なんと新しい章に入ってからまだスネーク(ヴェノム)が出てきて台詞を口にしていない!
・・・・スネーク、このまま出てこないというのはどうだろうか?
季節は秋へと移り変わり。
1984年という年も残るはわずか数ヶ月(十数週)である。。
ダイアモンド・ドッグズはついにXOFとスカルフェイスとの決着をつけたが。次の目標としてサイファー打倒を掲げてその活動を続けている。とはいえ、それは以前ほど切羽詰まったものではない。
伝説の男の復活から、数ヶ月で復讐を果たした、というストーリーはすでに世界中に広がっていて、今からでもそんなダイヤモンド・ドッグズに加入したいと集まる傭兵の数に減る様子は見られない。
書類選考、実技選考、面談の3つでさえ。これまでのようにオセロットの体一つでは処理しきれなくなっている。
しかし、この時期のオセロットは別に仕事を抱えていた。
スカルフェイスとXOF。
彼等がなにをしようとしていたのか。そして謎だった赤い髪の少年と炎の男の出現の理由、そうした情報の整理に熱意を持って調べ続けていた。そんな彼の姿を見て周りはあれで寝る時間があるのだろうかと不思議に思っていたが。。
ある時、珍しいことに急にマザーベースを離れると言い出した。彼が提出した休暇の予定では数カ国を巡り、最後にフランスへと立ちよることになっていた。
スネークもカズもそれには何もいわなかったが。
実際にオセロットがマザーベースを離れると、カズは諜報班のメンバーの数人を使い。オセロットの旅先での様子をしっかりと見て報告するように命令を出す。
声帯虫の騒ぎの際、オセロットが危険とわかりながら外部へメッセージを放ったことを当然のことだがカズは知っていた。あれほどの熱意を持ってスカルフェイスの所業を調べ、旅行に向かうと言い出したオセロットが外で外で誰と会うのか、興味があった。
しかしカズの目論見は、はずれる。
オセロットは観光し、何人かの人物と歓談したが。どれもなんのことはない、あたりさわりのないものばかりであった。
自然、予定は進むとあっさりとフランスに到着する。
オセロットはほかの国とは違い、この国では2日ほどはホテルでだらだらとすごし。3日目の夜、蝶ネクタイと見違えるような正装姿となると、町に繰り出した。今夜の食事の席で人と会えば。明日にはマザーベースへと戻ることになっている。
相手はソ連軍の軍人らしい。
「フリュ― ブゥラッチェ」というレストランに入ると。
どうやらオセロットよりも先に、今夜の相手が席についていることがわかった。
しょうもない悪戯を見咎めたような苦笑と、それまで見せたことのない柔和な喜びをたたえて席へと近づく。
「ようやく、会っていただけるそうで感謝していますよ――イワン。しかし、良い男っぷりはそのままですな、うらやましいです。イワン・ライコフ――今はなんとお呼びしたら?」
「さぁな、知らんよ。”今頃の俺”は、大佐くらいにはなれているんじゃないか」
そう言うと相手は腰を上げてオセロットに片手を差し出してくる。オセロットは笑いながら、その手をがっしりと握ってから席に着く。
乳白色のスーツに、白のシャツ、ネクタイはつけていないラフなその男の顔は。オセロットが知る1964年当時の美顔をそのままにした軍人の体格を持つ男であった。
イワン・ライコフ。
あの頃はまだ少佐で、スネークイーター作戦では『賢者の遺産』を握るヴォルギン大佐のもとにオセロットと共についていた。立場は――もちろんまったく、同じではなかったけれども。
「そうだとすると、やけに”お若い顔の大佐”殿となりますね……なにをしているのです、あなたわ?」
