真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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今回はゲームでも屈指の名シーンです。
それが再現されていると、よいのですが。

(注:投稿ミスに気がつき、再投稿。スマンカッタ)


我等の「名」は……

「主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん」

   (新約聖書 ローマ人への手紙・第12章第19節より)

 

 

 世界は三度、激震に襲われた。

 ビッグボス率いるPF、ダイアモンド・ドッグズが。いきなり大陸の反対側シオラレオネ沖の小島でサイファーの部隊と激突したというのである。

 だが、その事件の詳細、前後の事情を完全に把握した国家はいなかった。

 

 理由は2つ、考えられる。

 ひとつはダイアモンド・ドッグズが、カズの提唱したDDRを実現するNGOをまだ立ち上げている最中であり。

 いささか奇妙な少年兵達による武装蜂起という実情にいたった原因を、当のダイアモンド・ドッグズの兵達の口を重くして外に漏らさなかったというのがある。

 

 そしてもうひとつ。

 それがソ連はクレムリンの動きである。

 サヘラントロプスという奇怪な巨人の性能を、やはり今回も彼らは世界に一切漏らすことを許さなかったのだ。

 これはひとつに、核緊縮条約の話し合いが行われる中で起こったスカルフェイスの一方的な裏切りという前回と。それを阻止したダイアモンド・ドッグズにその巨人を続けて抑えられたという事実が。

 この時期にあってもまだ彼等の判断を狂わせ、迷わせていたということがあったからだと思われる。

 

 これは同時に、スカルフェイスが密かに計画していたメタリックアーキアによってサヘラントロプス自体を核兵器化できるという真実を掴んでいないことも証明していた。

 つまり、サヘラントロプスというメタルギアを以前自分達が開発していたシャゴホットの新型、程度の認識であったということだ。

 

 だからダイアモンド・ドッグズが。

 ビッグボスがその手に再び核を手にした事実に気がつけない。

 

 この世界はまだ、強大な国家以外が核兵器のトリガーを持ち、管理することを良しとすることはない。

 もしもこの時、ソ連が情報をすべて開示し。どこからかでもスカルフェイスの思惑がもれ出て伝われば、ビッグボスは再び時代からの攻撃を受けていたのかもしれない。

 

 秘密は守られ、謎が謎のままだったことで、スネークの命は守られている。

 

 だが今年に入ってから、立て続けに起こったすべての事件にビッグボスが関係している。それだけは、はっきりとみなが認識していた。

 過去の戦場から蘇った恐るべき兵士の力を、世界は畏怖の念を持って見つめ始めている。世界はビッグボスから目をそらせなくなっている。彼らはこれからのビッグボスを見張らなくてはならなくなった。

 

 

 一方、イーライとの決着をつけ、再びサヘラントロプスをセーシェルへと持ち帰ったスネークだが。

 勝利に浮かれた凱旋とはならなかった。

 

 延期となっていた、隔離病棟の2次感染。

 そして今回の少年兵騒動における、3つ巴戦での戦死者達。

 これらの葬儀は、合わせて行われることが帰還と同時にマザーベース内に通達があった。

 

 2つの騒ぎで、ダイアモンド・ドッグズの受けたダメージはそうとうに深いものとなった。

 隔離プラットフォームでの2次感染ではビッグボス以外、あそこに足を踏み入れた者は全員死亡。

 イーライの騒ぎでは、スクワッドは4名が。戦闘班からは13名。この通り、20人近い死者を出している。

 当面は戦力の見直し、態勢の立て直しに忙殺されて何もできないだろう。それが副司令官であるカズヒラの当面の組織運営の所感であった。

 

 

==========

 

 

 そして翌日早朝。

 全ての死者は、灰となって骨壷に分けて納められ、空の棺の上に並べられている。

 同じく声帯虫が活発に活動している島から連れ帰った遺体も、同じ理由ですべて焼かれ。この列に加わった。

 その数の多さに、改めて気付かされ。ダイアモンド・ドッグズの戦士達は暗く沈んでいた。

 せめて今はただただ、その魂に安らぎが訪れることを願ってやまない。それなのに――。

 

「あんたが!」

 

 黙とうをささげる戦士達の中から、やけに興奮した様子で声を上げる男がいた。

 ヒューイだった。

 

「あんたが彼等を。あんたが仲間を殺したんだ!」

 

 蒼い海の地平線に暁が見える。

 静寂の世界に、ヒューイの声はやけに大きく皆の耳に入ってきた。

 

