる。

 見ると村を見下ろす丘の上で座って構えているクワイエットが、こちらから合図も出していないのに平然と射撃を開始することで自分の存在をアピールしている。

 村に敵集を告げるサイレンが鳴り。ライトが襲撃者の姿を探して振り回されている。

 そこに潜入していた味方等はというと、今しがた捕えたばかりの男を慌てて回収するべく背中に背負っていた。

 

 こうなったならばハリアーに出来ることは少ない。

 

 スコープの中で体を低くして様子をうかがっている奴の1人をぶっ飛ばすと、サブマシンガンを手に村へと降りて行こうとする。こんなこと予定と全然違うのに。

 

 

 1時間後、まだ夜明けには数時間をのこしているが。

 アンゴラの大地にあるこの村では、占拠していたPFの部隊が全滅をさせられていた。

 爆発でまだ燃えている土壁、鉛弾をうけ、もはや話すことのない男達。焦げ付く匂いが充満する中で、ハリアー達は自分達がしでかしてしまったことを前に呆然とするばかりである。

 

「これ、シャレにならないよね?」

「……まぁね」

 

 すぐにも立ち去らねばならない。

 朝までにはこのPFの仲間達に異変は察知され、様子を見にここへ来るだろう。

 何者かの襲撃を受けて全滅したとわかれば、犯人探しも行われる。当然、死体の中にあるはずの伝説のガンスミス――のその弟子がいないことはすぐにわかる。

 

「うぐあははははーーーうううう、ボスに。ビッグボスになんて報告すれば――あの馬鹿女っ!!」

 

 ヒステリーをおこしたかのように頭を掻き毟ると、ワスプはキッと高台に向けて怒りにみちた目で睨みつける。そこでじっと待機してこちらを見下ろしている、クワイエットを。

 

 彼女達の考えるところ、今回のこの事態はあの女が。いきなり発砲したためにおこったことで、退却して逃げる事も出来たのに。指示に従うそぶりを見せないせいで敵を全滅させることになってしまった。

 割と真面目にそう考えていた。




(設定)
・クワイエットの反応
キャラクターについてはゲーム本編をどうぞ。

この水分摂取による反応はゲームの様子とは変更してある。ゲームではその時々で反応が一定ではないので「動けない」ということだけが指し示されているが。
この物語では色っぽくしている。美人だから、その方が断然いい!


・ゴート
ドイツ生まれの男性。ただ、当時のドイツは東西にわかれていた。
設定では身長が178センチと一回り体格が小さいという欠点があるが、精神的にはタフにできている。
1940年代末から分かたれたドイツが、統一模索を口にしながらも遅々として進まぬことに思うところがあり。国を離れてしまった。

個人的なエピソードとして、部隊解散前後に身内に立て続けに不幸があった。という設定があった。隊長として物語の中でもっとも厳しい立場に自ら追い込んでいくことになる。

オリジナルキャラクター。

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