「”そのままの顔”では人の多い外は歩けないからな。しかし技術の進歩を感じないか?この顔のままでも食事は出来るし、女性とベットにも入れると保証付きなんだそうだ」
「――あの女の入れ知恵ですか。まぁ、いいでしょう」
そう言ってワインを注ごうと近づいてくるウェイターに目配せをして黙る。グラスに酒が満たされ、人が去るのを待ってから乾杯の前にオセロットは口を開いた。
「まずは例の騒ぎの件です」
「ああ、あれか」
「助力に感謝します。こっちは手も足も出なかった」
「礼はいらない。こっちも十分に楽しませてもらった。それに実際、俺のしたことはほとんどない。カズの部下が優秀だった」
「ですが――」
「もういいと言っている……それよりこうやって堂々と会えたんだ、教えてくれ。話は聞いている。スカルフェイス、XOFに何があったのか」
「――。あぁ」
「お前についてきていたダイアモンド・ドッグズの。
いや、カズの部下のことなら心配いらないぞ。彼は昨日からちょっとしたトラブルでパリ中を走りまわっているはずだ。この瞬間もお前を探して慌てているだろうが、明日の朝には安心しているはずだ」
ライコフらしからぬ、いたずら小僧のような表情を浮かべて楽しそうにそう口にする相手にオセロットは呆れてしまった。
「ふぅ、まったく――ええ、それなら安心ですよね。あなたの部下も含めて、気の毒な連中だ。私も今夜は好きなだけ飲んで、話して差し上げますよ」
そう口にすると、さっそく互いのグラスを合わせる。
力が入ってしまったらしく、少し大きく(そして高価な)グラスは悲鳴を上げ。遠くでオーナーが顔をしかめる。
オセロットもライコフも、それに気がつかないフリをしてワインを乱暴に一気にあおってから互いに顔をしかめた。
炎の男、赤い髪の少年。そしてスカルフェイスの本当の目的。
さかのぼること9年前。
MSF襲撃はサイファーの、ゼロの意志ではなかった。
起きてしまった事件に激怒したゼロによって、スカルフェイスはアフリカへと飛ばされるが。これは逆にサイファーの監視から離れたことになり。それを利用してXOFの実権を握ったまま、コードト―カーの虫達のことを知って動き出したらしい。
そこからはゆっくりとスカルフェイスの未来に向けた計画がすすめられていく。
そう、あの時。キプロスでビッグボスが目を覚ましたという情報を知って慌てて攻撃命令をくだすまで。
そこから計画を早めることにしたものの、急成長するダイアモンド・ドッグズとビッグボスの追撃にあって計画は徐々に露見しはじめ。ついにOKBゼロで追いつかれて叩きつぶされた。
奇妙な話だが、本人の言い方を借りるとコードトーカーに作らせた民族浄化虫は『民族解放虫』であり。当初の使われ方こそ一緒であったが。結果に求めるものが別にあったことがわかった。
英語を共通言語とする世界をつくりだしながら核をばら撒き。最後に英語に反応する声帯虫で言葉自体を奪い取ることで実現する戦争しながら平和になる世界。自分たちの本当の意思では使えないスカルフェイスの核を抱え、目の前に互いの敵を置いて恐怖することで平和が生まれる。
狂っているとしか思えないが、そうなるように必死にデザインしようと準備をしていたことはわかった。
ここからは想像にすぎないが、ゼロの元で学んだと語ったスカルフェイスは。
メタリックアーキアを使った核市場での利益を使い、自分の目指すこの世界を管理するような器を生み出すつもりではなかったのか?それは声帯虫のようにサイファーにとりついて機能を奪うことを目的にしていたのではないか?