「なんだと!?」

 

 その声に真っ先に不快感を示したのはカズだったが。この時ばかりは皆も同じく、この慮外者への不快感を感じずには居られなかった。

 

「そうだ」

 

 非難に反発するでもない。間髪いれず、スネークはヒューイの非難を肯定する。

 

「俺が、殺した」

「仲間なのになぜ。僕も仲間なのに。あんたは――皆を灰にしてしまったんだ」

 

 本来ならば、この男がここにいることこそおかしい。

 だがなによりも死者を送る行事ということもあって、ミラー副司令官が”特別の配慮”で取り調べ中のヒューイの同席を許した。すると、さっそくこれである。

 

 列をなす兵達の間から立ち上る殺意が、はっきりとヒューイに向いているのを察し。

 オセロットはこの好きでもない学者のために「もうやめろ」と肩に手を置いて後ろに引きさがらせようとした。死者を静かに送り出そうという席を、馬鹿一人を血祭りにあげる騒動にはしたくない。

 

 自分の判断が、場の空気を乱させる奴の同席を許してしまったと感じたのだろうか。カズはスネークの横へと進みでると、出来るだけ感情をこめずに口を開く。

 

「皆も本望だろう。ナパームでただ、焼かれるよりは……さぁ、はやく済ませよう」

 

 その言葉に合わせるように部下に合図を送り、彼等が遺骨の入った骨壷を取りあげると。プラットフォームの縁に向かって進もうとした。

 スネークの耳に、過去の数多くの声が幻聴となって湧き上がる感覚に抵抗する間もなく押し流される。

 

「待て……!」

 

 スネークは苦しげに声を上げる。

 死者との別れの場。わかっていた。わかってはいるが、しかし……。

 

――痛むのか、エイハブ

 

 イシュメール!?スネークは、ビッグボスは咄嗟に幻影に助けを求めてしまう。

 教えてくれ、俺は苦しい。なにかをしなくちゃならないのに、なにもできない……。

 

――覚えているか?俺は眠るお前を9年、見つめ続けてきた。

 

 ああ、ああ!

 

――共には居られないが、今も俺はお前を見続けている。

 

 俺を!?なぜだ。

 

――そうだ、ビッグボス。俺だけじゃない、世界もお前を見ている。だからこそ、お前はただ”ビッグボス”であり続ければいいんじゃないか?

 

 そうだった。俺は兵士。

 俺はビッグボス、伝説の傭兵。

 天国に嫌われ、地獄に憎まれる男。時代が、世界の敵となるしかない男……。

 

 

 骨壷の灰を海に流そうとする部下のその手を、ビッグボスが止めて周りはけげんな表情を浮かべた。

 自らの手で、部下を海へと還す。そうするのではなかったのか?

 

 かわりにスネークは、骨壷を胸の中に受けいれ抱きしめる。

 

「お前達の無念を、海の藻屑にはしない……」

 

 スネークの中の暗く、情念のこもった沸き立つものがそこに込められ、隠すことはできなかった。

 中の灰を指先ですくい、己の口にそれを含ませた。

 

「俺は常に――お前達とある。俺はお前達の苗床だ。お前達を”ただの灰”にはしない」

 

 灰を己の顔に塗りたくる。

 自分が望んだわけでも、受け入れられなくてもよい。そう言ったスクワッド達の顔がまず浮かぶ。

 彼等はビジネスとして仕事をすればよかったのに、望んで自分が向かうような危険な任務に同行したがったビッグボスのフリークス達。

 

 ワスプは病室でわけもわからず死ぬことだけは嫌がった。

 かつての戦友と戦場で相討ちする形で、ラムは倒れた。

 必要な状況だったとはいえ、あの無敵と思われたスカルズを倒すためにボスの期待にこたえようと無茶をさせられた戦士達。

 アダマはその幻肢痛を忘れないまま、仲間を救って逝った。

 フラミンゴもハリアーも戦場に倒れた。

 そしてゴート。

 彼は優秀な指揮官になる未来もあったかもしれないが。仲間のために、戦場に自分を投げ出した。

 

 彼らは――いや、彼らだけではない。

 自分と共に戦場に立った彼等に、自分が与えてやれることはまだ残っている。そのはずなのだ。

 

「お前達はダイアモンドだ」

 

 この厳かな儀式は新たな意味を与えようとしていた。

 ビッグボスがそれを決めたのだ。

 

