このままユコウ、ユケバわかるさ。
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マザーベースの襲撃、それは十分に衝撃的な事件ではあったが。ラム、ヴェイルといった死者が出ても、スネークに休息の時間はない。
現地での動きが見られない、とわかると。事件の後処理がまだ残っていたが、再びアンゴラに向けてせわしなく飛び立っていく。
ダイアモンド・ドッグズにとって最大規模の作戦はこうして続行するかに思われたのだが――。
「作戦中止、だと!?」
ピークォドの席に座って珍しくスネークは声を荒げる。
クワイエット、DDといったバディは現地において来ていたのが幸いだった。こんなスネークをみたら、きっとヘリの中で落ち着かなくなっていたことだろう。
『――いいたいことはわかる、だがボス。この任務はトラブルが多すぎる』
オセロットの声にも悩ましげな響きがあった。
空港での予定表をオセロットはずっと追っていたのだが。マザーベースにスネークが潜入を果たした直後あたりでついに入手に成功する。
が、それを見てオセロットの顔が曇った。
どうやらCFAはダイアモンド・ドッグズを警戒してのことだろうが、予定された2つの行事をできるだけ詰めて実行しようとしていることがそこから判明した。
もちろん、スネーク達は前もってそうなった時の対処も考えて用意はしていたものの。マザーベース襲撃の報をうけ。隊員の間に走る動揺を見てはオセロットも口にしないわけにはいかなかったのである。
『駄目だ、オセロット。許可できない、こんなチャンスはもうないかもしれないんだぞ。運び出される”荷物”は間違いなくサイファーのものだ。もちろん、CFAのトップ等もおさえたい。
オセロット、これはダイアモンド・ドッグズが総力を上げて成功させなくてはならない。そういう任務なんだ』
カズが慌てているが、そもそもマザーベース襲撃を許したのは彼の責任だともいえる。
スネークやオセロットなどには言わなかったが、ユンのような怪しげな男の口にする噂が事実で。それもすぐに行われるような話だとは思えなかったという引け目はある。
しかしこの任務のもたらす多くの情報は、諦めることはできない。
なぜならば、それは彼等がここで思うように動けなかった時期の遅れを取り戻すだけではなく。今後の活動に重要なものになることは間違いないからだ。
『だがな、カズヒラ。兵達の動揺はどうにもならん。
計画表で俺達のプランCの北上するルートだとわかった。空港を出て、最大の野営地。キジバを通り、例の油田の先にある港から船で川を渡って直接ザイールに運び込まれるというものだ。
今の問題は、この”荷物”が運ばれるのと”人”が到着するまでの間隔が短すぎるってことだ』
『う、うぅ』
『”荷物”は空港から出来るだけ離れたところで抑えないといけないし、”人”は会談を終えるまでは様子を見ておきたいという事情もある。このまま無理に続行を指示したとして、無駄に犠牲が出るだけで成功するかどうかは怪しい』
「……」
『トラックの護衛は、多分あと10分以内に空港に到着する。そいつらが来る前に、俺達はどうするのかを決めておかなければならない』
オセロットのいうこともわかる。だが、カズの言いたいこともスネークは理解していた。
アフガニスタンでヒューイを手に入れてから、ここに上陸するまで時間がかかっていた。そして先日の工場だ。あれでスカルフェイスも直接こちらが迫っていることを肌で感じて、なにも動かないわけがない。
それらの対策として、より多くの現地の事情を知っておく必要がある。
しょせんは傭兵なのだ、戦場で味方にも犠牲が出るのは仕方がない。だが、それを回避したとしても。今度は別の戦場でその”負け分”を多く支払わねばならないこともあるのだ。
「カズ、オセロット。俺はそっちに間に合わない。すくなくとも”荷物”は無理だ」
『……ボス』
重苦しい空気が漂ってくるが、それが返ってスネークの気持ちを固めさせてくれた。
「スクワッドリーダー、アダマ聞こえているな?」
『はい、ビッグボス』
「状況は理解しているな?」
『……はい』
「俺は間に合わない。だが、”荷物”を見逃すことはできない」
『わかってます』
「ならいい。スクワッド、俺にかわって”荷物”を奪え。できるな?」
『もちろんです。必ず吉報を、ビッグボス!』