だがこれについてはあくまで想像で、スカルフェイスは彼の考える未来についてはまったく手がかりを残してはいなかった。いや、あったとしてもすでにサイファーによって選別され、それが終われば削除されてしまったはず。
「ゼロのことを寄生虫よばわりする奴が、そんな彼と同じやり方で――とは」
「不快、ですか?」
「そうじゃない。ゼロという寄生虫に、自分が寄生することに意味があるのか?」
「自分にはわかりませんよ。”今回は”失敗しましたからね。奴の未来にこの先にはないのですから」
「そうだな――なら、炎の男と赤い髪の少年。その話も聞きたいな」
「ええ――構いませんよ。しかし、それは食事の後で。これ以上話して、食欲を失いたくないんでね」
にっこり笑顔を浮かべたウェイターが料理を運んでくるのを目ざとく見つけてオセロットは言うと、ライコフ”大佐”は苦笑いを浮かべながらナプキンを手に取った。
「そうだな。そうしよう、ジュニア」
1時間ほどかけてゆっくりと食事を終えて、翌朝。
オセロットは予定通りにマザーベースへと帰還する。空港で、オセロットは人の視線に気がついた。
それまでは必死で隠れていた諜報班の部下が、今日はなぜか一転して「見張っているんだぞ」とオセロットに熱烈にアピールしてきている。どうやら”あの人”の悪戯でひどい目にあった復讐のつもりらしい。
相手には気がつかないフリをしながらも、オセロットは内心では「気が合うな」と見張りに語りかけていた。
夢のような昨夜の夕食の席であったが、ここはフランスだ。
ここはオセロットにはどうにも好きになれない国だった。
カズヒラ・ミラーにとってもこの間は決して暇を持て余しているわけではなかった。
彼なりに次のサイファーへの対決に向けて必要な事を計画しつつ、その中のいくつかは準備を始めなくてはいけなかった。そんな忙しい合間をぬって訪れた開発棟から出ていこうとする彼に、必死の表情をしたヒューイが縋りついてきた。
懲りていない、まったく懲りることを知らないこの男は、またも同じことを繰り返し要求してくる。
「駄目だ、許さん」
「なんでだよ!?どうして――」
「俺達にサヘラントロプスは必要はない。あれは、あのままでいいんだ」
「ど、どういうことだい?」
「俺も最初は理解できなかった。あんな木偶。
しかしボスの言葉で疑問はなくなった、納得した。
あれはトロフィーだ。あそこに立っているだけであれの役目を果たしている。このダイアモンド・ドッグズにとって。俺達にとって必要な、スカルフェイスとXOFを倒したという象徴だ。
ここに来てあれを見上げれば全員が理解する。ビッグボスの伝説と、卑劣なサイファーのXOFがどうして倒れたのか。噂は、伝説は事実だったのだ、とな」
「で、でも――」
「これは前にも言ったぞ、エメリッヒ。あれはあれでいい。動かすつもりもないし、修理も必要ない。それよりもお前には役目があるだろう?」
「バトルギアのことかい?あれはもう完成している。あとは君達がデータをとってきてくれれば改修はするけれど、大枠の開発は終了しているんだ。それは伝えたはずだろ」
あせっているのだろうか、ヒューイはやけにしぶとく諦めない。というよりも、焦燥感からいつものように自分の立場をわきまえることもできずにいるのが、その答えには彼自身の不満があからさまにあった。
自分の言葉を軽く受け止められたことにカズの中の痛みが、抑えている不満と怒りを吐き出し始める。
不快だ、と。
「あれはアフリカのPFに出回った”お前の”ウォーカーギアへのカウンターとして作らせた。すでに4機を投入し、そのデータはお前に渡しているはずだが?」
「小さなリファレンスだけだったよ。もう、ほとんど完成しているんだって」
「その割には、たいした効果は見られないな?当初に聞いた話では、紛争をどうとか言っていたが。報告では多少の効果は認められたが、相手に勝利するのに苦労したとあった。これでも欠陥ではない、と?」
「――潜在能力がある、そういう意味だから」
「ほう、扱うランナー(操縦者)次第とでもいいたいか。ダイアモンド・ドッグズの兵士の質の問題だと?」
「嫌がらせをしないでくれよ。ボスと、スネークともう一度だけ話をさせてほしいんだ」
「ボスならいないぞ」
「え――」
一瞬、呆けたエメリッヒのその顔に快感を覚え。カズはズカズカといわなくても良いことをわざわざ教えてやることにする。
「彼は長期の――調査に出ている。当分はここには戻らない。つまりその間、お前があのサヘラントロプスに触れるチャンスはないということだ」
「……」
「だが、エメリッヒ。お前がそんなに暇を持て余しているというなら、ひとつ大きな仕事をしてもらいたい」
「え、えっと。なにかな?」
「もちろんお前にしかできないことだ。そのための準備も、こちらでしている」
