後悔の音と約束の色   作:専務

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プロローグ
始まりと終わりの雪


「お前…誰だよ…」

 

なんとも呑気に相手が誰なのかを聞くが、現状はそんなに簡単なことではなかった。

アニメや漫画は好きな方だ。だからこそ、こんな現場は実生活では有り得ないことなんて百も承知だし、かといって現実と2次元が混同してしまうようなタイプでは無いと自負している。

じゃあ今のこれはなんなのか。俺は悪いことなんてしていないだろうと思いつつ、冷静な部分が異様に研ぎ澄まされていく。

お前は、誰なのかと。

 

「私のことはどうでもいい。それより君が問題だね。」

 

初対面の人間相手にやけに馴れ馴れしい上から目線の態度と言動にいつもなら半ギレになる所ではあるが、生憎そんな悠長な感情に浸れるほどの対応力は備わっていない。

 

「俺の…問題…?」

 

今はただ相手の言う事を精一杯理解しようとする事だけに脳がフル回転している。是非とも明日は有休でも取って欲しいものだ。

相手は俺に問題があると言った。思い当たる節はいくつもある。中学時代に夏休みの宿題をやらなかったこと、高校時代彼女と喧嘩したこと、社会人一年目として働いてた頃に些細なミスに怯えて先輩に何度も質問して怒られたこと。有り余る問題点ばかり俺の記憶は貯めてくれる。そのくせ良かった出来事や思い出なんかは断片的にしか出してくれない。この不良品の引き出しを買い換えたいのは山々だが、どうやら一生をこれと添い遂げなくてはならないらしい。

 

「君の問題は今思い浮かべてるそれじゃないよ。もっと別の、過去の後悔だよ。」

 

もっと別?何のことなのか。残念ながら今の俺にはそこまで記憶をたどれるような精神の状況じゃあない。

 

「それは悪かったね。単刀直入に言おうか。」

 

 

 

 

 

 

 

「矢澤にこを、救ってあげたくないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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時は数日前まで遡る。俺はいつものように仕事をしていた。残業に次ぐ残業。この時期になると当たり前だが、慣れる慣れない以前の問題だ。こんな事を毎年続けなくては経済が回らないと思うと、労働者にはもう少し優しい世の中であって欲しいと切に願う。

そんな願いも虚しく今頃の世界は大切な人と共に彼を祝うこと無くその人との時間を過ごす。俺はこんな時間までもパソコンに向かってるというのに。

とはいえ配属されて数年も経てば慣れるもの。悔しいかな、体中がこの恒例行事といえる残業のこなした方を覚えているため、つつがなく仕事を終えた。

 

「お先失礼しまーす。」

 

言うが早いか、少ない持ち物をカバンに詰めて帰宅する。外に出ると、珍しく雪が降っていた。

何年ぶりだろうか、よりによって今日の雪は。帰りながら思うのはこの特別な日の特別な雪事情ではなく、電車のダイヤの心配だけだ。

ふと、ずっと昔のことを思い出した。懐かしさを感じつつ、今は関係ないと頭を振って思考を止めた。何の気なしに見たスマホには、着信と留守番電話が入っていた。

人類が携帯電話を持ち始めて以降遺伝子に刻まれたであろう動作で留守番電話を聞く。伝えられたのは、今日という日に最も場違いな知らせだった。

 

「ばあちゃんが…死んだ…?」

 

答えるわけがない過去の声に語りかけるくらいその時の俺は脳が機能を停止していた。昔からばあちゃんには世話になってた。おばあちゃんっ子だった。故に唐突の訃報に愕然としている。今日という日とさっきまでの思い出なんて飛んでいった。

 

 

 

今年のホワイトクリスマスは、哀しみで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、祖母の葬式が行われた。近親者のみでも葬儀だが、血筋が微妙にいい所なので、俺みたいな一般の人間が混じってるのが少し浮くような面子が揃っている。とはいえ、親戚なのでそんな空気にはならないし、何より俺の苗字の筆頭が亡くなったことでそれどころでは無かった。