「水葬はしない――それで……?」

「仲間の灰で、ダイヤを作れ。それを抱いて、俺達は戦場へ向かう」

 

 兵士達の間に戦慄が走る。

 

「――死してなおも、輝き続ける。仲間の元で……」

「俺達はダイアモンド・ドッグズだ」

 

 熱がうつったかのように、ボウとなるカズにスネークは告げる。

 その言葉をプラットフォームにいる葬儀に参列した全ての兵士達が聞いた。

 そして明日には――世界にその言葉が伝わる。ビッグボスと共に戦場を征く栄誉を持つ部隊、ダイアモンド・ドッグズのその名の意味を。

 

 世界は正しく知ることになる。

 

 

==========

 

 

 ここに一本のビデオテープがある。

 再生して見ると、プラットフォーム上を深夜、見張っている2人の兵士が写る。監視カメラの録画映像らしい。

 

――おい、あれって……

――ん?

――ボスだ。ビッグボスだった。

――ああ、そうだな

――なんでここに?また怪我人が出てたっけ

――いいや、そんなわけがない

――じゃあ……。

――聞いたことないか?ホラ、例の自殺騒ぎ以降

――ああ。あー、それか

――そうだよ。今もああして、度々訪れているそうだ。最近は増えてるみたいだな、一昨日は明け方だった

――ふーん。あ、そう言えば聞いたんだけど。ビッグボスの部隊、スクワッドが解散になったって。

――そうらしいな。まぁ、しょうがないだろう。

――なんで?

――隔離プラットフォームの2次感染、そして少年兵とサイファーとの戦い。あれでうちは今、開店休業状態だ。

――そうだな

――ボスも、ミラー副司令も他のPFからの攻撃が続く中、戦闘班の立て直しが急務ってことなんだとさ。そこで結成以来、人的消耗の激しいスクワッドは正式に解散することにあの副司令が同意したらしい。それくらいうちは今。立て直しに大変なんだろうな

――次の仕事、大丈夫かな?俺、給料で結婚資金を……

 

 そこで映像は途切れた。

 ここにはさらに、もう一本。今度はカセットテープがある。

 さっそく聞いてみよう。

 

――あ、ビッグボス。どうぞこちらへ

――メディック?どうした、パスに何かあったのか?

――お静かに願います。彼女は……ちょっと調子が良くないので

――ああ

 

(椅子に何者かが座る音がする)

 

――実はボス、パスの様態なのですが……

――悪いのか?

――というか、悪くなっていってます。御覧のように外からの刺激に全く反応しなくなる事が多くなってます。

――原因は!?

――それが……はっきりとは

――ううん

――パスが、その記憶と時間を9年前のMSFのままで停止していることは知っていますよね?

――聞いている、カズとオセロットから。彼女はその時の記憶と合わない話題や情報には一切反応しない、と。

――その通りです。ところが最近は、このようにまったく無反応になることが多くなってきまして。

――そうか

――丁度、ミラー副司令がスカルフェイスが死んだことを伝えたあたりでした。彼女はあの男には報復心を持っていたはずです。それがなにか、このような変化を表面化させてしまったのかもしれません。

――なにかいい方法はないのか?

――それが、なにも……

――そうか……。

――これもいい機会なので、お知らせしておきますが。ボス、ここを見てください。

――傷口だ。9年前、彼女の体内にあった”2つの爆弾をとりだす”際の傷……出血したのか?

――そのようです。これも不明なんですが、可能性として彼女が自分で傷を付けたんじゃないかという意見があります。

――自分で?

――ええ、室内にカメラも設置して見張っていますが……いつの間にかいつも腹部の傷口から出血を……。

――パスのこと。気を付けて見てやってくれ

 

(スネークが部屋を出ていき、静寂となったところでテープは終わる)

 

 オセロットは無言でその映像を見終え、テープを取り出し。

 いれかえてそのテープそっくりのもう一本を入れてすりかえる。これで仕事は終わり、カズも兵士達も。この事実を目にする時間を稼げたはずだ。

 

 部屋に戻り、持ち帰った2本のテープはすぐさま破壊する。

 証拠の隠滅というには雑なやり方ではあるが、隠し通せないことなのでこれでいいのだ。

 

 そう、すべてを隠し通すことなどできない。

 真実であれば、かならずどこかに痕跡が残る。残らないわけがないのだ。




また明日。

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