真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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ついに難問のひとつだった、あの裁判です。
今回はその前半。


兵士達の楽園

 葬儀を終えても、ダイアモンド・ドッグズの抱えている問題は終わらない。

 続いてヒューイの裁判が、ついにおこなわれることになった。

 だがスネークの顔はしかめっ面をしている。

 

 気にいらないのだ。この流れ、まったく気にいらない。

 

 正直、スカルフェイスを倒した後。

 気の緩みがなかったとは言わないが、一時に問題が集中して発露してしまったことがまずかった。

 ずっとのびのびになっていたヒューイの裁判だが、新証言も証拠もなく。長いこと、放っておく形になってしまった。それがカズの依頼で例のAIポッドを回収してからは驚くほどに話が進み始めてしまう。

 

 MSF時代、ヒューイと共に姿を消した科学者のストレンジラブ博士が見つかった。

 なんとポッドの中に彼女の死体がそのままに残っていたのである。

 

 にわかに怪奇じみた話になったが、そんな彼女に関してのヒューイの言動もまったく要領を得ないものだった。わかったのは彼女と結婚し、2人の間に子供が出来たこと。そしてなにかがあって険悪となった。

 どうにかわかるのもそこまでだった。

 

――なぜ隠していた?

「悪かった。そうだ、1人じゃなかった。だけどわかるだろう?僕は彼女を巻きこみたくはなかったんだ」

――サヘラントロプスのAIはお前じゃない。ストレンジラブが開発していた?

「スカルフェイスはAIには否定的だった。それで口論になった。ストレンジラブはアイツを怒らせ……」

――殺された?どうやって?

「……」

――見てないのか?あとになってポッドの中に入っているのを見つけた?

「そ、そうだ」

――中に入れたままにした?なぜだ?

「僕が彼女を連れて行かないでくれと……」

――スカルフェイスに殺されたストレンジラブを。お前が頼んでポッドの中に入れて置いてもらったと?

「いや、そうじゃない。違うんだよ――」

――なぁ、俺達はこう考えている。彼女はお前が殺した。そしてあそこに放り込んだ。スカルフェイスはそれを黙っていた。違うか?

「しない。そんなことするわけがない」

 

 MSF襲撃時の証言と変わらぬ、不毛な荒野がそこにも広がっているようだった。

 それに加え、どうやらサヘラントロプスの修理に子供達を使い。例の2次感染にも、ヒューイがかかわった疑惑が持ち上がるという始末。

 

 サヘラントロプスの一件は丁度イーライをはじめとした少年兵達と声帯虫の全滅。サヘラントロプスの再回収と胸糞悪い終わり方をしたばかり。

 その上、2次感染までも計画的にやっていたというなら。それはもう立派な破壊工作とほめたくなるほど見事な手腕としか言えないが、肝心の本人が頑なにそんなつもりはなかったと言い張るのだから始末が悪い。

 出てくるのは状況証拠ばかり、そのどれもこれも刹那的で状況に流されて動くばかりで確信するものはなにもない。

 

 こんなでは裁判はできない。

 

 それがスネークと、オセロット、カズの統一した見解のはずだった。

 だが、水葬式の時に全員の前に姿を見せてビッグボスを非難したことがヒューイの命取りとなった。誰かが漏らしたわけではないだろうが、噂でヒューイが一連の工作を内部から行っていたという”推測”が流れると、兵達の怒りは限界を軽々と突破してしまったのだ。

 カズは殺気だった部下達の気持ちを考え、近日中の裁判開催をビッグボスの相談なくその場で決定してしまった。

 

 カズに「大丈夫なのか」と聞くが、なんとかなるとしか言い出した本人は口にしないし。オセロットも尋問でこれ以上、正確な情報は得られないとあってカズの意見に同調する姿勢を見せている。

 スネークも、とりあえず裁判に臨むに当たり。ヒューイの尋問テープを聞きなおしているが。これがまったく役に立ちそうがない。

 

 これはサヘラントロプスのテープ。

 

――なぜ子供達にサヘラントロプスの修理をさせた

「まさか、彼等だけで直せるわけがなかったんだ。それに、子供があれを操るなんて……」

――できるだろう?

