24時間後。
スネークは、任務を終えたばかりの体のままピークォドに乗って次の任務地へと移動していた。
ただの潜入と偵察で終わるはずが、相手PFの内紛と合致してしまい。カズの要請で、味方に裏切られたイギリス人達を救出する羽目になってしまった。
次はスクワッドのお譲さん達とクワイエットと共に、長いサバンナ旅行ということになる。本当ならばもっと心躍らせてもいいはずなのだが、今のビッグボスはそういう気分ではなかった。
合流地点にはジープとそれに乗るスクワッドが待っていて、ピークォドから降りたボスは彼女達を見て鼻をかいた。
「俺の聞き違いだったか?確か俺が来る前にガンスミスを抑えてもいいですか――とか何とか。言ってなかったか?」
「……」
凄い微妙な顔が、3つ。そこに無言のまま並んでいる。
「お前達はやりすぎだ、と。カズが怒ってた、なにがあった?」
「ビッグボス、私達には無理です」
ハリアーの声は元々に低いが、それにしても怖いくらい今のは低かった。
「なにがだ?」
「クワイエットです。彼女がまったく、駄目なんです」
それから約2時間を彼女達はひたすら不満を交えて口に出して訴えてきた。
要約するとこう言うことらしい。
昨夜、伝説のガンスミスの弟子とされる男の所属するPFを特定し、そいつと接触を持とうと男のいる部隊が駐留する村へ侵入。
無事に男を確保したのだが、そこでいきなりクワイエットが村に攻撃を始めてしまい。
静かに無事に任務を終えようとしたにもかかわらず、戦闘をする羽目になったのだという。結果、村にいたPF兵士は全滅。彼等となんかしてた女達は村の外へと逃げたのだそうだ。
「ボス!ビッグボスたっての命令と言うことで、副司令にはクワイエットのことは黙ってましたけど。そのことで私達がどれだけ嫌みと説教を貰ったのか――」
「ああ、ああ、すまん。悪かった、そうなるとは思わなかったんだ。あやまる、ごめん」
「……まぁ、わかっていただけるなら」
――ボス、俺はあんたに黙っていたことがひとつ、ある。
「わびと言っては何だが、俺がジープを運転してやろう」
「……それだけですか?」
「それだけだ、フラミンゴ。他には何もないぞ」
「……わかりました。私達とのロマンスは次の機会にとっておきます」
「好きにしろ――クワイエット!ジープに乗らないのか?」
――ボス、俺はあんたに黙っていたことがひとつ、ある。
「あいつ、返事しませんよ。それに、勝手にこっちの後ろをついてくるってわかりましたから。さっさと行きましょう」
「冷たいんだな、お前達」
「ボス!」
「わかった、わかった」
赤く塗られた米国産のジープに4人が乗り込む。
PFのひとつ、CFAはCIAとの繋がりが噂されており。その証拠とばかりに西側の兵器を多く手にしていることで有名だった。回収して使っているこの車も、彼等のために送り込まれたものなのだろうか。
ビッグボスの運転でサバンナの中を走行する開放感に女性陣は楽しげではあったが。肝心のビッグボスはそうでもなかった。
彼は昨夜の任務中、突如個人回線を使って話しかけてきたオセロットの言葉を思い返していた。
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『ボス、俺はあんたに黙っていたことがひとつ、ある』
捕えたイギリス人達と話すために、基地内を歩き回る通訳を尾行している最中。オセロットはそういって話を切り出してきた。
『俺達の古い友人、ゼロ少佐について』
さすがに出てきた名前に驚き、体が一瞬だけ硬直するが。すぐにまた追跡を開始する。
オセロットは何を黙っていたというんだ?
