真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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決戦!キジバ野営地 (1)

 マザーベースの作戦室ではカズはスネークからの連絡を待ってじれったい時を過ごしている。

 コードト―カーとの会談の結果次第では、この奇病への別の方法を探さなくてはならなくなる。そんなものがあるのか、とも思うが。この瞬間にも苦しんでいる者達のためにも諦めるわけにはいかなかった。

 

「ミラー副司令、あれを!!」

 

 言われて仕方なく、見たくもないクワイエットからの映像を見る。

 

「なんだ、あれは――なにがあった!?」

 

 気がつかなかった。スネークにばかり気を取られて、彼の周りのことを。

 屋敷の周囲で起こった変異について、注力していなかった。

 

 そこはいつの間にか一面が乳白色の霧に包まれ。先ほどまで血色のよかったPF兵達は、武器を棄ててゾンビのごとくなにかを探して徘徊していた。何を探しているのかはわかっている、スネークだ。

 まさにホラー映画のようだ。

 屋敷のまわりに、どんどんとゾンビのようになったPF兵達が押し寄せようとしている。

 

 

 結局スネークが口に出して言ったのは「一緒に来てくれ、力を貸してくれ」で。

 それにコードト―カーが「これも精霊の導きかもしれん。我が子供達が、世界の調和を乱しているなら、その円環を閉じなくては――」そういって差し出されたスネークの手を握った。

 あとは無事にマザーベースまで戻らなくてはならない。

 

 だが、それがそれほど簡単なことではないとすぐに思い知らされる。

 地下室から地上へと出てきた時だった。

 扉をくぐった、その瞬間。スネークに担がれていたコードト―カーが耳元で「上だ」と声をかけるよりも早く動くことが出来た。スネークは俊敏に前に飛び込むと、担いでいたコードト―カーは投げ出されて地面を転がり、痛みに唸り声を上げる。

 だが、一瞬前に2人がいた場所には上から発射された弾丸で床に大きな穴を開けた。

 

 スネークはすぐに仰向けの体制となると、ハンドガンを天井へ向ける。

 そこにはあの女スカルズがへばりついていて、不意の必殺の一撃をかわされたと見るや姿を消そうとしていろところだった。スネークは弾を撃ちつくすまで天井に穴を作りまくったが、どうやらこっちも一発も当てられなかったらしい。空になった弾倉を引っこ抜きながら、あたりに注意を払いつつコードト―カーの元へいく。

 

「大丈夫か?すまない、いきなり――」

「うーむ、いや。いいんだ、お互いまだ生きているしな」

 

 スネークは再び老人を担ぎあげると、廊下からホールへと出ようとして……今度は足を止めた。

 確か来た時はPF兵だったはずの奴等が、ゾンビのようになってフラフラ歩いているのを見たからだ。

 

「クワイエット、外に出る。援護しろ」

 

 小声で指示を出すとスネークに気がついたカズが連絡を入れてくる。

 

『スネーク、外はPF兵で一杯だぞ。どこから集まっているのか知らないが、どんどん押し寄せている!』

「それなら知っている。家の中にも大勢いるようだ」

『どうする?』

「逃げるさ、強引にでも――クワイエット、準備は?」

 

 向こうから鼻歌が聞こえてくる。

 スネークは「いくぞ!」と声に出すと、ホールに飛び出し。コードト―カーを背負ったままハンドガンで進路上にいる兵士達の頭を次々と粉砕していく。

 扉を蹴り開けると、そこに集まっていたゾンビ状態の兵士達が一斉にこちらに顔を向けてくるが。今度はクワイエットの攻撃で、数人ずつをまとめて吹き飛ばすのを待ってから走り出そうとした。

 

「蛇よ、待て」

「コードト―カー?」

「そこだ、伝えておかなくてはならない」

 

 屋敷を出てすぐに、”不自然に盛り上がる土饅頭”がいくつも並んでいる。老人はそれを弱々しく指さしながら、言い訳をするように悲しげに口にする。

 

「鬼よ、お前の来訪は聞いていた。彼等がそう言っていたからだ。

 スカルフェイスが必要のない恐ろしいことを彼らに施した後も、なにも出来ない私に彼等はお前のことを語り続けていた。許してくれとは言わん。だが、なにかやれることなど私には何もなかったということだけはわかってほしい」

 

 一瞬、スネークは彼が何の許しを求めているのかわからなかった。だが無線の向こうにいるカズはすぐに思い当たった。このアンゴラで失った諜報班の部下達、スカルフェイスの影を求めてさまよった挙句に捕えられてしまったダイアモンド・ドッグズの仲間達を言っているのだ、と。

 

『なんてことを――こんな、こんなところであいつらが最期を遂げていたなんて』

「カズ!合流地点を設定しろ」

 

 冷酷という仮面をつけなおし、ビッグボスはその場から今度こそ走り出していった。

 

 