「無理だ」

――自転車のようなものだろう?

「無理だったんだよ!なんで子供だけで動かせたのか、なんて」

――子供だけ……?他に誰を乗せた、自分の子か?

「い、いや。それはっ」

――自分の子供にサヘラントロプスの操縦をさせたのか?実験に使ったんだな、だから母親が激怒した

「違う!本人が乗りたがったんだ」

 

 テープを変える。

 こっちは感染についてのテープ。

 

「待ってくれ。何を言っているんだ。一体何をするつもりだ」

――お前の罪状を明らかにして、相応の罰を与える。表現にはこだわらん

 

(この後、部下達の突入騒ぎが後ろで始まる)

 

「待ってくれ、どうかしてる。何の証拠があってこんな……」

 

(兵士達の怒号が上がる)

 

「国家から解放されてる軍隊だなんて、自分達も新たな国だなんて息まいてるけど。外から見ればただの愚連隊、反政府組織、武装集団でテロリスト。秩序なんてない危険因子にすぎない。”君達”はただの悪者なんだよ!」

――ほう、”君達”だって?自分は別か、仲間と思っていたのに残念だよ。エメリッヒ博士

「え、いやっ……これは違う」

 

 

 そこでスネークはテープを止める。

 この後のことはもう聞いている。カズがもっともらしく、ヒューイの裁判の開催を宣言していきり立つ兵士達を引きさがらせる。ひどいものだ。

 

 だが、こんなもので何が出来る?

 確実な証拠など一つもない。あるのは山のように積み上げられた状況証拠だけ。これで裁判をしてもどう決着を付けられるというのか。

 

――悩むことはないだろう、司令官。兵士を納得させる理由、それがあればいい。それで人は、戦える。

 

 亡霊が突如、霞の中で現れるとアドバイスだけ残して消えていく。

 

(カズ、お前は俺に……)

 

 そこから先を言葉にはしたくなかった。

 それをすれば、そんなことをしては。ビッグボス自ら口にした”仲間”というものへの疑いをはっきりとした形にしてしまうかもしれないのだから。

 

 カズは俺に、ヒューイの処断を迫っている。

 

 サヘラントロプスの一件は、イーライの蠢動の一部とするとそれほど大きくとらえることはできないが。第2次感染が”本当にヒューイの計画”であるとするならば、これを処断することをためらう理由はスネークにもない。

 

 ……ああ、それなのか。

 気にいらないこと、その正体はようやくわかってきた。

 

――意外な展開を迎えたな、スネーク

 

 亡霊が悩むスネークの背中に語りかけてきた。

 今度は霧ではない、はっきりと軍服を着た見事な指揮官が姿を現していた。

 ジーン、それがその男の名前だった。

 

――だから私のような男を、この世界に呼び戻してしまう……少し、話をしようじゃないか。兄弟よ。

 

 

==========

 

 

 思い出してもらおう。

 そう、相続者計画のことだ。米国はスネークイーター作戦で英雄、ザ・ボスを失った後。貴様をビッグボスとして名前を受け継がせたが。一方で新たなボスを人為的に造り出そうとした。

 

 それが私、ジーン。

 

 最高の指揮官としてザ・ボスをモデルとした私は、いわばお前の兄弟のようなものだった。

 

 皮肉だな、スネーク。

 お前はアウターヘブンを宣言したように。私もまた、兵士達の天国。アーミーズ・ヘブンを提唱した。

 使命を持たぬものに、指導者という存在が明確な使命を与える。与えられた任務を、命をかけて必ず兵士はやり遂げる美しい世界。

 私は、当時まだ目的が定まらずに自分を見失っていたお前までも。自分の”兵士”として取り込もうとした。

 

 お前は私の差し出した提案、全てを拒否した。ゼロとは違う、お前の理想に近く。それでいてはっきりと異なることを理由に否定した。

 

 その結果は言うまでもない。

 正しい相続者はお前だった、スネーク。ボスの最後の弟子に私は倒された。造られた男ではなく、その精神を受け継いだ男が勝利した。

 そしてボスが意思をお前に渡したように、私もお前に意思を託した。

 