周りの大人達は次は誰を立てるのかで議論していた。家の代表になんて欠片も興味の無かった俺は祖母の棺の前に座った。

ちょっと見ない間に人はここまで衰弱できるのか、と。俺の哀しみは深みを増していく。

俺は少しでもばあちゃんを喜ばすことが出来ただろうか。昔から甘えてばかりで、俺がばあちゃんに出来ることなんて沢山あっただろうに。そんな後悔が頭の中を縦横無尽に駆け巡る。

ひとしきり後悔に浸って、その日は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

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納骨まで終えたのは知らせを聞いてから3日後だった。世間は来る年に向けて浮き足立っている。そんな姿も露知らず、俺は祖母の遺品の整理にあたっていた。次期代表を決めることに躍起になってる大人達は面倒ごとを全て押し付けた。

広い敷地には母屋とは別の納屋があった。幸か不幸か、俺はそこを漁っていた。ばあちゃんとの思い出の品が出てくるかと期待してたのもあるが、単純に俺がここの担当になっただけだ。

ホコリまみれになりながら掃除をしていると、奥の方に桐箱があった。かなり小さいサイズで、その時の俺は考えることなくそれを取り出し、開けてしまった。

これが、俺の最大の失敗なのか、最高の幸運なのか。

中には懐中時計が入っていた。これまた考えずにそれを取り出し、開けてみる。

 

「時計か…っ!?」

 

突如地響きのような音が背後で鳴る。とっさに振り返ると、納屋に積まれていた荷物の山が俺に向かって落ちてきた。

人は死を意識した時に色々思うことはあるんだろうが、俺はひたすらに「ヤバイ」って単語しか頭に浮かんでこなかった。自分の語彙力が死んでいるのが分かる。とにかく、その時の俺は死そのものより危機に対する警告のみが頭にあった。

咄嗟に目を瞑り、頭を両腕で隠して衝撃を待つと、一瞬、中に浮くような錯覚と共に静寂が訪れる。

暫くして目を開けると、そこには崩れかけてた荷物の山が空中に留まったままであった。

 

「なんだこれ…」

 

すでにパニックに陥っている俺は無意識にそう呟いた。人間得体の知れない現象を目の当たりにすると現状把握に務めるらしい。

 

「少し時を止めてるだけ、後で戻してあげるよ。」

 

声のした方に振り向くと、人が立っていた。

性別がパッと見で区別できない中性的な顔立ちで、身長も見た感じだと少し高めの女性か少し低めの男性とも取れる、よく分からない人間。それが第一印象だった。

かくして冒頭の場面に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

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俺と彼女…矢澤にことの出会いは中学時代である。中2のクラス替えの後に隣の席だった矢澤と話すようになり、とある約束と共に別れることになる。

別れる、と言ったが付き合ってたわけじゃない。本当に、距離的に別れたのだ。

高校が他県に移ることになった。本家、祖母宅のあるところで父の仕事が決まり、俺はその近辺の高校に入学することになった。

その際、転勤と引越しの時期が前倒しになり、俺は年を引越し先でまたぐ事になった。

矢澤と最後に話したのは引っ越すその日だった。両親に無理を言って俺は終電で新天地に向かうことになっていて、その日は矢澤と過ごした。

特に何があった訳では無い。いつも通りカフェでお茶したり秋葉原でアイドルグッズを見たり、楽器を見に行ったりした程度だ。

そういえば、別れの日にも雪が降っていた。そう、

 

 

 

ホワイトクリスマスが、俺と矢澤の最後の時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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話は今に戻る。目の前の人は確かに言った。「矢澤を救う」と。

そこで途端に俺は完全に冷静になった。矢澤…そう、俺達は中学時代にある約束をする。しかしそれは、お互いに叶えられることは無かった。

 

 

 

 

『アタシがアイドル、アンタはバンド。そうしていつか、アイドルとして歌ってるアタシの後ろでアンタが演奏する。いいわね!』

 

 

 

 