『あんたが米国を出てすぐ、少佐は表舞台から姿を消した。あのMSF襲撃もゼロ少佐が指示を下したとあんた達は考えているが、それは違うと思う。
ゼロはその前に病床に伏していた。だから俺は、誰がそれを命じたのかずっと気になっていたんだ。
だが、あの男がエメリッヒと一緒にいたことで確信したよ。スカルフェイスのことだ。ボス、俺はあの男を知っている。あいつはゼロ少佐のかつての部下だった男だ』
さすがに任務中に聞かされるには重い内容だった。
ゼロの作ったサイファーが命じたが、それはゼロの意志ではない?理解は出来るが、納得なんて……。
任務への集中を切らさないようにするのが大変だった。気持ちを抑えていないと、奴等のど真ん中でいきなり怒鳴り散らすことだって出来そうな気がする。
『あんた達を襲った部隊はXOFだ。XOFは表向きにはCIAの対特殊テロ部隊となっているが、実際はサイファー支配下の実働部隊だった。
X(キス)でもO(ハグ)でもない、XO(副官)のForce(軍隊)だ。スカルフェイスはその部隊の責任者で、ゼロの意志から離れて部隊をあんたに差し向けたんだ』
もう我慢は出来なかった。
「奴は俺を知っているようだった。パスのテープでも、そう言っていた。俺には覚えがないが」
『――それは別の話だ、ボス。覚えているか?
あのスネークイーター作戦。あれは本来、ヴァ―チャスミッションで終わるはずが、ヴォルギンという大佐の暴走で米国から持ち込まれた核をソ連領内で使われたためにおこなわれたものだった。
当時のゼロ少佐にはFOXのあんたの他にも手札を隠していた。それが――』
「XOF、か。なるほどFOXの裏返しで、XOF。少佐らしい」
『スカルフェイスはもう一人のあんただった。だが、あんたと違い、闇で順番を待つだけの存在だった。だから向こうはあんたを知っていた。ゼロにとってあんたがどういう人間か、ということも――』
「……」
『ボス、任務に集中してくれ』
「そうしよう」
ビッグボスは低く、深く息を吐いた。
そうした後には揺らぐ気持ちと、今しがた聞いたことは封印した。動揺する過去も、不安な未来は今はいらない。この瞬間を、現在に集中するのだ。
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「この野郎、逃げやがって!」
いきなり殴られ、泥の中に頭から突っ込んだが。すぐに手を上げて声を張り上げる。
やはり逃げ切ることはできなかったか。
「わかった、わかったから。降伏する、なにも持っていない!」
両手をあげつつ、顔をそむけながら、必死で声を上げる。殴られるのは嫌だった。
確かに今は何も持ってはいない。すでにさっき、追いつかれるのも時間の問題だとわかったからこっそり文書を近くの岩肌に張り付けておいた。あれは仲間に向けた自分の最後のメッセージだ。
無線ですでに救助は求めたが、間に合わなかった時のために残しておいた。最悪、使ってくれればいいのだが。
目の前でショットガンを持っている重装甲歩兵の男を見上げれば嫌でも理解できる。ビッグボスのCQCでも学んでいればよかったのだろうが、弱った体の今の自分ではコイツからは逃げられない。
「指示を待ちます」と無線に応える奴に、次第に不安になったのは無線のむこうからなかなか返事が戻ってこないことに気がついたからだ。。
まさか、殺す気か?
ダイアモンド・ドッグズから派遣され、ここアンゴラで捕らわれてもう2月近くもたっている。殴られたし、指の骨もおられたし、ひどい扱いもされた。
捕らわれた自分のことを仲間に知らせれば助かるはず、と思っていたのに。
この脱走失敗が、自分が生き残る最後のトライになりそうな気配が漂ってくる。
現実は非情だ。
おもったそばからそいつを殺せと逃げ出した本部から連絡が来て。そいつはそれをわざわざこっちに聞こえるように「もう一度はっきりと言ってくれ」などと言って嬲る。
それは「お前が逃げたから悪い、俺は悪くないのだ」と言い訳しているようで悔しいが、抗議の声はあげなかった。
ダイアモンド・ドッグズに、ビッグボスに忠を尽くした。あきらめたくないが、目の前の屈強な男から生き延びる方法があるようには思えなかったし。正直、弱った体は悲鳴をあげてもう楽になりたいとも言っている。
「お別れだ」
そういうと奴はショットガンの銃口をこちらの頭部に押し付けてきた。
「ああ、ご苦労さん」
