そう、やりますわ。
ゲームでも、マジであせったので印象に残ったので。
『ノヴァ・ブラガ空港、これが今回の舞台となる』
ピークォドのヘリの中にスネークはいた。
新しいおろしたてのスニーキングスーツは黒とはいえ光沢が強すぎる気がする。ヘリには他に相棒のDDとクワイエットが同乗していて、Dウォーカーは先に現地に運び込む予定になっている。
『作戦は2段階で行われる。今夜、先ほど空港に輸送機が着陸。空港の南側の倉庫内に荷物を運び込むところを確認した。予定では、これから明け方までに次の指示が来てトラックで護衛と共に輸送されることになっている。
これが我々の最初の任務、この”荷物”を抑える』
カズの任務説明が続いている。
今回は色々な意味で大規模な作戦となっている。参加人数も過去最高、さらに作戦時間も40時間を予定している。つまり2日がかりをぶっ通しでダイアモンド・ドッグズの総力でぶつかることになる。
『続いて明日の昼、この空港に武器商人を名乗るビジネスマンが到着することになっている。この人物こそ、例の油田や工場を買いあさった会社のオーナーであることが諜報班の調べで分かった。
それをCFAのトップが迎えてなにか会談をおこなうらしい。我々はその内容を詳しく知りたい。よって、この2人をそこで抑える。
これが第2の目標の”人”だ。
空港には多くの兵が駐留している。簡単なことではないが、これを必ず成功させたいと思っている』
ハードな任務の連続だ。
完璧にやりたいが、関わる人も多いのでトラブルも多いはず。
『これは我々ダイアモンド・ドッグズにとってまたとない好機だ。これほど重要な目標を一度に手に入れる機会は2度とないだろうと思われる。必ず、必ず皆で成功させたい。
今回は特別に、ビッグボスだけではなくオセロットも作戦に参加する。まさに総力戦、気合を入れて行けよ!』
カズのいうとおり、今回はスネークの他にオセロットも来ている。
それぞれが隊を率いて、細かな指示をだすことで状況を正確にコントロールしていくつもりだった。
だが――。
午前0時を過ぎた頃、作戦開始から5時間がすぎていた。
スクワッドリーダーであるアダマは暗闇の中でふせたまま、望遠鏡をのぞき続けているボスの隣に移動する。
「どうした?」
「”荷物”はトラックに乗せられました。今、ボアとハリアーが確認しました」
「そうか――」
スネークはそう言うと再び丘の上から空港内を見る。
話では護衛がつくということだったが、トラック一台だけで空港内にそれらしい影はない。クワイエットに斥候をさせて護衛車両の類があるか見てこさせたが首を振るだけだった。
『ボス、聞いてるか?』
「オセロットか、そっちはどうだ」
『行動表はまだ手に入れてない。すまない、思ったよりも難しいようだ』
「いいさ、気長にやってくれ。こっちに動きがあれば、その時は手に入らなかったとしてもやるだけさ」
『すまない。もうすこし粘ってみる』
これほど大きな動きがあるのだ、近隣にそれを伝えるなにかがあるとふんでオセロットはずっと動き続けていた。しかし、状況はよくない。
アダマの顔を見る。まだ焦る時間ではないが、それでも……。
「待つのは嫌いです」
「フフ、俺もだ。気が合うな。だが、不安がっていても仕方ないしな」
「そうですね」
「リーダー、おんなじ顔をしているのがあそこにも並んでいる。連中の手綱を放すなよ」
「はい、ちょっと落ち着かせてきます」
そういってアダマはスクワッド達の元に戻っていく。
スネークは大きくため息をついた。その時、マザーベースから連絡が入る。
『ボス、緊急事態だ!』
「カズ?」
『すまない作戦中に。だが、緊急事態だ。マザーベースが襲撃を受けている』
「なんだと!?」
『敵はガラ空きとなった戦闘班のプラットフォームを占拠。中に残っていた兵士を人質にして、脱出をする構えを見せている』
「……」
『このまま人質を取り戻さなければ、彼等の救出は難しくなるだけだ。ボス、マザーベースに戻って来てくれ。奴等がここを出る前に、勝負をつけたい』
「カズ、ピークォドをよこせ」
それだけ告げると、スネークはすぐにスクワッドリーダーを呼び戻した。