「?」
「9年前、MSF壊滅について聞かせてもらう」
途端、ヒューイの顔が真っ青になる。
これまではバトルギアの開発、それが彼の体を守ってきた。
だが、それは完成したと自分で言ってしまった直後だし。サヘラントロプスの修理は無用と言われると、彼に残されたのはそれしかないことになる。
「しばらくは開発班を手伝って貰う。バトルギアの技術を聞かせてもらうためだ。数日以内にオセロットも戻る。俺もあの時の新しい事実をこの世界中から痕跡を探し出してくるつもりだ。お前も仕事が終わって、裁判に集中できるしな」
「そ、そんな……」
「スカルフェイスは死んだ!俺も、ボスも、不愉快な過去とはそろそろ綺麗に決着をつけておきたい。お前のあの繰り返される不快な証言も、もうすぐ出来なくしてやる。心の準備をしておくといい」
そう言うと丁度、ヒューイを探していた巡回兵を呼びつけ。
グズグズと泣き声が響く廊下を後にしてプラントを結ぶ通路を走るジープの後部席に乗る。つまらないことに時間をとられた。彼にはこの後、自身の副司令室で大事な会議が待っている。
2人の衛生兵に助けられて共にヘリを降りると、コードト―カーは司令プラットフォームへと帰ってくるカズの姿を見つけた。
「フム」
鼻を鳴らす。皮肉な話だ、つい先日まで兵隊に囲まれる生活にみじめさと恐怖を感じていたはずなのに。今は同じく兵隊に囲まれていても空は青いとわかるし、海風は心地よいと感じることが出来る。
何事も気の持ちよう、とは言ったものだ。
「コードト―カー、予定の時間までまだ大分ありますが。どうしましょう?」
「そうだな――日向ぼっこはいいかな?いい天気だと、どうしても老人は、な」
「ああ、いいですね。私もご一緒しますから」
車いすを押してもらい、プラットフォームの上を目指す。
XOFは壊滅し、スカルフェイスも死んだ。
だが、驚いたことにこの老人はダイアモンド・ドッグズから立ち去ろうとはせず。ビッグボスにかわりに驚くべき計画をぶつけてきた。
スカルスーツ計画である。
それはスーツによってあの髑髏部隊のような活動が可能となり、スカルズの見せた異能力を普通の兵士が使えるようになるという驚くべき兵器であった。
また、XOF壊滅によって手にした彼らの資産の中にはスカルフェイスによって奪われたコードトーカーの資料や研究データが残っていた。コードトーカーは乱雑にコンテナに押し込められていたそれらの整理と、開発プラットフォームで作られているスカルスーツの進捗情報をチェックするのが今の日課となっている。
海上とあってか、青い空の下で見る海のうねり、海風の冷たさが老骨に鞭打つように厳しい。染み入るような痛みを響かせるも。それこそ生きている命というものだと、今は思わせてくれる。心は穏やかでいられる。
ふと、見下ろすとそこでは兵士達に先導され、プラットフォームを移動する子供達の姿があった。
――あれは奇病がどこから蔓延したのか、その捜査の終盤でのことだった。
ビッグボス、オセロット、カズと同席したコードト―カーはスカルフェイスが民族解放虫の試験データを集めるために特定の地域で、ある言語を攻撃させたという話をしていた。
声帯虫に犯されて死んだ体は焼かねばならないが、あそこではそれがなされていない。土葬文化では細菌の繁殖は当然気を使うべきことだ。
そのことをコードト―カーはスカルフェイスに訴え。
虫の存在が公になることを嫌ったスカルフェイスも、何らかの手を打ったと答えたそうだ。
これを出発点とした推理は、無慈悲な真実を掘り出してしまった。
いくつかの新事実から、スカルフェイスは近くの川の上流にあった古い油田を無理に稼働させ。周辺一帯の水を汚染させていたことがわかった。
ンフィンダ油田、それで全てが芋蔓式となって判明した。
海外NGOの依頼でダイアモンド・ドッグズの”余計な横槍”で油田の汚染は止まったが。そのせいで人々は再び川を利用し始め。汚染された川底に沈められていた死体についていた声帯虫は彼等に寄生した。
声帯虫は声変わりしていない子供の喉には寄生しない。
大人達は死ぬが、残された子供達はその体や衣服に声帯虫の卵を付けたまま大地を彷徨う。そうして少年兵になり、ダイアモンド・ドッグズへと流れてきた。
因果応報とはまさにこのことである。
ただでなされる正義がないように、悪事も理由があって行われることがある。
誰に責めても欲しくはないし。誰が悪かったかなど、口にはしてほしくない真実はある。
人はそうして痛みと共に生きて、死ぬしかないのだろう。
「いい天気ですね、コードトーカー。雲ひとつも見当たりません」
「んん、そうだな」
老人は暗くなっていく内心を隠し、声は明るく返事をかえした。
いやいや、適当に言ってみただけですよ。スネークちゃんと出てきます。
では、また明日。