俺は昔からギターをやっていた。無論高校には軽音楽部があって、俺はバンドを続けた。しかし、矢澤はアイドルになれなかった。

第一志望の音乃木坂学園に入学できず、第二志望の高校に入学した。そこは運動部に力を入れていた為に、彼女のやりたいことが叶うことは無かった。その後、空前のスクールアイドルブームが到来し、2組のアイドルがラブライブ…というイベントにて雌雄を決する事になるのだが、彼女はそれを見守ることしか出来なかったんだと思う。

今の彼女が何をしているのかは知らない。2人の妹と1人の弟、それを支える母の力になりたいと昔から言っていたから、ちゃんと働いてることだろう。

なぜここまで不確定にしか分からないのかと言われたら、高校に入る前、矢澤が音乃木坂の入学試験に落ちた時から連絡がぱったり途絶えてしまったからだ。

矢澤からの最後の連絡は「音乃木坂に行けなかった。」という一文のみで、俺の返信に返すこともなく、そのまま今に至る。

目の前の人に言われ、確かに思った。矢澤にこ、アイツにアイドルをやらせたい。かのラブライブにて争った2組のうちの片方は音乃木坂だと聞く。もう片方は金銭面で諦めたが矢澤が本当に行きたかった所だ。そんな彼女にせめて、スクールアイドルでいい。ステージに立たせてやりたい。確かにそう思った。

同時にもう一つの想いが浮かぶ。そっと俺の左腕に目を落とす。俺が今音楽をやっていない理由。それすらも解決できるかもしれない。矢澤を救うのではない、矢澤と俺と、2人の約束を叶えられるならば、果たしたい。

 

「どうやって、彼女を救える。俺を救えるんだ?」

 

「簡単だよ、君は引っ越さなければいい。彼女は音乃木坂に行けばいい。君は近くの高校でギターを続ければいい。そしたら自ずと君達の約束は叶う。」

 

「何が言いたい。」

 

「まぁ、本当に覚悟が決まったら明日、その時計を開けばいい。それは君が持っていてくれ。値打ちのあるものでも何でもない。」

 

「なんでお前がそんなこと分かるんだ?」

 

価値のない、なんて持ち主だろう祖母でなくては分からない。咄嗟に出てきてこの状況を作り出したであろう張本人の素顔を、俺は知っておくべきだ。

 

「そうだな…強いていえば、神様だから、かな。」

 

「はぁ?」

 

「うん。そう、私は神様だ。時を操る神。そういう事にしよう。」

 

「お前、何言って」

 

「悪いけど時間だ。明日になったら何時でもいい。またその懐中時計を開いてくれ。それより前に開いてもただの壊れた時計だ。宜しく頼むよ。」

 

そうして奴は消えた。同時にまたも一瞬の浮遊感があり、次に目に映ったのは高く積まれた荷物だった。無論、落下する様子は無い。しかし手にはしっかりと懐中時計が握られていた。

 

「…救う、か…」

 

あまりの急展開だったが、それでも考える時間がある。その日はさっさと荷物を整理して、一度家に帰った。

手元の懐中時計は、一切針を動かさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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中学2年は最も重要な時期だと思う。2年間を共にする…というより、中学生活の最後までをこのクラスで過ごすわけだから、どれだけ人間関係を構築できるか、が争点だろう。

そんな重要な起点の第一関門が始めの自己紹介だろう。俺は名前的にも中盤程に位置するため、他の面々の自己紹介を参考にできる。とはいえ教師含め40人を相手に話すのはやはり緊張するもので、名前、趣味、一言なんて簡単な3つをこれ程までに難易度高く感じることはない。

 

「―です、趣味はギターを弾くことで、軽音楽部に入ってます。よろしくお願いします。」

 

終わった。完璧だろう。趣味で楽器が弾けるのは強い。こればかりは両親の教育の賜物だ。幸いにも軽音楽部があるため俺の音楽系ポジションは確立されただろう。

その後もつつがなく自己紹介が終わった。俺はとりあえず隣の人に挨拶をしておこうと考えた。女子だったが、まぁいい。

 

「よろしくおねがいします。」

 

「…ねえ。」

 

「ん?」

 