「ずいぶんと乱暴な言い方なんだな」

 

 私がこうして”お前の亡霊”となったのは、本当の私自身が過去の存在へとなったからにすぎない。

 物事の本質、なんてものは見方でどうとでも変わるし。私のような男はその場の方便になるなら、どんな切り方でも平然とやるのだよ。兵士を納得させるためならば、政治家にも、娼婦でも。私はその場で演じてやれる。

 

 そうだ、今のお前とは違う。そこに悩む理由はない。

 

「……」

 

 戦士の魂を受け継いだ者は、2度と戦場からは離れられない。

 これはかつて私がお前に贈った言葉だった。覚えているか?

 

「ああ、そうだったな。そうかもしれない」

 

 だからお前は戦いの中でしか生きられない。だから、お前は戦う理由だけは自分で決めないと戦えない。

 そうやってお前は今日まで戦ってきた。

 だが、今の自分をよく見てみるといい。お前は何者になった?どこに立っている?

 

 わからないか?

 ビッグボスは兵士ではいられなくなった。

 オセロット、ミラー。彼等の助けを借り、お前はダイアモンド・ドッグズという世界が無視できない精鋭部隊を率いている。

 プライベートフォースと呼ばれる存在にあって、貴様の部隊はあまりにも異質だ。「金で戦場を選ぶ」なんてことはしない、「戦場を選んで金にする」。これがお前達で、だからこそ苦しんでいる。

 

「苦しむ……俺が?」

 

 とぼけるなよ、スネーク。

 お前のダイアモンド・ドッグズは今。正しく私が提唱したアーミーズ・ヘブンを実現させようとしている。

 

 世界のパワーバランスを見極め、戦場を選択してそこに部隊を送り込む。戦争という混乱を通し、国同士の力関係を調節させ、人の歴史を武力で制御する。

 

 スネーク。

 

 お前はサイファーを、スカルフェイスを追うという大義名分の下。アフガニスタンではソ連軍をかく乱し、アフリカではPFをはじめとした武装組織の分断で混乱を生みだした。

 

 いまはまだ、歴史に残したその爪跡はまだまだ小さなものではあるが。

 やり方は間違っていない。私がお前に託したアーミーズ・ヘブンは実現がすぐそこまで見えて来ている。

 

 だが、しかし!

 これは私のものだ。

 お前はこれを否定した男だ。

 なぜ、そんなお前が。俺の世界を作り出してしまったのだ?

 

「間違っていたと、そういうことか?」

 

 正しいやり方とはなんだ?そんなものはない。

 違う、まったく違うぞ。

 話はもっとシンプルなのだ。考えすぎるなよ、スネーク。

 

 お前が作るのはアウターヘブンではなかったのか?

 このままではアーミーズ・ヘブンになるぞ、というだけの話だ。

 お前はこれまで、兵士のままダイアモンド・ドッグズという巨獣の手綱を握ってきた。だが、その巨獣は危険な兵器なのだ。

 お前に隙が生まれるならば、”自分達の意志”で勝手に暴走を始めてしまう。

 

 スネーク、お前はザ・ボスの最後の弟子。

 造りだされた私とは違うやり方で部下と接してきたはずだ。

 

「俺が――ボスから受け継いだものを。次の世代に伝えるため」

 

 ならば、悩むことなどないだろう。

 お前はビッグボスだ。それを否定する者は”ダイアモンド・ドッグズ”には1人もいない。

 それは言ってみれば、もはや国家だ。

 異様で、異質で、歪んだ存在だが、お前の世界を実現するためには必要なものだ。

 

 ビッグボス、世界はお前を見ている。

 だが、お前もまた世界を、お前自身の国を、部下達を見ることができる。

 

 ビッグボスは奴等を監視しているのだ(BIGBOSS is Watching you) 

 

 

 亡霊は、スネークの中に生まれた、かつての敵の姿をしたドッペルゲンガーはいつの間にか消えていた。

 スネークの中の葛藤も、同時に消えていた。

 葉巻を取り出し、火を付ける。本物の煙の味わいが心地よい。

 

 オセロットの足音が聞こえてきた。

 どうやら裁判の時間が来たようだ。




また明日。
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