「アダマ。俺はこれからマザーベースへ戻る」
「はい、我々は?」
「ここに残れ。残って俺のかわりに任務を果たせ。向こう側にいる班のリーダーはゴートだ。奴は良く知っている、優秀な男だ」
「はい」
「俺がここに戻るまでなにもなければいいが。そうでない時は、マザーベースの指示に従ってお前達で”荷物”を抑えろ。いいな?」
「了解です、ボスもお気をつけて」
こんな大規模作戦の最中にとんでもない事が起きた。
戻って間に合えばいいのだが――。
==========
『ボス、敵PFに制圧されたプラットフォームに潜入。敵の司令官を排除してくれ。奴らが統制を失えば、残党はこちらでも一気に鎮圧する。
敵の脱出を阻んだが、そのせいで人質を殺すと脅してきている。攻撃されたとわかっても殺すかもしれない、こちらの支援は当てにしないでほしい』
青い地平線から太陽が覗こうとしている。
暗い夜をこえて戻ってきたマザーベースだったが、状況はあまりよくはなっていなかった。
それは空港の方でも同じらしく。
兵士達は一向に動こうとしないトラックと、それにつくはずの護衛車両が現れないことに苛立ちを募らせているようだった。
『ボス、すまない。俺達の本拠地に敵の侵入を許してしまうとは――だが、この報いは必ず受けさせるつもりだ。頼むぞ』
このマザーベースの秘密を守ることに神経をとがらせていたカズだったが、今回の事態を想定していたのだろうか。声を聞く限りではそれほど取り乱している様子はない。
作戦室のオペレーターは上ずった声で報告してきた。
「ピークォドより連絡。たったいま!ビッグボスが潜入しました」
「間に合ったな、ボス」
ようやくひとごこちがつける、カズは息をゆっくりと大きく吐き出す。
他のPFからの攻撃、最初に聞いた時はまさかと思っていたが。あのユンにああまで言われては、カズも備えないわけにはいかなかった。
まさか、それがさっそく必要になるとは思わなかったが。
それにしてもこのPFだが、不可解な点が多いのが気になる。
ここへは、かなりの数が侵入してきたのだが、その侵入経路がわからない。そして見たところこちらのプラットフォームに的確に兵を配置しているように見える。
だいぶ前から計画していたのか、それとも優秀なのか。
なんだかこの襲撃には、襲撃以外の部分に嫌なものがある予感がしてしょうがなかった。
「あ?」
建物の影に何かを見たと思った瞬間、そいつは眉間に45ACP弾をうけて血の虹を作る。
そこから這いだしてきたスネークは続けてこちらに背中を向けている3人の胸板を背後から素早いリズムで撃ち抜いて見せた。
人質の周囲にあった脅威を制圧、近くに人の気配はない。
「ボス、助けにっ」
「静かに」
拘束を解くと、いつものように素早くフルトン回収装置を起動させて人質を脱出させる。
上ではすでに支援班が待機しているから、このほうが早いのだ。
「待ってください」
「?」
「俺です、ボス」
「お前――ラムじゃないか!?」
それはゴートと同じく、かつてスクワッドに在籍していた大柄の男に間違いなかった。なぜか最初から顔を隠そうとしていたのは捕虜となったことが恥ずかしかったからで。回収されそうになって、ようやく腹を決めたらしい。
「お前も回収する」
「いえ、ボス。俺も連れてってください」
「……しかし、な」
「元スクワッドですけど。足手まといには死んでもなりません」
「――わかった。ここでお前が一緒なら、俺も心強い」
そう言って拘束を解くと手を差し伸べた。
敵PFはどうやって知ったのかは分からないが、戦闘班の使うプラットフォームに上陸したのは正しいが、正解ではなかった。
ここは開発プラットフォームの次に銃と弾がそこかしこに設置されている。
ラムの装備はそこで揃えさせた。分隊支援火器の軽機関銃とスモークグレネードランチャーを持たせると、あの時のスクワッドだったラムがそこにいる。
「ボス、どういきますか?」
「奴らは兵の配置が絶妙だ。それに数も多い」
「はい」
「プラットフォームは残り3つだが、全部は相手にしない。2つは飛ばすぞ」
「第1プラットフォームですが、話を聞いた限りだと敵のリーダーは最上階の外にいると言ってましたが」