カズやオセロットとは違うが、スネークにとってこう言う時にこそ使えるのがスクワッドの存在する意味だと考えていた。彼等は今回、その真価を改めて皆にみせつけてくれることに期待するしかない。
「カズ、そういうことだ」
『ボス……』
「”荷物”は俺のスクワッドに追わせる。バックアップはゴートの班にやらせろ。彼らだけで確実に”荷物”を抑えさせる。いいな、オセロット?」
『わかった。あんたの判断に従おう』
「俺はこのまま――空港へ行く。”人”の方でDD達と一緒に参加するつもりだ。カズ、スクワッド達に襲撃ポイント周辺の情報を伝えろ。任務は続行する」
その言葉が終わるのと同時に、空港の入り口に旧式の戦車2台があらわれてはいっていく姿を確認したとの報告がされた。
ノヴァ・ブラガ空港は俄かに騒がしさを増している。
カズはマザーベースの作戦室で、急遽この輸送部隊の襲撃ポイントを設定すると。スクワッドとバックアップについたゴートの班に、急造の攻撃計画を伝えた。
スクワッドはこのまま輸送部隊に張り付いて一緒の北上する。ゴートの班はそのあいだに先回りし、船着き場を占拠。これはスクワッドが任務に失敗した時のための保険となる。
そのあたりでスクワッドは道を先回りすると、輸送部隊が川岸の船着き場へと続く直線でトラックを待ち伏せるというものだった。
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輸送隊と共に工場を離れたスクワッドとゴートの部隊は、すぐにカズの計画に従って別れることになる。
マザーベースに回収され、今回のために運ばれてきたジープに乗ったゴートらを見送ると。アダマ達スクワッドは馬の背から輸送部隊を見張りながら、張り付いていく。
アダマ達、スクワッドは今回の任務の意味を完全に理解していた。
任務自体の重要さは当然だが、それ以上に今は戦線がほころびを生み出そうとする微妙な位置にダイアモンド・ドッグズがいることも理解している。そして、だからこそ自分達は彼等の士気を高めるような仕事ぶりで完璧にやりとげなくてはいけないというプレッシャーを心地よく感じていられた。
これほど重要な任務をあこがれのビッグボス本人から託される。それは彼等が願ってやまないことではなかっただろうか。
「次、”荷物”はキジバ野営地に入ります」
『作戦室、了解した。ここまで順調にすすんでいる。あと数分でゴートの隊は船着き場の偵察を終える、引き続き任務を続けてくれ』
「了解」
続けてアダマは仲間に指示を出す。
「オクトパス、ランス、フラミンゴはキジバ野営地へ先行せよ。シーパー、ボア、俺と一緒に戻るぞ。次は野営地の外に配置する。ゴールの瞬間まで、集中を切らすなよ」
全員の『了解』の声を聞きながら、その場から離れると口笛で馬を呼び出してさらに北上を開始した。
輸送部隊は余裕を持ってルートを進んでいた。
だが、キジバ野営地では少し様子が違った。書類審査でドライバーと野営地の隊長らしき男がもめているのである。
フラミンゴはその会話の内容が気になったので、可能な限り接近を試みる。
どうやら、例のここいらで兵士を中心に広がっているとかいう奇病のことで野営地の側の兵達が神経質になっているらしい。ドライバーと積み荷を改めさせろと要求し、輸送側はそれを拒否しているのだ。
マザーベースの作戦室でも、カズはそれを映像で確認していた。
どうやら言いだした方も引き下がれないらしく、まだ朝だというのに兵士達を徐々にそこに集め始めているのがわかる。
(奇病か……そういえばダイヤモンド・ドッグズと同時期に広がったという話だったな)
そこでカズはドキリ、とする。
これまではその話をこちらに痛い目にあったCFAがばら撒いた中傷としてしか捕えてなかった。実際、探りは入れたが現地でも新しい風土病じゃないかなどと聞いていたのでそれほど深刻に受け止めなかったのも事実だ。
だが、例の工場のことがあって振り返ると。
この奇病というのも、おってきた自分達に向かってくるはずのサイファーの攻撃だったのではないだろうか?それがたまたま、狙いが外れてCFAに……。
(待て、そうじゃない。冷静になれ、カズヒラ・ミラー。奴らがCFAと自分達とを見誤るはずがない。これはさすがにこじつけだ――しかし)
今日という日にマザーベースへの攻撃を許すという失態をえんじてしまった自分だ。
このことについても見逃してきてしまったのではないだろうか?