 ヘリの着地点は大騒ぎとなっていた。

 先にたどりついたクワイエットが、霧の中を進んでくる人影を容赦なく撃ち倒し続けているからだ。銃声が音高く渓谷に響くたびに。霧の奥で人の形をした影が数人ずつでバラバラにされて地面に崩れていくが。それに負けない新しい人影が霧の向こうでわき続けてくる。

 

『こちらピークォド。ボス、この霧の中では長くはいられません!!』

「わかっている、急げ!」

 

 言葉の通りスネークの頭上まで来たヘリはそこから旋回しながら高度を下げていく。扉が開くと中からオセロットが顔を出し、スネークへ腕を伸ばしてきた。

 黙ってその手をつかんでヘリに乗り込むと、座席にコードト―カーをおろして今度は自分がヘリの扉につく。

 

「クワイエット、引き上げるぞ!」

『もういきます!』

 

 急上昇を開始すると、いつものように涼しい顔をしたクワイエットがヘリに飛び込んできた。ボスの助けはいらないというように差し出されていた手を見ることもなく、そのままいつも座る自分の席について、彼女と釣り合わない重さのライフルを隣に置く。

 苦笑いを浮かべたスネークは、ヘリの扉を閉めた。

 終わってみればそうでもない気がするが、こうしてコードト―カー回収作戦は終了――するかのようにこの時は思われた。

 

 

==========

 

 

「コードト―カー、あそこの地下でも少し話したが。改めて聞きたい。あんた、あそこで俺達の中に広がる病の原因は”声帯虫”だと言っていた」

「そうだ、蛇よ。正確にはあの男によって別の名がつけられたが、それがお前達を苦しめている。

 昔の話になる。

 20年ほど前、ソ連がはじめたある調査が。全ての始まりだった。原始の力を持つ人間達。彼等は人の身でありながら、人とは思えぬ力で戦場を支配した、と聞いている」

「――コブラ部隊。ザ・ボスの率いた部隊だ」

 

 オセロットの声は虚ろだった。その意味することは、自分にもわかっている。

 

「様々な経緯をへて私はそれらに触れることが出来た。そればかりかその力の根源までをも解明してしまった。

 それがよくなかった。

 あの男、スカルフェイスを私に近づかせる理由になったからだ」

『では、あんたは奴に言われて?』

「そうだ。この声帯中は私が生みだした。奴の望みをかなえるために誕生させてしまった、兵器として」

「誕生させた?この虫は兵器として完成していると?」

「――答えはイエス、だ。どうやらお前達の中に広がるそれは、あの男がお前達を攻撃するためのものではないようだ。あれは特定の条件を満たすことで宿主を完全に殺す、容赦なく全滅させてしまう」

 

 つまりマザーベースのそれは条件に満たされていないからあの程度ですんでいる、という意味なのだろう。

 続きを聞きたかったが、そこでなぜかコードト―カーは口を閉じてしまった。オセロットとスネークが顔を見合わせ、続きの催促をしようとすると。

 

「覆いつくす者達だ。逃がすまいと追ってきたようだ」

 

 ふと、スネークは屋敷の中でもあの女スカルズの不意打ち直前にコードト―カーが予知していたことを思い出した。なので席を立ち、ためらわずにヘリの扉を開けて後方のサバンナに目を凝らす。

 

「まずいな」

「ボス?」

「オセロット、ベルトを確認してやれ。奴等が追ってきている」

 

 地上には5本の線が大地の土を巻きあげていて、空中にあるこちらのヘリへと近づこうとしている。

 あの時逃がした女スカルズと、新たな4人の男スカルズだ。

 霧の中を大量のゾンビ状態にしたPF兵をふりきったことを知って、しつこく追ってきたのだろう。

 

 なんとか逃げたいところであったが。

 重量過多のライフル2丁に、人を5人も乗せていると速度はどうしても落ちてしまう。追いつかれても、あっちは地上でこっちは空中、それでもなんとかなるだろうと思ったのだが甘かったらしい。。

 彼等は攻撃を開始する。なんと宙を飛んでいるヘリめがけて飛び上がって体当たりを敢行してきたのである。

 

「オセロット、ベルトを締めろ。墜落するかもしれない」

 

 激しくゆれ動く機体の中で、そういいながらスネークは有無を言わさずに座るクワイエットの腰にベルトを巻かせる。向こうはどんな顔をしていたか知らないが、それが終わって自分の番となった時。

 パイロット席のガラスが砕けるとパイロットの顔に破片が直撃した。

 慌ててヘリの操縦を失うまいと、スネークが後ろから操縦席へ手を伸ばそうとするが。こちらがあやしげな挙動を始めたと知って、ここぞとばかりにスカルズの攻撃も力強いものとなっていく。。

 

『駄目だ!スネーク、オセロット。そこはまずいぞ、そこはあの――!』

 

 カズの悲鳴にも似た声を聞きながら、こちらもついに操縦桿から振り落とされたスネークは制御を失ったヘリの中で一瞬の無重力を味わっていた。

 全てが滅茶苦茶に感じられるのが数秒続くが、轟音とともに襲う衝撃の後は世界は闇に包まれる。




また明日。

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