「ああ、そうだろうな。人質の数が足りない。そいつらを自分の近くに置いているはずだ」
「皆を助けましょう、ボス」
無言でうなづきつつ、望遠鏡を下ろすと。そこでスネークは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ところでラム、なんでお前はここに留守番をしているんだ?」
「え」
「元スクワッドが部隊で作戦参加を認められずに留守番っていうのは、俺もショックだ。なにがあったんだ?」
顔を赤くして、大きな男は小さな声で答える。
「腹をちょっと……笑わんでください。大丈夫だといったんですが、医者が作戦前に馬鹿食いする奴は信じないといって許さなかったんです。あのヤブが」
あきれ顔で笑いながらも、スネークは行くぞと言って中腰で進み。ラムは大きな体をちぢめて、その背中に続いた。
第1プラットフォームにつくと、そこには巨大な待機棟とよばれる兵士達のための施設がはいっている建物がある。
そこに入り込んでいく道の両側にスネークとラムはつくと、スネークは腰につりさげたグレネードを取り出してポンポンと中の通路に向けて投げ込んでいく。
スモークグレネードである。
それは黙々と煙を吐き出すと、巡回していた敵PFの兵士達が騒然となるが、そのうちの数人は声もなくその場に倒れたりする。
スネークはスモークの他に睡眠グレネードもそこに混ぜていたのだ。
地上がそうして騒いでいる間にも、スネークとラムはパイプを使って屋上を目指してスルスルと変わらぬ一定のスピードで昇り続けていく。足元では徐々に敵兵が集まってくるが、彼らは上を見上げてくることはない。
(さすがはビッグボス。相変わらず凄い人だ)
ゴートも自分も、別に腐っていたわけでもないし。それぞれが一生けん命あれからやっていたけれど、やはりこの人と一緒に戦場を歩くのは格別の経験だと改めてわかってしまう。
建物の角で停止しろ、の合図に従うと。
向こうから歩いてきた兵士を瞬く間に拳でワン、ツーを打ちこんでから拘束してしまう。
後ろでそのキレに舌を巻いていると、ビッグボスは「仲間はどこだ?」などと尋問してから、時間をかけずにさっさと絞め落としてしまう。
(ラム、この上にいるはずだ)
(了解です、ボス)
階段から顔を少しのぞかせて屋上を確認するが、人影が見えない。
そのかわりに人質の声らしいものがわずかに聞こえてくる。
どうやら下の騒ぎを察知して、人質の側に兵士達は移動しているようだった。
スネークは戻ってPSG-1の弾倉を確認する。
ここから一気に突入して、この占拠を鎮圧しようというのである。
(ラム、お前はバックアップを頼む)
(了解です、お任せを)
2人して銃を構え、静かに屋上へと階段をのぼりきる。
考えていた通り、人質は建物のくぼんだ部分の中央に集められて転がされていて。敵PFのリーダーは彼等をいつでも撃ち殺せるようにと側に控えて不安そうにしているのを確認した。
(いってくる)
手でそう合図すると、スネークは1人でくぼみの縁を足早に駆けていく。
そのままどうするのかと置いてかれてしまったラムが見ていると、いきなりスネークは前回転しながらくぼみの底に向けてダイブしてしまった。
それはもう曲芸といってしまってもいい。
芸術的ともいえる凄いことが目の前でおこっていた。
くぼみの底で受け身をとったスネークは、そのままの勢いを殺しながら。PSG-1の銃身を自分の股ぐらの間にむけると、両方の膝でガッチリと挟み込んで固定する。
そして正確に、驚いて銃口をむけようとする相手PFのリーダーの腕の付け根と足の2カ所をうちぬいてしまったのだ。
どんなに凄腕の兵士といえども、こんな曲芸まがいの射撃を成功させるのは経験と自信があったとしても無理だ。
ラムは感心しながらも、しかしこれでボスと一緒に戦うのも終わるのだと寂しい気持ちになる。
カズに終わったと報告を入れようとして、そこでスネークは躊躇した。
この瞬間にも、トドメの一発をくれてやろうと銃口を向けている相手の顔に見覚えを感じたのだ。
それを確認しようとして、思わず体をおこすと数歩だけ、相手との距離を縮めようとする。