挨拶以外の返しは想定外だった。中学男児の俺はその感触に対応することに全力を使おうとした。女子との会話なんて中学男児には石油と同じくらいの価値があると言っても過言ではない。それほどまでに異性との接触は貴重なのだ。

 

「アンタさぁ、アイドル興味無い?」

 

「…へ?」

 

バンド活動をしている俺にアイドルへの興味を尋ねるとは、なんというか、場違いという訳では無いが、なんというか。

想定外の質問に思考を停止していたら、隣の女子が我に帰ったのか、ハッとして謝ってきた。

 

「ご、ごめんなさい。変な質問しちゃって…」

 

「え、あ、いや、あの」

 

急に敬語使うのかよ。こっちも慌てるわ。

すると彼女が会話の終わりと言わんばかりに頬杖をつき黒板に視線を落とす。まずい。女子との会話が終わる。

そんなことを考えてた俺はよくわからない言葉を発した。

 

「…あっアイドル!…興味、あります…。」

 

嘘ではない。興味があるのは嘘ではない。最近のバラエティや音楽番組でもよく見るし、アイドルソングもバンドアレンジしたらいいものもあるし、アイドルでバンドをする人もいる。そういった所に、欠片も興味がなかった訳では無い。むしろ、そういう点では興味があると言ったのは本当だ。しかし、この言葉が、2年間を彼女と共にするきっかけとなる。

 

「…へぇ、アンタ、いい目持ってるじゃない。」

 

不敵に笑う彼女に、少しの寒気と不安を覚えた、4月の頭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…ッ、夢か…。」

 

懐かしいものを見た気がする。クリスマスのショックがこれを見せたのか、なんなのか。

 

「夢…って、これは本当なのか…」

 

いつの間にか喪服で寝ていたらしいが、内ポケットにはしっかりと懐中時計が入っていた。奴との会話を思い出す。

 

「矢澤…救えるのか…?」

 

救う、というのには語弊があるのかもしれない。彼女自身が壁を乗り越えなくてはならない。その為に、力にならなくてはいけない。そんなことを考えてはいたが、もう一つ、考慮すべき点があった。

 

「どうやって救うって言うんだ…」

 

そもそも奴が何者なのか、あの現象や言動、祖母の納屋にあった懐中時計、不思議過ぎる点が多すぎる。信じ難い点もある。

 

「…いいわ、考えるのはやめよう。」

 

残業に葬儀で疲れてるんだ。祖母のこともあるし精神的にも疲弊してるんだろう。俺はそう解釈して何の気なしに懐中時計を開いた。すると、またも浮遊感に襲われ、静寂の空間に誘われた。紛うこと無く俺の部屋だ。違う点は、奴が正面に座っていること。

 

「…本物、か。」

 

「何のことだい?」

 

「救えるなら…救ってやりたい。」

 

現実であることを受け止めた俺は早速その話をした。今までのことが本当であるのは今こうして時計を開いて奴が現れた、それがなによりの証拠だ。

 

「…決めたのかい?」

 

「ただ、一体どうするってんだ?今は矢澤と連絡を取ってるわけじゃない。」

 

「あれ、言わなかったっけ。」

 

そういって笑う。こっちは真剣な話なんだぞ。

 

「君が引っ越さずに居残って、矢澤にこを音乃木坂に入れて、ついでに君たち2人の約束を叶えればいい。」

 

「…てことはまさか、」

 

答えを言おうとした瞬間に食い気味に奴が答えた。

 

 

 

 

 

「そう、君には…過去に行ってもらう。中学2年の四月だ。」

 

 

 

 

 

 

かくして、俺の人生のやり直しと約束を果たす時の旅が始まる。







あとがきが遅れました。作者の専務です。


・今作が初のラブライブ!SSとなっております。各キャラの描写に拙い点が多々見られると思いますが、暖かい目で見守っていただければ幸いです。

・不定期更新ですが、精一杯頑張らせて頂きます。

これから矢澤にこを中心にキャラクターを活かせるように書いていきたいと思います。宜しくお願い致します。
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