聞いたことのない第3者の声がして、頭を押さえつけていた銃口の重みが消えた。
顔を上げると、重装甲歩兵の背後に絡みつく。全身が真っ黒の男がいた。
ゴートは素早く拘束した相手の喉を素早く描き切ると、捕虜にされていた諜報員に駆けよる。
「助けに来た。もう一人は?」
「ま、まだ。まだ、奴等のところに」
「わかった。そっちにも仲間が行っている。お前は安心して戻れ」
弱った彼の体を担ぎあげると無線に素早く指示を出す。
「諜報員一名を確保。部隊は前進、右に2、左に1。そいつらを無力化して連れてこい、離脱する。後は合流地点で会おう」
集中を切らしてはならない。
戦場であるべき姿はすでにあの人から学んだことだ。
この日、ゴートの班は捕虜を奪還に成功するだけでなく。あらたにPFから3人の捕虜を手に入れてマザーベースに帰還した。彼の戦闘班での再出発。初任務はこうして最高の形で終えることができた。
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サバンナでの5日間は、それなりに楽しかったが。同時にストレスにもなった。
クワイエットとスクワッドの間には、いつも緊張感が邪魔をしてなかなか協調する様子はみられなかった。だが、これはオセロットの想像した通りとも言える。
多種多様な国の確かな技術を持つ兵士達を求めるダイアモンド・ドッグズにとって、言葉とコミュニケーションの一切を拒否するクワイエットでは信用されないのだ。
そして不信と恐怖だけがのこり、それは相手の真の姿を鏡に映すように見せかけて歪めて見せつける。
カズヒラ・ミラーはスネークが長期の任務に出ることを決して賛成はしない。
とはいえ、今回ばかりは急ぎで。それも可能な限り早くやらねばならないとあっては許可しないわけにはいかなかった。それに、大きな声で言えないが。同道するのは女性兵士達ばかりと聞く。
あの男も、9年も眠ってたとあってか少し昔よりも自重して年寄りじみた行動が目立っているのも気になっていたところだ。ここらでひとつ若々しい大自然の中でエネルギーを充填してもらうのもいいかもしれない、程度の軽い気持ちで了承したのである。
それなのに、あの男は……。
スクワッドが、ボスの部隊らしからぬCFAの駐屯する村を殲滅したと聞いた時から不安があった。
そこで彼はボスが行動をおこす時間には、作戦室の方へと顔をのぞかせるようになる。伝説のガンスミスなる男は噂通り、弟子が多くいる事もあってなかなか本人にはたどり着けないようであった。
「え、あれ?」
「どうした?」
その時はオペレーターが困惑する声を出すのが気になって、たまたまスクリーンを見て。
カズは目を剥いた。スクリーンには3つのスクワッドをしめすマークの他に、”2つ”のビッグボスのマークがついている。いつからボスは複製されていた?
「どういうことだ!?故障か?すぐに調べろ、ボスは任務中なんだぞっ」
「待て、カズヒラ」
声を荒げると、いきなりオセロットが背後にあらわれて止めてくる。
「なにを待てというんだ!このままでは――」
「いいんだ、機械は壊れてない。あれは……あれはクワイエットだ」
「――なんだと!?」
もう一度スクリーンを見る。確かにあれは、あいつ、化物女であるらしい。
地図上の長い距離を異様に素早く移動しているし。落ちつくポジションは、どれも狙撃に適した場所だ。
それならあの女、銃を持っているというわけで――。
「オセロット!あの女がボスを狙ったらどうするんだ」
「おお、それは困るな。その時は、対策が必要になるだろう。クワイエットへの対策が」
「っ!?それがボスのことか、お前はどっちの味方だ!」
「他に誰がいる。その時は、奴だって望んだ再戦相手で悔いはないだろう。お前のいうとおりだとするならな」
バリバリと音が出るほどに歯ぎしりし。近くのスタッフが怯えた目をこちらに向けている。
駄目だ、冷静になれ。
「俺は認めんぞ、オセロット。あんな化物、ボスの相棒など絶対に務まるものか」
「さぁ、それはわからん」
「いいや、わかるさ。あいつはサイファーだ。なにを考えているかは分からない。きっと、きっとボスだって……」
やめだ。
本人は遠く任務の地で戦っているのに、自分が力説して。それでどうなるというんだ。
あんまり書いていませんけれど。評価、感想などはどしどしやっていただきたいっ。やる気と励みになりますので。
それではまた明日。