その瞬間に魔が、ひそんでいた。
ラムは目の端にこれまで誰もいないと思われた屋上にある通風口からライフルを構えて飛び出してくる男の姿をはっきりと見ていた。
彼の持つ軽機関銃の銃口を向け、銃爪をひけばそれだけで十分に相手を薙ぎ払うことが出来るはずだった。だが、それを彼の脳はすぐに拒否していた。
その男の名前をラムは知っていた。
ヴェイル、そうだ自分と同じく”最初のビッグボスの部隊”に所属していた男だ。
彼はボスが部隊を一度解散した時、ここには自分の戦場はないといってダイアモンド・ドッグズを去った男の1人だった。
そいつが今、かつての上官をその手にかける喜びに舌なめずりしながら飛び出してきていた。
銃は撃たなかったが、ラムも反射的に飛び出していた。
学んだCQCの技術が思い出され、ヴェイルの左腕を思いっきり押す。
ビッグボスと床に倒れて息もたえだえの敵リーダーの間を、ヴェイルのフルオートで発射された弾丸が分かつ。
自分が何者かに邪魔されたと知って、相手はナイフを抜いてライフルをいつでも投げだせるようにして構えた。それは彼が、ビッグボスから学んだCQCの技。ライフルとナイフを同時に構えた姿であった。
ラムとヴェイル、かつての仲間が敵同士となって向かい合う。
「よう、相棒」
「お前は相棒じゃない、裏切り者め」
ラムは動き、ヴェイルとの間合いは潰されると両者の腕がタコの足のように動き回る。
ヴェイルの腕からナイフはたたき落とされ、ライフルは投げ出された。そのかわりにラムの腕と腹に切り傷が数カ所生まれる。
「CQC、うまくなったじゃねーか」
「お前はかわらないな」
でもよ、とヴェイルは内心でそっとつぶやく。
(お前はドン臭いよな)
再び腕が絡み合いだすと、今度はどこからか隠し持っていた小型のナイフを出したヴェイルが素早くラムの喉を切り裂いた。
グラリ、とその大きな体が傾き、ヴェイルに覆い被さるように倒れていく。
それを蹴り上げてかわそうとして、ヴェイルはそこで自分の脚を抑えるラムの手があるのを知った。
ナイフが彼の喉を裂いても、ラムの意志は揺らいでいなかった。
ヴェイルをこのまま逃がすつもりはなかったのである。彼はそのままヴェイルの腰にしがみつくようにして膝を立たせると、大きなその手が相手の腰に下がる手榴弾のピンを引っこ抜いた。
(すいません、ボス。でも任務は果たしました)
スネークは手榴弾の破裂音を遠くで聞いていた。
ラムの、教え子たちの最期は見なかった。
それよりも傷に苦しむ相手のリーダーの顔から目が離せなかった。無言のままその体にフルトンを使うと、苦痛の声と一緒にそいつはここから消えていった。
運良く死ななければ、上で治療をしてもらえるだろう。
『ボス、良くやってくれた。あとは任せてくれ』
「……」
カズのマイクで敵PFの兵士達に投降を呼びかけ始めた。
同時に中央の司令棟からダイアモンド・ドッグズの兵士達がジープに乗って連絡橋を渡ってくる。
だが、スネークは捕虜の拘束を解き放つと近くの壁に寄りかかって電子葉巻をとりだした。いつもは感じない、苦い香りを感じた。
敵リーダーを回収した支援班からの報告を聞いてカズヒラ・ミラーも又。ショックを受けていた。
そいつのことは知っていた。
MSF壊滅後、カズが誘ってもボスがいないからと答えて袖に振った男だったからだ。襲撃者達の正体は、それほど時間がたたずに明らかとなった。
元MSFの隊員だったPFのリーダーは、ダイアモンド・ドッグズにビッグボスが合流したと聞いて精神に不安定をきたした。かつてカズの誘いをふったことを、カズとボスが自分を恨んでいると何故か思ったのだ。
攻撃しなければ、逆に攻撃される。
急成長が伝えられ、その脅威に震えあがっていたところにヴェイルがあらわれたのだそうだ。
奴は最初、このリーダーの妄想に興味を持っていなかったが。ビッグボスを殺すと聞いてからは嬉々としてこのマザーベース襲撃の方法を考えたのだという。
その結果が――。
敵リーダーは数日後、傷のせいでこの世を去った。
それ以降、カズとスネークはこのことについて話すことはなかったという。
さらっとトンでもない終わり方をしつつ、次回に続く。