「調べてみるか……」
もめていた輸送部隊が、なんやかやで再び出発するのを見ながら。カズは新たな脅威がいつのまにか自分達の足元まで近づいていたという恐怖を感じ、体を震わせていた。
スネークは、彼の部隊が行動を開始してからもずっと無線機の側で様子を聞きいっていた。
心配ではあったが、彼らならこれくらい簡単に出来るはずだという確信もあった。
だが、それなのに時間がたつと徐々に鼻の頭にぬめるようなよどんだ空気にまとわりつかれている不快感を覚える。
これは良くないことがおきる予兆に思えた。
『目標、野営地を離れました。このままポイントまでついていきます』
『こちらゴート、河岸の船着き場を抑えました。これからサプライズプレゼントに備えます』
『パーティ会場の準備、出来てます。対戦車地雷を2、対人地雷を道路わきに設置完了。開演まで待機しています』
ここなら空港からはすでに十二分に離れているし、例の油田の一件以来ここの周辺からはCFAの姿はほとんど見かけなくなっているとも聞いている。
素早く抑えれば、半日程度は彼等にトラックの荷物が奪われたとは気付かせないことも出来るはずだ。
一瞬だが、スネークはゴートにラムの死をしらせるべきかと考える。
だがやめた。
彼の死を伝えるということは、かつて彼の下で共に戦った男がマザーベースを襲撃した犯人の1人で。そいつとの戦闘でラムは命を落としたことまで話さなければならない。
今のスクワッドに入れない理由に精神的な弱さを指摘した男に。
短時間でそれを克服していることを期待するのは、なにか違うような気がしたのだ。
『トラックを確認、パーティ会場まで150メートル。これより”荷物”を押さえます』
スクワッドリーダーの作戦開始を告げる連絡が入った。
待ち伏せは想像以上にうまくいった。
先頭を走る戦車は地雷の上を通過しようとして、火を吹いて道の脇へと炎につつまれながら外れていく。
驚くトラックと、慌てて敵影をさがして忙しく砲塔を動かす後方の戦車の後ろから馬影がかすめると。追いついてきたスクワッドのメンバー達が戦車の車体にフルトン装置を叩きつけて作動させていた。
その瞬間に道の両脇から扇状に出現した4人がトラックのタイヤを狙って射撃を開始。
彼等のライフルに装着したレーザーポインタが運転手にわかるように向けられると、さすがに運転手も強引に突破を図ろうとする気力を失う。
あとはトラックの”荷物”を直接確認して、作戦完了の報告をするだけである。
それだけ、のはずだったのだが……。
スクワッドの8人はトラックを円状に囲むとその距離を縮めようとしていた。
ところが、その距離があと少しというところでトラックの荷台に変化が生まれる。
何かがガタガタと動く音がして、運転手は動いてないはずなのにギシギシと車体が揺れ出している。8人の脚がピタリとともると、それ以上距離を詰めずにそこから様子を見る。
『なんだ?隠れている――?』
作戦室のカズもそう口にするが、なにかがおかしいとしかわからない。
静かな緊張感が流れるが、それは異変の前兆を前にして現場にいる全員が動けなくなっている証拠でもあった。気がつくと、この場所にしては珍しい。
朝日を隠すほどの濃い霧がいつの間にか立ち込めていることに気がついた。
霧?それも乳白色の?
それを見た全員がその意味する答えを思い出す前に奴らの方から動いた。
トラックの後部を隠す幌を突き破って飛び出してくる4つの影。怪しく、亡霊のようにゆらゆらと動く奇妙は兵士達。
それは間違いない、あのスカルズと呼ばれる4人の髑髏部隊であった。
『スカルズだと!?』
カズの驚きは、すぐに絶望へと変わる。
これでは無理だ。奴らには勝てない、ボスでなければ奴らは……。
だが、無線では信じられない言葉が流れていた。
『スクワッド、調子はどうだ?』
『――スカルズを視認。草むらに潜んでいるこちらには反応しません』
『そうか、だが気をつけろよ。気付かれたら全員で襲ってくる』
『了解、ビッグボス』
なんだ?
彼等は何をしようとしているんだ?
「ボス、スカルズだ!奴らが――」
『そうだ、だが問題ない』
問題ないだって!?
「ボス、本気か?」
『当然だろう、カズ。本当は俺が変わってやりたいが、今回はチャンスがなかった。奴等の初ヒットはスクワッドに譲ってやるしかない。お前達、どうだ楽しいだろう?』
無線機の向こうではしのんだ笑いが聞こえてくる。
『奴らの料理の仕方は俺が教えてやる。スクワッド、見事にやってみせろ』
ビッグボスの声は彼等がスカルズに勝てると本当に信じているような、そんな自信にあふれた声であった。
それではまた明日。